青春18切符の旅 福知山編
春のこのシーズンになるとお世話になるのが青春18切符である。とにかくこれを使用すると交通費を安く上げられるということで、春・夏・冬のシーズンになると、私の美術館遠征も俄然JRでの移動が多くなってくるのである。しかも今回はさらに特別な事情がある。この春の18切符は8000円という特別価格でお得度がさらに高いことが1つだが、実はもう1つオマヌケな事情が発生してしまったのである。
今回、切符が発売になると同時に私は早速1枚購入、それを先週の京都遠征に使用した。しかし翌日、ポケットに入れていたはずの切符を探すとどこかに行方不明になってしまっていたのである。散々あちこち探し回ったが、結局切符は現れず、どこかで落とした判断せざるを得なくなった。私は「大損害だ・・」と呟きながら、やむなくもう1枚切符を購入したのである。しかしその2日後、なくなったはずの切符が、アマゾンの書籍小包の箱の中という「およそ信じがたい場所」から出てきてしまったという次第(私の部屋は四次元空間がつながっているのか?)。手元に都合2枚の18切符が揃うことになり、私はこれを4/10までに使い切るのに、JRに乗りまくらないといけないという羽目に陥ったのであった・・・・。
さてどこに行こうと考えた時、私の頭に浮かんだのはなぜかローカル線の旅であった。もともと鉄道マニアではない私は、列車自身には興味がないのだが遠征プランを練るために路線図や時刻表とにらみ合いをしているうちに、「この路線を通ってみたい」という奇妙な衝動に駆られ始めたわけである。その路線の1つが加古川線。以前に加古川流域を車で走った時(西脇・丹波遠征)、加古川線の二両編成の車両に出会って、妙に心惹かれるものを感じた記憶が甦ったのである。というわけで「決して鉄道マニアではない」私がローカル線を使用した旅に出る羽目になってしまったわけである。
とは言っても「鉄道マニアではない」私としては、鉄道に乗ることだけが目的となることはあり得ない。そこで加古川線に連なる地域を調べたところ浮上した目的地が、今まで一度も行ったことがない福知山の佐藤太清記念美術館となった次第。しかもタイミングの良いことに、リニューアルオープン記念(今年の春まで休館していた)の展覧会を開いているとのこと。これで目的地も決定である。
当日は早朝に出発、まず新快速で加古川まで移動すると、改札で18切符を見せて、加古川線のホームへ。ここで7:17発の西脇市行きの列車を待つ。やがてホームに入ってきた列車は2両編成の小さな列車、ドアの脇のボタンを押さないと扉が開かないというところが、いかにもローカル線であることを感じさせる。また車両はワンマンカーで、無人駅では料金箱に料金を投入して、一番前のドアから出るというバスのような方式。この辺りは「鉄道マニアではない」私にとっては非常に新鮮である。
加古川線は川沿いののどかなところを走る単線列車である。途中で対向列車待ち合わせの度に駅で数分待ったりしながらゆっくりと走る。この辺りは私は車で何度か走ったことのある地域だが、列車から見る風景は車と違って新鮮である。また車を運転する時のように、神経を使う必要がないのも良い。日頃は効率とスピードを最優先で遠征計画を立てる私だが、たまにはこのように時間を無駄にすごすのも良いかななどと思ってみる。
西脇市に到着したのは8:17。ここで「乗り換え時間が3分しかありませんのでお急ぎください」の放送にせかされながら、陸橋を渡って乗り換えホームへ走る。乗り換え車両はさらに進化(?)して、1両編成のワンマンカーである。この車両を見た時に、ローカル線が廃線になった後はバスになってしまう理由がなんとなく納得できたような気がした。
加古川線の一両編成ワンマンカー
この車両は先ほどの車両よりもさらにゆっくりしている。途中、以前に立ち寄った岡之山美術館の横をすり抜けながら、30分ほどかけて次の乗換駅である谷川に到着する。ここまで来ると「田舎」としか言いようがない地域。見事なほどに回りに何もない駅である。ここで福知山線に乗り換えである。
乗り換えの谷川駅 見事なまでに何もない
福知山へは30分少しで到着した。結局はなんだかんだで3時間近く列車の旅をしたことになる。
福知山の印象は「田舎の都会」。典型的な地方都市だが、若干さびれかかっている空気がある。なお駅前は再開発中らしく、ガランとしていた。その駅前をやや早足で駆け抜けると、ちょっとした散歩気分で目的地まで歩く(本来ならバスでも使用するところなのだが、そこは田舎の常で、バスの本数が極端に少ないせいで、少々の距離なら歩く方が早かったりするのだ)。20分ほど歩いたところで目的地に到着する。目的地は福知山城の麓、建物自体は福知山城の櫓のような構造になっている。
佐藤太清記念美術館の外観
「終わりのない旅2 原点」佐藤太清記念美術館で4/15まで佐藤太清は福知山出身の日本画家で、児玉希望に師事し、日展などで活躍した画家であるという。彼の家族などから寄贈された作品を展示したのが本展であるとのこと。
展示作品は昭和10年代のものから、昭和30年代ぐらいのものにまで及んでいる。初期の作品については墨絵を中心とした結構オーソドックスなものであったが、昭和20年代ぐらいから、当時の日本画の流行だったのか、岩絵の具を厚塗りした油絵調の作品が主となってくる。彼の師に当たる児玉希望も、まるで洋画のような日本画を描いたりした画家であるから、これは師匠の影響でもあるのだろうか。
ただ作品自体は特に前衛な雰囲気はなく、写生に基本をおいた比較的おとなしいもの。しかし技巧には確かなものが感じられ、個人的には非常に好感を持てる画風である。
この後はすぐ近くにそびえている福知山城に登ることにする。ここの天守閣はいわゆる「外観復元」というやつで、見た目は昔の天守に似せているが、実態は鉄筋コンクリートというタイプである。ちなみに天守閣の最上階には、天守閣復元に寄付をした人達の名前がズラリと並べてあった。地元企業などが一千万円単位で、個人でも十万円単位での寄付を行ったようである。
福知山城 天守閣の外観が複雑なのは、歴代城主が増築を繰り返したためとのこと 福知山城を回った後は、また駅前まで「散歩」で戻ってくると、そこで昼食をとることにする・・・といっても意外なほどに飲食店が少ない。商店街らしき地域をブラブラして、ようやく見つけたそば屋(?)で昼食にする。福知山まで来たからには何か福知山名物でも食べたいと思ったのだが、なぜか店には「丹波名産」と「出石そば」の張り紙ばかりで、どこにも福知山の文字がない。そこで諦めて、結局はカツ丼を注文する。
再び福知山駅を出たのは正午過ぎである。同じルートを逆にたどっても良いのだが、さすがにそれでは「鉄道マニアではない」私にしてもあまりにも面白みに欠ける。そこで帰りは和田山まで行って、播但線経由で帰るルートを選択することにした。
加古川線は川沿いののどかな風景だったの対し、山陰本線は山の中の風景が延々と続く。また城崎温泉行きの特急列車などが結構走っている関係があるのだろう、途中で行き違いのために20分近く待ったりと、距離の割には時間がかかる印象である。結局、1時間近くかかって和田山に到着する。
ここで乗り換え。乗り換えた車両はまたもワンマンカーの2両編成である。これで寺前まで移動、列車はひたすら山の中を走っていく。途中で「日本一の山城跡」と看板に書かれた竹田城を見上げる。確かに断崖の上に建つ山城であり、かなり堅固な城だったのだろう。竹田駅から登山道があるようなので、いつか登ってみたいなどと考える(その前に基礎体力をつける必要があるが)。
福知山で結構歩き回った疲れか、昨晩夜中に目覚めてしまって睡眠不足気味のせいか、知らない間にうつらうつらしていたようで、次に気がついた時には寺前に到着していた。ここでさらに乗り換え。今度も同じようなワンマンカーである。ただ今までのようなガラガラ状態と違い、途中から乗客が増えていき姫路に到着する頃には通勤電車なみの混雑になってしまった。ローカル線の播但線も、姫路近郊では通勤通学路線となっているようである。
姫路駅で降りると、バスの乗り換えて次の目的地に向かう。
「大正レトロ昭和モダンポスター展」姫路市立美術館で3/25まで大正から昭和にかけての時代は、多色石版の技術が導入されると共に、商業主義の発展と共にポスター広告が時代の一分野を築いていく。本展はそのようなポスターを展示すると共に、当時の石版印刷の技術なども併せて紹介するという企画である。
当時のポスターは、宣伝主にとってはかなり費用もかかった気合いの入った宣伝メディアであり、またポスター印刷を手がける印刷所も、技術の見せ所として相当に手の込んだ作品を作っていたようである。手間のかかる多色刷りをしたり、有名画家を原画に起用したりなどといったことが行われている。
最初の頃のポスターが、技法的にも絵柄的にも江戸時代の浮世絵の流れが濃厚に現れていたのに対し、時代が進むにつれてモダンに変容していくのがよく分かる。大正時代のポスターなどでもてはやされたのは、いわゆる美人ものであり、そのために北野恒富、伊藤深水、鏑木清方、さらには小磯良平にいたるまで、そうそうたる美人画の大家達が原画を手がけているのには驚かされた。しかもできあがったポスターを見ると、疑う余地もなく彼らの絵柄であることがはっきり分かるのがまた面白い。また時代と共にヨーロッパの文化の影響も濃厚に現れるのだが、私が思わず笑ってしまったのは、北野恒富によるミュシャ調のポスター。まさに何でもありの世界である。
正直なところ「やられた」と感じた展覧会である。ミュシャ好きを公言していた私が、恥ずかしながら「ポスターは芸術作品である」ということを、この展覧会を実際に見に行くまですっかり忘れていたのである。ヨーロッパだけでなく、日本でもポスター芸術という分野が開花していたことは、本展で初めて知った次第である。
近代日本が好きならかなり楽しめるし、単なるレトロ好きでも楽しめる。さらに印刷技術に興味のある者なら一層楽しめるというかなり美味しい展覧会である。足を運ぶだけの価値はある。
美術館を鑑賞した後は、姫路城正面にあるイーグレ姫路なる施設に移動、そこの中にある「播州しらさぎの湯」を訪れる。
ここの温泉は比較的大きな施設で、数種類の内風呂とサウナが設置されている。最大の売りは姫路城を正面から見ることが出来る城見風呂。全体的に設備は非常に整っている施設である。
ただ泉質としては難しいところ。温泉マニアの間では「温泉風スーパー銭湯」と言った評もあるようだが、確かに湯自体はほとんど無味で温泉らしさは感じられない。なお場内には「塩化物泉のためその臭いがします」との表示があったが、この臭いは塩化物泉の臭いではなく、消毒の塩素だろう。いわゆるコアな温泉マニアには興味が湧かない施設かもしれない。また知名度が低いのか、立地も良く大規模な施設の割には、客の入りも今一つであったのが気になった。
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