展覧会情報 大和路編
青春18シーズンも終了、これからは「関西おでかけパス」の活躍するシーズンである。今回の目的地は奈良。まずは大和路快速で奈良駅を目指す。途中まで晴天だったのが奈良駅を下りた途端に土砂降りの雨。しかし空は晴れている。いわゆる「狐の嫁入り」というやつ。どうも天候が不安定だ。まずは最初の目的地へはバスで移動する。
「美麗 院政期の絵画」奈良国立博物館で9/30まで
平安時代後期から鎌倉時代の初期にかけての院政期には、仏教画を中心とした絵画文化が花咲いたという。本展はそのような院政期の絵画作品を中心に工芸品なども加えて展示したものである。
仏画については絢爛豪華なものが多い。今となっては色あせてかつての姿を想像することが困難なものが多いが、それでも一部残っている顔料の色彩が往時のあでやかな姿を偲ばせる。恐らく極彩色の世界であったのだろう。
ただこの手の展覧会でいつも思うのだが、なぜか極楽の光景よりも地獄の光景の方が面白いのである。やはり極楽の描き方は定型化しているのに対し、地獄の光景は作者の想像力を刺激するのだろうか。本展に展示されていた地獄草紙は、その着想の突飛さ、表現の大胆さなど秀逸であった。
博物館を出た時には雨はやんでいた。今まではこの博物館を出ると、奈良駅までとんぼ返りするのが常であったが、今回はしばし奈良を散策することにする。博物館と興福寺の間の道を南に下ると、池のある落ち着いた雰囲気の一角に達する。そこは奈良ホテルなどがある地域。さすがに奈良ホテルはあの大馬鹿な京都駅ビルなどと違い、辺りの風景に溶け込んでいる。
その一角を抜けると住宅地域。しかし奈良の住宅地は京都と違ってまだ趣が残っている。この雰囲気は残してもらいたいものだ。その一角にある茶屋で一服することにする。
入ったのは一福茶屋。奈良で吉野葛を扱っている天極堂が経営している茶店である。ここでは作りたての葛餅が食べられるとのこと。早速注文する。
葛餅 500円也
考えてみれば今まで本物の葛餅は食べたことがない。世間に出ている葛餅と言われているものは、大抵はジャガイモデンプンを使用したまがい物であり、その手の葛餅で今まで美味しいと思ったことはない。しかしさすがにここの葛餅は違う。まず箸でつまんだ途端にブルブルしているこの感触。これを口が入れるや、ねっとりと柔らかい何とも言えない食感になり、また葛のほの甘さに黒蜜ときなこの味が調和してたまらない。思わず「うまい」という言葉が口をついて出てくる。
このプルプルがたまりません 実のところ、私は今まで葛餅やわらび餅に黒蜜を使用するのはイマイチだと感じていたのだが、ここの葛餅を食べてその考えは変わった。確かにこの葛餅には黒蜜が風味としてよく合うのである。これは初体験であった。
茶店で一服の後は、おみやげに葛まんじゅうを買い込んで、さらに市街地をフラフラと散策する。やはり奈良は京都と違ってビルが少ないのが幸いしている。京都が景観保護条例を制定したそうだが、奈良こそ回復不能な状態に破壊される前に本格的な景観保護を行うべきであるとつくづく思うのだった。
茶店からブラブラと散策すること10分弱。今日の昼食は奈良で摂ることに決めている。とにかく「良い飲食店が少ない」と言われる奈良のこと、昼食を摂る店は事前に調査している。
今回昼食を摂ることにした店は「吉座伝右衛門食菜坊」。京風の懐石料理の店であるが、昼間は限定でランチのコースを設定してある。私が注文したのは限定20食という吉座御膳(1365円)である。
いかにも京風懐石料理のような品目の多さが目を惹く。メニューは天ぷらなどに鰹のたたきなどの小鉢が複数、それに豆腐のサラダや茶わん蒸し、とろろなどと実に多彩。これにデザートとしてぜんざいもついてくるからうれしい。いかにも手間がかかっているのがうかがえ、限定20食の理由が納得できる。
なおこの店は秋田の地酒や秋田名物きりたんぽ鍋なども食べることが出来るとのこと。道理でと納得したのは、京料理と違って結構味付けがしっかりついていることである。この辺りは好みが分かれそうだが、私にはなかなかに美味しいと感じられた。
ちなみに見た目の多彩さによって精神的に満腹感を醸し出すのが懐石料理の知恵だと以前から感じている。私も常にこういう食事をしていたら、今頃肥満で悩むこともなかったのにと思うことしきり。満腹感以上に満足感が来て、量的に少ないという気は起こらない。
昼食がすんだところで移動のために奈良駅に向かう。切符を探しているうちに間一髪のタイミングで大和路快速を逃してしまい、20分を駅でつぶすことになる。隣のホームを眺めると二両編成のワンマン電車が停車している。桜井線経由の和歌山行きとのこと。思わず旅情を刺激されてそっちに乗ろうかとも思ってしまうが、私は鉄道マニアではないし、今回は「青春18の旅」でもないので、今度の機会にすることにする。
大和路快速で大阪にとんぼ返りすると、後はいずれも通い慣れたる美術館ばかりの大阪市内巡回コースである。
「上海−近代の美術−」大阪市立美術館で10/14まで
19世紀後半から20世紀前半にかけての清朝末期、上海はアヘン戦争後の開港によって海外の文化の窓口となっていた。ここでは独自の文化が花開き、新たな中国文化を形成した。その時代の絵画、書、篆刻などを展示している。
とは言うものの、私のような浅学のものには、絵画は単なる南画としか見えず、今までのものとどう変化したまでは把握できないし、書については完全に興味なし、篆刻となればマニアックにすぎて理解不能というわけで、正直なところ今ひとつ唸るようなものがない。ちょっと私の嗜好とはズレすぎてたか。
「西洋と日本のあいだで―明治・大正・昭和初めの日本画・洋画」大阪市立近代美術館(仮称)心斎橋展示室で10/8まで
同館が所蔵するコレクションの中から、明治から昭和初期にかけての日本画及び洋画の作品を展示したもの。固定的な建物を有しない(財政危機で建設のめどが立っていない)同館は、そのコレクションを各館に貸し出すことが多いので、関西地区の展覧会を転々としている者なら、目にしたことのある作品も多い。
どちらかといえば洋画作品よりも日本画作品の方が印象的なものが多い。土田麦僊の大作「散華」や石崎光瑤の大作「白孔雀」などは共にかなりインパクトの強い作品だが(私はいずれも松伯美術館で見た記憶がある)が、これ以外にも福田平八郎の問題作「漣」などレベルの高い作品が多かった。
なお大阪人なら楽しめるのが、池田遙邨が名所画風に大阪を描いた「雪の大阪」。館内で詳細な解説資料が配付されているので、それと見比べながら鑑賞するとかなり面白い。
「ロートレック展 パリ、美しき時代を生きて」サントリーミュージアムで11/4まで
19世紀末のパリを代表する画家の一人がロートレックであるが、本展はそのロートレックがパリの歓楽街などを描いた絵画・ポスターなどを集めて展示している。
ロートレック展と言えばポスター展が多いのだが、本展はフランスの各美術館から集めたロートレックの絵画の展示が多く、いつもの展覧会とは趣が違っていて楽しめる。やはり絵画となると、表現を簡略化しているポスターと異なり、より生の形でのロートレックの芸術が感じられるように思われる。デフォルメなどが多く、どことなく皮肉な視線を感じる作風は相変わらずだが、こうして見てみると、彼はゴッホやゴーギャンなどの影響を受けていることがよく分かるのである。印象派後期のスーラなどと同時代に当たるというロートレックの立ち位置について、本展では明確に理解することが可能になる。私としてはこれは新たな発見として非常に興味深かった。
以上で本日の予定は終了である。それにしてもサントリーミュージアムは辺鄙である。奈良を散策した挙げ句に、天王寺公園内を美術館まで歩き、大阪港駅からサントリーミュージアムまで往復、これでざっと1万8千歩。正直大分足にガタが来てしまった。もう少し体を鍛える必要があると痛感しつつ、家路へと急ぐのであった(その前に梅田で展覧会の前売り券を大量に仕入れて)。。
戻る