展覧会遠征 大阪編5
さて先の鹿児島遠征で、黒豚・黒酢・黒砂糖の黒い三連星による「ジェット豚骨アタック」に惨敗して、見事に3日で1キロ以上も増えてしまった体重をようやく元のレベルにまで戻した今日この頃である。相次ぐ遠征で身体のみならず財布の方もかなり傷ついているので、今週は近場の身体と財布に優しい遠征にすることにする。今回は大阪で開催される展覧会をメインに周辺をブラリと散策することにする。使用するのは関西1デイパス。やはりここは交通費も財布に優しくしたいところである。
JRで新今宮まで移動するとそこから南海に乗換、新今宮駅で堺・住吉チケットを受け取る(絵柄はなぜかキン肉マンである)。これで堺方面までの南海と阪堺が乗り放題である。今年の春の1デイパスは、これか近鉄の飛鳥チケット又は京阪の京都定期観光チケットが付いている。今回はこれをフルに活用したいところ。
まずは新今宮から難波に移動する。最初の目的地は難波高島屋。南海難波駅は改装されて、駅と高島屋が直結しているのでアクセスが便利になっている。訪れたのは本遠征の主目的であるグランドホールで開催中の「川瀬巴水展」。以前に東京の高島屋美術館を訪問した際に高島屋カードを作成したので、入場料が半額になるありがたい特典がある。
南海難波駅
「川瀬巴水展」大阪高島屋で3/10まで浮世絵の流れを汲む大正版画の名手で、日本各地の叙情的な風景版画を残し、「昭和の広重」などとも呼ばれた川瀬巴水の版画作品を展示した展覧会。
「昭和の広重」との呼称に対し、巴水自身は広重の頃とは版画の技法や表現手段なども大部変わっているとコメントしていたらしいが、確かに巴水の表現は広重のそれとは異なっており、しかも時代を追っていくごとに版画表現手段も多様化していっている。
その表現の緻密さに唸らせられると同時に、描かれた日本の原風景に懐かしさのような感情を掻き立てられる。ただ何より残念なのは、川瀬巴水の没後にその後継者がいないこと。画家と彫り師や摺り師との共同作業である版画については、何でも効率化の今の時勢に合わないのかいずれもその技倆を持つ人材がいなくなったようである。また現在の日本に巴水が描けるような風景がどれだけ残っているかという問題もある。いずれにしも「昭和は遠くなりにけり」か。
展覧会の見学を終えると難波駅まで戻る。次の目的地へ行く前にやはり出来るだけ堺・住吉チケットを活用しておきたい。ちょうどこの切符で行ける範囲に住吉大社があるのでそこを見学しておこうという考え。
住吉大社があるのはいかにも大阪風情の漂う町並みの中。路面電車が走るゴチャゴチャした町並みは大阪の原風景のようなものであり、神戸出身の私にも親しみを感じられる風景である。
住吉大社と阪堺線 住吉大社は初訪問だが、いきなりの急な太鼓橋に驚き。これが反橋といって結構有名なものらしい。これはかなり険しいので足下がしっかりしていないと危ない。ちなみに足下の不安な高齢者、車椅子、ベビーカーなどには高低差のない別の橋もある。
左・中央 反橋 右 隣にこういう橋もあります 住吉大社には第一本宮から第四本宮までの4つの本殿がある。造りは住吉造りと言うもので、本殿のこの配置は八陣の法をあらわすのだそうな。
左 第三本宮と第四本宮 中央 第二本宮 右 第一本宮 境内にはこれ以外に重要文化財に指定されている石舞台などもある。ここは厳島神社、四天王寺と共に日本三舞台というそうな。
石舞台と南門 住吉大社を出てしばし南方に歩くと末社である大歳神社「おもかる石」なる占い石がある。この石をまず持ち上げてその重さを感じてから、石に手を当てて願い事を念じ、もう一度石を持ち上げた時に軽く感じると願いが叶い、重く感じると願いは叶わないそうな。ちなみに私に良縁が訪れるかどうかを占ったところ、軽くも重くもなかった・・・。やっぱり無理かこれは。
おもかる石
住吉大社の見学を終えたところで昼食にすることにする。この手の町並みのところにはCPの高い飲食店があるというのは法則のようなものである。チケットと一緒にもらったガイドパンフなどを参考に「洋食やろく」に立ち寄ることにする。注文したのは「ビフカツとエビフライのランチ(1100円)」。
スープではなくて味噌汁なのがいかにも町の洋食屋。関西人はカツと言えばトンカツなどではなくてビフカツというのが常識なのだが(そもそも肉という言葉自体が牛肉のことを意味する)、その関西人のイメージする由緒正しきビフカツという味。肉も柔らかくてボリュームも満足。個人的な好みとしてはこれでソースにもう少しコクがあれば完璧である。食後のアイスコーヒーまで付いてこの価格は、まさに正しい町の洋食屋の高CPランチ。関西はあちこちにこういう店が隠れているのである。東京などではこうはいかない。
昼食を堪能した後は阪堺線で天王寺に移動する。路面電車はいかにも大阪的な風景の中をしばし走行、車内は満員で利用者はかなり多い。
ほどなく天王寺に到着する。この辺りも地下街などが整備されて以前と雰囲気が変わっている。やけにでかいビルが建っていると思ったら、これがあべのハルカスらしい。ちょうどこの週末にオープンした直後らしくて大混雑している。私は別に野次馬する気はないのでスルーしようと思ったら、ハルカス美術館がオープン記念で無料開放だとのことなので立ち寄ることにする。
ハルカス美術館は近鉄百貨店上の16階にある。ここは空中庭園になっていて大阪の町を見下ろせるようになっている。ここでも結構な高さなのだが、ハルカスの本体は隣の遙か上。ただしここの展望台に登るのは予約が必要とのこと。また大騒ぎが落ち着いた頃に訪問するか。そう言えばまだ東京スカイツリーも訪問していなかった。
左 屋上庭園 中央 大阪の町を一望 右 ビルの向こうに大阪城 とりあえず隣のハルカス美術館に入場することにする。
「開館お披露目展示」3/7〜3/9の3日限り近鉄系列の企業などが所蔵する美術品・工芸品を展示。松伯美術館の松園・松篁・淳之の作品や大和文華館の所蔵品、都ホテルの所蔵品など内容は雑多。
その中で興味深かったのが、近鉄百貨店関連の作品で東郷青児、藤田嗣治という「二大クセ絵巨匠」の競作。説明が付いてなくても誰の作品か分かるといういかにもいかにもの作品で、ファンなら垂涎ものであるが、私には少々目眩がした代物。しかも正真正銘の二人の合作作品まである。
どうせ無料のお祭り展示と思っていたのだが、内容が非常に多岐に渡っていて予想外に結構楽しめた。これはラッキー。
この美術館はこれからも「東大寺展」や「華麗なる貴族コレクション展」などを開催する予定らしい。とりあえず美術館的には東京よりもかなり劣る大阪(しかも独裁者橋下に美術の趣味がないせいで、彼の知事・市長就任以降は市立美術館などの企画が目に見えてショボクなっている)で美術館が増えるのはありがたい次第。
大混雑の近鉄百貨店からようやく脱出すると地下鉄で次の目的地に向かうことにする。次の目的地は大阪歴史博物館。内部に入った途端に大行列がしているのでビックリしたが、どうやら隣のNHKで某かのイベントがあった模様。
「手塚治虫×石ノ森章太郎 マンガのちから」大阪歴史博物館で手塚治虫、石ノ森章太郎という漫画界の二大巨匠にまつわる展覧会。展示品は二人の直筆生原稿など。またトキワ荘の復元模型なども展示されている。
個人的には漫画はストーリーで読む人間なので、直筆原稿にはあまり興味がない。トキワ荘の展示はいかにも昭和の時代を感じさせて面白かった。あの時代には確かにあんな異常に狭いアパートなどもあった。
予定を大体終えたところで最後に一イベントをこなしておく。関西1デイパスにはアクアライナーの無料券もついている。やはりチケットを最大限有効活用するためにはこれにも乗船しておきたい。大阪は元々水都である。大阪の町を川から眺めるというのも一興だろう。地下鉄で天神橋まで移動すると乗船場へと急ぐ。
乗船券を引き換えて乗り場で待っているとアクアライナーが到着する。船着き場は4カ所あるのだが、どうやら二船が同時運行していてそれぞれで立ち寄る船着き場を変えているようだ。船は上下船が手間と時間がかかるのでそれを減らす工夫だろう。船は私が思っていたよりも結構大きいが、橋の下を潜るので天井が低いのが最大の特徴。しかもこの天井はさらに30センチほど下げられるらしい。
船内風景 この高さの天井が ここまで下がります 川から眺める大阪の町もまた視点が変わって興味深かった。なお一番に印象は「大阪城小さい」であった。安土桃山時代の超高層建築も、今日の高層ビルの中に埋もれてしまうと普通の低層ビル。あべのハルカスからも遠くのビルの谷間に辛うじて見えるぐらいだったが、川からとなるとほとんど見える箇所がなかった。
1時間ほどでコースを一周して帰ってくるとこれで本遠征のすべての予定は終了。帰宅することと相成った次第。
展覧会を中心とした近場遠征。結構アクアライナーを楽しめたのは意外であった。慣れた町でも視点を変えると感覚も変わると言うことか。また今回は何かと「昭和」について考えさせられることもあった遠征であった。都市については何でもかんでも最新に作り替えてギラギラに飾り立てることが果たして正しいことかどうか。ことに日本の都市はヨーロッパの都市のような「変わらない良さ」というものがほとんどない。文化の違いと括ってしまうにはあまりに大きな問題のような気がする。
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