展覧会遠征 東京編12

 

 この週末は東京へフィンランドラハティのシベリウスチクルスを聴きに行くことにした。シベリウスイヤーの一環として東京オペラシティで企画されたコンサートで、実のところ私はこれのチケット入手のためにオペラシティの有料会員にまでなっている。

 

 コンサートは木曜から金、日の三日間なので、木曜の午後から休暇を取っての遠征である。しかしよりによって来週に重要な社内発表を控えての慌ただしい時になってしまった。しかしそんなことに構っていられない。まあそれにどうせこの発表で成功を収めたからと言って、今更私が出世できるわけでもないし。とりあえず大急ぎで発表の準備を整えると仕事場を後にする。

 

 新幹線に飛び乗ると東京へ。昼食は車内で弁当を購入。東京に到着したのは4時過ぎである。

 コンサートはオペラシティで7時から。まずはそれまでに荷物をホテルに置きに行くことにする。いつもならホテルはNEO東京というところなんだが、今回は別のホテルを確保している。それはホテル浅草。浅草にあるカプセルホテルと隣接したビジネスホテルである。あえて今回別のホテルを選んだのは、NEO東京以外の選択肢も用意しておくため。と言うのも昨今のホテル価格の異常高騰は東京地区にも当然及んでいる上に、あの東京利権ピックが開催されるとさらに高騰に拍車がかかるのは容易に予想される。しかも昨今は南千住地域が外国人から安いホテルがある地域として目を付けられているとか。そうなると早晩大阪の新今宮周辺のようにアジア人に占拠されて予約が取れなくなるという事態が想像できる。そのような時が来た場合に備えての保険でもある。やはり何事も二手三手先を読んでの準備は不可欠・・・ってこの周到さが仕事で生かされていたら私も今頃は・・・。

 

 東京から神田で銀座線に乗り換えて田原町から5分程度でホテルに到着する。ホテルはいかにもくたびれた建物。部屋はきれいとは言い難くてタバコの臭いがするのが気になるところ。さらに驚いたのが風呂が異常に狭い上にトイレとの間に仕切がないから、シャワーを使用するとトイレが水浸しになること。うーん、これはどう考えてもNEO東京の方が環境が良い。勝っているのは立地だけか。

 

 とりあえずシャワーで簡単に汗を流してから外出する。浅草から都営浅草線に乗ると東日本橋で都営新宿線の馬喰横山に移動したら初台までは直である。オペラシティに到着したのは6時前。コンサート前に夕食を摂っておくことにする。店は例によっての「東京では下手な現地の店よりもチェーンの方が無難」の法則に従って、地下の「新宿さぼてん」に入店。「牡蛎フライとロースカツの定食(1590円)」を頂く。何やら最近は牡蛎フライばっかり食っている気がする。やっぱり疲れてるんだろうか。

  

 東京で食べる牡蛎フライはやや生臭さを感じさせるのはいたしかないところか。東京という場所は日本中の食べ物を入手できるが、いずれも現地よりは数段レベルが低いというのも真実。

 

 夕食を終えるとホールへ。このホールは初めて来るが、長方形のいわゆるシューズボックス型というもの。ただ天井は中央がピラミッド状に高くなった独特の形態。音響特性としては、響きはそれなりにあるのだが音の分離が悪いといういわゆる「銭湯型」。なお私は会員の最優先予約で座席を確保したので、一階ホール中央といういわゆるVIP席。

 開演時間までは会員サービスで付いてきたドリンク引換券を使ってカフェでアイスココアで一服。そうこうしている内にホールには続々と観客が入ってきて、ほぼ満席に近い入りになる。

 


生誕150年記念シベリウス交響曲サイクル

 

指揮:オッコ・カム

フィンランド・ラハティ交響楽団

 

シベリウス:交響曲第1番 ホ短調 op.39

シベリウス:交響曲第2番 ニ長調 op.43

 

【アンコール曲】

シベリウス:

・ミランダ(組曲「テンペスト」op.109より 第2番 第6曲)

・行列 JS54

・間奏曲(「ペレアスとメリザンド」op.46より)

 

 もう音色からフィンランドである。最初の音が出た時から目の前にフィンランドの大地が広がったという印象。純粋に技術面を見ればヨーロッパの一流オケよりは一段落ちるのは明らかだが、ことシベリウスを鳴らしている限りはそれが弱点として現れないという完全にシベリウス専用オケのようなところがある。

 オッコ・カムの指揮はわざとらしい演出は廃したオーソドックスと言えるものである。細かくテンポを振ったりすることもあるが、そこに不自然さや大袈裟な仕掛けはなく、醸し出される音楽はあくまで自然そのものである。それでいながらここまでガツンと迫ってくるシベリウスは久しぶりに聴いたと思わせられる。


 場内はかなりの盛り上がりになっていた。アンコールは3曲に及び、オケが引っ込んだ後にもオッコ・カムが再び登場する羽目になっていた。

 

 地味なオケの地味なプログラムだけに、集まった観客は私のような筋金入りのシベリウスファンが多いのだろう。多くの観客が息をのみながら音楽に神経を集中していた印象で、よくあるガサガサゴソゴソゴホンゴホンというのはあまり聞こえてこなかった。

 

 ラハティ響は12編成というやや小振りのオケであるが、その割りには弦が良く鳴っているという印象を受けた。ただ管の方は若干粗いところがあるので、たまにバランスを崩しかねぐらいバリバリ出てくる場面もあったが。

 

 コンサートを終えるとホテルに戻り、大浴場で汗を流すと翌日に備えてそのまま就寝する。

  

☆☆☆☆☆

 

 

 翌朝は目覚ましは8時半にセットしていたのに7時半には目が覚めてしまう。今日のコンサートは7時から、昨日と同じオペラシティだが、その前にいろいろと予定が目白押しになっている。早めに行動を開始することにする。

 

 まずは最初の目的地は府中。地下鉄銀座線、山手線、京王線を乗り継いでの移動となる。府中からはちゅうバスだが、とにかくこの美術館はアクセスが悪いのが最大の難点。

 


「マリー・ローランサン展」府中市美術館で12/20まで

 

 マリー・ローランサン美術館の収蔵品を中心に、初期から晩年に至るまでローランサンの作品を一堂に展示。

 ローランサンがあの有名なパステル調の形式を確立したのはかなり初期の頃のようだが、最初はフォーヴやキュビズムの影響を受けており、描線などに硬さが残るものになっている。それがあの独自のパステルの柔らかい画面を確立するが、晩年になると原色などの鮮やかな色彩が増えたややシャープさの増した画面になる。生涯にわたって進化し続けていたのがこの画家のようだ。

 私は以前から、ローランサンの絵には同じパステル調でも何タイプかあるのを感じていたが、それが製作年代による差だということは今回初めて知った。私が「ローランサンにしては硬い」と感じていたのは初期の作品、「ローランサンにしてはやけに鮮やか」と感じていたのは晩年の作品であったということのようだ。なるほど、初めて合点がいった。これは収穫だ。


 府中駅までちゅうバスで戻ると、次の目的地に向かう前に駅の近くで早めの昼食を摂ることにする。入店したのは「ベリーグッドマン」。ステーキの店ということだが、まあファミレス+αというようなところか。東京だったらこんなもんだろう。

 昼食を終えると京王とJRと小田急を乗り継いで向ヶ丘遊園駅へ。ここはもう川崎市ということになるらしい。府中市は東京の西というイメージがあるのに対し、神奈川県川崎市は東京の南というイメージがあるから、関西人の私にとってはこの両市がこんなに近くにあるというのはどうも感覚的に理解しにくい。もっともここは川崎市といっても川崎市の北西端で中心部からはかなり離れた位置になるが。

 

 さてここまでやって来たのは生田緑地にある岡本太郎美術館に立ち寄るため。バス停まで行くと1時間に1本程度のバスがまもなく到着するようなので、とりあえずはそれに乗車して生田緑地入口まで移動する。

 

 ○○入口という名前のバス停のお約束で、生田緑地はそこから結構距離がある。岡本太郎美術館の手前には日本民家園なる日本中の古民家を移築した博物館があり、岡本太郎美術館はその奥になる。ついでだから民家園も見学していくことにする。

 日本民家園入口

 この手の古民家を集めた博物館は、四国の四国村などがあるし、東京にも小金井にたてもの園が存在する。たてもの園は結構明治以降の洋風建物が多かった印象なのに対し、ここの場合はそれ以前の本当に普通の民家(と言っても庄屋クラスのお屋敷ではあるが)が移築されているようである。地域別に分類されており、信州の建物を集めた地域には合掌造りが、東北のエリアに曲屋などが展示されている。また建物の保存のために囲炉裏に火を入れている建物も複数あった(これをすることで防虫など効果が出る)。

 内部はかなり起伏があるので上がったり降りたりと結構歩く必要がある。最後の建物である船越の舞台なんかはかなりの高台にあるので登るだけでも大変である。

 一番の高台にある船越の舞台

 正門から入って、西門手前まで行って、そこから奥門まで戻ってきてそこから出るという形で園内を一周。奥門のところからしばし歩いた先に岡本太郎美術館がある。

 


岡本太郎美術館

  

 私の訪問時には「岡本太郎と中村正義・東京展」を開催中。中村正義は日展で活躍した日本画家だったが、自らの芸術を求めて日展に反旗を翻す形で新しい運動を起こしていく。まさにそれまでの自分を否定するかのような行為だったのだが、実際に自身の過去の作品を破壊したこともあるようだ。そして彼は日本における現代アートの祭典とも言えるような「第1回東京展」を作るのであるが、元々体があまり丈夫ではなかったことから燃え尽きるように生涯を終えたようだ。この「第1回東京展」に関与した一人が岡本太郎とのこと。中村正義の作品については、晩年に行くにつれて一種の凄みのようなものが現れてくるのは感じられるのだが、それが好ましいかどうかについては別の話。

 常設展の方は太陽の塔や明日の神話などを初めとする岡本太郎作品が多数展示されている。奇妙奇天烈な太郎ワールドだが、これはこれでやはり結構面白い。

   

 現代アート系がハッキリ言うと嫌いである私は、岡本太郎に対しても以前は余り興味はなかったのだが、最近は何となく彼の作品からのメッセージ性のようなものが見えてくるようになってきた。とにかくの言えるのは、彼の作品はただ出鱈目に作っているわけではないということだ。この辺りが単にスタイルだけの最近の作家とは異なるところ。

 

 美術館の見学を終えると、民家園の合掌造りでなめこそばを食べていくことにする。まあそばは美味いんだが、今ひとつなめことの一体感がなかったのは残念。

 民家園を後にすると駅までプラプラと歩いて戻り、そこから小田急で新宿まで。ここの美術館に立ち寄ることにする。

 


「青児とパリの美術」東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館で12/23まで

 

 東郷青児の描いたパリなどの絵画や、彼と交流のあった作家の作品などを展示する。

 東郷青児と言えばあの独特の構成の絵画であるのだが、それでもリアリティ志向になったり幻想的な方向を目指したりというスタンスの変化ぐらいはあるようだ。ただあの独特すぎる画風のせいで、それらの揺れがほとんど吸収されてしまって大した違いがないように見えてしまうきらいはあるのであるが。


 今日はローランサンと東郷青児という東西の「二大クセ絵画家」の作品を鑑賞したことになる。彼らの独自の世界はツボにはまれば魅力的なんだろうが、そうでなければ異様に映る。私は正直なところ、彼らの作品は好きでも嫌いでもないというところ。「ふーん、こういうのもありだね」とは思うが、特別にそれ以上の興味も湧かない。

 

 それにしても今日はかなり歩いているので疲れた。オペラシティに移動する前に「時屋」「抹茶あんみつ」で一息ついていくことにする。味はまずまずだが、やや高めに感じるのは場所柄仕方ないところか。

  

 一息つくと京王新線で初台に移動。オペラシティに到着するとコンサートの前にまずギャラリーに立ち寄る。

 


「LABYRINTH OF UNDERCOVER」オペラシティギャラリーで12/23まで

  

 ファッションブランドUNDERCOVERの作品を展示とのこと。

 ファッションはどうでも良いのだが、独特の舞台設定をした妙な作品がいくつかあるのでこれは笑える。以前にコシノヒロコが妙にアート志向の奇妙な展示をしていたのを思い出す。どうやらファッションがアートを志向し出すとおかしなことになるようだ。

かなり謎な展示も多数

 ファッションも建築も実用性が一番と思っている私には、どうでも良いようなところがあったのは事実。

 

 さてそろそろ開場時刻が近づいてきたが、その前に夕食を摂っておく必要がある。店を探すのも面倒になってきているのでオペラシティ内の「築地食堂源ちゃん」に入店、「ごまだれの鯛茶漬け」を注文する。

  

 以前に汐留でもこれを食べたのだが、微妙にあちらの方が美味かったような気がする。同じチェーンでも味が変わったりするのか。もっとも私の体調も怪しいので何とも言えないが。

 

 夕食を終えたのでホールに向かう。今日も大勢がやって来ていてなかなか盛況だ。

 


生誕150年記念シベリウス交響曲サイクル

 

指揮:オッコ・カム

ヴァイオリン:ペッテリ・イーヴォネン

フィンランド・ラハティ交響楽団

 

シベリウス:交響曲第3番 ハ長調 op.52 

シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 op.47 

シベリウス:交響曲第4番 イ短調 op.63 

 

【アンコール曲】

[ソリストアンコール]ペッテリ・イーヴォネン(Vn)

・イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第3番 ニ短調 op.27-3《バラード》

 

[オーケストラアンコール]

シベリウス:

・悲しきワルツ op.44-1

・ミュゼット(組曲「クリスティアン2世」op.27 より)

・鶴のいる風景 op44-2

 

 交響曲第3番はややゴチャゴチャした印象の演奏になってしまっている。これは元々の曲自体がややグダグダしたところがあることも影響しているように思われる。

 バイオリン協奏曲はソリストのイーヴォネンが堂々たる演奏。オケとの連携もよく取れている。なおイーヴォネンはやや長めのアンコール曲でそのテクニックを遺憾なく披露した。

 交響曲第4番は打って変わったような緊張感あふれる名演。何やら弦のアンサンブルの精度から管の音色まで変わったように思われる集中力の高まった演奏になっていた。やや難解なこの曲を実に魅力的な響きで飽きさせずに聴かせている。


 場内は昨日に続いて大盛り上がりである。結局は今日もアンコールは3曲に及び、最後は楽団員が引き上げても拍手が続く状態。先日に続いてオッコ・カムが再び現れることになった次第。

 

 それにしても今日はかなり歩き回った。体にかなり疲れが残っており足もだるい状態になっている。とりあえずホテルに戻ると大浴場で汗を流してから早めに就寝するのだった。

  

☆☆☆☆☆

 

 

 翌朝はたっぷり寝ようと目覚ましを8時半設定にしていたのだが、サラリーマンの悲しい習性で7時半前に目が覚めてしまう。仕方ないので起き出すと身支度を整えて9時過ぎ頃にホテルを出る。

 

 今日は2時からコンサートなのでその前に少し遠出を考えていたのだが、どうも体の調子が良くない。どうやら風邪をひいてしまったようである。昨日疲れすぎたか。汗をかいたり体が冷えたりと寒暖の差が大きすぎたのもよくなかったようだ。今日は遠出をする気にもならないので朝食を摂る店を見繕うついでに浅草方面をうろつくことにする。

 朝の雷門

 ホテルから雷門まではすぐそこ。ホテルの設備にはいろいろと難があるが、とにかく立地だけは抜群のホテルである。それにさすがに浅草は朝の早い店がある。「ときわ食堂」が開店していたので「カツ丼(1000円税込)」を頂く。

  

 味付けについては関東だなというところがある。私の好みよりは少々辛目である。ただ味噌汁などは悪くなかった。東京でこの価格でこの内容ならまあ上々だろう。

 

 朝食を終えると仲見世をプラプラ。まだ朝だというのに仲見世には多くの観光客がうろついており、アジア人観光客の姿がやたらに多い。私もその中に混ざって観光。途中で吉備団子(5本で330円)を頂くがこれがなかなかにして美味。

仲見世をフラフラしながら、きび団子を頂く

 そうこうしている内に10時になる。実は今日の10時からフェスティバルホールの会員向けのチケット優先販売がある。ただいつものことながらここのチケット販売の難点は、WEBからの予約では座席指定はPCでないと不可能なことである。家にいる時なら良いが、今日のように出かけ先だとPCがないのでどうにもならない。それにそもそもPCを持って行ったとしても10時というと大抵はホテルを追い出された後の時刻になるのでやはりPCは使えない。座席指定をするなら必然的に電話予約をするしか方法がないのであるが、当然のようにこれが全くつながらない。

 

 今回は来年度の多くのコンサートが今日に集中的に予約開始になっており、しかもその中には西本智美とか佐渡裕とかのとにかく人気だけはある公演も含まれている。ある程度予想はしていたが、案の定いつまで経っても全く電話がつながらない。今頃「オスカル様!」と叫びながら必死でリダイヤルしまっくているオバハンが結構いるんだろう。こういうそっち系向きの公演と音楽ファン向けの公演ではチケットの発売日を分けて欲しいところ。

 

 電話を諦めてWEBの方の様子を見たが、案の定というか座席指定をせずにお任せにすると最前列のクソ席を指定してくる。アイドルのコンサートなら特等席だろうが、クラシックのコンサートでは最前列はクソ席である(たまに最前列を好む者もいるようだが、私はそういう価値観はない)。なにが悲しくて会員優先予約でわざわざクソ席を取る必要があるというものか。仕方ないのでしばらく様子を見ることにする。

 

 30分ほど様子を見たが一向に電話がつながる気配はない。そうこうしていう内に疲れてきた。浅草に特に用事があるというわけでもないし、これはさっさと池袋に移動してしまおうか考えて地下鉄の駅に向かう。その途中でネカフェを見かけたのでいっそのこととここで一休みしようと入店することにする。

 途中で見かけた等身大のレイとアスカのフィギュア(160万円+税)

 結局、電話がつながったのはそのネカフェに入店してからだった。とりあえず目的のコンサートのチケットを確保すると、後はゴルゴでも読みながらボンヤリと過ごす。

 

 ボーッとしている内に気が付いたら12時を回っていた。慌てて池袋を目指す。今日のコンサートは芸術劇場で開催される読響の公演である。

 

 30分程度で池袋に到着したものの、昼食を摂るのに適当な店はないし時間もあまりないしということで、1階でおにぎりとパンを購入してとりあえず腹に入れておくことにする。中途半端だ。

   芸術劇場は2回目


読売日本交響楽団 第181回東京芸術劇場マチネーシリーズ

 

指揮=オスモ・ヴァンスカ

ヴァイオリン=エリナ・ヴァハラ

 

シベリウス:「カレリア」組曲 作品11

シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47

シベリウス:交響曲 第1番 ホ短調 作品39

 

 ヴァンスカの指揮は爆演と言って良いもの。メリハリがかなり強い演奏で、16編成の読響のパワーを生かしてバリバリと鳴らしてくる印象。先日に第二番を聴いたときにはやや違和感があったが一番の場合はこれで正解のようである。先日のカムのゆったりとした演奏とは対極の位置にあるが、これはこれで一つのアプローチとしてはありだろう。

 ヴァイオリンのヴァハラはエレガントでありながら技巧的な演奏。オケとの呼吸も合っていてなかなかに聴かせる。洗練度という点では先日のイーヴォネンを超えている。ただどちらもそれぞれに魅力のある演奏ではある。


 この前の大阪公演で「やっぱり読響は上手いな」と言うことを感じたが、今回もそれを再認識させられた。大フィルなどと比較するとやはり管の安定度で差が出る。

 

 今日は朝から体調の不調を感じていたが、いよいよ本格的に風邪をひいてきたような気がする。これはまずいことになってきた。さっさとホテルに帰って一休みしたいところだが、その前に夕食を摂っておく必要がある。帰りに浅草に立ち寄ることにする。

夜の浅草寺を揚げ饅頭を食べてからマッタリ(注:仲見世は食べ歩き禁止)

 浅草寺は朝以上の大混雑。私はその中であげ饅頭を食べたりしながらマッタリ。結局は夕食は「和田平」「うな重(竹)(3000円税込)」を頂くことにする。

  

 私は関西人であるが、実は江戸前の柔らかいウナギも好むという者である。正確に言うと、江戸前は江戸前、関西式は関西式で、いずれも別料理として頂くというところ。この江戸前ウナギは柔らかくて美味。

 

 夕食を終えるとホテルまで戻ってきて、すぐに大浴場で体を温める。体調はかなり本格的にまずくなってきており、さらさらの鼻水が止まらない状態。これはまずいことになってきた。明日のコンサートもさることながら、仕事に復帰すると来週は重要な社内発表会がある。これは何とか体調を回復させないと。

 

 風呂から上がると着替えて薬を飲んでからしばらくベッドで横になって休んでいたが、その内にかなり腹が寂しくなってくる。今日はそもそも昼食をまともに摂っていないし、夕食もウナギではさすがにガッツリと食べるというわけにもいかなかったので、そのツケが来たようだ。暴飲暴食は厳に慎むべき状態であるが、このままだとさすがに夜中にかなりひもじい思いをすることになりそうである。そこで意を決すると着替えて出かけることにする。

 

 考えとしてはラーメンでも食べようと思っている。確か浅草の駅の近くに喜多方ラーメンの店があったはずと思ってそちらに向かうが、途中で「美味坊」なるラーメン屋を見かけてメニューにあった「鴨らーめん」なるものに惹かれたのでここに入店することにする。

  

 注文したのは「鴨らーめん(780円税込)」。なお大盛り無料とのことなので大盛りにしてもらう。ご飯も付けられるようだがさすがにこれは断った。あっさりした塩味のスープに具は鴨肉が数切れと青梗菜。これにやや太めのしっかりした麺が組み合わされている。なお刻みショウガが付いてくるので、これを好みによって加えて頂くようだ。

 

 店主は多分中国系なのだろう。日本語に訛がある。また料理もラーメンというよりは中華そば系。しかしこの太めの麺にさっぱりしたスープがよく合い、しつこさがなくて実に良い。またショウガを加えるとこれがアクセントになって非常にマッチする。私は風邪気味で体調が悪いので、ちょうどショウガの漢方効果も期待してたっぷりと加えて頂く。

 

 腹が膨れるとコンビニに立ち寄ってお茶の追加を仕入れてからホテルに戻る。そのまま明日に備えて早めに就寝したのである。

  

☆☆☆☆☆

 

 

 翌日はいよいよ本格的に体調が悪化していた。これではコンサートに行くのがやっとで他に何かをするどころではない。結局はこの日は10時前にホテルをチェックアウトすると、そのまま神田に直行してそこのネカフェのフラットシートで1時前までゴロゴロして過ごしたのである。

 

 1時前にネカフェを出るとキャリーを置くために東京駅に移動するが、生憎とロッカーはどこも満杯。最近は東京駅でコインロッカーが使えないことが増えて困っている。仕方なしに諦めて、キャリーを引いたまま初台まで移動することになる。オペラシティに到着すると、一昨日に夕食を摂った「築地食堂源ちゃん」で昼食に二色丼と牡蛎フライを注文。腹を膨らませてからホールに向かう。

 


生誕150年記念シベリウス交響曲サイクル

 

指揮:オッコ・カム

フィンランド・ラハティ交響楽団

 

シベリウス:交響曲第5番 変ホ長調 op.82 

シベリウス:交響曲第6番 ニ短調 op.104 

シベリウス:交響曲第7番 ハ長調 op.105 

 

【アンコール曲】

シベリウス:

・アンダンテ・フェスティーヴォ

・ある情景のための音楽

・交響詩「フィンランディア」op.26

 

 シベリウスチクルスの最終日となる今日は、シベリウスの後期交響曲3曲になる。一昨日の交響曲第4番から演奏の雰囲気が少々変わったことを感じたが、今日の演奏はその延長線上に位置する。初期交響曲の時よりも明らかに緊張感があって精度の高い演奏になっている。しかし昨日のヴァンスカの演奏のような激しさや厳しさのあるものと違って、もっとスケールの大きな朗々と歌うシベリウスという印象である。ああ、これが現地の人間の描くシベリウス像なのかなという説得力がある。複雑でやや難解さを秘めながらもスケールが大きくてゆったりとして温かさも持っている。北欧の大地がそこに展開するかのような演奏でもある。


 アンコールは今日も3曲。初日の雰囲気からして最終日のアンコール最終曲は「フィンランディア」ではという予感はしていたが、予想通りに「フィンランディア」で来た。やはりこれなしにチクルスを締めくくるわけにはいかないだろうとでも言うところ。カムもいきなり何の説明もなく演奏を始めた辺りは「お待ちかね」と言わんばかり。これがまた素晴らしい熱演で、会場は見事なまでに興奮のるつぼに。最後は場内総立ちで拍手が続く中、一端引っ込んだカムが再びオケメンバーを引き連れてのカーテンコール。全員揃って深々と三度もお辞儀を繰り返し、場内もヤンヤの喝采となった。

 

 ここまで盛り上がったコンサートは私も経験がない。しかもこれだけの感動を5400円×3で経験できたのだから、超ハイCPライブだったとも言える。今年の初めからこのコンサートに期待していた私の勘は正しかったようである。オペラシティの年間会員料金はそこそこにするのだが、十二分に元は取ったというのが本音。

 

 コンサートの感動で心が熱くなっているが、体の方は風邪がいよいよ悪化して熱くなってきたようである。ここからは半ばフラフラしながら、ようやく新幹線で家にたどり着いたのである。

 

 結局はシベリウス漬けの三泊四日であった。なかなかに中身は充実していたのだが、この時にひいた風邪はその後も尾を引いて、この週の社内発表はヘロヘロの体調で挑む羽目となってしまったのである。これは失敗。まあ私の人生そのものが失敗の集大成のようなものであるが。

 

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