展覧会遠征 名古屋編6
この週末は名古屋方面に遠征することにした。ただその前にまずは大フィルのライブ。仕事終了後に大阪に駆けつける。
大阪フィルハーモニー交響楽団 第495回定期演奏会
指揮/ヨエル・レヴィ
曲目/マーラー:交響曲 第7番 ホ短調「夜の歌」
非常にすっきりした演奏というのが第一印象だ。レヴィの指揮はクールにしてクレバーというところ。音楽の輪郭が非常に明確で見通しがよい。また今回は大フィルの演奏もいつになく安定しているように感じられ、管がヘロったり、弦が腰砕けになるというような悪癖が抑えられていた。
熱狂させる演奏と言うよりは納得させる演奏という感想。トータルとして非常に完成度の高い演奏であった。
さすがに大曲であるので少々疲れたというのも本音。この日は大阪で宿泊すると翌日に備える。
☆☆☆☆☆
翌日はホテルで朝食を済ませると朝から名古屋に移動。金山駅前の金山ホテルに荷物を預けると、まずは美術館巡りに繰り出すことにする。
「ピカソ、天才の秘密」愛知県美術館で3/21まで
ピカソの最初期の作品からキュビズムを確立した晩期の作品までを概観する。
興味深いのは天才少年と言われた頃のデッサンなどが展示されていること。それらを見るとピカソが幼少期から卓越したデッサン力を有していることが覗える。この辺りがよくある自分の能力不足を誤魔化すために現代アートに走る輩との根本的な違いである。
既存の絵画教育に興味を感じなかった彼は、自らの絵画を模索してその最初の時期がいわゆる「青の時代」であるが、この時代の作品は彼自身が後に語っているように陰々滅々とした題材が多く、今風に言えば「中二病全開」とでも言うべき作品のように思われる。
その後は色彩が炸裂する時代を経て、ピカソを象徴するキュビズムの世界に突入するのだが、彼の作品は滅茶苦茶のように見えて実はよく見ていると複雑な画題が浮かんで見えてくるということが分かるが、これは彼自身が卓越したデッサン力を有していることと無関係ではあるまい。
展覧会の鑑賞を終えると次の目的地である松坂屋を目指してプラプラと移動する。もうそろそろ昼時なので途中に立ち寄ったラシック8階の飲食店街の中にある「まるは食堂」で「牡蠣フライ定食(1540円)」を頂く。まあ可もなく不可もなくという内容。さすがにいつも松坂屋のレストランばかりではネタが尽きるから、場所と価格で考えると悪くはない。
「愛と青春のアトリエ 洗濯船と蜂の巣」松坂屋美術館で2/23まで
20世紀初頭のパリ。世界中の芸術家がこの都に集まってきたが、その中にはピカソ、モディリアーニなどがおり、彼らはおんぼろ長屋の「洗濯船」や集合アトリエの「蜂の巣」などに寄り集まった。これらの拠点に脚光を当て、若き日の巨匠達の姿をあぶり出す。
共にかなりぼろい建物で、構造上に問題があるから居住性は最悪だったようだ。そのような環境の中で、後の巨匠達が自らの芸術確立のために研鑽を重ねていたというのはどことなく心打たれるものがある。なお展示作品は先のピカソ、モディリアーニに始まり、シャガール、ローランサン、藤田嗣治、ヴラマンク、キスリングなど出自も様々だが、蒼々たるメンバーの作品が揃っている。そういう点では結構見応えのある展覧会だ。
この後はライブに繰り出す予定だが、まだ開演まで時間があるし、展覧会入場の際に向かいの喫茶「松栄堂」の5%割引券をもらったことから、ちょっと立ち寄ってお茶をしていくことにする。「ババロアのセット」を頂く。
ババロアとプリンの区別というのが今ひとつ曖昧なのだが、牛乳、砂糖、玉子などの材料をゼラチンなどで固めたのがババロアで、蒸して玉子の凝固力で固めたのがプリンなのだそうな。と言うことは、市販のいわゆる「プリンの素」は厳密な意味では「ババロアの素」になるのか。なおここのババロアはもっちりとした感触で、これはなかなかに私好み。甘物を頂いてから飲むコーヒーが格別。
ちなみに私は以前は全くコーヒーを飲まなかったのだが、つい最近になって急に飲むようになった。どうも私の嗜好が急に変わったようである。私も大人になったのか?
今日のライブはしらかわホールで開催される。松坂屋からは徒歩圏内なので食後の腹ごなしも兼ねてプラプラと散策する。
第145回定期演奏会 〜春曙抄〜
指揮/角田鋼亮
ソプラノ/伊藤晴
セントラル愛知交響楽団
シベリウス:レンミンカイネンと島の乙女たち
モーツァルト:コンサート・アリア “誰がわが恋人の苦しみを知ろう”K.582
“私は行く、しかしどこへ!”K.583
モーツァルト:オペラ『コジ・ファン・トゥッテ』より“岩のように動かずに”K.588
山田耕筰:交響曲「かちどきと平和」
伊藤のソプラノは声量もあり、いわゆるキンキン声タイプのソプラノではないので非常に心地よい。なおなおに聞き応えのあるものであった。
メインの「かちどきと平和」はいかにも日本的な旋律を散りばめた山田耕筰らしい曲と言えるが、所詮はヨーロッパ留学で得た知識による習作で形式はかなり古くさいところがあるし、曲としては特別な面白味は少ないという印象であった。
セントラル愛知交響楽団については上手いオケという印象は受けなかったが、さりとて下手なオケというわけでもないように思われた。シビアな部分になるとアンサンブルにやや乱れが見られるが、常に音色が濁るというようなわけではなかった。
ライブを終えると今日の最後の予定として最寄りの美術館に立ち寄ることにする。
「ポジション2016 アートとクラフトの蜜月」名古屋市美術館で2/21まで
地元ゆかりの作家の作品を展示。今回はアートとクラフトを融合させるというのをテーマにしている。
出展作家は7名だが、各人各様というところ。個人的には比較的面白いと観じたのは、クリップの鎖を吊した中谷ゆう子と針金細工で影絵をしている水谷一子。
これで今日の予定は終了。夕食を摂ってからホテルに戻ることにする。さて夕食を何にするかだが、やはり名古屋に宿泊したからには一食はひつまぶしを食べておく必要があろう。というわけで伏見から地下鉄で浄心に移動、久しぶりに「しら河」に立ち寄ることにする。ジョジョジョジョーシン・・・と浄心のテーマソングを口ずさみながらの移動である。
しら河は夜の部が始まった直後で、幸いにして待ち時間なしで入店できる。「上ひつまぶし」と「うまき」を注文する。柔らかくて香ばしいうなぎがうまい。名古屋のひつまぶしもあちこちで食べたが、やはり私の好みから行くと、このしら河のひつまぶしが最高峰である。
ウナギを十分に堪能するとホテルまで戻ってくる。このホテルは大浴場装備であるので、早速大浴場に繰り出して汗を流す。極楽、極楽。
☆☆☆☆☆
翌朝は8時前に起床するとまずは目覚ましの朝風呂、次はホテルで朝食。このホテルの朝食は結構メニュー豊富でなかなか良い。デザートにわらび餅があるのが気に入った。
今日の予定だが、小牧市市民会館で開催される中部フィルハーモニー交響楽団の演奏会を聴きに行くだけ。時間にかなり余裕があるのでチェックアウト時刻ギリギリの10時までホテルでゴロゴロするが、それでもまだ時間が余る。この後、ネカフェに場所を移すというのもイマイチなので思いついた美術館を訪問することにする。
「ルネサンスからルオーまで 聖なる風景」ヤマザキマザック美術館で2/28まで
岡崎美術博物館と三重県立美術館の収蔵品を中心に、キリスト教に纏わる絵画を展示。
作品は様々。いかにも古くさいタイプの宗教画もあるが、グリマルディの作品のように宗教画を口実にして実質的に風景画を描いているもの(かつては風景画はレベルが低い絵画と見られていたのでこういう手を使う)など様々であった。しかしやっぱりムリーリョは何回見ても圧巻である。技術、存在感共に傑出している。
この美術館はロココ絵画から印象派などまで幅広い絵画を収蔵しているが、特にロココのコレクションが優れている。音声ガイドを聴きながらソファでくつろいで絵画を眺めている内に、気がつけば2時間近くをここで費やしていた。途中で時間に気がついて慌てて小牧に移動することにする。昼食をどこで摂るか悩んだが、小牧でも食べるところぐらいあるだろうと移動を急ぐことにした。しかしこの見通しは甘かったことは小牧に着いてから痛感することになる。
30分ほどで小牧駅に到着するが、駅の回りに飲食店と呼べるものが皆無であることに唖然とする。小牧駅の回りは大きなビルは結構あるのだが、飲食店は見当たらない。そもそも通行人をほとんど見かけないことから、完全に名古屋のベッドタウンとなっていて昼間人口が少ないのだろう。と言うことは飲食店を開いても経営が成り立たないか。地方都市を侮っていた。
市民会館まで歩いて行く間にも飲食店は皆無。当の市民会館内も喫茶さえもない模様なので、やむなく向かいに見かけたサイゼリアに行くことに。しかしこの周辺で飲食店はここぐらいしか見当たらないためか大混雑で待たされる。どうもコンサート客が多いようで、開場時刻になった途端に一斉に客が減る。私はとりあえずあまりうまくもないパスタを頂いてからホールへ向かう。
小牧市市民会館は典型的な地方の文化会館。以前に訪れた犬山市民文化会館や前橋市民文化会館など内部は区別がつかないぐらい個性がないホールである。ただ観客は結構やって来ている。中部フィルは意外と人気はあるようだ。
中部フィル第50回定期演奏会
指揮/秋山 和慶
ピアノ/務川 慧悟
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番ハ短調Op.18
ラフマニノフ:交響曲第2番ホ短調Op.27
この一年で何度目になるか忘れたぐらいのラフマニノフのピアノ協奏曲第2番である。務川のピアノは最初はやや硬さを感じられたが、曲が進むにつれて柔らかさが現れてきて曲調にあった演奏になった。ただこの曲ももっと甘美な演奏の方が合うだろう。
二曲目は同じくラフマニノフの2番といっても交響曲の方。決してメジャーとは言いにくい曲であるが、随所にロシア調の旋律が現れる楽しめる曲。秋山の指揮は殊更に奇はてらわないオーソドックスなものであるが、オケの方も比較的手堅い演奏をしていたように感じられた。
例によって中部フィルはそんなにうまいオケではないが、それでもなかなか熱の入った楽しめる演奏をしていたように感じられた。
小牧でのコンサートを終えると今日はそのまま帰途へ着いたのである。
今回はオケ三連荘であるが、セントラル愛知交響楽団も中部フィルハーモニー交響楽団も決して上手なオケではないが、それでもコンサートとしては楽しめるものであったし、固定ファンもいる様子であった。各地方のオケが今後も地域に根ざして活性化していければ良いのであるが・・・。観客層が明らかに高齢者中心であるのが最大の懸念である。
戻る