奈良県立美術館
美術館規模 中
専用駐車場 無(周辺に公立の駐車場はある)
アクセス方法
JR奈良、近鉄奈良からバス
お勧めアクセス法
奈良は車で来るところではありません。秋などは身動きが取れなくなる。
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展覧会レポート
「応挙と芦雪(後期)」 2006.11/7〜12/3
この展覧会は先日一度見に行っているのだが、その時は前期で今回は後期になる。本展ではすべての作品が入れ替えられているので、同じテーマの展覧会ではあるものの、実質的には全く別の展覧会であるとも言える。
前期の展示では長沢芦雪の「虎図」がなかなかに楽しませてくれたが、今回はその対となる「龍図」が展示されている。また隣に応挙の「雲龍図」も展示されているので、比較すると非常に面白い。まるで実在の動物であるかのように写実的に精緻に描いている応挙に対して、芦雪の方は勢いに任せた外連味たっぷりといった作品になっており、両者の作風の違いが際だっている。
ちなみにこの両龍図の隣には、芦雪による掛け軸版の虎図が展示されていたのだが、それを見た観客が「猫?」と呟いていたのには笑ってしまった。どうしてもこの人の描く虎は猫っぽい。
なお前回は芦雪の奔放な作品で楽しませられたが、今回は応挙の実力が光っているように思われた。特に印象に残ったのは「雨竹風竹図」。墨一色の地味な作品であるのだが、墨の濃淡と屏風の立体だけを利用して、見事に空間の奥行きが表現されているのには絶句した。やはりこの人もただ者ではない。
「応挙と芦雪(前期)」 2006.10/7〜11/5
円山応挙は今更言うまでもないが、京都円山派の祖であり、精密かつ的確な写実によって日本絵画のメインストリームの一つを作り上げた巨人である。長沢芦雪はその弟子になるが、師匠の作風を学びつつ、そこから一歩突き抜けた自由な作品を描いた奇想の画家である。破天荒な行動が多かったためにいろいろと逸話があるようだが、師匠の応挙は彼の才能を認めていたという。
さすがに円山応挙の絵は描写力が抜群である。人物を描いた作品などは、従来の日本画の定型的表現を越えて、洋画を思わせるような質感もある。改めて彼はかなり先駆的な画家であったのだと感じた。ただやはり私の趣味から言えば、さらに魅力を感じるのはやはり長沢芦雪になる。
長沢芦雪は曾我蕭白と並んで私の好きな画家の一人であるが、その作品を堪能できるのが本展。個人的に一番うれしかったのが、無量寺に所蔵されている虎図を見ることが出来たこと。この作品、虎を描いているはずにもかかわらず、妙に表情が猫っぽいので「猫図」と揶揄されることもあるのだが、芦雪らしい大胆で思いっきりの良い構図と線が魅せてくれる。
なお本展は11/7からは後期になって、展示が全面的に入れ替えられるとのことである。となると後期も是非見たいのだが、日程的に空きがないのが辛い。
「浮世絵版画の楽しさ」 2006.5/20〜7/2
美術館の館蔵品の中から浮世絵版画の名品を集めて展示した展覧会である。鳥居清長、喜多川歌麿、歌川広重などの趣向を凝らした作品を見ることが出来る。
展示は版画の種類などの解説もあり、なかなかにお勉強にはなるのであるが、残念ながら作品については強烈に印象に残るものはあまりなかった。その中で一番印象に残ったのは、やはり歌川広重の作品である。橋の欄干などを手前に巨大に描き、その隙間から風景を描くというような大胆な構図(俗に実相寺アングルなどという呼び名もあるが)は、さすがに広重ならではと感心した次第。ただそれ以外の作品については、無知な私の目には残念ながらほとんど同じに見えてしまうというお粗末である。私などよりももっと浮世絵に興味のある者なら、高度な楽しみ方も可能なのだろうとは感じるのであるが・・・。
「スコットランド国立美術館展」 2006.3/18〜5/7
本展はスコットランド国立美術館の収蔵品の中から、19世紀のスコットランド絵画作品とフランス印象派の作品を展示した展覧会である。
本展に出展されているスコットランド絵画については、風景画と人物画があるのだが、風景画についてはオランダの精密絵画の流れを汲んでいるのが顕著であり、そこに印象派の影響が徐々に流れ込んできているという傾向が見て取れる。その辺りはヨーロッパ絵画も合わせて展示しているので、そのことを比較確認できるというのが面白い趣向である。また肖像画については、やや古典的という印象を受けた。
スコットランドという土地柄か、田舎の風景を描いた作品が多いが、題材だけでなく技法的にも牧歌的という印象を受ける。良くも悪くも田舎臭い。ただフランス絵画などは印象派以降は急激に先鋭化していってわけの分からない世界に突入していくのだが、幸いにもそのようなおかしな流れからやや取り残された感があるため、結果として非常に好感の持てる作品が多くなっている。
やはりスコットランド絵画作品が面白いが、ヨーロッパ絵画の方も作品のレベルが高くて特徴的なものが多いので、なかなかに楽しめる。ヨーロッパ絵画を好む者なら、足を運ぶべき理由が十二分にあると言えよう。
「杉本健吉展」 2005.10/8〜12/4
実は奈良へは「正倉院展」を見ようと出かけたのだが、どうしたわけか国立博物館は1000人ほどの大行列で入場規制がされている状態。せっかちであり、行列に並ぶという美意識を持たない私は、そうそうに諦めてかわりに訪れたのがこの展覧会である。
さて杉本健吉氏は奈良にゆかりのあるいわゆるご当地画家である。彼は水彩画で多くの奈良の風景画を残したとのことであり、それらの作品が展示されている。
彼の作品であるが、正直な印象は「小学生の絵のようだな」というものである。繊細さのない大胆な線でザクザクと描いている絵は、その形態の歪みなどもまさに昔見た小学生の絵のような印象。非常に自由な精神を感じるので、ある意味では小学生でもないのにこのような絵が描けるということが驚異なのかもしれないが、とにかく私の好みではない。
「ブラティスラヴァ世界絵本原画展」 2005.4/2〜5/8
ブラティスラヴァ世界絵本原画展とはスロヴァキアの首都ブラティスラヴァで2年ごとに行われており、ポローニャのものと並ぶ絵本原画展とのこと(ちなみにポローニャ絵本原画展は、大谷美術館で毎年開催されている。)。作品はごくオーソドックスな絵画調のものから、立体造形的要素を含んでいるものまで多種多彩であり、会場には絵本原画だけでなく、元々の絵本も展示されており、また日本人作家の作品も多いので、子供連れにも楽しめそうある。
もっとも個人的には、ここに展示されている絵本が本当に子供向きかには疑問を感じずにもいられない。感性先行型の絵本の数々は現代芸術のプロモーションのようで、とにかく感覚的で散文的である。ここまで感覚的にすぎる世界にどっぷりはまると、かえって論理的思考が養われないのではないかと懸念してしまう次第である。私個人としては、子供に与える絵本はもう少しストーリー性があるものが良いのではないかと感じる。
なお個人的には「ワンワン忠臣蔵」ならぬ「蛙の平家物語」なんてものが面白かった。やはり実はある程度割り切った大人向きなのかもしれない。
「モネ−光の賛歌」 2004.10/2〜12/5
印象派を代表する画家として日本でも人気のあるモネの作品を、初期から最晩期に至るまで一堂に集めた展覧会である。年代別に作品をまとめてあるのでモネの画風の変遷をたどることが出来る。
最初のいわゆる印象派展に至るまでの試行錯誤の時期、さらに印象派と呼ばれるようになってから風景画を量産した時期、光の表現を追究して同一素材を光を変えて連作した時期、ロンドンの風景を描いた時期(先の連作ともかぶる)、晩年の睡蓮の庭を描いた時期の順に分けて一覧できる。初期には古典的なスケッチの技法を学び、それが光の表現にこだわってきらめきが増し、晩年にはその表現に凄みが増していくという流れがよく分かる。
特に面白かったのが連作の展示である。全く同一アングル同一対象の絵画を並べて展示してあるので、モネが光をいかにして表現しようとしたかがよく分かる仕掛けになっている。夕日の光景を描いている絵画など、眩しさを感じたぐらいである。この光の表現の追究が晩年の睡蓮につながるのである。
これだけのモネの作品をまとめて一度に見られる機会はそうそうあるものではない。モネのファンなら絶対に、そうでない者でも出かけるだけの価値は十分にある。私も久々に展覧会で感動させられた。
「ランス美術館展展」 2004.4/10〜7/19
フランスのランス美術館の19世紀フランス絵画を中心とした展覧会。作品点数自体は決して多くはないが、バルビゾン派の風景画から、印象派、後期印象派、象徴主義など幅広く、果てはアールヌーヴォを代表するガレの家具まで展示されており、フランスにおける絵画を中心とした芸術の変遷を一望できる趣向になっている。
作品を順番に追っていく過程で、私の印象に残ったのは光の表現の変遷である。最初のバルビゾン派の風景画は絵画自体は非情に精細で精密であるが、光の表現についてはやや古典的で、ボンヤリとした印象を受ける。この光をきらめくように描こうとしたのが印象派であるが、印象派の絵画は光を追いかけすぎた挙げ句に画面全体がおおざっぱな印象になり、輪郭がハッキリしない絵画になる。この傾向は後期印象派でさらに拍車がかかるのだが、これ以降の時代になると、今度は神秘性を重視したボンヤリした光の表現に戻っている。
複数の画家の作品をザッと追いかけることで、何となくフランス絵画の歴史を感じるには最適な展覧会であった。テーマがハッキリしていた。
なおこの美術館を訪れるつもりの方は、近くの国立博物館(徒歩約10分)で6/13まで法隆寺展が開催されているので、併せて見学されるのがよろしいのではないでしょうか。
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