展覧会遠征 大阪編19
この週末は京都と大阪でのコンサートにMETライブビューイングというかなり忙しいスケジュール。
金曜の朝早くに家を出ると京都へ直行する。京都に到着した頃にはちょうど10時頃。この日は発売になるチケットが多いので、京都に到着した時に最初にしたことはチケットの手配。スマホを駆使してようやく目当てのチケットの手配を終えたところで活動開始である。
最初に向かうのは京都国立博物館。ここで開催される「池大雅展」が目的。ただここの博物館は交通の便が悪いのが難点。地下鉄駅から遠いのでバスしかアクセス手段がないのだが、そのバスがとにかく混雑する。一日乗車券を持ったアジア人がバス停に大挙していてバスはすし詰め。
「池大雅展」京都国立博物館で5/20まで
江戸時代の文人画家、池大雅の展覧会。
独学で絵を学んだという池大雅は、初期は先人の名作を踏まえて比較的カッチリとした細かい絵を描いているのだが、それが年と共に変化し、次第にその線は自由度を増して柔らかくなり、自在の境地に入っていったような感がある。その過程においてはあえて筆を使わずに手で描いてみたり爪を使ったりなどあらゆる技法を実験してみたようであり、旺盛な研究意欲を覗わせる。
そのような様々な試みを経て晩年になってきた作品を見ると、いかにも楽しそうな絵が多いのである。かなりサクッと描いているように見えて、それでいて技術としてはかなり高レベル。こういうのを熟達の境地と言うべきなのか。
池大雅の初期の模索から最晩年の到達地点まで一気に概観できる展覧会であり、なかなかに興味深いところであった。
博物館の見学を終えると次は国立近代美術館を目指す。この移動もバスになるのだが、このバスが乗ることが難しいぐらいの混雑。何しろ到着した時点でほとんど乗り込む余地がないので、結局は3本目くらいのバスに乗車。ただ美術館の手前まで行く100バスには乗れなかったので、東山駅で降車することに。時刻もそれなりの時刻なので、美術館まで歩く途中で先に昼食を摂ることにする。入店したのは「三昧洪庵」。和洋室的な座敷に通される。注文したのは「茶そばと牛飯のセット(2500円)」。
そばも牛飯もなかなかに美味い。ただやはり京都の常としてCPはかなり悪いと言わざるを得ない。やはり京都は美味いものは食えるが高い。
昼食を終えると美術館まで歩く。向かいでは京都市立美術館が工事中。今年度中に新装開店するらしいが、どのようになるのだろうか。京都市美術館の展示室はどうも以前から息苦しさのようなものを感じさせられるので(展示室の雰囲気の問題だけでなく、大勢の観客が詰めかけた場合に実際に換気が間に合っていない時もある)、その辺りが改善されればうれしいのだが。
「明治150年展 明治の日本画と工芸」京都国立近代美術館で5/20まで
明治期は輸出を目指して工芸品の制作などが政府によって推進された。その際には画壇の環境変化で仕事がなくなった多くの日本画家が図案などに参加することによって、この分野のレベルを一気に引き上げることにもなったという。この時代にそれらの図案などを手がけた画家の作品や工芸品等を展示。
日本画の方は特別にどうというものはないのだが、さすがに明治期の工芸品の技術の高さには驚かされるところである。特に象牙細工で完全に蜜柑を再現している作品などには圧倒された。明治期のいわゆる超絶技巧を目にすることが出来る。こういう名人芸は今でもどこかに存在してるいるのだろうか?
かつての日本は物を作る者にはそれなりの敬意を払っていたのだが、今日の日本では物作りをする者に敬意を払わなくなり、安直な金儲けに走る者ばかりを優遇するようなってしまった。この辺りが日本としての国力が低下した大きな原因だと思うのである。
美術館の見学を終えたところでそろそろコンサートの開演が近づいてきた。地下鉄でホールに移動する。
京都市交響楽団 第623回定期演奏会
[指揮]広上 淳一(常任指揮者兼ミュージック・アドヴァイザー)
[Pf]河村 尚子
バーンスタイン:交響組曲「波止場」
ショスタコーヴィチ:交響曲第9番変ホ長調op.70
バーンスタイン:交響曲第2番「不安の時代」
バーンスタインの波止場はかなり華々しく起伏のある曲。広上の指揮と京都市響の演奏はそれを極彩色で鮮やかに描き出している。
2曲目はショスタコーヴィチが世間の意表をついて出して来た軽妙さと皮肉のこもったような作品。なかなか曲者の作品であるのだが、京都市響の演奏はかなり明瞭である。
最後は独奏ピアノを加えたかなり個性的な曲。時折現れてる荒々しい音響なども、広上はシャープに描き出している。私的にはあまり好きになれない曲だが、それでも最後まで興味を持って聞くことが出来た。
コンサートを終えると地下鉄の駅に急ぐ。今日はこの後、大阪でMETライブビューイングを見に行く予定。METライブビューイングは10時からの上映のところが多いのだが、これでは3時間超の大作オペラだと2時からのコンサートに間に合うようにホールに移動できない。しかし関西で他の時間に上映をしているのはパークスシネマのみという状況。そこでパークスシネマに上映開始の6時半までに移動しないといけなくなった次第。
とりあえず地下鉄の中からスマホを駆使して座席予約を入れると京都駅のホームへ走る。しかし生憎と2分ぐらいの差で新快速は出てしまう。次までの15分がやけに長く感じられる。
ようやく大阪に戻ってくるとすぐに地下鉄で難波を目指す。パークスシネマは駅から遠い。パークス自体がかなり奥まったところにあるのに、パークスシネマはその一番奥の8階。ようやく劇場にたどり着いた時には上映開始の20分前ぐらい。
なんばパークス
結局夕食を摂る暇さえない状態なので、やむなく劇場内で馬鹿高いホットドック(飲み物と抱き合わせで750円)を購入して急場をしのぐ。
METライブビューイング ヴェルディ「ルイザ・ミラー」
指揮:ベルトラン・ド・ビリー
演出:エライジャ・モシンスキー
出演:ソニア・ヨンチェヴァ、プラシド・ドミンゴ、ピョートル・ベチャワ、ディミトリ・ベロセルスキー、アレクサンダー・ヴィノグラドフ、オレシア・ペトロヴァ
まず圧倒されるのはドミンゴの健在ぶりだろう。かつてはテノールでロドルゴを何度か演じていたドミンゴが、今回はバリトンでルイザの父・ミラーを堂々たる貫禄で歌いきる。
ルイザのソニア・ヨンチェヴァのソプラノボイス、ロドルフォのピョートル・ベチャワのテノールも見事であるが、なかなかに存在感を発揮したのがヴァルター伯爵のアレクサンダー・ヴィノグラドフとヴルムのディミトリ・ベロセルスキーのバス二重唱。悪役が存在感を示してストーリーを引き締める役割を果たしていた。
上映終了時には10時を回っているので、カーテンコールになった途端に大半の客がワラワラと劇場から出て行く状態。私もその群れと一緒に行動する。さすがに10時を回るとほとんどの店は閉まっており、この近くで夕食を摂ることは絶望的な状態。とりあえず今日の宿泊地である新今宮に移動することにする。
新今宮に到着すると、ジャンジャン横丁でまだ辛うじて営業していたラーメン屋「虎ノ王」に入店して「つけ麺(780円)」を注文する。
太麺に海産系の濃い出汁ということで良くあるタイプのつけ麺・・・というか、大阪駅前ビル地下の「紋次郎」と麺といい出汁といいほとんど同じ。正直なところ私はブラインドテストをされたら区別できる自信がない。
ようやく夕食を終えるとホテルにチェックイン。今日の宿泊ホテルは先週と同じでホテル中央オアシス。帰って寝るだけなのでもっと安いホテルにしたかったが、23時を過ぎてもチェックインできるホテルがここぐらいしかなかった次第。
ホテルに入ると入浴して汗を流し、この日は12時頃に就寝する。
☆☆☆☆☆
翌朝は7時半に目が覚める。昨日買い込んでおいた朝食を摂ると、とりあえずは朝風呂。後はチェックアウトの10時までグダグダと過ごす。
さて今日の予定だが、まずは先週雨のせいでやめにした美術館の訪問から。天王寺の大阪市立美術館である。
久しぶりに来ると天王寺公園がかなり様変わりしていて驚く。以前には有料ゲートがあって中は閑散としていたのだが、完全にリニューアルしてゲートがなくなっている。店なども出ていてかなり人出が多い。以前はホームレスを閉め出すことを目的にして公園を有料化したのだが、結果としては市民も閉め出すことになっていた(そもそも特に何があるわけでもない公園に金を払ってまで入る者はいない)。それを考えると今回のリニューアルは正解だろう。ただホームレス対策はどうしてるのだろうか? そもそもホームレスは閉め出しても消えてなくなるわけでなく、どうしてホームレスが発生しているのかの根本から解決しないといけないのだが。
天王寺公園はかなり雰囲気が変わった
公園を抜けたところに美術館はある。公園はリニューアルして明るくなったが、薄暗くて古びたこの美術館はそのまま。ここもリニューアルの必要があると思うのだが。
「江戸の戯画−鳥羽絵から北斎・国芳・暁斎まで」大阪市立美術館で6/10まで
江戸時代に庶民の間で流行した戯画について紹介。最初は関西で流行した鳥羽絵から始まるが、伸び伸びとした描写には今日の漫画につながるものを感じさせられる。
次は北斎のそのものズバリの北斎漫画だが、これは一種の図案集のようなものであり、海外の画家にさえ大きな影響を与えたという代物。北斎の描写の巧みさを覗わせる作品である。
次が国芳の作品だが、これがまたいろいろと趣向を凝らしたものがある。有名な人体で顔面を作ったシリーズや、影絵のシリーズ、猫を文字にしたシリーズなど様々だが、楽しいのは金魚を擬人化したシリーズ。巧みでいて笑える描写であり、これもまさに今日の漫画の原点とも言える。
さらにはあらゆる絵画に卓越した技倆を発揮した暁斎の作品が続く。暁斎の戯画となると、今日の漫画の原点のような作品から、いわゆる劇画の原点とも言えるような作品まで幅広い。
とにかく日本漫画文化の根はかなり昔から存在したのだということを感じさせる展覧会。まさにクールジャパンの原点とも言える。かなり楽しめた。
美術館を出た時にはもう昼前。昼食を摂る必要がある。ここらで昼食となると天王寺でか。今回は天王寺を抜けて阿倍野の「グリルマルヨシ」を訪問することにする。ここがMIO内に出店している「プチグリルマルヨシ」は今まで何度か利用しているが、その時に気になることがあったので是非とも本店で確認したかった次第。
恐らく昔はゴミゴミした界隈にあった店なんだろうが、今はこの辺りは再開発でショッピングセンター的なビルになっており、そこに入居している。店内は結構混雑しているが私の訪問時はまだ12時前だったこともあって待たずに入店できる。注文したのは現在サービス価格という「ロールキャベツのセット(2280円)」。
まずはアミューズから。鴨とサーモンとピクルスのセット。普通に美味い。やはり鴨って偉大だ。
続いてロールキャベツ。スッとナイフが抵抗なく入る柔らかさ。一口口に含むとキャベツの甘味とソースの味が溶け合って絶妙。「やっぱりな」と思わず納得する。
というのは、今回確認したかったのはこれ。実は以前にMIOの方でこのメニューを注文した時には、どうも今ひとつ不満があったから。特にソースとの溶け合いなどが良くなく、「このメニューはもっと美味くなるはず」ということをずっと感じていたからである。本店で下味をつけたものを持ってきて料理しているという旨が書いてあったが、やはり味付けが微妙に違うのだろう。私の「本店ならもっと美味いはずでは」という直感は正しかったようである。
なかなかに満足の出来る昼食だった。やや高くついたがまあそれは良しとしよう。腹が膨れたところでザ・シンフォニーホールに移動することにする。
関西フィルハーモニー管弦楽団 第292回定期演奏会
[指揮]オーギュスタン・デュメイ
[チェロ]岡本侑也
ブラームス:大学祝典序曲 op.80
ショスタコーヴィチ:チェロ協奏曲第1番 op.107
ブラームス:交響曲 第2番 ニ長調 op.73
大学祝典序曲についてはデュメイが振ると軽妙さよりも厳格さのようなものが前に出てきて、この曲にしては妙な重々しさがある。
チェロ協奏曲は岡本の妙技に尽きるだろう。実に自在の演奏で良い音を出している。終始岡本がリードする展開で関西フィルも安定した演奏を聞かせた。
ブラームスの2番は関西フィルの長所が最も発揮されやすいレパートリーの一つとも言える。落ち着いた弦の音色がなかなかに聞かせる。もっとも金管陣がやや怪しいのも相変わらずではあったが。
やはりデュメイのドイツ系レパートリーは安定感があるなというところ。これでこの週末の全予定は終了、家路につくのである。
今回でMETライブビューイングも9作目、本年の作品は後1つとなった。ラストはシンデレラを原作にしたマスネの「サンドリヨン」。この前見たロッシーニのチェネレントラとどこが違うかなんかが興味があるところである。
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