展覧会遠征 近江編
さて、一ヶ月ぶりぐらいの遠征である。ここのところは仕事の方が洒落にならない状況になっていたために、週末は完全にグロッキー状態で、しばらく遠征にも出られるような状況ではなかった。しかしようやくそちらも一段落つき、やっと遠征に出られるぐらいの心身の余裕ができたところ。そこで今回はなまった体を立て直すためのリハビリ遠征でもある。ところで今回の主目的だが、京都国立近代美術館で開催中の「上村松園展」である。
交通機関については毎度のようにJRである。正直なところ、最近のJR西日本のあまりに一人客を馬鹿にした態度(企画切符の類がことごとく「お二人様から」限定ばかりで、往復割引切符の類にまでこの制約をかけるなど明らかに常軌を逸している)を見ていると、鉄道贔屓である私でさえ「脱西」をしたくなるぐらいだが、さすがに目的地が京都となると鉄道以外に選択肢はない。ただ今回は異常化しているJR西日本の中で数少ないまともな切符である「秋の関西1デイパス」が使用できるので、それを利用しようと言う意味もある。それにしても私のような明からさまに鉄道贔屓の人間までアンチに追い込もうとするとは、JR西日本は一体何を考えているのやら。やはりあの尼崎での事故といい、JR西日本の中枢部に巣食っている暗黒のフォースの力はかなり根深いようである。
出発は早朝の薄暗い時。まさしく未明というやつである。まずは米原までの長い道のり。今日は天気は悪くはないのだが、何となく辺りがもやっぽい。どうも先日来かなり黄砂が飛んでいるようである。中国も他国の島を欲しがるよりも、木ぐらい植えて自国の領土を守れというものである。
長い行程の後にようやく米原に到着。ここで乗り換えである。秋の関西1デイパスは近江鉄道も乗車できるので、この際に過去の宿題を解決しておこうという考えである。近江鉄道は以前に彦根−貴生川間は乗車しているが、それ以外が未視察であるので、今回はそれを一気に解決するつもりである。とりあえず写真をとカメラを構えるが、シャッターを押した後に「CFが入っていません」のメッセージが。「しまった!」どうやらCFをカメラから抜いてそのままだったらしい。なんたる失態。どうも1ヶ月遠征を休んでいただけで完全に勘が鈍ってしまったようである。とりあえず、こんな時のためにカバンに忍ばせてある2Gのマイクロドライブを取り出してカメラに装着する。カバンの底に押し込んでいただけにキチンと動くかが心配だったが、どうやら無事に動作はするようである。
JR米原駅を出ると、隣に近江鉄道のプレハブ駅舎が見える。多賀大社行き列車が待っているのでこれに乗車する。
二両編成の電車はそのあだ名の由来の通り、ガチャコンガチャコンと音を立てながらかなりゆっくりと走る。近江鉄道は線形自体はそう悪くないので、投資さえすれば高速化も可能だと思うのだが、その気も体力も全くないようである。路盤がかなり悪いことも乗っていると実感できるが、とにかく運行速度が遅い。
フジテック前(聞いたことのあるメーカーだと思っていたら、有名なエレベーター会社である)を過ぎると、近江鉄道では珍しいトンネルを抜けて、やがて彦根に到着。ここは車庫もある一大ステーションなんだが、何とここで停車時間が10分以上。つくづく高速化の対極を行く鉄道会社である。
ようやく彦根を出るとしばらくJRと併走。ここで後方から新快速がやってきて、あっと言う間に抜き去っていく。明らかに速度の次元が違いすぎ、まさにウサギと亀だが、困ったことにこの亀は途中で居眠りもするのだから端から勝負にならない。
高宮駅で本線と分かれる
高宮に到着すると、ここで貴生川方面に向かう本線と分岐して多賀大社方面の支線に入る。ほとんどの乗客が本線の方に乗り換えていく。しかし本線に遅れが出ているようでこちらの出発もしばし待たされる。数分遅れてようやく高宮を出ると多賀大社へは5分ほどで到着。延々と田んぼの中を走る路線だが、多賀大社周辺には門前町が存在する。
多賀大社駅
さてこれからだが、帰りの列車まで30分程度しか時間がない。多賀大社までは1キロ弱だから訪問するには時間的にはギリギリであるが、駅でボーっと列車を待つだけでは長すぎる時間。わざわざここまで来たのだからと、意を決して多賀大社に向かって早足で歩く。
多賀大社周辺 多賀大社周辺の街並みはややレトロな懐かしいもの。多賀大社が近づくと、その辺りは完全に観光地化しており、観光バスなどがやって来ている上に土産物店なども多い。とりあえず多賀大社で手早く参拝を済ませるととんぼ返りで駅に戻ってくる。
駅到着の数分後にやって来た電車で高宮まで逆戻り、ここから八日市方面に移動だが、やはり本線のダイヤは乱れているようである。数分遅れで列車が到着する。二両編成の車内は乗客を満載しており、沿線人口がそう多くは見えない割には利用者は多いようである。またラッピング列車も多いし、車内広告も結構ぶら下がっており、広告料収入はそれなりに得ているようである。
高宮に到着したコカコーララッピング列車
八日市までは以前にも通った新幹線沿いの田んぼの中。八日市は近江鉄道の沿線では比較的大きな都市。ここで近江八幡方面に向かう八日市線に乗り換える。八日市線沿線はやはり田んぼであるが、本線沿線よりもむしろ民家は多い印象。やがて到着する都会が終点の近江八幡である。
左 高架上から見た八日市駅 中央 この列車で近江八幡まで移動 右 近江八幡駅に到着 さて次の予定だが、まずは石山寺を目指す。秋の関西1デイパスは近江鉄道が乗り放題なだけでなく、実は京阪大津線か南海高野線のいずれかの1デイパスももらえるようになっている。そこで近江鉄道だけでなく京阪大津線の宿題も解決しておいてやろうと思い立ったわけである。大津線に関しては、石山坂本線の石山−石山寺間と浜大津−坂本間という両端部分が未視察のままである。石山までJRで移動すると、京阪石山駅で大津線の1日乗車券を引き換える。
1デイパス入手 ここから石山寺行きの列車に乗車する。この京阪石山駅自体が建物の間の隙間のような印象がある駅だが、そこに到着する車両も車幅が狭い独特のもの。その上に架線がやや高めなので、とにかく縦に細長い車両という印象を受ける。京阪は標準軌の路線なのに、その上をやけに車幅の狭い車両が走行するという奇妙な光景である。
明らかに車両幅が狭い 石山駅を出た列車は建物の隙間をウネウネと曲がりながら抜けると、田んぼの真ん中をしばし走行することになる。やがて瀬田川沿いに出てくると終点の石山寺である。
石山寺駅
ここまで来たのだから、ついでに石山寺を見学しておくことにする。鉄道マニアではない私としては、やはり終点で乗ってきた列車でそのまま折り返しということはあまりしたくないということもある。
参道筋は結構長い
石山寺駅からは参道筋が延びているので、瀬田川を眺めながらプラプラと散歩がてらに歩く。石山寺までは普通に歩くには特に問題があるという距離ではないが、ただ意外とだるい距離であるのも事実である。また川沿いの道路を多くの車がバンバンと走り抜けていくので空気も悪い。何とも中途半端な位置に駅がある印象。この辺りは山が川に迫りすぎているため、路線を延ばせなかったのだろうか。
ようやく到着した石山寺周辺は、多賀大社周辺以上の観光地であった。もう昼時であるので、石山寺見学の前にとりあえず昼食にすることにする。しかし最初に入った店は団体客の予約で一杯とのこと。やむなく別の店に入店する。今回入店したのは「洗心寮」。土産物屋と食堂が一体になっているようないかにも観光地レストランである。ここでシジミ釜飯とコイの洗いがセットになった「唐橋(2100円)」を注文する。
15分以上待たされてようやく炊きたての釜飯が到着する。釜飯についてはシジミの風味がそう強く出ているという印象はなく意外と地味。むしろシジミ汁の方がシジミの風味は強い。なおコイの洗いについてはさすがにうまい。やはりコイとは実に味の強いうまい魚である。炊き合わせについてもなかなかに良い味。
腹が膨れたところで石山寺の見学。拝観料を払うと(これが500円と意外に高い)、見学順路に沿って本堂から見学を開始。見学順路は山の下から徐々に上に上がって、最後にはまた降りてくるというコースになるのだが、山の上に行くとさすがに紅葉が結構色づいている。なお石山寺は非常に観光に特化した寺という印象で、信仰の場所と言うよりは寺をモチーフにしたテーマパークのような印象さえも受ける。まあ信仰心が皆無というよりは、むしろ宗教を嫌っている私としては(宗教は人類の次のステージへの進化を妨げている旧弊の最たるものというのが私の持論)、高野山などのような今でも現在進行形の信仰の場よりは、ここまで割り切って観光地になっている寺院の方が心理的抵抗がなくてかえって見学はしやすいが・・・。なおこの寺は紫式部と関わりがあるらしく、各地に彼女のモチーフが散在している。
左 石山寺山門 中央 奥に見えるのが多宝塔 右 本堂は重要文化財 左 上から望む本堂 中央 心経堂 右 光堂 左 紫式部の像 中央 周辺は紅葉が美しい 右 無憂園 一周して帰ってきた時にはアップダウンの多いコースのせいでかなりクタクタになってしまった。やはりデスクワークばかりの日々はかなり身体をなまらせてしまっているようで、リハビリ遠征にしてはきつすぎたようである。石山寺駅までのだるい道のりを歩いて戻る気になれず、バスに乗車する。
左 石山寺駅で待つ龍馬列車 中央 内部には龍馬のステッカーが 右 龍馬列車(近江神宮駅にて) 石山寺駅で龍馬列車に乗り込むとこれで移動。浜大津まではJRを越えたりくぐったりの結構ウネウネした路線。浜大津に到着するとここからが未視察領域。浜大津から次の三井寺までは路面区間になっている。京阪の車両は路面規格ではなくて郊外列車規格の車両なので、大型列車が道路の真ん中を走るという珍しい光景になっている。
浜大津での路面区間
三井寺からは再び専用軌道。ここからはほとんど直線の線形となるので、列車は結構高速で走行する。路盤もしっかりしているようだし、大津線の中では一番高規格の区間であるようである。私の乗車した列車は近江神宮前止まりだったのでここで乗り換え。近江神宮駅には車庫があり、また駅の裏には近江大津宮錦織遺跡なる史跡がある。ただこれは住宅街のど真ん中の広場に柱が三本立っているだけのもので、説明板がなければ何のことやらさっぱり分からない。
錦織遺跡は柱が三本あるだけ
次の列車に乗り込むと終点の坂本まで。これで京阪は京阪線も含めてすべて視察完了である。この坂本からは比叡山ケーブルの駅まで向かうバスも出ているが、今日は比叡山まで行っている暇はないし、駅前は何やらイベントがあった模様でやけにごった返しているので、ウロウロする気にもなれずすぐに引き返すことにする。浜大津で京津線の列車に乗り換えるとこれで京都入りする。次が本遠征の主目的である。
坂本駅前は何やらごった返していたのでさっさと折り返す
「上村松園展」京都国立近代美術館で12/12まで
京都画壇を代表する女流日本画家で、凛とした美人画で知られている上村松園の作品を集めた展覧会である。
彼女の作品は一貫して「女性を最大限に美しく描く」ことを目的として制作されたものであるので、とにかく一見しただけでも「美しい」と感じる絵画が多いのが特徴である。また彼女の美人画は「品がある」と評されるが、それは彼女が描く女性の姿には媚びが見られないからである。ただその中でも彼女の作風は変化し続けている。本展では作品がほぼ年代順に並んでいるので、その変化をよく感じることが出来る。
美しくはあるが繊細すぎてか細さを感じる初期の作品。内面に燃えたぎるような感情を秘めつつもそれを抑えているように見える中期の作品。そしてすべてを達観したかのような柔和さを感じさせる晩期の作品。恐らく彼女自身の内面の変化と連動しているのだろうと思われる作風の変化が明らかに見て取れる。
人気のある画家だけに、松園の作品は各地で目にすることが多いが、これだけの規模でまとまって展示される機会はそう頻繁にあるというわけではない。なかなかに貴重な瞬間であった。
人気画家である上に秋の京都と言うことで会場内はかなり混雑していた。ただ今回の主目的としては十分に価値のある展覧会であった。
これで本遠征の予定は終了である。夕方になっているので夕食を摂ってから帰ることにする。立ち寄ったのは「御食事処明日香」。定食類の充実した店である。私が注文したのは「豚味噌鍋定食(1200円)」。
味噌鍋と言っても味が濃すぎず、普通に出汁まで飲めてしまうのは名古屋と違って京都流。ボリュームのあるメニューではないが、非常に食が進む。
ふと回りを見渡すと「はも天ぷら定食」を食べている客が多く、なかなかに天ぷらが旨そうである。そこで「はも天ぷら(1000円)」を単品で追加する。やはり京都といえばはも。はもはかなりあっさりとした魚であるが、こういう天ぷらにするとこくがついて実に旨い。サクサクとした揚がり具合も見事。
夕食を堪能した後は、地下鉄で山科まで移動、そこから長い帰宅の途についたのである。いろいろな意味で堪能した久しぶりの遠征であったが、さすがに列車移動が長すぎて翌日になると身体のあちこちが痛んで苦労する羽目になった。今後に向けて体力の回復も図る必要があるようである。
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