青春18切符の旅 岐阜・名古屋編

 

 

 いよいよ世間では夏休み到来である(といってもサラリーマンには無関係であるが)。夏と言えば「海だ!山だ!青春だ!」というわけで、青春18切符のシーズン到来でもあるのである。

 と言うわけで、またこの夏も例によって青春18切符を使用しての貧乏遠征の開始である。今回はまずは岐阜・名古屋方面に遠征した。ちなみに今回の遠征は遠征比率が6割ほどで、実は4割は旅行だったりするのだが、それがどのあたりを指すのかは後でご判断頂きたい。

 

 出発は土曜日の早朝、大阪から7時台の新快速に飛び乗ると、そのまま米原で壮絶な席取り合戦を経て乗り換え、特別快速という名の実質的な各駅停車で西岐阜まで移動する。何もない駅前に降りたった時には残念ながらの雨模様である。ここで無料のコミュニティーバスを待つ。目的地はこのバスで2分ほど移動した先にある(晴れていれば歩いても良かったんだが)。


「川崎小虎と東山魁夷展」岐阜県美術館で8/26まで

 

 東山魁夷は今更改めて説明するまでもないほど有名な日本画家で、国民画家とまで呼ばれた人物であるが、彼の岳父がやはり日本画家の川崎小虎である。縁あって小虎の長女と結婚した魁夷は、この小虎に対して芸術家としても深い尊敬を抱き続けていたという。本展はその川崎小虎と東山魁夷の作品を集めて展示したものである。

 とはいうものの、やはり美術展としての惹きはやはり東山魁夷作品だろう。本展では長野県信濃美術館所蔵の「行く秋」や「静唱」など、信濃美術館を直接訪問したにもかかわらず本物を見ることができなかった名品などを始めとして、各美術館の名品が展示されており、東山ファンには堪能できる。

 ただ川崎小虎についてもなかなか興味をかき立てられる画家である。彼は祖父の元で伝統的な大和絵を学んだようであるが、後にそれを独自に展開させて日本画の改革を目指したようである。明らかに洋画の技法も取り入れており、若き頃のアール・ヌーヴォーの影響を受けた作品や、実験的で油絵的な作品など非常に多彩な展開をしており、結構楽しませてくれる。このような感性が魁夷に尊敬された所以なのであろうか。


 実を言うと、遠征的にはここが主目的地だったりする。ただここでUターンというのはあり得ないことで、さらに前進あるのみである。とりあえずは名古屋に移動する。

 名古屋に到着すると正午ぐらい。ここで美術館よりもまず昼食を先にすることにする。思えば今まで名古屋でまともな食事をしたことがない。というわけで、今回は名古屋での昼食は事前に下調べの上に計画を組んでいる。

 今回は名古屋での昼食はひつまぶしを食べることにした。名古屋の名物と言った時に浮かんだのは味噌カツと名古屋コーチンとひつまぶししかなく、味噌カツは好みに合わないし、名古屋コーチンは食べ方を知らないしということで土用の丑も意識してひつまぶしになったという次第。事前に調査した店を目指して地下鉄で移動する。

 目的駅は浄心。最初は読み方が分からなかったのだが「Joshin」と書いてあることから、読み方は「じょうしん」らしい。どうも名古屋の地名は「浅間町」と書いて「せんげんちょう」とか読み方がわかりにくい。ちなみにこの地名を聞くと、関西人である上に日本橋とのつきあいの長かった私は、条件反射的に「ジョ、ジョ、ジョ、ジョーシン」と口ずさんでしまうのである。

 で、怪しい歌を口ずさみながら私が目指したのは「しら河本店」。地図に従って裏道に曲がった私は絶句する。店の前に長蛇の列ができている。待っているのは大体30人程度か。たかが食事のために行列を作るという時間の無駄が最も嫌いな私としては(私が行列に並ぶのは美術館入場の時だけ)、普段ならここはこのままUターンするところだが、今回はわざわざ地下鉄に乗ってまでやって来た上に代案を用意していない。不本意であるが、腹をくくって待つことにする。30分弱の時間を無駄にした後、ようやく店に入ることができる。

 私が注文したのは特上ひつまぶし(2310円税込み)と肝吸いである。ひつまぶしについては一応事前に食べ方についてもリサーチしてある。まず最初はそのまま茶碗に一杯とって食べる。ウナギがかなり香ばしく焼き上げているのが印象的。ただ関西人の私にとっては、ウナギの味付けがやや濃いめで焼き方もやや焼きすぎのように感じられる。

特上ひつまぶし2200円也

 

 二杯目は海苔、ネギ、わさびの薬味を乗せて頂く。思わず「あっ」という声が出る。明らかに先ほどと風味が変わり、さわやかな印象になる。特にわさびが合わさることによって、こんなにウナギの印象が変わるとは意外であった。

 そして三杯目はさらにだし汁をかけてお茶漬けでいただく。これは一口食べた途端に思わず唸る。ウナギとしては意外なほどにさっぱりするし、非常に口当たりがさわやかなのである。さらにこの時に、一杯目にストレートを食べた時に、やや味付けが濃くて焼き方が固く思えた理由が判明する次第。つまりは最初からこの茶漬けになった時をイメージしてのバランスが取られていたのである。だし汁をかけることで濃いめに思われたウナギの味がご飯に溶け出してバランスを取り、固めに思われたウナギはサクサクとした歯触りになり、そこにさわやかを添えるわさびの絶妙のバランス。これは一つの完成した世界である。これはしつこくなりがちのウナギをあっさりと食べるための名古屋の知恵と言えよう。名古屋と言えば野暮ったくてえぐい味付けというイメージのあった私の敗北のようである。

 予定よりも時間を要してしまったが、昼食を堪能したので、とりあえず次の目的地に向かう。次の目的地は地下鉄の駅からやや歩いたところにある。


「中村宏|図画事件 1953-2007」名古屋市立美術館で9/17まで

 

 前衛芸術家である中村宏の作品を、その初期から最近のものまで網羅した展覧会。

 初期はその独特の力強い画風で戦後社会の風潮を描く「ルポルタージュ絵画」を描いていた中村宏だが、日本の政治の季節の終焉と共に、社会的なテーマは姿を潜め、より個人的なシュルレアリスムの世界に入っていっている。その中にはルポルタージュ絵画の頃からも頻繁に登場していた機関車のモチーフなども生きているが、そこに新たに現れるのがセーラー服のイメージ。このイメージがデ・キリコで言えばマネキンに当たる彼のメインモチーフとなったようである。

 一貫して言えるのはとにかく作品にインパクトがあると言うこと。ただ私の個人的嗜好から言えば、そのインパクトは悪趣味の世界に属する。どちらかと言えば幻想的と言うよりは悪夢の風景である。表現力については認めるのだが表現力があるが故にかえって私の好みと衝突して不快である。


 この時点で予定のスケジュールよりかなり遅延が生じていた。やはり昼食で無駄に時間を浪費したのが痛い。急遽第二プランに変更しつつ、次の目的地へと移動する。


「20世紀美術の森」愛知県美術館で8/26まで

 

 毎年恒例の愛知・岐阜・三重三県立美術館共同企画である。昨年は岐阜でルドンを中心とした展覧会が開催されたが、今年は愛知で20世紀美術作品を中心とした展覧会となっている。

 20世紀美術作品と言うことで、展示会場を細かく区切らず大ホール状にして作品を並べた会場構成が印象に残った展覧会。正直なところ、20世紀美術作品は私の守備範囲外だし、各美術館共になじみがあるために手の内は大体分かっているし(見たことある作品が多い)、岐阜県美術館のルドンは大半が東京に出払って留守の状態というわけで、どうにも目玉のない展覧会であった。


 さてこれで遠征計画の方は終了である。実はもう一カ所回ることも考えたがそれには時間が中途半端であるので、結局それは断念し、名古屋駅近くの喫茶店で時間をつぶすこととした。暑さと足の疲れにさいなまれていたので、宇治金時の冷たさが心地よい。そう言えば今日はほとんど水分を摂っていなかったような。これからの遠征は熱中症に気を付ける必要がある。

 ここからは遠征の主題が変更になって、またも「青春18で行くローカル線の旅」である。例によって「鉄道マニアではない」私であるが、その私がこの地域で興味を持った路線が関西本線と草津線。そこで今回はこれを乗り継いでやろういう企画である。

 とは言うものの、「鉄道マニアではない」私としては、別段列車などに興味があるわけではない。ただ単に鉄道が通っている沿線の風景に興味があるだけで、単に列車に乗っているというだけなのであるが・・・。

 名古屋駅に入場して関西本線のホームに立ったのは16時過ぎ。まずはここから各駅停車に乗り込む。列車は二両編成のワンマン電車で、これで亀山まで移動ということになる。なおこの関西本線だが、本線とつく通り、実は名古屋と大阪を結ぶ第二幹線という位置づけであるのだが、単線一部未電化ということもあり、年々本数も減って東海道線とは比較にもならない日陰の身という路線である。

 乗ってみて驚いたのは、意外に乗客が多かったこと。また単線ではあるものの、電化されているために速度はそこそこ出ているし、路線の風景も住宅地という印象。やや当初に描いていたイメージと違うなと感じた。ただそれが一変するのは四日市をすぎてから、ここから山の方に向かい出すにつれて、急に周辺が田舎めいてくる。

 やがて列車は亀山に到着。ここで夕食を購入する。今回の夕食は駅弁を食べることにした。それは志ぐれ茶漬弁当。日本で唯一のお茶漬け弁当だったのであるが、実は現在は幻の駅弁と言われている。と言うのは、この弁当を手がけていた弁当屋が、路線本数の減少と共に撤退してしまったのである。しかし弁当自体はまだ駅の近くの売店で当時のままの姿で受注生産されている。実は私は事前に名古屋から到着時間を伝えて予約しておいた次第。なお今回の場合、乗り換え時間がほとんどなくてバタバタするため、弁当をホームまで届けてもらうように依頼していた。この辺り、細やかな心遣いが光る弁当でもある。

 とりあえずホームで弁当を受け取ると(弁当とお茶で950円)、ここからはディーゼル車に乗り換える。二両編成のワンマンカーだが、相変わらず乗客は一杯である。

柘植駅にて、関西本線のディーゼルカー

 

 ここから草津線に乗り換えの柘植まで三駅だが、この区間が一番ローカル線らしき風景であった。列車はディーゼルサウンドを響かせながら山間の線路を疾走するのだが、これがまたとんでもない山の中。両脇から草が追いかぶって来そうな中を走っている状態。正直「面白いところだな」と実感。今回は時間の関係で草津線経由で帰るが、いずれは関西線奈良方面への全線走破もしてみたいとこの時に思う。

 柘植に到着すると、ここで草津線に乗り換え。草津線は電化されている上に車両の編成も長く、関西本線とどちらが本線か分からない状態である。とりあえず席に着くと、亀山で受け取った弁当をここで開く。

弁当とお茶 お茶をかけて頂きます

中には海苔とアサリのしぐれ煮がびっしり

 

 弁当は濃い目に味付けたアサリのしぐれ煮をご飯の上にまぶし、その上に海苔をちりばめてある。そのまま食べたのではやや辛い目の味付けになっているので、一緒に買った茶をかけることでバランスがとれるという仕掛けになっている。お茶漬けでサラサラとかき込むと、濃い味付けのアサリもあっさりと心地よい。

 煮染めなどは昔は保存のために濃い味付けがされていたが、その煮染めをあっさりと食べるための知恵がこれではないかと感じた次第。正月のおせちの片づけにも応用できるのではないかなど考える。

 さて草津線であるが、はっきり言って何の変哲もない路線であった。と言うのも車両自体も汎用的なものであるし、沿線の風景もどこでもある田舎の住宅地といった風景。風情という点では、以前に乗車した加古川線の方がありそうな感じであった。やがて1時間弱で列車は草津に到着、ここで新快速に乗り換えると家路へと急いだのであった。

 

 

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