展覧会遠征 金沢編

 

 さて今週は順延していた金沢遠征を実行することになった。とは言うものの、直前まで不安いっぱいである。なにしろ前日の金曜日には湖西線地区が豪雪によってサンダーバードが運休する事態。もし当日にサンダーバードが運休すると万事休すだし、運休はないまでも米原経由ルートに変更とかになればスケジュールの大幅な変更を余儀なくされることになる。天気予報の「週末には寒気は緩む」との情報を望みに当日を迎えることになる。

 

 出発は未明。辺りは真っ暗ではあるが天気が良いことだけは分かる。とは言ってもこっちが晴れているのは当たり前。問題はここから先の天候である。とりあえず最寄り駅でサンダーバードの運行状況を聞くと「現在のところ運休などの情報は入っていない」とのこと。まずは新幹線で新大阪に向かう。

 

 新大阪も気持ちの良いぐらいの晴天である。私の乗車するサンダーバード1号は今のところは予定通りに運行される模様である。弁当を買い込むとサンダーバードに乗車する。なお指定席は事前にJTBで押さえてある。本来なら新幹線と特急の指定席ならe5489で押さえれば良いようなものなのだが、これを使うと新幹線とサンダーバードの乗り継ぎが京都でしか指定できない(この方がトータルでの特急料金が高くなる)。これは明らかに意図的な欠陥であり、悪意のある設計といえる。民営化による利潤第一主義はこういう場面にも悪しき影響を与えている。

 米原方面には雪雲がかかっている

 京都で大量の乗客が乗り込んできて車内の乗車率は80%程度になる。この辺りでもまだ外は晴天である。ここから予定通りに湖西線に入る。山科の長いトンネルを抜けると湖西線。この辺りは雪は全くないし、比叡山にも雪がかかっている様子はない。ただ先ほどまでに比べると厚い雲が北方からやってきている。米原方面には雪雲がかかっていそうだ。それにしても外は寒いのだろう。サンダーバードの暖房がいつになく強く、それにも関わらず窓から寒気が染みてくることから推測できる。

 雪が深くなってくる

 近江舞子辺りにやってくると遠くの山は真っ白だし、辺りも雪が多くなって線路も雪で埋まったような感じになってくる。確かにかなりの雪が降った模様。

 近江今津駅は雪に埋まっている

 さらに北上するにつれて雪は深まる。近江今津駅は雪に埋まってしまったような印象。正直、これはどこの国の風景だという有様。サンダーバードも雪をけちらしながら走っている。ただこれで列車が運休になったというのは、北陸のことを考えると湖西線の雪耐性が低過ぎともいえる。もしかして直流地域で使える除雪車を持っていないとか。

 敦賀に来るともう完全に雪国である。いろいろなものが雪に埋もれている。ただ今日は天気は良い。長ーい北陸トンネルを抜けると厚い雪雲が垂れ込めて雪がリアルタイムで降っている。雪を知らない地域で育った私の感覚では完全な吹雪である。もうこうなってくるとむしろ「よくまあこんなところを列車が走ってるもんだ」と感心する。

 武生駅は雪の中

 もっとも豪雪だったのは福井地域。金沢に近づいていくと空は晴れてくる。福井地域で速度を落として運転したために、結局は金沢到着は5分ほど遅れてのものとなる。

 金沢駅周辺

 金沢は積雪はかなりあるが、駅前は除雪も行われており、車は普通に走っている。ところで私は以前に金沢に来たときには「やけに大きな駅だな」という印象を持ったのだが、駅前のやたらに大きな屋根が実はバスターミナルの雪よけだったということに今回初めて気づいた。

 

 金沢に到着するとまずはトランクをホテルに預けに行く。宿泊ホテルは例によって私の金沢での定宿「ドーミーイン金沢」である。

 

 トランクを預けると再び駅前に戻り、ここからバスで移動することにする。まずとりあえずは金沢にやってきた一番の目的を果たしておくことにする。そもそも今回の遠征の主旨は「雪の兼六園を見たい」というものである。何はさておきまずはこれを果たしておく必要がある。

 

 兼六園シャトルは相変わらず馬鹿混みだが、雪のせいか今までの訪問時の中では最も乗客が少ない。途中で金沢城の石垣が見えるが、雪の中の金沢城が美しい(なお、変換時に「金沢城」が「金沢嬢」と誤変換されてしまったが、確かに雪の中で美しいのは「金沢嬢」も同じである)。

 兼六園は雪にも関わらずと言うべきか、雪だからこそと言うべきか観光客が多い。雪の庭園は私の期待通りというか、見事にその趣を変化させている。本来の兼六園は起伏に富んだ仕掛けの多い庭園であるが、それらをすべて雪が覆い隠して落ち着いた趣のわびた庭園に変化している。外国人観光客が多いが、中国人の団体が雪が珍しいのかやけにはしゃいでいる。

 兼六園を一周すると茶店で甘酒を一杯頂いて体を温める。体に染みゆく甘酒の暖かみが心地よい。「うまい」という言葉が自然に出る。まずは主目的の雪の兼六園を堪能した。なるほど、雪は人間界の汚さを覆い隠すなどという言葉があるが、確かにすべてが雪に埋もれると清浄なる世界が出現する。そして雪の風景はすべてがモノトーンの水墨画の世界になる。何となく心落ち着かされるものである。

 兼六園の次は向かいの「金沢城」も見学しておく。雪の石川門が趣がある。思わず「グレーツ!」とか「アンビリーバボー!」の声が出る私。どうも私は興奮しすぎると怪しい外国人になるらしい(兼六園で外国人観光客を見すぎたせいか)。

 金沢城を軽く見学すると市街ループバスで金沢駅に戻る。このバス、とんでもない路地を通るのだが、その路地に路駐する馬鹿が。それでなくても狭い道が雪のせいでさらに狭くなっているので、いくら小型のバスでも通り抜けが不可能である。しかしこのオッサン、バスを待たせて悠々と自分の用事を済ませてからようやく車を除ける始末。悲しいかな、やはりどこの地域にも一定の比率で馬鹿は存在するものである。やっぱり馬鹿は馬鹿だけで地球の裏側に馬鹿国を作って移住してくれと思えてくる。

 

 予想よりも時間を費やしてようやく金沢駅に到着。次の予定をこなすことにする。とりあえず今回は和倉温泉に立ち寄りたいと考えている。以前から何度もこの周辺はウロウロしているのだが、どうも今まで立ち寄る機会がなかったのがこの温泉。その長年の宿題を果たしておこうという考えである。そもそも今回はそのつもりで当初から金沢往復切符ではなくて、能登・加賀ゾーンの周遊切符を購入している。もっとももし天候が不安なら金沢だけで終わりにしようと考えていたのだが、どうやら天候には問題なさそうだし、そもそも金沢での主目的はもう終えたので、後は今日中に金沢に帰りつければ良いだけである。

 

 ホームに特急しらさぎが到着する。まさに私のためにあるような特急である。しらさぎは前の5両が富山行きで、後ろの3両が和倉温泉行きである。私は和倉温泉行きの自由席に乗車。ちなみにこの手の切り離し特急にはありがちなことだが、富山に行くつもりで乗り込んだ乗客が慌てて発車間際に飛び降りるなんて光景も。

 七尾駅でのと鉄道車両

 沿線は晴天だったが、途中の敷浪(そう言えば、式波・アスカ・ラングレイというキャラがいたな)の辺りから雪が降り始める。帰りがいささか心配だが、ここまで来た以上は腹を括るしかない。幸いにして七尾の手前辺りから再び天候は良くなり、和倉温泉駅に到着した時には雪が降っているという状況ではなかった。

  

特急しらさぎと和倉温泉駅

 ここからはバスで和倉温泉に移動することにする。駅前のバス停を探したところ、駅手前の道路の脇にある。駅前にはホテルの送迎バスやタクシーは乗り入れているのだが、路線バスは乗り入れてない模様。別に普段ならこんなことは何でもないのだが、雪で足下がベチャベチャな上に寒風吹きすさぶ中で10分を待つのはつらい。待合室とまでは言わないが、せめてバス停に屋根ぐらい欲しかったところ。

 和倉温泉行きバス

 ようやくバスが到着、和倉温泉まではバスで数分の距離である。車で行くとなんてことないが、歩いていくとなるとしんどい距離。和倉温泉バスターミナルで下車する。和倉温泉は大きなホテルが建ち並んでいるが、温泉街としては比較的新しい雰囲気で、草津や有馬のような風情は今一つなく似ているとすれば熱海に雰囲気が近い。

 

 バスターミナルのすぐそばに日帰り入浴施設の総湯がある。ここで入浴していくつもりだが、その前に昼食を摂りたい。なお飲泉できるので一口頂いたところかなりしょっぱい。この時点で和倉温泉の性質が大体分かったような気がする。

  総湯と温泉玉子の像?

 しばし温泉街をうろつくが、困ったのは昼食を摂る店が全く見あたらないこと。いわゆる夜の飲み屋のような店はあるが、昼に営業している飲食店が皆無である。巨大ホテルが林立していることから推測できるように、ここの温泉地は基本的にホテルの宿泊客しか想定していないのではということが感じられる。散々探した挙げ句にようやくそばの店を見つけて入店するが、入り口を開けた途端に「これは失敗した」と感じる店。実際にはその時の予感を遙かに越えるレベルの失敗で、天ぷらそばを注文したら業務用の揚げてある天ぷらをレンジでチンして同じく業務用の出来合いのそばに乗せただけの代物(これで600円)。しかも衣の中ではエビが干からびていた。見ているとカレーを注文した客には業務用レトルトをチンするだけ。たまにこういうレベルの店が平気で存在しているのが田舎の恐ろしさでもある。まさに「競争のない資本主義」の恐怖そのものを示している。

 とりあえずの昼食を終えると総湯で入浴する。総湯は新しくて綺麗な施設。最近の日帰り入浴客増加の風潮に合わせて整備したのではないかと思われる。内風呂と露天風呂にサウナがあるオーソドックスな構成。内風呂は天井が高いので蒸した感覚はない。浴室に入った途端にプーンと感じるのは海水に若干の塩素が加わった臭い。やはり和倉温泉は基本的に地中で温まった海水である。先ほど飲泉した温泉水が、塩分濃度といい味といい海水そのものだったのである。

 

 塩分濃度の高い温泉はいわゆる暖まる湯。北国には最適であろう。ただ私の場合はあまりに塩分が強すぎる温泉は後で肌が荒れるので、入浴後にシャワーで洗い流しておく。

  

七尾駅にて「とうはくくん号」

 入浴が終わるとバスターミナルに戻り、ここからバスで和倉温泉駅へ戻ると、ここからサンダーバードで金沢に戻る。これで長年の宿題を解決だが、心の中には一抹の虚しさも残る。正直なところ和倉温泉の印象は今一つである。

 

 金沢に戻るとホテルに入る前に「もりもり寿司金沢駅前店」に立ち寄る。ここはいわゆる回転寿司なんだが、そのクオリティは都会の回転寿司などとは比較にならない。まあ回転寿司といっても、実際には回っているのはほとんどサンプルみたいなもので食べたいものは店員に直接頼むのだが。

 

 まずは「輪島の三点盛り」生タコに生サザエにのど黒である。さらに「カンパチ」と「活ホタテ」。ブリの五種盛りの「ブリ三昧」。地場もので「カジキ」、シメに「のど黒」を頂いて以上で支払いは約3000円。納得の料金である。

 ようやく腹が膨れたところでホテルにチェックインする。着替えてまったりすると、最上階の温泉大浴場に入浴に行く。ここの温泉はナトリウム塩化物泉だが肌に優しい。寒風吹きすさぶ中での露天風呂が逆に心地よかったりする。ただ昔に比べて若干泉質が変化したような気もする。昔はもっと石油のような匂いがしていたように思われる。

 

 入浴を終えるとそろそろ夕食に繰り出すべき時間。とりあえずは今晩は洋食にしたいと考えている。食べログで適当な店をピックアップ(当然ながら評価は全く参考にせず、店の所在地を確認するだけである)すると駅前からバスで移動する。

 

 入店したのは新装成った近江町市場の二階にあるフレンチ店「ラ・クック・ミニヨン」。注文したのは「ピアニッシモコース(4200円)」

 まずは鯛のサラダから。かけられている酢の酸味と添えられているイクラの塩気がアクセントとなって絶妙のバランス。

 次はクワイのスープ。独特の苦味のある個性的なスープだが悪くない。

 魚料理はヒラメのポワレ。ヒラメが関西人の私には若干塩味が強めだが、添えられている貝柱や野菜が絶妙。

 肉料理はオーソドックスにステーキ。しかしこれが実にうまい。またここでも添えられている野菜のうまさが印象に残る。

 デザートはムースと紅茶のゼリー。これがさっぱりしていて美味。うまい洋食屋はデザートもうまいということが例によって証明された。

 価格相応に満足のいく内容であった。どうやら地元野菜にこだわっている店らしく、それが野菜がうまかった理由か。以前から言っていることだが、地産地消を掲げている店にはまずハズレは少ない。

 新装なった近江町市場

 夕食を終えるとホテルまで歩いて戻る。近江町市場のある武蔵が辻は、駅前からバスに乗るとかなり近いが、歩くとなると結構嫌な距離でもある。こういう距離を移動するには本来は路面電車が一番適している。金沢の現在の劣悪な道路事情を考えると、むしろ路面電車があった方が便利がよいのにという気もする。

 

 ホテルに戻ると、先ほどの帰りに買い込んだきんつばをつまみつつ、この原稿の執筆。10時を過ぎた頃から急激に眠気に襲われるので、かなり早めに床につく。

  

☆☆☆☆☆

 

 

 翌朝は6時半頃に自動的に目が覚める。まずは入浴。先日に比べると風はおさまっているが、やはり露天風呂は身を切られるように寒い。この寒空の下の露天風呂で目を覚ますと、朝食のためにホテルのレストランに繰り出す。朝食はドーミーインお約束のバイキング。ただここの朝食が良いところは、ホテルによってある程度のローカル色があること。この辺りはどこで泊まってもまるで統一食のようなルートイングループなどよりもドーミーチェーンが上であるところである。

 

 朝からしっかり和食+パンを頂いてから、部屋に戻ってしばしマッタリする。いつもの遠征なら朝食が終わったらさっさとチェックアウトするところだが、今回の遠征はそんなに予定を詰め込んでいないので余裕がある。

 

 ただ部屋にこもっていてもすることもない。元々は9時過ぎまでホテルでゆっくりしてから美術館に向かうつもりだったのだが、結局は美術館に行く前に一カ所立ち寄ることに予定変更して、8時半頃にはチェックアウトする。

 

 現在、全国で93カ所の重要伝統的建造物群保存地区、いわゆる町並み保存地区が存在し、先日私が訪問した竹原、奈良井宿などもその一つである。金沢にはこのうちの3つ、東山ひがし、卯辰山麓、主計町が存在するが、実はこの3つは隣接地域である。最近町並み保存などに興味が出てきた私としては、これをついでに訪問しておいてやろうという考え。

 

 今日は市内をバスで移動することになる。こういう時に役立つアイテムは既に入手済みである。「タッタカタッタターン」のファンファーレと共に取り出されるのは「ふりーじょーしゃけーん」。北鉄バスが一日乗り放題という秘密道具である。これを使えばタケコプターを使えなくてもスムーズに市内を移動することができる。

 駅のロッカーにトランクを置くと、まずはバスで橋場町まで移動。この周辺がいわゆる町並み保存区になる。橋のほとりにあるのが主計町。ここは現地の表示では「料亭街」となっているが、要はそもそもは茶屋町であったところ。

 橋を渡った先が東山ひがしになる。ここは以前に訪れたことがあるが、ここも茶屋町。いかにもの建物が並んでいる。かつては賑わった歓楽街も、今はひっそりとわびた風情をたたえている。昭和のネオン街も、100年も経てばわびさびの情緒になるんだろうか? 確かに地方都市などの完全に寂れきったネオン街の中には、すでにわびさびの情緒が出かかっているようなところもあったような気がするが。

既に周辺の町並み自体が昭和レトロ

 まだ早朝のためか観光客もほとんどおらず、町は静かな風情をたたえており、住民が家の前の除雪などを行っている。住んでいる者にはこの雪はやっかいなものだろうが、たまに観光に来るような者にはまさに風情そのもの。最近はこういう町の普通の路地のたたずまいに非常に趣を感じるようになってきた。私もかなり枯れてきたようだ。やはり人生が黄昏て来たんだろうか。

茶屋町の町並み

 東山ひがしをプラプラと散策していると、やがて町の雰囲気が変わってきて、普通の住宅街に寺が入り組んできたような町に出る。この辺りは卯辰山麓になってくるようだ。いわゆる寺町。ここは先ほどの東山ひがしと異なり、普通の生活の息吹が感じられる。ただこの地域は観光をあまり意識していないのか、道路の除雪が十分になされていないために歩きづらい。雪の降りつもった狭い道を、スタッドレスタイヤを履いた軽自動車がエッチラオッチラと走り抜けて行っている。

 軽く辺りを一周するとバス停に戻ってくる。ここからバスで兼六園方面に移動。美術館へと出向くことにする。


「古美術優品展−山川コレクションを中心とした茶の湯の美−」石川県立美術館で2/5まで

 石川県立美術館の古美術コレクションから、茶道具などを中心として展示。工芸品の類から器・茶杓などの細かい茶道具まで展示内容は多彩である。


 陶器には全く興味がなかったはずなのだが、織部などを見た途端に分かるようになってしまっている自分に驚き。「おぉ、みきゅんが出てる」などと言いながら、楽しんでしまっている。織部の風合いは古久谷と通じるものがあるとの説明を読んでから古久谷を鑑賞して、確かに彩りが近いなと感心したり。あまりに露骨に影響を受けやすい自分に呆れる。うーん、これは入社時に「課長島耕作」でも読んでいたら、今頃は部長ぐらいにはなっていたか。人生の選択を誤ったようだ。

 

 美術館の見学を終えるとそろそろ昼時である。昼食のためにバスで再び東山に戻る。やはり金沢に来たからには久しぶりに「自由軒」を訪問したいという気がある。どことなく昭和レトロな店内の風景は相変わらずだったが、テレビだけが40インチクラスの液晶に入れ替わっており、その部分だけは平成だった。注文したのは「ビーフカツ丼(1415円)」

 ソースカツ丼系かと思っていたら、そのまんまビーフカツを卵綴じにした丼が登場。これは予想外。ビーフカツが柔らかくてうまいが、残念ながらトンカツと違って卵綴じとの相性はイマイチという感じがした。これは次回はやはりこのビーフカツをデミグラスソースで頂きたいところである。それにしてもやはりここのビーフカツはどことなく懐かしい味がする。

  

 これで金沢での予定は終了。バスで金沢駅に戻るとトランクを回収、土産物(当然ながら金沢の和菓子である)を買い求めてから特急しらさぎで移動することにする。

 

 次の目的地は加賀温泉。ちょうど加賀・能登ゾーンの一番端の駅になる。加賀温泉駅の周辺には山中温泉などいくつかの有名な温泉地があるが、その中で山代温泉に立ち寄ろうと考えている。どうも山中温泉と言えば芸者でドンチャンというイメージがあることが、山中でなくて山代を選んだ理由。

 

 加賀温泉駅でトランクをロッカーに入れると、加賀市内周遊バスのキャンバスで山代温泉に・・・と思っていたんだが発車直前に、キャンバスは1日乗車券しかないので山代温泉に行くだけなら路線バスの方が良いと言われる。そこで慌てて路線バスのバス停に行ったが、山代温泉行きのバスは出た後。次のバスは30分以上先ということが判明。しかも既にキャンバスも出てしまっている。こんなところで立ち往生していても仕方ないので、結局は山代温泉までタクシーで移動することにした。結果としてはキャンバスの1日乗車券よりも高くついた・・・。なおこのキャンバス、一方通行ルートばかりなので、山代温泉から帰りに乗ると駅まで1時間近くかかる(往路は十数分)ので、そもそも最初から帰りは路線バスのつもりだった。こうして考えると非常に使い勝手の悪いバスである。

  

古総湯と総湯

 タクシーで外湯である総湯に乗り付ける。ちなみに隣には古代式の総湯も建っているのだが、タクシーの運転手の話によると、こちらは浴槽だけで洗い場がないので入浴するならこっちはやめた方がよいとアドバイスされた。

 

 総湯周辺はいかにも温泉街的な風情のあるところ。ただ古湯というイメージではない。とりあえず総湯に入場。内部は新しい銭湯という印象で、実際に浴場があるだけである。浴場は内湯のみでやや深めのものと浅めのものの浴槽が二つある。湯はあまり特徴のないおとなしいもの。ナトリウム塩化物泉とのことだが、なめてみてもほとんど味はしないので新湯に近い印象。

 

 入浴を終えると温泉街を少し散策がてら帰りの路線バスのバス停を探す。キャンバスはこの総湯の近くまでやってくるのだが、どうやら路線バスのバス停はここからかなり距離がある模様。付近の住民に尋ねつつようやくたどり着いたバス停は温泉街からはかなり離れたところにあり、もし往路で路線バスを使用していたら、バス停に着くなりどこに行ったら良いか分からずに右往左往する羽目になったのは確実。結果として往路にタクシーを使用したのは正解だったと思うことにしよう。

 

 到着したバスはかなり大回りしてから駅に向かう。どうやら山代温泉はエリアとしてかなり広大で、総湯のある位置は必ずしも温泉街の中心というわけではないようである。今回は積雪のせいであまり積極的に歩き回れなかったので、自分の足でその土地勘をつかむことはできなかった。と言ってもここを再訪することはないだろうと考える。山中温泉が芸者でドンチャンというイメージがあったように、基本的にこの辺りの温泉地はいわゆる古いタイプのものが多く、基本的にホテルに宿泊する客を想定したものしかないのだろうというのが、山代温泉、和倉温泉訪問しての印象である。ただこのタイプの温泉地は、熱海に象徴されるように近年急激に衰退して行っているのであるが・・・。

 

 バスは十数分で加賀温泉駅に戻ってくる。帰りのサンダーバードの発車時刻まで余裕があるので、時間つぶしに駅前の加賀アートギャラリーに立ち寄る。展示品は地元ゆかりの作家の作品。土地柄工芸品などもあるが、個人的にはあまり印象に残る作品はなし。そもそも展示の規模もかなり小規模であったし。

 考えてみるとここは以前にこの地域を車で回った際に立ち寄っているが、大型商業施設に隣接した施設という認識はあったが、駅に隣接しているという認識は全くなかった。そう言えばあの頃は私の遠征もどちらかと言えば鉄道よりも車の方が主体だった。ただその後、遠征地が遠隔化するにつれて運転が肉体的にしんどくなったことと、高速代が当時は洒落にならないぐらい高かったことなどから移動手段の主体が鉄道に移っていったのだが、そのうちにその移動手段を極めることにはまっていって、気がつけば自分自身以外の全員から「鉄道マニア」と呼ばれる状態に陥っていた。相変わらず何とも無駄ばかりの人生を歩んでいることである。

 

 駅に戻って土産物を買い求めるとサンダーバード待ち。駅にはホテルに送迎されたらしき団体客が既に大勢待機している。列車が到着すると彼らが一斉に乗り込んで車内は満員。大型荷物の乗客が多いので荷物が網棚からあふれている。サンダーバードならぬコンダーハードである。自由席でないので通路にまで乗客がはみ出していないのだけが救いというべきだろう。

 加賀か佐賀かどちらかがこのパロをすると予想はしてましたが・・・

 疲労がたまったのか、列車が発車するとまもなくウトウトとし、気がつくと辺りに雪はなくなっていたのだった。そもそもの主目的が「雪の兼六園が見たい」という意味不明のものであり、そもそも観光色の強い本遠征だったのだが、終わってみると実に「雪を見て風呂に入ってきた」だけのものだったのである。

 

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