展覧会遠征 東京・京都編2

 

 この週末は急遽東京に飛ぶことにした。と言うのも読響の定期演奏会に、急逝したスクロヴァチェフスキの代役としてロジェストヴェンスキーが出演するとの情報が入ってきたからである。亡くなった老巨匠の代演で老巨匠が登板するという異例の事態。ロジェストヴェンスキーと言えば、昨年に読響の定期演奏会でショスタコーヴィチの名演を聴かせてくれたのが記憶に新しいが、実際これが最後の来日になる可能性さえもあり得るところである。これは万難を排しても聴きに行くべきと慌ててチケットを手配してスケジュールを確保した次第。

 

 ただ元々この週末は京都市交響楽団の定期演奏会に出かける予定で、曲目はブルックナー交響曲第5番。この読響の定期演奏会もブルックナー交響曲第5番と立て続けにブルックナーになってしまった。ブルオタでもないのに何をしているのやらと思ったが、ここまで行ったらついでに悪のりで、さらに土曜日にミューザ川崎で行われるジョナサン・ノット指揮東京交響楽団のブルックナー交響曲第5番も行ってやろうと思い立った。こうしてブルオタでもない私がブルックナー交響曲第5番の三連荘という無謀な試みを行うことになった次第。

 

 金曜日の仕事を午前中で終えると昼からスカイマークで東京に飛ぶ。これはやはり旅費の節約のため。相変わらずのユラユラと揺れる気持ち悪い飛行をしながら、スカイマークは無事に羽田空港に定刻に到着する。

 

 公演は東京芸術劇場で午後7時からなので時間の余裕はない。東急とJRで池袋に直行すると、東武百貨店でとりあえず素早く夕食を摂ることに。入店したのは「永坂更科布屋太兵衛」。天丼とそばのセットを注文。東京飯のお約束でCPは良くはないのだが、そばの味自体は申し分ない。

 

 夕食をかき込むと駅前のホールへ直行する。


読響第568回定期演奏会

 

指揮=ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー

 

ブルックナー:交響曲 第5番 変ロ長調 (シャルク版)

 

 ロジェストヴェンスキーだけに一筋縄では行かないだろうと思っていたが、ブルックナーにはあまり詳しくない私でもはっきりと分かるぐらい、かなり変則的なブルックナーだった。これがシャルク版の特徴なのか、ロジェストヴェンスキーによるものなのかは定かではないが。

 ただ冒頭から緊張感に満ちた雰囲気はなかなかのものであったし、読響からこれだけ分厚い響きを引き出すのはさすがとしか言いようがない。読響の演奏は今まで何度か聴いているが、読響がこんな音を出すのはロジェストヴェンスキーが振ったときだけである。

 圧巻はやはりフィナーレだろう。それまでずっと控えていた最後列の金管群がいきなり立ち上がっての華々しい演奏。圧倒的なサウンドの大盛り上がりで思わず鳥肌が立った。そのままラストまで突っ走って場内も熱狂的な拍手の渦。この辺りはロジェストヴェンスキーの完全に計算づくの外連味であろう。正統派ブルックナーファンからは邪道と感じられる演奏なのではないかと思うが、私のようにブルックナーがそもそもあまり好きでない人間には非常に面白く、楽しい演奏であったというのが事実。


 場内はやんやの盛り上がりで奏者が引き上げても拍手はやまず、ロジェストヴェンスキーの一般参賀と相成った。

 

 非常に盛り上がった聞き応えのあるコンサートであり、これだけで東京への旅費は十分に元を取ったというところ。ただ東京に出てきたからにはさらに楽しんでいきたい。とりあえず今日はもう遅いのでホテルに入って寝ることにする。宿泊ホテルはいつもの定宿ホテルNEO東京

 

 ホテルに入った途端に急激に疲労が襲ってくる。とりあえず入浴を済ませるとすぐに就寝する。

  

☆☆☆☆☆

 

 

 翌朝は7時過ぎまで爆睡していた。やはり最近は疲れているようだ。

 

 今日の予定だが、今日はコンサートのダブルヘッダーになっている。午後2時からトリフォニーホールでの新日フィルのコンサートに出向き、それが終了後に午後6時からミューザ川崎での東響のコンサートである。ただその前に、やはり東京まで来たからには美術館は外せない。上野に出向いて東京藝術大学美術館に立ち寄る。

 


「雪村−奇想の誕生−」東京藝術大学美術館で5/21まで

 戦国時代の画僧・雪村は雪舟の絵画の流れを汲む革新的で大胆な水墨画で知られる。その雪村の作品を展示。

 初期の作品がかなり圧巻である。画面に動きがあり流れがある。カクカクした岩の表現やこれまたカクカクした松などは確かに雪舟の流れを汲んでいると感じるが、画面に風を感じる大胆な躍動感に満ちた構成などは雪村独自のものだろうと思われる。とにかくその画面からあふれ出てくるパワーに圧倒される。

 晩年になると心境が落ち着いたのか、今度はかなり静寂感に満ちた作品が現れてくるようになる。するとこちらは幽玄という言葉がピッタリの、奥行きの深さと無限の広がりを感じさせるような絵画。若き頃の大胆な絵画に比べると平凡に見えるのだが、どうしてどうして実のところ侮りがたい作品群である。

 雪村という画家に対しては今までは特にイメージを持っていなかったのだが、本展によって雪村という画家の力量を見せつけられたような気がする。非常に面白かった。


 展覧会の見学を終えたところで昼過ぎ、トリフォニーホールに移動することにする。ここのホールの難点は周囲に良い飲食店がないこと。結局はやむを得ず向かいのやよい軒で昼食を済ませることに。

 


新日本フィルハーモニー交響楽団 2016/2017シーズン

定期演奏会ルビー<アフタヌーン コンサート・シリーズ> 第7回

 

ジャン=クロード・カサドシュ[指揮]

ギュヘル&ジュヘル・ペキネル[ピアノ・デュオ]

 

フランク/交響詩『呪われた狩人』

プーランク/2台のピアノのための協奏曲 ニ短調*

サン=サーンス/交響曲第3番 ハ短調『オルガン付き』 op.78

 

 いきなり華々しい音色で始まるのがこのコンサート。一曲目のフランクはかなり騒々しい派手な曲である。カサドシュはこれをバンバンと鳴らしてくる。

 二曲目はペキネル姉妹の息の合ったピアノデュオが圧巻。変幻自在といった華麗な演奏がコンサートを盛り上げる。

 メインのオルガンも同様の演奏。深刻にも重くもならず、あくまで軽快で華々しいのが信条という演奏。ただそれでも正直なところ、カサドシュにはパイプオルガンの音色はやや重すぎるかという感もあり。むしろ彼の真骨頂が発揮されたのはアンコールピースのファランドール。エスプリの効いた軽快な演奏で曲を大いに盛り上げていた。


 実のところ、トリフォニーホールのオルガンの音色を聴きに行ったというのが主目的のようなものだったのだが、カサドシュのいかにもフランスらしい演奏がなかなかに楽しかった。この組み合わせでビゼーとかラヴェルなんかを聴いてみたいところ。

 

 コンサート終了後は直ちに川崎にJRで移動。ただここで私は総武線快速に乗ったのは良かったのだが、品川で乗り換えるのを忘れてそのまま横須賀線経由で横浜まで行ってしまい、慌てて東海道線で川崎に戻る羽目に。とんだ時間ロスだが、先のコンサートが2時間きっかりで終了していたために遅刻はせずに済んだ。ただコンサート前に夕食を摂っている暇はなく夕食はコンサート終了後に摂ることにするが、入場した途端に空腹を感じることになる。結局は中で高いサンドイッチを買って空腹を誤魔化すことにする。無駄な出費である。

 


東京交響楽団第650回 定期演奏会

 

指揮:ジョナサン・ノット

ピアノ:小曽根 真

 

モーツァルト:ピアノ協奏曲 第6番 変ロ長調 K.238

ブルックナー:交響曲 第5番 変ロ長調 WAB 105

 

 一曲目のモーツァルトは彼の初期の曲らしく、軽快で美しい曲ではあっても特に印象に残ることなくサラッと流れてしまう。ピアニストの小曽根はそもそもはジャズピアニストとのことだが、確かにそれらしい軽妙さを感じさせる演奏。ただし心にガツンと来るものはない。アンコールでかなりジャズ的な即興性の強い小品を演奏したが、こういう演奏が彼の真骨頂なのだろう。

 メインのブルックナーであるが、昨日のロジェストヴェンスキーのブルックナーはかなり独自性が強く人によっては邪道とも感じるだろう演奏だったが、ノットのブルックナーは至って正攻法で音を積み重ねていく演奏。ブルックナーらしいブルックナーと言える。音の溶け合いがなかなかに美しく、非常に聴かせるブルックナーの演奏となった。

 昨日のとどちらが好みかというのは人によると思うが、私としては、これはこれ、あれはあれでどちらもありというのが本音。共に非常に楽しめる演奏であった。


 夕食は川崎駅近くの巨大商業施設のレストラン街をウロウロ。夕食時なのかどこの店も行列であるが待つ気はしない。そこでたまたま客が途切れていたイタリアン店「カプリチョーザ」に入店して「ワタリガニのトマトクリームパスタ」を注文。

 

 カニ肉は感じないが、カニの風味は感じられるスパ。私好みのやさしい味でなかなかに美味。東京飯の常でCPには若干疑問があるが、味の方は申し分なかった。

 

 まずまずの夕食を摂ってホテルに戻ることにする。明日は朝から羽田から飛ぶので、本来は川崎か蒲田辺りにホテルを確保したかったのだが、どうも安くて良いホテルがなかなかなかったので、結局はホテルNEO東京に連泊することにしたのである。川崎から南千住まで往復してもこっちの方が安いというのが現実。私がカプセルホテルでも熟睡出来るぐらい神経が太ければ良いのだが、カプセルホテルはうるさいのはともかくとして、大抵はカプセル内の暑さでまいってしまうので私には無理。常に冷房を寒いぐらいに効かせるというエコロジーに反したタイプなので、カプセル内の狭さは気にならないが気流がないことによる蒸し暑さは我慢できない。もっと空気の流通を考えたカプセルはないんだろうか?

 

 ホテルに到着した頃には10時を回っていた。慌てて入浴すると翌日に備えてすぐに就寝するのである。

  

☆☆☆☆☆

 

 

 翌朝は6時に起床すると直ちに荷物をまとめてチェックアウトする。朝食は羽田空港のフードコートで玉子掛けご飯とそばのセット。やはり食事は搭乗ゲートをくぐる前に済ませた方が価格的にはまだまともなようである。

 神戸空港に到着すると阪急で四条まで移動する。もう昼時なので四条で昼食。暑さのせいで食欲が今ひとつなので冷やしうどんを頂く。どうも体の調子が今ひとつのせいか、麺類ばかり食っている気がする。

 昼食後は近くの星乃珈琲で時間をつぶしてからホールに入場する。

 


京都市交響楽団 第612回定期演奏会

 

[指揮]高関 健

 

ブルックナー:交響曲第5番 変ロ長調(原典版)

 

 重厚に音を重ねていくブルックナーらしい演奏。高村の解釈は奇をてらわない正攻法のもの。ただ残念ながら、読響などの在京のオケと比べてしまうと、関西でも随一の安定感を持つ京都市響といえど、アンサンブルのわずかな乱れや管楽器の不安定さがどうしても目立ってしまうことになる。どこかに難があるというような演奏ではないのだが、強力な説得力も今ひとつ感じられない演奏になってしまっていた感がある。


 さすがに同じ曲を三連荘でと言うのはかなりキツかったように感じた。しかもこうして聴いていると、この曲は確かに第四楽章が長きに過ぎる。シャルクが第四楽章を大幅にカットして短縮したのも分からないではないという気もしてきた。何にせよ、いろいろな意味での疲労が溜まって頭の回転がかなり落ちているので、厳密にはこの演奏を云々できるレベルの知力がもう残っていない。早々に引き上げることにしたのである。

 

 

 

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