展覧会遠征 大阪・滋賀編
この週末はオペラを中心としたコンサート三昧の予定。メインはイタリアのパレルモ・マッシモ劇場のオペラ。
金曜日の仕事を終えるとフェスティバルホールへと移動する。夕食はフェスティバルプラザの「千万喜」で海鮮丼とうどんのセット(880円)。うどんは悪くはないが、海鮮丼はもう少し味付けの仕方があるように思うが。
夕食を終えるとホールへ入場。今日も大盛況である。
大フィル 第509回定期演奏会
指揮:準・メルクル
ピアノ:ニコラ・アンゲリッシュ
ファリャ/バレエ組曲「恋は魔術師」〔1925年版〕
ラフマニノフ/パガニーニの主題による狂詩曲 作品43
ストラヴィンスキー/バレエ音楽「ペトルーシュカ」〔1947年版〕
メルクルが指揮すると、大フィルのサウンドがいつにも増して煌びやかになる。一曲目の「恋は魔術師」はその煌びやかなサウンドで華やかに押していく印象。
パガニーニの主題による狂詩曲はアンゲリッシュの自由自在のピアノに尽きるように感じられる。まさに巨匠芸。ただ演奏があまりに自在であるので、オケの方がそれに合わせるのにいささか苦労している感じが見えた。
ラストのペトルーシュカはこれこそメルクルの真骨頂。煌びやかで華々しいサウンドが炸裂して、非常に聞き所の多い演奏となった。
読響が指揮者が変わるとオケの音色が全く変わるということを感じさせてくれたが、最近は大フィルもいろいろな指揮者と合わせていくことでサウンドの幅が広くなってきたような印象を受ける。今後に期待していきたいところ。
コンサートを終えるとホテルに移動することにする。今日宿泊するのは新今宮のホテル中央オアシス。最近は経済的に危機的状態にあるので、宿泊費用を最小限に抑えることを最優先にした選択。新今宮と言えば安ホテル地域で全世界的に有名だが、ホテル中央はこの地域で何軒かのホテルを経営するグループ。このグループのホテルの大浴場付きので宿泊したことはあるが、大浴場なしのこちらは初めての宿泊である。
動物園前で地下鉄を降りると、ファミマに立ち寄ってお茶や夜食を購入。さて支払いと思うと合計金額がなんと999円。これは初めての経験。かつて999ファンだった私としては、こいつは縁起が良いと考えておけば良いのか。
一杯飲み屋の連なるいかにもこの界隈らしい通りを抜けた裏手に目的のホテルはある。フロントなどは予想よりも遙かに綺麗で普通のホテル(笑)。さてどんなホテルにたどり着くだろうと思っていたが、いささか拍子抜け。部屋の方もリニューアルしたようで結構綺麗。これはこの界隈では高級ホテルになるのでは。
ホテルでテレビをつけると以前からがんで闘病中だった小林麻央が亡くなったニュースを放送している。まだまだ若いのに痛ましいことである。世の中ではまだまだ亡くなるべきでない人が亡くなる一方、社会に迷惑ばかりかけている生きている価値さえないような輩(麻原彰晃など)に限ってふてぶてしく生き残っている。今一度、「天道是か非か」と言いたくなる。
疲れがどっと出てきたので、入浴をするとこの日は早めに就寝する。
☆☆☆☆☆
翌朝は8時に目覚ましで起こされるまで爆睡していた。目が覚めたら着替えて朝食のために出かける。このホテルでは直営の宮本むなしがあるとのことで、そこで食事すると10%のキャッシュバックがあるとのこと。ただし所詮宮本むなしは宮本むなし。
10時前にチェックアウトするとまずは天王寺に向かう。ここにある美術館が最初の目的地。
「北野恒富展」あべのハルカス美術館で
大阪画壇を代表する画家・北野恒富の作品をその初期から晩年まで概観。
北野恒富は新聞の挿絵画家として始まって、そこから徐々に名をあげて日本画家として評価された人物であり、挿絵以外でもポスターなどでも評価が高い。そういったやや異色な経歴の在野な画家だけに、その画風も時代に応じて変化し進化していっている。
初期の画風は日本画に西洋的な描写が入り交じったようなややあくの強い画風であり、悪魔派などとも言われたとか。この頃の画風が島成園などと似たものを感じるのはいかにも時代の背景。
その後は伝統的日本画を研究したと思われる時期があるが、竹久夢二を思わせる絵などもあって、いわゆる時代の流行の研究にも余念がないことを伺わせる。
これが昭和になるといわゆる昭和モダンの空気にのって、清澄で軽快な画風に変化する。これらの作品は恒富の一つの到達点であることを感じさせる。
ポスター類も展示されていたが、これらの完成度の高さはなかなかに魅せる。ちなみに時代を反映して明らかにミュシャを意識したと思われる作品などもあったのがなかなか面白い。そう言えばミュシャもそもそもはポスター画家から始まっており、北野恒富のキャリアと相通じるものも感じさせる。
後はホールに向かって移動だが、その前に京都で昼食を摂っておきたい。気分としては洋食か。と言うわけで阪急で河原町まで移動、老舗洋食屋の「菊水」を訪問する。一階席は満員とのことで二階席へ。こちらは喫茶もある一階とは違って豪華ディナー用の席のようである。ただランチメニューも注文可能なので、私はポークカツのランチを注文する。
白インゲンのポタージュから始まるコースになっている。あっさりとしたスープはなかなか美味。メインのポークカツだが、やはりトンカツ屋のトンカツとは違って、あくまで洋食屋のポークカツ。これもなかなか美味。
昼食を終えると京阪と地下鉄を乗り継いでびわこホールに向かう。今回私が購入したのは4階の貧民席。ホールは3階まではエスカレーターで登れるが、そこからは階段。こうやって貧民には自らの立場を理解させるシステムになっている。さすがにオペラは飛行機並に階級格差を感じさせるシステムになっている。
ただ困ったことは、この4階席はかなり高い位置にあり、しかも私の席は最前列。これは嫌でも高所恐怖症を意識せざるを得ない。うーん、失敗した。
パレルモ・マッシモ劇場 ヴェルディ作曲 歌劇『椿姫』(全3幕)
【指揮】 フランチェスコ・イヴァン・チャンパ
【演出】 マリオ・ポンティッジャ
【管弦楽・合唱】 パレルモ・マッシモ劇場管弦楽団・合唱団
【キャスト】
ヴィオレッタ デジレ・ランカトーレ
アルフレード アントニオ・ポーリ
ジェルモン レオ・ヌッチ
椿姫は基本的に登場人物はヒロインのヴィオレッタ、その恋人のアルフレード、アルフレードの父のジェルモンの3人だけと言ってよいシンプルな構成のオペラである。それだけにこの3人の力でそのままオペラの出来が決まると言えるのだが、その点において本公演は圧巻と言うべきだろう。まず驚かされたのはヴィオレッタのデジレ・ランカトーレ。大ホールに響きわたる見事な声量には圧倒され、近くの席の女性達など「マイク使ってるの?」と囁いていたぐらい。またジェルモンのレオ・ヌッチはその渋さと存在感でオペラ全体を締めていた。またその二人と堂々と渡り合うアルフレードのアントニオ・ボーリも見事。
とにかく圧倒的という言葉に尽きるような名演。演奏後は場内はやんやの盛り上がりになり、それに応えるカーテンコールもエンドレスの状態になっていた。ランカトーレなどはかなりやりきった感がにじんでおり、満場の喝采にうれしそうに応えていた。
座席のせいで心拍数が通常時の2割増ぐらいになっていたので吊り橋効果が出たのではないだろうが、かなりの名演であることを感じた。なお歌手がガンガンと歌いまくるタイプのイタリアオペラは私向きであるようだ。ただ一つだけ気になったのは、アリアが終わる度に場内拍手で劇が一旦途切れること。ワーグナーはこれを嫌ってそうならないオペラを作ったと以前に聞いたことがあるが、確かに劇性を重視する立場からならそういう考えになるのは分かる。
オペラらしいオペラを腹一杯堪能して満足してホールを後にすると、今日の宿泊ホテルに向かうことにする。今日宿泊するのは瀬田のニューびわこホテル。日帰り温泉施設と隣接しているホテルというか、温泉施設の宿泊設備である。
瀬田駅からは送迎バスが出ているので、これでホテルへ。チェックインするとまず何はともあれ入浴である。ここの温泉は地下から汲み上げたラドン泉だという。肌当たりには特別なものはないが、トロリとした印象の湯である。とにかくこの湯で体の疲れを抜いておく。
入浴を終えると温泉施設の飲食店で夕食。カツ丼を頼みかけたが、よく考えるとこれでは朝昼晩と三食続けてトンカツである。これではあまりに考えがなさすぎるのでハンバーグ定食に変更する。まあいかにもこの手の施設らしい可もなく不可もなくの内容。
それにしても今日はかなり疲れた。部屋に戻るとこの日は早めに床につく。
☆☆☆☆☆
翌朝は7時半に目覚ましをセットしていたのだが、7時頃に地震で目を覚まされた。震源は長野で、滋賀の震度は3だったとか。現地の情報が入ってきていないのだが、目下のところは大した被害はなさそうである。
朝食は隣の入浴施設の喫茶で和弁当。オーソドックスな内容だが悪くない。腹を満たすとチェックアウト時刻の10時まで部屋でゴロゴロと過ごす。
10時になると隣の日帰り入浴施設がオープンするので、その送迎バスで駅まで送ってもらう。施設の前でバスを待っていたら、10時前から自家用車やタクシーが続々とやってくる。一番風呂としゃれ込もうという連中だろう。結構人気があるようである。
瀬田駅まで送迎してもらうとここから大阪に移動する。とりあえず軽くお茶をしたいと考えて「京都つる家茶房」で抹茶入りのわらび餅を頂く。なかなかにうまい。
そろそろ昼食も考える必要があるのだが、面倒くさくなったのでこの店でそのまま「生麩丼」を頼む。生麩はまるで餅のような感触でなかなか美味。ただやはり甘味処の昼食と言うべきか、やや味付けが甘すぎるきらいがある。
とりあえず昼食を終えたが、まだ開場時刻まで1時間以上ある。それに何やら体調が悪くてしんどい。とにかくどこかで横になりたいというのが本音。そこで近くのネットカフェに入店して、開場時刻の2時過ぎまでマンガも読まずにフラットブースで横になって過ごす。
開場時刻になったところで地下鉄で移動。フェスティバルホールは結構な入りである。私の安席は3階の2列目。難儀なことにフェスティバルホールの3階席はかなり高度があるので、これもまた私の高所恐怖症を引き起こす席。オペラ鑑賞は高所恐怖症との戦いのようだ。これは高所恐怖症を克服して天井桟敷に慣れるか、天井桟敷を購入しなくても良いだけの財力を手に入れるかの二者択一しかないが、前者はかなり困難で、後者はほぼ不可能である。
パレルモ・マッシモ劇場 プッチーニ作曲 歌劇『トスカ』
■出演
トスカ:アンジェラ・ゲオルギュー
カヴァラドッシ:マルチェッロ・ジョルダーニ
スカルピア:セバスティアン・カターナ
■指揮
ジャンルカ・マルティネンギ
■管弦楽・合唱
パレルモ・マッシモ劇場管弦楽団・合唱団
さすがにゲオルギューは堂々たる演技。トスカの内面の葛藤などが遺憾なく発揮され、劇的な展開に観客を引き込んでいった。これにジョルダーニとカターナが絡み合って見事なドラマとなっていた。特に悪役たるカターナが重厚な存在感を出しているので、ドラマ全体が非常に引き締まる。演技面、音楽面共に申し分ない内容であった。
かなりの名演。場内は昨日のびわこホールと同様の大盛り上がりのスタンディングオベーション状態。出演者達のカーテンコールもエンドレス状態で、かなり満足げな様子が見て取れる。
それにしてもプッチーニのオペラはこれで「蝶々夫人」と「トスカ」の2つを見たことになるが、共に愚かな女と卑怯な男の物語(トスカのスカルピアに至っては卑怯と言うよりは変態だが)のパターンというのはどんなもんだろう。当時はこういうタイプのストーリー構成が流行していたのだろうか。ドラマとして見た場合、結構ストレスが溜まるタイプの話だ。群がる悪党をバッタバッタと快刀乱麻と言うような痛快オペラはないのだろうか。うーん、これなら子連れ狼だ。イットー・オガミによるアリア「冥府魔道」。
これでこの週末のオペラ三昧は終了、家路につくのであった。
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