展覧会遠征 東京・群馬編

 

 この週末は東京に出向くことになった。目的は月曜日に開催されるシカゴ交響楽団の来日公演。二日公演の初日のチケットの入手に成功している。これを中心に据えて、ついでに東京方面の展覧会とコンサートをはしごする事にした。

 

 まず最初は金曜夜の東京フィルのコンサートから。ショスタコのレニングラードを演奏するとのことなので興味を持った次第。これを聴くために金曜日の仕事は午前で終わらせることにする。

 

 仕事を終えて新幹線に飛び乗るとそのまま東京に移動。東京には夕方頃に到着するので、コンサートに繰り出す前に手近な美術館に立ち寄る。

 


「パリ・リトグラフ工房idemから −現代アーティスト20人の叫びと囁き」東京ステーションギャラリーで2/7まで

 現代版画等についての展示。作家ごとに個性を出そうとしているのは分かるのだが、各人が個性を競った結果として不思議なほどにすべての作品が似通ってくるのはいかなるわけだろうか。個性を追求した挙げ句に没個性になるとでも言うべきか。個人的にはあまり心に迫ってくる作品は皆無であった。


 とりあえず展覧会を一つ終えたところでホテルに荷物を置きに行く。宿泊ホテルは例のごとくにホテルNEO東京。ホテルにチェックインを済ませて荷物を置くとただちにホールへ移動する。

 

 六本木一丁目の駅を出るとコンサート前に夕食。杵屋でカツ丼定食と鳥天を頂く。例によっての「東京ではチェーン店の方が無難」の法則である。

 

 夕食を終えるとホールへ移動。最早ここも馴染みのホールという感覚がある。

 


第872回サントリー定期シリーズ 

 

指揮: 井上 道義

東京フィルハーモニー管弦楽団

 

ハチャトゥリアン/バレエ音楽『ガイーヌ』第1組曲より

ショスタコーヴィチ/交響曲第7番 ハ長調『レニングラード』作品60

 

 最初は「ガイーヌ」からの抜粋。小太鼓が大活躍することで有名な「レズギンカ」も含む元気系メニュー。東フィルの演奏も溌剌としていてマズマズだが、指揮棒を持たない井上のタコ踊りが冴えまくっている印象。

 ショスタコのレニングラードは初めて聴く曲なのだが、とにかく長い上にかなり難しい曲のようであるので演奏する側は大変だろうと思われる。しかしこの難曲を井上はうまく整理してまとめていたようで、オケを巧みに誘導していた。また東京フィルのアンサンブルにも隙は見られず、終盤のフィナーレに向けての盛り上がりなどはなかなかの迫力である。

 総じて「難のない演奏」という印象だった。ただそこから突き抜けての魅力があるかと言えば残念ながら難しい面もあった。もう一歩踏み込んでのガツンとしたアピールが欲しかった感はある。井上にしては地味な演奏だなという気もした。


 とにかく長くて難曲なので聴いている方にも結構しんどく、あちこちで意識を失っている観客が見受けられた。この「落とし」力はブルックナー以上かもしれない。ただ別に寝るのはかまわんが、2楽章の静かなところで後ろの座席がずっとイビキをかいていたのには殺意を感じた。周囲の男女数人が明らかにかなり怒りのこもった一瞥を送っていたのだが、当の本人にそれが伝わっていたかどうか。

 

 コンサートを終えるとホテルに戻って入浴。テレビをつけると「ラピュタ」を放送していたのでその後半を鑑賞。うーん、これを見るのは何回目だろうか。何回見ても名作は名作である。エンディングを見ていると涙が出そうになるのは、私も年を取って涙もろくなったようだ。実際にパズーの真っ直ぐさは若さの特権のようなもので、この年になった私にはいささか眩しい。「若さとは振り向かないこと」という歌があるが、もう既に若さのない私は振り向いてばかりになっている。いかん、こりゃ更年期ウツか。

 

 テレビを終えると、明日に備えて就寝するのだった。

  

☆☆☆☆☆

 

 

 翌朝は7時半頃に自動的に目が覚める。8時まで寝るつもりで目覚ましをセットしていたのだが、サラリーマンの悲しい習性ではある。昨日買い込んでいたおにぎりを腹に入れると9時前にはチェックアウトする。

 

 今日の予定は高崎への移動。前橋で開催される群馬交響楽団のコンサートを聴きに行くついでに高崎地区の美術館に立ち寄るつもり。ただその前に上野に寄り道。東京都美術館で「ボッティチェリ展」が今日から開催のはずである。

 

 上野駅内のチケット売場でチケットを購入してから美術館に向かうが、美術館前には既に100人弱の開館待ち客が。まあ想定の範囲内か。開館時間までにこの人数が倍以上に膨れ上がるが、館内はごった返しというほどではなかった。

 会場前に行列


「ボッティチェリ展」東京都美術館で4/3まで

 ボッティチェリの作品でも玉石混淆な印象。いかにもサクッと仕上げた感じで既製品的雰囲気があるのはいわゆる工房作品だろう。ボッティチェリ自身の直筆によると思われる作品は完成度がけた違いである。細かな描線の描き込みと明瞭な明暗表現は彼の神髄だろう。

 本展ではさらに彼の師匠に当たるフィリッポ・リッピの作品、さらにその息子でボッティチェリの弟子になるフィリッピーノの作品も併せて展示してあった。フィリッポ・リッピの作品はいかにも古くさい絵画という印象だったが、フィリッピーノの絵画はボッティチェリよりもさらに繊細な表現が目立つ柔らかめの絵画であり、これはこれでかなり好ましい絵画に感じられた。当時はボッティチェリの作品は男性的(理知的という意味になるらしい)、彼の絵画は女性的と評されたようだが、今日的な目で見るとフィリッピーノの作品の方が後世の絵画に近いように感じられた。


 展覧会の見学を終えると高崎に移動することにする。特に急いでいないので新幹線は利用せずに高崎線で移動するつもり。ただしロングシートで長時間揺られるのは嫌なのでグリーン車を利用することにする。

 

 高崎行きの列車が出るまでに時間があるのでエキナカでカレーを食べるがイマイチ。やはりどうしてもエキナカは場所代が高くなるのでCPは悪くなる。特にイートインの店は覿面にCPの悪いところが多い。CPだけを考えるとアメ横辺りまで繰り出せばいくらでも店はあるのだが、あそこまで行くのも面倒だし・・・。

 

 高崎行きの列車は1階の13番ホームから発車の模様。私は「何とかと煙」で2階席に陣取る。2時間近くの長旅になるので、この原稿を入力したりリクライニングでゆったりとくつろいだりで過ごす。

 

 高崎に到着すると宿泊ホテルであるホテル123にキャリーを預けて身軽になる。これから高崎の美術館を回る予定だが、その前に昼食を摂ることにする。ホテル近くの「大庄水産」に入店して「マグロ丼(750円)」を頂く。内陸の群馬でマグロ丼というのも奇妙な話だが、まあCPは悪くはないか。

  

 昼食を終えたところで近くのビルの中にある美術館に入館する

 


「トップランナー2 日本画の若き力」高崎タワー美術館で1/31まで

  

 新進気鋭の日本画家の作品を集めた展覧会。独特の質感のある自然描写の猪俣公介、竹内栖鳳の影響を受けたという川又聡の動物画、独特の色使いに魅力のある松岡歩、幽玄さを感じさせる松村公太、4名4様の個性が発揮されていて面白い。


 美術館の見学を終えると駅の反対側に渡ってそちらの美術館にも立ち寄る。

 


「犬塚勉展 永遠の光、一瞬の風。」高崎市立美術館で1/31まで

  

 山野や渓流の風景を描き続け、38才で山で散った夭折の画家の作品展。

 彼は一貫して「自然を描く」ということを目指したらしいが、確かにその絵画には単なる風景画ではない生々しさがある。単に風景を模写するのではなく、その場の空気感のようなものまでが伝わってくるのである。草の一本一本まで描き込んだ緻密な絵画から、岩を独特のタッチでザクッと描いた絵画まで画風は結構変わるのだが、自然の真の姿をとらえようと言う姿勢は常に一貫している。

 晩年は水の表現を一つの課題にしていたようであるが、その水を通してもっと深いものを表現しようとしていたことが伺える。「もう一度水を見てくる」と言い残して山に入り、悪天候で力尽きたのが彼の最後になったとのことだが、若くしての不慮の死が惜しまれるところである。


 美術館の見学を終えたが、ここでとりあえずの予定はなくなってしまったので、とりあえず一旦ホテルにチェックインすることにする。チェックイン手続きを済ませると大浴場で入浴してしばしマッタリ。コンサートは前橋で6時半からなので、5時過ぎぐらいに外出して高崎駅から前橋に移動する。前橋まで4駅ほどなのですぐに到着する。

 

 前橋に到着したが、以前にここに来たときも感じたのだが寂れ感が半端でない。全国の県庁所在地の都市の中でも寂れムードはトップクラスのように感じる。とくにまずいのがテナントがほとんど立ち退いて閑散としている駅前ビル。案内看板を見ると撤退したテナントの跡が生々しく、まさに幽霊施設の墓標そのものである。これは根本的に何とかしないと、駅前でこれでは町自体の印象が極めて悪い。

立派な駅前ビルだが、中は閑散として案内看板は死屍累々である。

 駅前で少々時間をつぶそうかと思っていたのだが、これでは時間をつぶすどころでないのでやや早めだがホールに移動することにする。ホールはこちらと反対の駅南側にある。南口から数分歩いたちょっとした公園の南にあるのだが、この駅南側が北側に輪をかけて活気がない。どうなってるんだ?前橋は。

  

 到着した前橋市民文化会館は開演待ちの客で一杯だった。どうしようもないので私はしばしNexusでマンガでも読みながら時間つぶし。ようやく開場時刻が来ると全員がゾロゾロと入場。ホールは良くも悪くも典型的な地方の文化会館。先日に中部フィルの演奏会を聴きに行った犬山市民文化会館と区別がつかないぐらい。

 


第54回まえばし市民名曲コンサート

 

指揮:マティアス・バーメルト

ヴァイオリン:小林 美樹

 

グリンカ/歌劇《ルスランとリュドミラ》序曲

チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品35

ムソルグスキー(ラヴェル編曲)/組曲「展覧会の絵」

 

 群馬交響楽団の演奏は正直に言うと下手と言える。金管がヘロったり音抜けしたり、私にさえ分かるようなミスもある。また弦などもよく見ているとボウイングが揃っていないこともある。

 ただ技術的に劣るからといってそれが必ずしもダメな演奏になるとは限らない。決してヌルい演奏をしているわけでもないし、投げ槍になっているようではない。グリンカはそれなりに楽しい演奏だったし、展覧会の絵も管楽セクションが必死であるのは伝わってきた。10の実力がある楽団が8の演奏をするよりも、6の実力しかない楽団が精一杯の6の演奏をしてきた方が時として音楽的には面白いものになる時もある。そういうものである。

 なおソリストの小林美樹は堂々たる演奏であった。ややもすれば不安定さが出るバックのオケを引っ張った感があった。


 いろいろな意味で先日の中部フィルと重なる部分があるオケであった。地方で頑張って欲しいオケと言うところか。観客もいかにも地元という印象で、子供も結構来ていたようである。もっともそのせいで会場内はいささかザワザワとした雰囲気であったが。

 

 コンサートを終えると高崎に戻る。帰りは電車の本数が少ないせいで駅でしばし待たされる。ようやく高崎駅に到着したのは9時過ぎ。夕食を摂る必要があるが、面倒なので高崎駅前の「豊丸水産」に入店。「貝焼きの盛り合わせ」「貝汁」「鉄火巻き」「じゃがバター」「卵焼き」などを頂く。それにしてもなぜわざわざ内陸の群馬で魚介類ばかり食ってるんだが。

 ホテルに戻ると入浴してから就寝する。明日は再び東京に戻ることになる。

  

☆☆☆☆☆

 

 

 7時半頃に起床。やや体に疲労がある。昨日は高崎や前橋で歩き回ったので気がついたら1万6千歩になっていたのでそのダメージが来ているようだ。入浴と朝食を済ませて9時前ぐらいにホテルをチェックアウトする。

 

 再び普通車グリーン席で延々と東京まで帰還。上野でキャリーをトランクに入れると両国まで移動する。今日の最初の目的地はここ。

 


「レオナルド・ダ・ヴィンチ−天才の挑戦」江戸東京博物館で4/10まで

 万能の天才と言われたレオナルド・ダ・ヴィンチであるが、本展ではそのダ・ヴィンチの偉業を物語る資料を展示する。

 展示品の大半はダ・ヴィンチのノートやアイディアスケッチの類い。鳥の飛翔を観察して飛行機械の設計に近づけようと考えた手稿などを見ることが出来る。ただ興味深い資料ではあるのだろうが、見てそれほど面白いものではない。

 絵画的な見所としては「糸巻きの聖母」が公開されているのが最大の目玉にしてほぼ唯一の見所と言っても良い。人物表現がいかにもダ・ヴィンチらしさを感じさせる独特の絵画である。


 見学を終えると昼過ぎ。今日のコンサートはサントリーホールで午後二時からなのですぐに移動する。六本木一丁目で降りると近くの「和幸」「牡蠣フライ定食」を昼食に。一昨日に続いて見事にチェーン店ばかり使っている。

 


MIKIMOTO 第52回 日本赤十字社 献血チャリティ・コンサート 

 

指揮/大友直人

チェロ/横坂 源*

ヴァイオリン/木嶋真優**

 

サン=サーンス:チェロ協奏曲第1番 イ短調 op.33*

ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番 ト短調 op.26**

ムソルグスキー(ラヴェル編曲):組曲《展覧会の絵》

 

 やはり都響はうまいなというのが一番の感想。煌びやかな管はきわめて安定しているし、弦のアンサンブルも緻密で低重心である。改めてこうして聴いてみるとその安定性は国内オケでは群を抜いている。

 ソリストの演奏もなかなかのものだった。横坂のチェロは華麗かつパワフルであったし、木嶋のバイオリンは哀愁を帯びたメロディを叙情たっぷりに奏でており、バックの演奏の安定性とも相まって聞かせる内容となっていた。

 都響の神髄がさらに発揮されたのが展覧会の絵。ラヴェルによる名人芸の華やかなオーケストレーションがその意図の通りに発揮されていた印象。音楽絵巻とも言うべき華やかな内容であった。


 図らずしもメインプログラムが昨日の群響と同じ曲になってしまった。都響と同列で比較されたら群響には気の毒というものである。

 

 疲れが体にあるので、コンサートを終えるとホテルに直接戻ることにする。ホテルは再びNEO東京である。上野駅でキャリーを回収すると共に駅ナカで食料を調達、さらに南千住の「登知喜屋」「カツ丼セット(900円)」を夕食に摂る。

  

 ホテルに戻るとキンドルで「暗殺教室」を読んで時間をつぶす。夜になってテレビをつけたと思うと「多摩地区に大雪警報発令」とのテロップが出ている。明日に交通の混乱がないと良いが。先ほどから暖房をかけても部屋がなかなか暖まらないと感じていたが、もう大分気温が下がってきているんだろう。

  

☆☆☆☆☆

 

 

 翌朝は7時に自動起床。テレビをつけてみたら昨晩の間に積雪があって朝から電車などに混乱があるようだ。窓から外を見てみると道路上に結構積雪がある。例によってスリップ事故だとか転倒して骨折だとかのニュースがテレビを賑わせている。私の知人の新潟県人に言わせると「都会人は雪に弱すぎ」とのことだが、確かに毎度それは感じさせられる。

   外は銀世界に

 さて今日の予定だが、基本的には午後7時に文化会館で開催されるシカゴ交響楽団のコンサートに参加するというのがメインで、後は月曜に休館でない美術館をいくつか回ることぐらい。最悪でも東京23区内を移動するのには問題ないだろう。気になるのは今日の帰りに乗る予定のサンライズ出雲である。運休なんてことはないと思うが、万一そういうことになれば急遽宿泊先を確保する必要が出てくる。

 

 昨日上野駅で買い込んだ今半のすき焼き弁当を朝食に食べながら、テレビで情報収集。関東甲信地域に降雪が多いので、中央線の運休や遅れがひどいようだ。今日は予定があまりないので、わざわざ大混乱のラッシュアワーの中に繰り出す必要もなかろう。ギリギリまでホテルに粘ることにする。

 

 ホテルをチェックアウトすると、最初に目指すのは六本木成金ヒルズ。ここの美術館が目的である。

 


「村上隆の五百羅漢図展」森美術館で3/6まで

 現代美術家の村上隆による五百羅漢をテーマにした作品を展示。

 凄まじい感性というかなかなかに爆発しているが、不思議と「これもありかな」と強引に納得させる説得力がある。現代アートには否定的スタンスの私でも、彼の作品については結構楽しめた。

かなりぶっ飛んだ五百羅漢図


 なお会場内にまだ塗料の臭いが残っているのがやけに生々しかったが、気をつけないとハウスシックになりそうだ。

 

 ヒルズを後にすると次の美術館を目指すが、その前に昼食を摂っておくことにする。地下街で見かけた「だし茶漬けえん」「漬けマグロの茶漬け」「肉じゃがコロッケ」を付ける。いかにもオフィス街の昼食というところである。それにしてもまたチェーンだ。

  

 昼食を終えると次の目的地のミッドタウンへ。しかし何度来てもこの辺りの雰囲気は非常に苦手だ。成金オーラに毒されて体の調子がおかしくなる。私のような根っからのプロレタリアートにはまるで毒の沼地のようなところだ。

 


「水−神秘の形」サントリー美術館で2/7まで

 水をテーマにした作品を展示。古来より水は信仰とも密接に結びついていることから、宗教関係の展示物も多い。


 それにしても疲れる。毒気を抜きたくなったこともあり、ここのカフェ「加賀麩不室屋」「生麩ぜんざい」を頂くことにする。東京でぜんざいと言えばあんころ餅の場合が多いが、ここのは関西人の私も納得できる普通のぜんざい。もちっとした焼麩が実に美味。ホッと一息である。

 ようやく生き返ったところで次の美術館へ。今回の美術館の予定は次で最後。

 


「キュー王立植物園所蔵 イングリッシュ・ガーデン 英国に集う花々」パナソニック汐留ミュージアムで3/21まで

  

 いわゆるボダニカルアート作品を展示すると共に、キュー王立植物園についても紹介。

 王立植物園については、いかにもイギリスらしく大英帝国の威信をかけて世界中から植物を集めた大博物館となっていたようで、その規模については単なる見世物という次元ではなかったことが覗える。現代は動物園や水族館なども単なる見世物ではなくて貴重生物の繁殖施設としての側面が強化されているが、その走りであったようだ。

 またいわゆるボダニカルアートはそもそもは百科事典の図絵なのであるが、個々に展示されている作品は単なる図版ではなく、まさにアートの名にふさわしいレベルの高いものである。実際に一流の画家を動員して描かせたものも多いらしいから、それもさりなん。もっとも制作に金をかけすぎて事典ビジネスとしては完全に失敗したものもあるとか。そのような当時の状況なども面白い。


 美術館の見学を終えたが、まだコンサートの開演までは数時間ある。月曜日に開いている美術館はもうないし、この雪の中をあちこち出歩く気もしないので神田のネカフェで時間をつぶすことにする。フラットシートでゴロンと横になって「ゴルゴ13」を読みふける。昨日辺りから暗殺ものばかり読んでいるような気が・・・。

 

 6時前まで時間をつぶすと、近くの回転寿司屋で手早く夕食を摂ってから上野に移動する。東京文化会館はいつも前を通ってはいるものの入館するのは初めて。既に大勢の客が押しかけている。

 今日のコンサートだが、私が入手したのはC席で4階席の正面である。これより高いチケットになるとさすがに手が出なかった次第。席としては悪くはないが、気になっていたのは4階席の最前列ということで、高所恐怖症がある私に大丈夫だろうかということ。特に東京文化会館の座席は手前の仕切りが異常に低くて、高所恐怖症の者には悪夢のような構造だと聞いている。ある人など「これで今まで転落者が出なかったのが不思議」とまで書いてあったぐらいなので、私としては事前に不安一杯である。

 さて実際に4階に上ってみると、「うわっ、高い」というのと「確かに柵が低い(座った膝の少し上ぐらいしかない)」というのは瞬時に感じた。しかしなぜか不思議なほどに「恐い」という感覚は湧かなかった。私としてはフェスティバルホールの3階席の方が恐くて落ち着かなかった。どうも構造のどこかに相性のようなものがあるようである。私の高所恐怖症は不思議なもので、単純に高さに反応するのではなくてどこかに発症のツボがあるようである。

 高い割には意外と恐怖は感じなかった


リッカルド・ムーティ指揮 シカゴ交響楽団

 

ベートーヴェン:交響曲 第5番 ハ短調「運命」op.67

マーラー:交響曲 第1番 ニ長調「巨人」

 

 一番最初に感じたのは「とにかく音量がすごい」ということ。この響かないホールでこの距離でここまで音が飛んでくるのは半端なパワーではない。特に金管の厚みと煌びやかささすがの一言。また弦のアンサンブルも力強い。いわゆる「シカゴサウンド」が全開ではある。ただところどころで演奏がやや雑に感じられる部分も見受けられた。

 ムーティの指揮だが、やけにクールだなという印象を受けた。やや抑え気味のいわゆる「巨匠テンポ」で細かいメリハリを付けながらジックリと演奏してくるのだが、この辺りが私の中にある「ムーティはもっと劇場型の指揮者だったのでは」というイメージと喰い違っていささか戸惑いがあったのは事実。フォルテッシモの演奏よりもピアニッシモの演奏の方が目立つし特徴が出ており、悪い演奏ではないのだが今ひとつ燃え上がらないという奇妙な感覚があった。


 目立ったのはアジア人の多さ。最初入ってきた時、黒い頭がズラリと揃っていたので「国内のオケか?」と思ったぐらい。シカゴ交響楽団も往年の頃とはかなりメンバーが替わったのだろう。金管の華々しさは相変わらずだったが、かつてほどの精密さは見られなかったというのが本音ではある。ただこう書いてしまうと私が不満一杯だったように見えるが、実際は生で体験するシカゴサウンドにはそれなりの満足感はあったというのが事実だ。ただそれにも関わらず、どこか「燃えない」演奏であったようにも思われる。

 

 コンサートを終えると東京駅に移動、22時のサンライズ出雲でこのまま帰宅することにする。今回は金曜日に半休、月曜日に全休を取っているので、さすがにこれ以上仕事を休むというわけにもいかないので火曜は朝から仕事に出るつもりである。

サンライズ出雲のB寝台に乗車

左 頭の方  中央 その脇にある空調の調整板(時計内蔵)  右 足下

 サンライズ出雲は定刻通りに東京駅を発車。私が確保したのはB寝台シングルの2階。数年前に乗車した時は1階だったが、2階の方が見晴らしは良いが少々揺れるなというのが感想。しばらくして車掌が検札に回ってくると、夜食に買い込んだ柿の葉寿司を頂いてから就寝することにする。

  

☆☆☆☆☆

 

 

 翌朝は5時半過ぎに姫路に到着、積雪の影響か10分ほど到着が遅れたようだ。姫路でサンライズ出雲を降り立つと家路についたのである。今日はこの後、朝から出社である。ただ少々眠気がある。

 

 シカゴ響の演奏会をメインに東京・群馬の美術館を回ってきたというのが今回。あまりに期待していなかった群馬の展覧会に意外と面白いものがあった。ただメインのシカゴ響については残念ながら今ひとつ感があったのが残念なところ。むしろ都響のうまさを再認識した次第。なお群響については「頑張ってる」という印象はあったので、今後の活躍に期待したい。

 

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