展覧会遠征 京滋編

 

 この週末はプラハ国立歌劇場のオペラを聴きにびわこホールまで行くことにした。実を言うとこれが私が人生で初めて購入したオペラのチケットである。私の人生初オペラは先々月のびわこホールでの「ドンキホーテ」だが、実はこれに行ったのは、そもそも今回のプラハ国立歌劇場のチケットを買ったものの、私が本当にオペラを見ることが出来るかどうかを確認するために急遽予定に組み込んだものである。

 

 私は元々器楽系の曲はよく聴くが、声楽系の曲はあまり聴いてこなかった。どうも声楽は気が散るということでどことなく避けてきていたのである。ましてやオペラとなると、苦手な声楽に元々舞台演劇が嫌いということが相まって完全に無視してきたジャンルである。そんな私が段々変わってきたのは、まずはマーラーの交響曲のせい。マーラーの声楽付きの交響曲を頻繁に聴いているうちに段々と声楽に対する抵抗がなくなってきたのである。これが今回いよいよオペラに乗り出そうかと考えた一因。

 

 とは言うものの、プラハ国立歌劇場日本公演のチケットを購入したのはほとんど衝動的なものである。きっかけはフェスティバルホールメンバーへの最優先優待チケット販売の案内が来たこと。最優先予約なので良い席が確実に取れる上にチケットが割引価格になっていたことにそそられた。ちなみに私はクレジットカードにステータスを全く感じないたちなので、持っているカードは大半が年会費無料の流通系カードばかりなのだが、そんな私が持っている唯一といって良いステータスカードがフェスティバルホールメンバーカードである(笑)。高い年会費を払っているのだから、このぐらいの特典はないと釣り合わないというものでもある。

 

 オペラは土曜日であるが、金曜日には日本センチュリーのコンサートも予定に入れている。これはプロコフィエフのアレキサンドル・ネフスキーの演奏があるので聴いてみたいと感じたのと、センチュリーはブリバエフが指揮の時は名演が多いという経験則からである。

 

 金曜の仕事を早めに終えるとまずは大阪に移動。例によって「上等カレー」「カツカレー」を腹に放り込んでからザ・シンフォニーホールに向かう。

 


日本センチュリー交響楽団 第212回定期演奏会

 

[指揮]アラン・ブリバエフ(日本センチュリー交響楽団首席客演指揮者)

[ピアノ]エフゲニー・スドビン

[メゾ・ソプラノ]小山 由美

[合唱]大阪センチュリー合唱団

[管弦楽]日本センチュリー交響楽団

 

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 op.23

プロコフィエフ:アレクサンドル・ネフスキー op.78

 

 いきなり一曲目のチャイコのピアコンから「?」と首をかしげることになる。ソリストのピアノ演奏とバックのオケがバラバラ。エフゲニー・スドビンのピアノ演奏はやけにかっ飛ばす上にテンポが細かく変わり、しかも指使いも途中で引っかかったかのように感じる場面がいくつかあり、とにかくテンポが安定しない。あえて言うなら、クラシック演奏ではなく、ジャズピアノに近いような演奏。そもそもブリバエフの指揮をほとんど見ていない。ブリバエフもピアノに合わせるのに苦労しているように見える。そのためにオケの演奏がどうしてもピアノとズレて、全体的にグダグダ。極めて冴えない演奏となってしまった。

 二曲目のアレクサンドル・ネフスキーは演奏としてはまとまったものになっているのだが、ブリバエフにしては緊張感と爆発力がやや欠ける演奏に感じられて、これもまた今ひとつ精彩を感じない。またこの曲はそもそも映画のBGMであるのだが、もろにサントラアルバムという印象で曲自体がまとまりに欠ける感を強く受け、これがどことなく地味な演奏と相まってイマイチ感をさらに強めることになってしまった。


 残念ながらいろいろと不満の残るコンサートになってしまった。特にエフゲニー・スドビンの演奏には疑問が多々。決して下手というわけでもないようだし、アンコールなどではそれなりにしっとりした演奏もしていたのに、なぜチャイコのピアコンだとああもガツンガツンと雑な上に不安定な演奏をしたのか。どうも理解できない。

 

 コンサートを終えると京都に移動する。明日に備えて今日は京都に宿泊するつもり。そのために定宿であるチェックイン四条烏丸を既に手配済みである。ホテルに入ると途中で買い込んだサンドイッチを軽く夜食にとり、入浴してから就寝する。

  

☆☆☆☆☆

 

 

 翌朝は8時まで爆睡。どうも最近疲れているのだが、とにかく眠りが浅くなっているようで困ったものである。

 

 シャワーで目を覚ますとレストランで朝食。疲れはあるのだが食欲はある。10時前ぐらいまで部屋でゴロゴロしてからチェックアウトする。

 

 今日はびわこホールのオペラが目的だが、その前に東山の美術館に2カ所立ち寄ることにする。

 


「生誕300年 若冲の京都 KYOTOの若冲」京都市美術館で12/4まで

  

 今大人気の伊藤若冲の展覧会。若冲といえば精密な超絶技巧の絵画と自由で大胆な筆さばきの水墨画の2タイプがあるのであるが、本展はどちらかと言えば後者の作品が中心。同じような構図で同題材の量産型の作品などもある。また細見美術館の所蔵品が多かったので、既に目にしたことがある作品も多数。さらに私がどちらかと言えば若冲の前者のタイプの作品が好きであることも影響して、どことなく今ひとつ感があったのが事実。


 次にこの向かいの美術館に立ち寄る。半券持参で団体料金に割引になる。


「メアリー・カサット展」京都国立近代美術館で12/4まで

  

 アメリカ出身でパリに渡って印象派展に参加などした女流画家のメアリー・カサットの作品を集めた展覧会。

 最初期の作品はいわゆるアカデミズム的な絵画で始まるのだが、間もなく彼女はサロンのあり方に疑問を感じたことから印象派の運動に共感し、画風も当時の印象派的なものに変化する。

 この時代の作品はいかにも才能は感じるものの、十把一絡げの「印象派周辺の画家」の一人という位置づけで個性に乏しい。同時代のベルト・モリゾなどの作品も併せて展示されているのだが、実際にそれらと区別がしにくいぐらいである。

 彼女が独自の画風を確立するのは、1890年代に日本の浮世絵の影響を受け出した頃から。浮世絵の影響が顕著である一連の銅版画作品などを製作しているのだが、この頃から油彩画の方もいわゆる印象派風から独特の色彩に変化する。もっともこうなった場合には彼女にとっては油絵はどうも画材として重すぎるように感じられ、重ねても明るさを失わないパステル画の方がむしろ名品が多数あるように感じられた。


 コレクション展の方も回ったが、特集していた梶原緋佐子の絵が大正期と昭和で一変しているのにたまげた。大正の絵は重苦しいリアルさを感じる画風で、いわゆる大正デカダンスの雰囲気が漂うのだが、昭和になってからの絵は伊東深水かと思ったぐらいの線を中心とした軽い日本画になっていた。何がここまで画風を変えたのか。

 

 美術館を回り終えたところで昼食にする。いつものように「御食事処明日香」「ハモ天ぷら定食」。やっぱり京都といえばハモ。

  

 昼食を終えるとホールに向かう。ホールへは大津駅からバスが出ている・・・はずなのだが、とにかくそのバスの本数が少ない。結局は30分ほど駅前で待つ羽目に。どうも大津も駅前周辺の寂れっぷりが半端ない。ふと見ると駅前百貨店は絶賛解体工事中だし。

  

 ホールに到着したのは開演の1時間以上前。喫茶でケーキセットを頂きながら開場を待つ。ホールは3階建てでかなり大きい。ただ3階の後の方の席だと舞台が見えにくそうである。なお最優先予約で確保した私の席は舞台が真っ正面に見えるVIP席。ホールはほぼ満席に近いぐらいの入り。


プラハ国立歌劇場 モーツァルト作曲 歌劇「魔笛」全2幕(ドイツ語上演・日本語字幕付)

 

指揮:リハルド・ハイン

演出:ラディスラフ・シュトロ

 

夜の女王:ヴァッシリキ・カラヤンニ

ザラストロ:イヴォ・フラホヴェツ

タミーノ:アレシュ・ブリスツェイン

パミーナ:マリエ・ファイトヴァー

パパゲーノ:ミロッシュ・ホラーク

 

 夜の女王を演じる予定だったエカテリーナ・レキーナが病気のために代演になった模様。代演ということで不安を感じたのだが、そんな不安は一発で払拭された。超高音が続き「ソプラノ殺し」とも言われる難しいアリアを堂々の歌いっぷりであった。これには圧倒された。またパパゲーノのミロッシュ・ホラークもなかなかの快演。狂言回し的な役どころを堂々の歌唱で盛り上げていた。


 ステージセットなどはオペラとしては多分シンプルな方なのだろうが、それでもなかなかゴージャスな感じが漂っていて非常に良かった。実にオペラらしいオペラを堪能したというところ。これはクセになりそうで恐い。

 

 帰りはホール満員の観客がバス停に殺到したため、2台の臨時バスでは収容しきれず、バスが駅から回送してくるのを寒い戸外でしばし待たされる羽目に。このホールはとにかく足の便が悪いのが最大の難点。

 

 こうして人生2回目のオペラはかなり実り多いものとなったのである。しかし私自身も自分がオペラに興味を持つようになるとは予想しなかった。際限なく広がっていく趣味の範囲に呆れる次第。

 

  

戻る