展覧会遠征 京都編4

 

 先週は長浜方面に遠征したが、途中で体力切れになってしまって予定半ばで撤退する羽目になってしまった。この時にお流れになってしまったのが京都伊勢丹で開催中の「ラファエル前派からウィリアム・モリスへ」である。どうもこの展覧会とはいろいろな因縁があるのか、今までも各地での巡回の間にわずかのタイミングの差で行けなかったということばかりが繰り返されている。今週はそのリターンマッチ。長年の因縁(?)をこの際に決着させるという意味がある。

 場所が京都駅と言うことで車の使用は避けたい。鉄道でとなった場合、私鉄ならスルッと関西が安上がりだが、京都までとなると私鉄なら時間がかかりすぎる。やはりJRでと考えた場合に浮上したのが「春の関西1デイパス」。非常識なお二人様しばりの切符ばかりのJR西の中で数少ないまともな切符である。関西一円のJRの普通列車が使用できて2900円、後は京阪や叡電に乗れる大原チケットか南海や阪堺に乗れる堺・住吉チケットが付いてくる。そこで考えついたのが比叡山訪問。確か先週から山開きしているはずである。去年に訪問するつもりで結局は行けていなかったことから、この比叡山訪問を組み合わせての京都遠征ということにする。

 

 当日は例によっての早朝出発。新快速で一気に京都駅まで移動。そこから奈良線に乗り換えると東福寺で下車、京阪の改札で大原チケットを受け取ると出町柳まで京阪で移動する。

左 出町柳駅  中央 叡電車両  右 内部はロングシート

 出町柳からは叡電に乗り換え。叡電は鞍馬方面の二両編成と八瀬比叡山口方面のワンマン単両編成が停車している。鞍馬方面は以前に乗車しているが、今回は叡山方面に乗車である。車内はロングシートで乗客は20人程度。ただ京都までは全くそんな気配さえなかったのに、ここに来て雪がぱらつき始めているのが気になるところ。

 やがて列車が出発。鞍馬線との分岐駅である宝ヶ池までは京北の市街地の中である。この間に乗客はバラバラと降りていき、宝ヶ池を過ぎる時には車内は数人になる。ここからは急激に田舎めくのだが、何となく雪が強くなってきたような気がするのがさらに気になるところ。

 

 終点の八瀬比叡山口駅は山間の観光駅という雰囲気。足下がシャーベット状になっているのと、山を見上げると積雪が見られるのに不吉感を抱きながら比叡山ケーブルの駅へと急ぐ。

 叡電八瀬比叡山口駅

 ケーブルの駅に到着すると、私の嫌な予感が的中したのを思い知る。降雪のためにケーブルは運行中止とのこと。また山上のシャトルバスも積雪のために運行停止されているというのである。この時点で早くも計画が全面崩壊である。

   ケーブルは停止中

 さてどうしたものか。このまま京都に引き返すか。しかしそれも馬鹿みたいである。と言ってもここにこうしていても仕方ない。その時に私が持っている切符がそもそも「大原チケット」であったことを思い出す。確認してみると、出町柳駅前から大原までの京都バスに乗車が可能とのこと。正直なところ大原なんて行く気もなかったし、何があるところか分からないので計画もクソもない。確か「京都大原三千院・・・」という歌があったから三千院ぐらいはありそうである。とにかくこんなところでボーっとしているよりはマシだろうと大原行きのバス停に向かう。

 比叡山山頂は雪をかぶっている

 しかし辺りの状態はバスを待っている間にも悪化していき、バスに乗車して暫くしたところで洒落にならない事態に。気が付けば辺りが銀世界である。果たして帰りのバスは大丈夫だろうかと気になるが、もうこうなれば毒食わば皿までである。

降雪が洒落にならないことになってくる・・・

 10数分で大原バス停に到着。観光案内を調べたところ、最寄りは三千院で徒歩10分。他は寂光院で徒歩20分だとか。別に寺院マニアではない私は、近くの三千院を訪問することにする。

 

 土産物屋が並ぶ参道をしばし登っていくことになる。足下が滑るので歩行がややしんどいが、土産物屋は絶賛営業中である。どこも商売熱心で呼び声がかなり賑やかである。現地は雪が降ったり晴れたりと目まぐるしい天候。降雪の方は傘を差さないといけないほどの量ではないが、木の枝に積もった雪がドサドサッとゲリラ的に落ちてくるので、これをかわすために傘を差す必要がある。

三千院の参道は完全に雪景色

 10分ほどで三千院の入口に到着。拝観料を支払うが700円とやや高め。雪の積もった庭園が風情があったり、下村観山や竹内栖鳳の襖絵があったりなんてのが見所。また重要文化財の往生極楽院には国宝の阿弥陀三尊像が鎮座している。平安時代後期の作とのことで、私の好む鎌倉仏像のような荒々しさはない。

 とりあえず最奥部の観音堂まで一渡りを見学して三千院を後にする。雪の風情もなかなかに情緒があるが、ここの本領は桜の春や紅葉の秋だろう。正直なところ、生きた信仰の場という空気は感じられず、典型的な観光寺院のように思われた。まあ私のような無宗教者にはその方が心理的抵抗が少なくて良いが。もっともやや高めの拝観料からも感じられるように、かなり商売熱心な寺院という印象をまざまざと受けた次第。もっとも商売熱心さにかけては、私が今まで訪問した寺院の中では日光東照宮がダントツの一番ではあるが(案内係が説明の最後に必ずお守りのセールストークを付け加える徹底ぶり)。

 三千院を出たところでちょうど昼頃。面倒くさいので門前の土産物屋「おのみやす」で昼食を摂ることにする。天候が悪いせいか客はほとんどいない。私はサービス品という「湯葉そば定食(1000円が900円)」を頂くことにする。非常にオーソドックスな定食だが、湯葉が思いの外に旨いし、さすがに京都だけあって付け合わせもうまい。またこの店の売りという芥子椎茸なんかもなかなか。観光地の土産物屋と侮っていたが、まずまず納得の内容である。

  

 疲労が溜まっているように感じられることから、さらに「ぜんざい(600円)」を追加注文してまったりと一息。なんてことないメニューだが、さすがに京都だけあって餡の味は良い。

 安くて旨いのが大阪だとしたら、京都は旨くて高い地域である。ちなみにまずくて高いのが東京。京都の飲食店はCPはイマイチのところが多いが、絶対的な味ではうまい店が結構多い。この辺りは関西の食文化の深さである。

 

 この間にも雪は降ったりやんだりしている。大原を後にするとバスで再び八瀬駅前に戻る。この頃には麓は雪が止んで晴れており、ケーブルも運行を再開している模様。ただ山上では積雪があってシャトルバスは運行休止とのことなので、山上に上ってもそこからの足がなく、雪の山道をエッチラオッチラ歩く必要があるとのこと。とても今日はそんな気力も体力もないと感じた私は、比叡山は後日に捲土重来することにする。

 

 往路と全く逆のルートで京都駅まで。ここで本遠征の本来の目的である美術館に向かう。それにしてもこの駅ビル。来るたびに使い勝手の悪さにストレスがたまる。余程の大馬鹿が設計したとしか考えられない。まさに「こんな建物は造るな」という活きた見本である。

 


「ラファエル前派からウィリアム・モリスへ」「えき」KYOTOで3/27まで

 

 産業革命華やかしく、近代工業社会を目指していた19世紀半ばのイギリスで発生した芸術潮流が「ラファエル前派」である。これは当時のアカデミーで理想とされていたラファエロでなく、それ以前の初期イタリアルネサンスを模範としようという考えで、ウィリアム・ホルマン・ハント、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ、ジョン・エヴァレット・ミレイなどがその中心となっている。また彼らの周辺にいたのがウィリアム・モリスで、彼は装飾芸術・工芸などにおいて、大量生産を否定して手作りなどを重視したアーツ・アンド・クラフツ運動につながっていく。そのような時代を概観する。

 展示作は絵画にステンドグラス、また家具や装幀など多彩。絵画に関してはハントやミレイの作品はかなり綿密な観察に基づいた写実的な画風が特徴。印象派絵画などと比較すると非常に保守的な印象を受ける。またロセッティについてはやや耽美主義、神秘主義的な傾向を感じて、単純にラファエロ以前への回帰と言うよりも、やはり当時の時代潮流のかなりの影響を受けているように思われる。

 実際ラファエロ前派という芸術潮流は、実はさして明確な中心理念を持ったものではなく、当時のアカデミズムに対する反逆というニュアンスが強かったようである。展示作の中にはラファエロ前派というよりは、むしろアールヌーヴォーの影響の方が濃厚ではないかと感じられる作品も多々あり、この潮流が自然分解のように消滅していったのも理解できないではない。

 


 ようやく長年の因縁に決着をつけた(笑)のであるが、わざわざ京都まで出張る価値はあったなというのが本音。ミュシャ好きの私の目には非常に好ましく写る作品が多く、とにかく個人的に「感性が一致するな」と思われる作品が多々あった。またミレイの作品は一点しかなかったが、やはりこの人物の作品はすごい。

 

 これで本遠征の主目的は終了。京都での展覧会は他にないわけでもないが、京都市美術館の「親鸞展」、京都国立博物館の「法然展」などという宗教関連は明らかに私向きではないし、京都国立近代美術館の「パウル・クレー」は私の好みではないので、あえて今から疲れた身体を東山まで向かわせるドライビングフォースがないしで、いつもよりはかなり早めだが帰宅することにしたのである。

 

 どうもここ最近目に見えて行動力が減退しているのを感じる。身体の調子が今一つなのも事実だが、やはり精神的にかなりへたっているようである。あまりよろしくない傾向である。

 

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