展覧会遠征 大阪・西宮編3
昨日のロシア国立交響楽団に続き、今日はボストン響の演奏会を聴きに行くことになっている。
土曜の昼過ぎに家を出ると大阪に直行。昼食は西梅田の「五郎ッペ食堂」で「サイコロステーキ」にご飯をつけて注文。味は悪くないのだが、肉はそんなに良くない。これで1600円ほどというのは、あまりCPは良くない。
昼食を終えるとフェスティバルホールへ。ホールの入りは8割程度か。結構入っているという印象。私の席は1階中央のかなり良い席。何しろチケットを買ったのがかなり昔なので詳細を覚えていないのだが、どうやらフェスティバルホールの最優先予約でS席を確保したようである。私にしてはかなりの散財である。ボーナスをもらった直後だったっけ。
第55回大阪国際フェスティバル2017 アンドリス・ネルソンス指揮 ボストン交響楽団
ヴァイオリン/ギル・シャハム
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35
ショスタコーヴィチ:交響曲第11番 ト短調 作品103「1905年」
ボストン交響楽団はパワー溢れるサウンドでありながら、それでいてアンサンブルの緻密さもあるというかなりレベルの高い楽団である。それを率いる若きネルソンは、非常にスケールが大きく若さ溢れるメリハリの強い指揮ぶり。ボストンとの組み合わせはかなりしっくりいっている印象。
一曲目のチャイコフスキーのバイオリン協奏曲は、ソロのシャハムと指揮のネルソンがまさに丁々発止の掛け合いを繰り広げる白熱した演奏。結構煽ってくるネルソンに対し、シャハムが「おっ、このテンポで行く気か」と受けて立つというような印象。やたらに動き回って演奏するシャハムは、余裕タップリ愛嬌タップリというところ。両者の熱演がかみ合って、何度も聞いたことのある曲で今まで聴いたことのないような密度の高い演奏が繰り広げられた。
二曲目のショスタコーヴィチはネルソンの計算が冴え渡っている演奏。フォルテッシモの破壊力はさすがにボストンであるが、それよりも特筆すべきはピアニッシモの際に漲るピンと張り詰めた緊張感。これがあるためにこの長い曲でもダレることがない。下手な演奏をすると完全に途中で弛緩してしまいかねない曲であるにも関わらず、圧倒的な演奏で最後まで持って行ったのである。
かなりの名演であったと言える。場内も一曲目終了後から既にかなりの盛り上がりで、シャハムの熱演に場内からため息が漏れた次は、ネルソンの高密度のショスタコで場内が唖然としたというところ。「こんなの聞いたことがない」という声もどこかから聞こえてきたが、これは私も全く同感。かなりチケットの高いコンサートだったが(私の席は25000円)、幸いにしてそれに見合った価値は十分にあった。
大満足でコンサートを終えると、今日の宿泊先の出屋敷まで阪神で移動。明日は西宮でのTSOのコンサートを聴きに行く予定だが、西宮には良いホテルがないし、大阪のホテルは三連休中とあってとにかく高いしということで、その中でみつけた比較的安いホテル(というよりも旅館である)がここにある。
出屋敷で降りるとホテルに行く前に駅前の「波平ジョニー」で夕食を摂ることにする。ここはいわゆる海鮮系居酒屋というところか。青リンゴのノンアルコールカクテルを頂きながら、貝焼きやら寿司やらいろいろなものをガッツリと食べる。最終的な支払いは4000円以上になってしまって、これはいささか食べ過ぎ。ただCPはなかなか良い店のようだ。
夕食後はホテルへ。今日の宿泊ホテルは竹家荘旅館。阪神出屋敷駅前の住宅街の奥にある昭和レトロ風情の漂う旅館である。部屋は二階だが、床がまともにギシギシきしむ。重量級の私が歩けば建物全体が揺れる雰囲気。これは夜に廊下を歩く時は忍び足になる必要がありそうだ。部屋はリニューアルしている様子があるが、元々が古い建物なので古さは隠せない。このままNHKの朝ドラの舞台に出来そうな雰囲気であるが、残念ながら有村架純はいない。なお昭和レトロ全開の中で、裸電球の照明がよく見るとLEDだったり、部屋のテレビが液晶デジタルであるところだけは平成になっている。ここいうところは撮影時に小道具を取り替えておく必要がある(笑)。
ホテルに入るととりあえず入浴。風呂は家庭風呂のような浴場が2つあり、空いていれば勝手に入るという形式。とりあえず汗を流してゆったりとする。
風呂に入ってしまうとすることがない。テレビをつけるとNHKスペシャルでピラミッドの中の透視をしているので、それを見たりしながらボンヤリと過ごすことに。そのうちにしんどくなってきたので寝る。
☆☆☆☆☆
翌朝は7時半に起床。チェックアウト時刻は9時なので、それまでに今日の戦略を立てたり荷物をまとめたり。チェックアウト後は駅前の立ち食いそば屋できつねうどんを朝食にすると阪神で神戸方面に移動する。
とりあえずは久しぶりに六甲アイランドの小磯美術館を訪問するつもり。現在、ユニマットコレクションの展示を行っているらしい。ユニマットは以前は東京に美術館を開いてコレクションを公開していたのだが、美術を担当していた役員が亡くなって運営が出来なくなったとして美術館を閉館してしまっている。
「ユニマットコレクション フランス近代絵画と珠玉のラリック展」神戸市立小磯記念美術館で11/12まで
ユニマットが所蔵するコレクションから、フランス近代絵画等を展示。お馴染みのバルビゾン派から始まって、アカデミズムに印象派を経て、エコール・ド・パリといった流れになっている。
バルビゾン派はお約束のコローの農民画辺りから、トロワイヨンのなぜか羊の絵などと言ったところで定番どころ。この次にルノワールの秀品が数点。結構定番どころが並ぶ中で、なぜか私の印象に残ったのは素朴派カミーユ・ボンボワの作品。ルソーなどと同様の全く技巧的でない画面にみっちりと描き込んでいるのが強烈なインパクトがある。
美術担当の役員が亡くなって美術館の運営が出来なくなったというのは、要は「美術好きの役員の個人的趣味で絵画蒐集を行っていたが、その役員が亡くなったら会社としてはそんな金にならないことは出来なくなった」ということだろう。世知辛い世の中である。そうなると気になるのがコレクションの散逸。これはユニマットの今後の経営状況と経営方針次第だろう。なお以前に美術館を訪問した時はシャガールのコレクションが白眉と感じたのだが、今回はシャガールは一点もなかった。ただ単に他に行っているだけか、それとも既に売り払ったのかが気になるところ。所詮は金儲けが目的の企業と、道楽から始まっている文化は本来は水と油である。四半期の決算ばかりを気にする展望なきド短期経営のみが蔓延する昨今では、企業の文化貢献などは単なるかけ声だけになりがちだ。
今回はこの美術館を含めてこの辺りの美術館でスタンプラリーを行っているとのことでラッキーなことに入場料が割引となった。なおこの近くには神戸ゆかりの美術館とファッション美術館があるが、出し物が「萩尾望都原画展」と「アップリケ」では行く気がしない。かと言って香雪や白鶴に行くには足の便が悪いし。結局は今回はここだけにしておく。
三ノ宮に移動すると昼食を摂ることにする。入店したのは「肉のツクモ」で「ステーキ丼の大」を注文する。昨日の大阪のサイコロステーキよりは肉が良い。まずまずである。
昼食を終えると近くの国際松竹に立ち寄って、METのライブビューイングのムビチケを購入しておく。METのオペラ公演が映画館で見れるらしい。オペラはライブが一番だが、さすがに金がないし、そもそもMETになんて逆立ちしても行けないし。貧乏人はこんなところが妥当だろう。
大体の用事を終えると西宮に阪急で移動する。いつものホールは8割ぐらいの入りというところか。
チャイコフスキー・シンフォニー・オーケストラ
指揮 ウラディーミル・フェドセーエフ
ボロディン:交響曲 第2番
だったん人の踊り(歌劇「イーゴリ公」より)
チャイコフスキー:バレエ「くるみ割り人形」(フェドセーエフ・セレクション)
T.花のワルツU.葦笛の踊りV.ロシアの踊りW.終幕の踊りX.アラビアの踊りY.祖父の踊りZ.子守歌[.情景-深夜?クリスマスツリー
大序曲「1812年」
フェドセーエフは実は一般にいわれているような爆演型の指揮者ではない。その演奏は細部にまで気を回して計算された緻密なものである。確かにフォルテッシモはそれなりのパワーでガンガン鳴らすが、彼の真価はその合間の美しい演奏にある。
今回はその傾向がさらに顕著になったようである。やや抑えめのテンポでゆったりと鳴らしてくる演奏が多かった。ただその演奏で曲の魅力を最大限に引き出している。ボロディンの交響曲2番などは結構雑な作りに感じられるようなところのある曲なのだが、この曲をキッチリカッチリ魅力的に描いてきた。こうして聴くとこの曲がチャイコフスキーのように聞こえてきたりするから驚き。
後半のチャイコフスキープログラムはまさに真骨頂と言うべき見事な演奏。魅力的なバレエ音楽に、最後は華々しい祝典序曲で盛り上げた。このような派手な曲でも決して無駄な馬鹿騒ぎはしていない。もっとも打楽器陣はかなり大活躍していたのは事実であるが。この辺りはなかなかの爽快感。
TSOは打楽器の元気親父が有名だが、今回は小太鼓だけでなくタンバリンにトライアングルにと大活躍。最後は鐘を鳴らしまくっていた。相変わらずご健在のようで何より。ただフェドセーエフの方は、老いたというか足下がやや怪しくなっていたのが心配なところ。今回のスロー目のテンポは円熟だけでなく衰えも感じられないではなかったのが気にかかる。今後も是非とも元気に来日願いたいところである。
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