展覧会遠征 神戸編10
ここのところ遠出続きで疲労が溜まっている上に展覧会と関係のない遠征ばかりになっている。そこで今週は近場の展覧会を押さえることにした。まずは車で伊丹まで移動。
「プライベート・ユートピア ここだけの場所」伊丹市立美術館で5/25まで
イギリスのブリティッシュ・カウンシル・コレクションによる英国現代アートを代表する作品の展示。
現代アートらしく、絵画、彫刻、映像など多彩であるが、正直なところありきたりで安直な作品が多く、個人的に感心するような作品はなかった。やはりデュシャンが便器をひっくり返して以来、アートとは怠惰な者の格好の逃げ場となっているという感はやはり否定できない。
芸術的感銘は受けないまでも、にやりとさせられる作品ぐらいあるかと期待していたのだが、結果としては完全な肩すかしであった。せめてアトラクション的な突き抜けたものがあれば楽しめたが、そういう点は妙に「保守的」なのはお国柄か。
伊丹市立美術館の見学を終えると神戸に移動する。途中で昼食を摂ろうと思うが適当な店が見当たらない。面倒になって結局は丸亀製麺で昼食を摂ることに。
手早く昼食を終えるとまずは兵庫県立美術館へと。ここはいつものことだが駐車料金が高いのが難点。
「夢見るフランス絵画 印象派からエコール・ド・パリ」兵庫県立美術館で6/1まで
個人収集家によるフランス近代絵画コレクションの展示とのこと。
展示作はかなり多彩で、有名作家のかなりの部分を押さえている。モネ、ルノワールといった一流どころの作品もあるが、ヴラマンク、キスリングといったところの作品が多かったのがなかなか特徴的で貴重。ユトリロの作品がかなり多かったのは、個人コレクションということで入手のしやすさという要素も効いているように思える。
展示されている作品は、作者の名前を聞かないのでも誰の作品か分かるような典型的な作品ばかりで、そういう点で「分かりやすい」作品が多い。芸術史的価値云々の難しいことをすっ飛ばして、個人が趣味のコレクションとして収集しようと考えるとこういうラインナップになることは非常にリーズナブルである。結果として見ている我々の側もややこしいことは抜きにして単純に楽しめる展覧会となっている。
初心者にも馴染みやすい印象の展覧会であった。恐らく標準的な日本人なら抵抗を感じる絵画はほとんどなかったろう。私的にはヴラマンクにキスリングにシャガールと言った辺りが堪能できて満足。
兵庫県立美術館の次は神戸市立博物館へはしご。しかしこちらはネタがネタだけに混雑するのではないかと警戒していたのだが、実際には会場は私の予想を超える混雑であった。入館するのにも10分以上待たされ、内部も大混雑で絵に近寄るのは困難な状況。浮世絵という作品の性質上かなり劣悪な鑑賞コンディションを強いられることになってしまった。
「ボストン美術館浮世絵名品展 北斎」神戸市立博物館で6/22までそもそも葛飾北斎自身が日本よりも海外で高く評価されたというところがあるのだが、ボストン美術館は良質の日本浮世絵コレクションを有しており、その中の北斎の名品を集めての展覧会である。
驚くべきはやはりその保存状態の良さ。日本に残存する浮世絵作品は年月によってオリジナルの色彩が完全にあせてしまっているものが多いのだが、ここの展示品は生々しい当時の色彩をとどめるものが多い。コレクターがどれだけ熱心に細心の注意を払って保管していたかが想像される。皮肉なことに浮世絵の発祥地の日本では、これらは消耗品として顧みられなかったのだが、海外では海を渡ってきた貴重な芸術作品として珍重されていたことを覗わせる。
展示作品は実に多彩で、団扇絵のような滅多に残っていないものや、江戸時代のジオラマとでも言うべき組上絵(切り抜いて立体に組み立てる絵画)のような非常に珍しいものまで展示されている。富嶽三十六景などのような定番ものだけでなく、このような滅多に見られない作品が見られるのが貴重。
なお個人的に一番面白かったのは、北斎の娘である葛飾応為の作品が展示されていたこと。美人画を描いたら父よりもうまいと言われていたというが、確かに父の北斎とはまた違った筆の冴えを見せていて興味深い。実際に北斎の代作などもしていたようで、北斎の晩年の作の中には彼女との合作や彼女の作品が含まれていると言われているらしい。今後さらなる研究が期待される人物である。
これで今日の予定は終了。後は駐車料金代わりに大丸にユーハイムのバームクーヘンを買いに行くと共に「文の助茶屋」で「抹茶づくし」を頂く。これぞ日本人の正しいスイーツ。
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