展覧会遠征 奈良編

 

 さてGWが近づいてきたが、実は今年のGWは私は超大型遠征を企画している。そういうわけでその直前のここ数週間は近場の軽め(?)の遠征にしている。先週は京都方面であったが、今週は奈良方面に向かうことにする。奈良県立美術館の展覧会と、奈良国立博物館の催しを見学し、帰りにちょっと寄り道しつつ大阪市立美術館に立ち寄ると十分に中身のある美術館ツアーになりそうである。

 今回使用するのはJR西日本の関西1デイパスである。とにかく企画に切符には何でも二人縛りというわけの分からない規制をかけたがる(頭がおかしいとしか思えない)JR西日本が出している唯一に近いまともな切符で、関西一円のJR西日本路線が乗り放題で2900円である。以前に空振りに終わった比叡山遠征(結局は大原遠征になった)の時にも使用した切符である。なおJR西日本が珍しくこのようなまともな切符を出す理由はハッキリしている。それは関西私鉄連合のスルッと関西3DAY対策。私鉄との競合のあるエリアではあまりにアホな商売ばかりをしていたら客を取られるからである。この一時を持ってしても、以前から私が言うように「資本主義においては自由競争が重要である」ということを示している。

 

 出発は早朝、天候は生憎の雨模様。新快速と奈良行き快速を乗り継いでの旅である。しかし奈良行き快速が王寺を過ぎたところで動かなくなる。どうやら踏切トラブルで安全確認を行っているとか。多分馬鹿が踏切内に侵入したのだろう。どうも最近はこの手の馬鹿が増えているようで迷惑極まりない。元々日本人は「他人に迷惑をかけない」という美意識を持っていたものだが、最近は他人に迷惑をかけることを楽しむような外道が増えているらしい。実際、今回の震災でのデマの蔓延を見ると外道の増加は明らかである。嘆かわしい風潮である。

 

 結局は二回立て続いての踏切トラブルで到着予定時刻は大幅に狂う。とは言うものの、この時点での遅れはまだ大して問題ではない。ようやく到着した奈良駅は、高架化工事が終了したようで綺麗だがかなり無機質な駅舎になっている。この駅舎も京都駅とは別の意味で古都に似つかわしくないななどと思いつつバスで最初の目的地に向かう。

 どことなく無機質な奈良駅舎


「中村勝治郎−明治美術の光彩の中で」奈良県立美術館で5/22まで

 

 奈良市で生まれて、京都で洋画家・山内愚僊に絵の手ほどきを受け、その後は黒田清輝と知り合って「白馬会」に参加しつつ、東京美術学校で黒田の補佐を務めるなど明治の美術界に独自の存在感を示した画家を紹介する展覧会。

 当初は山内愚僊の影響で写実的な画風だった彼だが、黒田清輝や久米桂一郎の影響を受けてからは画風が変化し、いかにも外光派の画風になっている。ただどちらかと言えば芸術家としてよりは教育者としての実績の方が重視されがちな彼らしく、基本的な画風はややアカデミックである。

 そのために油絵に関してはやや重めの塗り重ねの作品が多く、それが画材の悪さのせいもあるのか、今日では明らかにやや褪色してしまっている作品も多いので、油絵作品に関しては平板でメリハリがなく見える作品が多く印象が良くない。

 むしろ彼の本領が垣間見られるのは水彩画やパステル作品か。こちらは軽快にして鮮やかな色遣いが今日でもハッキリと観察でき、この軽妙さが本来の彼の持ち味なんだろうと感じさせられる。


 県立美術館の見学を終えたところで10時ぐらい。今日は早朝に出発したので食事を十分に摂っておらず腹が減った。国立博物館に向かう前に何かを食べておきたい。と言うわけで向かったのが近くにある「天極堂奈良本店」。やはり奈良らしい物を食べたいと考えた時、吉野本葛を使用した葛餅や料理などを味わえるというこの店は最適である。

 ちょうど10時にオープンした直後に入店。「花月の膳セット(1890円)」を注文する。これは「えび饅頭の豆乳マスタードあんかけ」「葛鶏丼」「吉野うどん」などの食事メニューに「葛餅」がデザートとして付くという葛堪能コースである。

 運ばれてきた料理を見ただけで楽しくなるが、見た目だけでなくて味が良い。吉野うどんはかなりあっさりとした味付けで、うどんと言っても三輪素麺のような麺は正直なところ私の好みのタイプではないのだが、葛の入ったとろみのある出汁を絡めるとこれが旨い。また生姜の味がアクセントとして効いている。

 えび饅頭に関しては結構こってり目の味で旨い。また隠し球は豆乳マスタードあんの中に潜んでいる葛きりのらしきもの。これがプリプリと麺のような食感でこれまた美味。

 鶏丼は葛の入った出汁をかけてから頂くようになっている。地味なメニューであるがこれもまた葛のとろみとトロロのとろみが美味。

 そしてデザートは作りたての葛餅。ほの温かい葛餅のプルルンとした食感が最高に幸せな気分にさせてくれる。実は以前に奈良でこの葛餅を食べたことが忘れられず、今回また奈良遠征することにした時、わざわざ葛の店を選んだ次第である。

  

 昼食を堪能すると土産に葛餅や葛湯などを買い込んで店をあとにする。これでわざわざ奈良までやって来た主目的は達成である・・・いや、私は奈良までわざわざ食事をしに来たわけでは・・・しかしだんだんとそんな気になってきた。

 

 とりあえず「本来の目的」の方を着々と進めることにする。ここから徒歩で国立博物館に向かう。

 

 国立博物館で開催中の企画は「誕生!中国文明」である。中国3000年などと言うが、伝説の夏王朝から唐代に至る中国文明を物語る出土品などを一堂に並べた博覧会で、なかなかの見応えがある。

 と感じていたのだが、ある程度まで見ていったところでふと気が付いたことがある。「もしかして私は以前にこの展覧会を見に行っているのでは・・・」。最初に飾ってあった動物紋飾板、さらに金縷玉衣、七層楼閣など展示品の中の数点に強烈に記憶に残っている物があるのである。ただ半分以上の展示物は記憶に全く残っていない。

 結局、帰宅してから調べたところ、去年の8月に長野・甲府に遠征した帰りに東京に立ち寄った際、東京国立博物館で開催中の同展を見に行っていたことが判明。通常はこんなことがないように事前に確認しているのだが、どうも今回はそれを怠っていたらしい。にしても、半数以上の展示物が記憶に残っていないとは、東京展を回った時は場内が混雑していた上に、疲労でヘロヘロになっていて余程雑な見方になっていたのだろうと反省しきりである。そう言えばこの時は、疲労だけでなくて尋常でない暑さに完全にやられてしまって、博物館に立ち寄った時も鶴屋吉信のあんみつでようやく息を吹き返したことを思い出した。やはりそんな状態で展覧会見学は無理があったか。

 

 とんだ失敗だが、二回見たことで深く理解できたし、今回は以前の時よりも随分堪能できたし、これで良しとすることにする。

 

 これで奈良での予定は終了、後は大阪での展覧会だが、これにまっすぐ向かうのはあまりに素っ気ない。そこでちょっと寄り道をする。奈良と言えば近鉄だが、この周辺の路線で田原本線、橿原線の大和八木−橿原神宮前間、さらには南大阪線、御所線、吉野線などのいわゆる狭軌系などが未視察である。今回は吉野まで行っている時間はとてもないので、これは後日に回すとして、それ以外の細かいところを視察しておこうと考える。

 まずはJRで奈良から王寺に移動。ここで近鉄田原本線に乗車する。この田原本線は近鉄の標準軌系の路線だが、他の路線と分離した路線となっており、またこの路線だけなぜかスルッと関西3DAY適用外という奇妙な位置づけとなっている。

 近鉄新王寺駅

 近鉄新王寺駅はJR王寺駅に隣接している。駅舎は小さく、単線路線の末端駅で線路は一本で待避線はない構造。列車は三両編成のワンマンだが、意外に乗客は多く、こんな妙な位置づけの路線にもかかわらず未だに存続している理由がうかがえる。

 JRの線路の上を立体交差で越えていく

 切符を買うと発車のベルにせき立てられつつ車両に飛び乗る。次の大輪田駅ともっと先の箸尾駅のみが交換可能駅であり、これに合わせてダイヤが組まれているようだ。沿線は途中でかなり郊外めく部分はあるが、王寺、西田原本の両端部分を中心に住宅は多く、特に西田原本の手前では住宅地の合間を屋根にこすりそうな状態で走り抜ける。沿線人口はそれなりにいるようで途中での乗り降りもそれなりにある。典型的な都市周辺路線というイメージである。

左 西田原本駅に到着  中央 向こうの方に田原本駅が見えている  右 田原本駅

 終点の西田原本駅は田原本駅とは完全に分離しており、改札を抜けてから徒歩連絡になる。なお線路自体は西田原本の手前で橿原線との連絡線があるので、車両の搬送などは可能なようである。

 

 田原本からは橿原神宮前行きの普通列車に乗り換える。大和八木周辺は住宅が多いが、橿原神宮前までの間はやや人口が減る。近鉄の標準軌系はこの橿原神宮前までで、到着列車はここで折り返しになる。吉野線、南大阪線などの狭軌系とはホームを移動しての乗り換えとなるが、一応これは改札内での移動となる。橿原線の普通列車の到着が遅れたので乗り換え時間に余裕がない。移動通路を先へと急ぐ。

  

橿原神宮前駅では通路を急ぐ

 ここからは狭軌系だが、線路の幅が違う以外は特別に車両の印象などもそう大きくは変わらない。ここからはとりあえず御所を目指すことにする。列車が橿原神宮前を出ると北に巨大な橿原神宮が見える。次の橿原神宮西口駅はまさにちょうど橿原神宮の最西端である。沿線は常に住宅があり、高田市駅ではかなりの乗り降りがあり、次の尺度で乗り換えである。

 尺度で乗り換え

 御所まではここから支線の御所線になるのだが、御所線のホームは1番ホームで吉野方面の特急なども使用するホーム。ここから二両編成のワンマン車が南大阪線の車両の合間を縫って、全路線を横切ってから南に分岐する構造になっている。車内の乗客はそう多くはなく、沿線も今までに比べると人口は減少気味のようである。ただ終点の御所は葛城山行きのバスの発着場にもなっており、それなりに住宅はあるし、駅前商店街らしき物も存在している。とは言うものの、その商店街は私の目には最早廃墟にしか見えなかったが。

左 車内風景  中央 沿線にはこんなところも  右 近鉄御所駅に到着

 とりあえず近鉄の視察は今回はこれで終わりにする。またいずれ日を改めて阿部野橋から吉野まで一気に行けば、これで近鉄の視察は終了ということになる。確か私は鉄道マニアではないはずなのだが、どうも最近不毛なことばかりしているような・・・。

  

廃墟化しつつあるように見える商店街を抜けて、JR御所駅から和歌山線に乗車

 近鉄御所駅からは数分でJR御所駅に行けるので、ここからはJRで帰ることにする。御所駅で和歌山線の列車に乗ると高田で難波行きの区間快速に乗り換える。JR和歌山線は完全にローカル線扱いなのだが、どうやら高田からは近鉄との競争を意識してかなり強化している模様である。これに関しても例によっての「自由競争の効果」である。

 

 この頃から雨がかなり強くなってきたし、さすがに私も疲れがかなり出てきて、王寺を過ぎた頃に完全に意識を失ってしまい、次に気が付くと天王寺に到着していた。いよいよ最後の目的地へ向かう。

今回辿ったコース


「没後150年 歌川国芳展」大阪市立美術館で6/5まで

 

 幕末期、西洋画法も取り入れた大胆な画風で、奇想の浮世絵師として一世を風靡した歌川国芳の作品を集めた過去最大級規模の展覧会である。

 国芳が最初に世間の注目を浴びたのは、ダイナミックな武者絵によるとのことだが、画面の劇的効果も考えた大胆な構図は、今日の劇画に通じるような雰囲気があり、まさに国芳の真骨頂であると感じさせられる。

 これに比べると美人画などはかなりおとなしめで地味であるが、ところどころ西洋画の技法も取り入れた大胆な表現が顔を覗かせる。そしてそれがさらに顕著に現れるのが風景画。ここまでくると、日本の浮世絵版画と言うよりは西洋の銅版画に近いタッチの作品が多々登場している。

 最も国芳らしいと言えばやはり戯画。そもそもは天保の改革で役者絵や芸者絵が禁止されたことから端を発しているというが、そんな物に簡単に屈するような我らが国芳さんではない。人物を猫やはたまた化け物に変えたりしてしまうのだが、それが国芳の筆にかかると実に活き活きとして楽しい。また一連の影絵など、かなり仕掛けに富んだ作品もあっていちいち楽しませてくれる。

 


 毎度のことながら、日本人は浮世絵が好きなのかとかく浮世絵展は混雑するのであるが、本展もかなりの混雑であった。結局は会場を何周もしながら、空いているところを見つけては鑑賞というバターンで見て回ることとなった。ただそれでも、わざわざやってくるだけの価値はあったというものである。

 

 これで今回の予定は完全終了。いささか疲れたのが本音で、帰りは車内でほとんど爆睡状態となったのであった。体力がなくなってきたな・・・。

 

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