展覧会遠征 広島・松山編

 

 さて2009年に突入したが、その冒頭を飾る遠征は私のホームグラウンド化してきている広島と松山に繰り出すことにした。この地域が浮上したのは、まずはガソリンの価格低下によってようやく自動車による遠征が可能となってきたこと。また四国は今まで何度か訪問しているが、すべて鉄道やバスによるものだったため、車でないと行きにくい施設が宿題として残ってしまっており、車での四国訪問というのは長年の課題であったわけである。しかしまだそれを阻むのものとして本四連絡橋の異常に高い通行料金があった。

 しかし状況に変化があった。景気対策として高速料金が下げられた一環として、本四連絡橋にも休日昼間割引が導入されたのである。これを利用したら通行料金が半額になる。となると、まさに「今しかない」となったわけである。また以前より一度しまなみ海道を渡ってみたいとの気持ちもあった。となると必然的に四国の対岸は広島となるわけである。

 しかしこの時期の車での遠征にはリスクがある。それはいわゆる降雪リスク。雪が積もることなどまずない地域に住んでいる私は、タイヤはノーマルタイヤしか持っていないし、チェーンなんかも当然持っていないと言うわけで、もし雪が降ると全くお手上げになってしまうのである。そしてその懸念が現実のものとなりそうな気配が出てきた。なんと週末から全国的に大量の降雪があるとの天気予報。とは言うものの今更計画の変更は無理だし、鉄道を使ったのならそもそもの遠征の主旨が意味不明になる。結局は万一のためのお守り代わりに、初めてチェーンを購入し、とりあえず着脱の仕方を付け焼き刃で訓練し、後は出たとこ勝負となったのである。

 

 出発は土曜の早朝・・・というよりも金曜の深夜。いつもなら通勤割引で100キロずつ刻むところだが、今回は300キロを超えているし、現在は深夜割引が特例措置で50%にあがっているので、深夜割引を使うことにしたのである。早めに床にはついたものの、そんな急に早寝できるわけではなく寝不足気味の状態で出発。いつもなら高速道路に乗るのはなるべく先まで引っ張るのだが、今回は時間が限られているので手前で早々に乗ると、真っ暗な中をひたすら疾走する。外気温はかなり低いので路面が凍結している可能性があり、いつもよりも慎重に運転する。

 山陽自動車道は岡山の手前や広島の手前で山岳部に入っている地域があるが、そのようなところに行くと突然に雪が降ってくる。チェーンが必要になりそうな量ではないが、それでも覿面に足下が怪しくなってくるので、さらに速度を抑えての走行が必要になる。紆余曲折はあったものの、無事に徳山に到着したときには、すでに東の空は明るくなっていた。想定よりは長時間を要したが、その分出発時間も早めていたので、だいたい予定通りの到着である。

 さて徳山での予定であるが、実はまずは「21世紀の地域振興と交通について考える市民の会代表(自称)」としての行事が入っている。この地域に残っている唯一の未調査路線である岩徳線を調査しておいてやろうというのがその目的。

 岩徳線とはその名の通り徳山(正確には隣の櫛ヶ浜から分岐)と岩国をつなぐJRの路線である。ちょうど山陽本線の迂回線であり、赤穂線や呉線などに似ている。しかしこれらの場合には内陸路線を本線に選んだ山陽線が、なぜかこちらでは海岸線の方を本線に選んだことで、岩徳線は単線非電化路線として取り残されることになったという次第(距離は近いのだが、傾斜がきついことが嫌われたとされている)。

 徳山駅前の駐車場で車を止めると、岩国までの往復切符を購入して岩徳線のホームに向かう。ホームに待っているのは、この辺りの非電化路線でよく見かける車両。どうやらキハ40系というタイプの単両編成。セミクロスシートタイプの車両内には高校生らしい団体が乗車している。

 

 列車は重い音を立てると動き出す。隣の櫛ヶ浜でさらに乗客を乗せると山陽本線と分かれていよいよ単独行。ちなみにこの路線の経路自体は山陽本線のショートカットコースになっているので、新幹線や道路などはこの路線と類似したコースを通っており、途中まで新幹線の高架がすぐ隣に見える。

 隣の周防花岡で高校生の団体が下車すると車内は少々閑散とするが、それでも各駅で細かい乗り降りが多い。山間部を通行するのでほとんど人家が見えなくなるような地域もあるが、途中の周防高森などは大きな集落で、ここ以東は車内はかなり混雑する。

 1時間20分ほどを要して岩国に到着。久しぶりの岩国駅前を見学すると、すぐに今度は山陽本線で徳山にとんぼ返りである。こちらは複線電化路線なので、経路が長いにも関わらず車両速度が速いせいで所要時間はむしろこっちの方が少ない。また途中で海がそこに見えたりなど見所が多い。

 岩徳線に乗って一番に感じたのは、とにかく車両の運行速度が遅いことである。かなり傾斜がきついと思われるにも関わらず、車重の割には非力と言われている40系を投入しているので、余計に速度が出せないのだろう。しかも単線であるためにすれ違い待ちなどで長時間の停車があり、結果としては全線走破にかなりの長時間を要することになってしまっており、ショートカットコースとしての意味はなしていない。この路線でも最新の強力なディーゼル車両を投入すれば世界は変わるのだろうが、そもそも長距離移動には新幹線を使用させるために、山陽本線さえ露骨な冷遇をしているJR西日本において、それは全くあり得ない話である。結局はこのまま地域路線として鈍重な車両が運行され続けることになり、いずれはモータリゼーションの進行で片隅に追いやられる運命になりそうである。

 徳山に戻ってくると本来の美術館遠征に復帰である。まずは地元の美術館へ向かう。しかし到着すると駐車場が満車状態になっていて驚く。今まで地方の美術館でこんな経験はまずない。


「人形作家与勇輝の芸術世界」周南市美術博物館で1/18まで

 NHKの人形劇などで有名な川本喜八郎らと共に人形作家グループで活躍していたこともある与勇輝は、布の質感を利用した独特の叙情あふれる作品で人気がある。近年では海外でもその作品が紹介されて好評を博したとのこと。

 本展出展作は昭和初期頃をイメージした有名なシリーズなどが中心で、特に小津安二郎の映画の世界とリンクした一連の作品はリアリティは注目である。また近年の妖精をテーマにした幻想的な作品も併せて展示してある。

 布でこれだけリアルな表現ができるというのは驚きだが、レトロムードが漂う世界の作品は、ある年齢以上の日本人には絶対逆らうことのできないモチーフであり、見学しながら思わず「これは卑怯だ」なんて言葉が出てしまったぐらい。小津のシリーズなど、誰がモデルになっているかまで分かってしまうリアルな表現力は、一般的な布人形のイメージとは全く異なる次元のものである。


 駐車場が満車になっていたのに驚いたが、出し物を見て納得。非常に一般受けしやすい内容であり、多くの入場者がやってきたのもさりなん。

 美術館の見学を終えたところで既に昼時である。昼食をとることにする。今回昼食をとったのは徳山市街のややはずれにある酔牛亭。昼食用のコースである酔牛亭コース(1680円)を頂く。

 ここの店の形式は変わっており、鉄板のそばでまず食事をしてから、場所を移ってデザートを頂く形式になっている。料理の方はステーキにあと一品を選べるようになっており、私はホタテのソテーを注文。目の前で焼かれる肉類が食欲をそそる。またこの店がよく考えているのは、焼きあがった肉をすべて皿に盛ってしまうのではなく、半分は鉄板で保温状態にしてから出してくること(この間に焼きが進まないようにうまくコテを利用している)。万事に細かい心遣いが効いている印象。またデザートもなかなかに本格的で、メニュー全体がグレードが高い。ランチで1680円というのはやや高めに感じるかもしれないが、それ以上の高級感と満足感があるために、実際にはむしろ安く感じられるぐらい。

 

目の前で肉を焼いてくれます

 

ここで皿に盛ってある肉は半分。残り半分は後で。

 昼食を堪能した後は、再び高速道路に乗って広島にUターン。広島の美術館を自動車で回ろうとするが、なぜか今日はとこも駐車場がいっぱいで車を止める場所がない。やむなくまだチェックイン時間前だったがホテルの提携駐車場に車を入れ、チェックイン手続きも済ませてしまう。しかしおかげで駐車料金が余分に発生する羽目に。

 車を捨ててしまうと広島市内は路面電車で動けるので非常に便利である。


「オールドノリタケと懐かしの洋食器」ひろしま美術館で2/1まで

 

 明治期、日本は陶磁器などの工芸品を国策として積極的に輸出していた。しかしながら当初はジャポニズムブームと共に人気を博した日本の工芸品も、欧米の流行の変化と共にズレが生じるようになった。そこで欧米の陶器の最新の流行なども取り入れた新たな日本流洋食器が作られることとなった。これらの洋食器は後にノリタケブランドなどで確立されることになるが、その前身となる森村組と日本陶器による輸出用陶器が一般に言われるオールドノリタケである。欧米での流行を取り入れつつ独自に進化したこれらの洋食器について展示したのが本展。

 一見して分かるのは、明らかにマイセンなどの影響を受けているというか、模倣から始まっているということ。しかしそこは「モノマネから始まって、最終的にはオリジナルを越える」と言われている日本のことである。伝統的な陶器の技術なども活かして日本流の発展を遂げている。その辺りが見ていても非常に面白い。

 とは言うものの、基本的に私は陶器は分からない人間だし、食器に関しては「壊れても惜しくないものを使用する」というのを原則にしている人間なので、マニアが陶磁器に対して燃やした情熱だけはどうしても理解しがたいのではあるが。


「国宝を創った男 六角紫水展」広島県立美術館で1/12終了

 

 明治維新を迎えて欧風化政策の中で日本の伝統工芸は瀕死の状態に陥りつつあった。そんな中で国宝指定などによってこれらの伝統工芸を守ることに貢献したのが、漆芸家の六角紫水であった。本展ではそんな彼の作品と共に、彼が保存のために大きく貢献した中尊寺金色堂にまつわる資料などを展示してある。

 漆芸家の立場から、彼は高価な輸入塗料を使用せずに安価な国内の漆を使用することを主張し、その考えに基づいてつくられた鉄道客車にまつわる資料などがあったのが興味深かった。当時はこの方が安上がりの上に国内工芸の保存になって良かったのだろうが、現在にこれを作るととんでもなく高価につきそうである。

 なお個人的には漆器は陶器に増して分からないので、彼の作品の斬新さは何となく分かっても、それ以上は深い理解がなかなかできなかったのが本音。


 さて美術館を回り終わって腹が減った。これから夕食にすることにする。広島でこの時期と言えばやはりカキだろう。今回予約したのは「柳橋こだに」。実はこの店とは因縁があり、今まで3回行こうとしてそのたびに満席で入店できなかったという人気店。今回は4度目の正直と言うものである。注文したのは「かきたっぷりコース(6500円)」。

 まず最初に登場するのはカキの塩辛。これはうまいのだがかなり塩味が強く、酒の肴向き。これは酒を飲まない私には少々つらい。それにカキの時雨煮。カキを醤油系の味付けで煮込んだものである。これは味付けが絶妙でなかなかにうまい。

 

 次は定番のカキフライ。これもなかなかである。さらに酢ガキであるが、ここの酢ガキは生牡蠣ではなく、軽く湯通ししてあるとのこと。

 

 そして焼き物2種。殻付きカキとカキの昆布巻きである。やはり私にはこういうオーソドックスな焼き物が一番うまい。昆布巻きはほのかに昆布の風味がついているが、基本的には焼きガキとそう大差ない。

 

 メインはいわゆる土手鍋。しかしこれだけ圧倒的な物量のカキ料理攻勢に合うと、少々つらくなってきたのが本音。しかもこの土手鍋、私には味付けが少々辛すぎる。以前よりどうも私は土手鍋という料理とは相性が良くないということを感じていたのだが、特にここの土手鍋は相性があまり良くないようだ。

 料理の最後は雑炊であるが、まさかこの濃い鍋の出汁で雑炊をするのでは?と思っていたが、そこは考えてあり、柚子などを加えたさっぱりとした全く別の味付けの雑炊が登場した。よく考えてあるとは思うが、さっきの土手鍋で少々胸が悪くなっている私にはあまり救いになっていなかったような。これにフルーツがついてコースが終了である。

 圧倒的な物量には驚かされるが、私には少々物量が過ぎたという印象。またこれは好みの問題だが、全体的に味付けが濃いめであるように感じた。そしてこれを確信したのが、この後に追加注文した「う巻き(925円)」を食べた時(この店はうなぎでも有名である)。明らかに私の好みよりもかなり塩辛い味付けになっている。全体的にCPは高いと思うので、人気があるのは納得できるのだが、味付けの方向性は残念ながら私の好みとは少々ずれているようである。

 う巻き

 夕食を堪能した後は路面電車でホテルに帰還。なお今回私が宿泊に利用したのは「ドーミーイン広島」。私が利用するホテルの中では宿泊料が若干高めだが、大浴場と充実した朝食がセールスポイントになっている私向きのホテルである。この日は早速ゆっくりと風呂に入り、マッサージチェアで体をほぐしてから眠りにつくことにする。

 

 翌朝の起床は6時30分。ホテルで朝食を済ませると、今日の計画を再検討。実を言うと今回の遠征はかなり行き当たりばったりで、今日の予定はきちんと立てていなかったのである。なんやかんやでホテルをチェックアウトしたのは8時過ぎ。それから後はひた走りである。まずは山陽自動車道で福山西まで、そこからしまなみ海道へとはいる。昨日は雪でに難儀したが、今日は一転して好天であって走りやすくペースもあがる。

 

 

オンボードカメラの映像

 予定よりも早くしまなみ海道に突入。しまなみ海道は島をつないでいるルートになっているので、橋が多いのが特徴。それぞれの橋ごとに特徴があって風景としては楽しい。ただ難点は対面二車線の部分が多いので、一台遅い車がいるとそこでつかえること。しかもそういう運転をする輩に限って、後ろの車に道を譲るということをしない。後ろに渋滞を作ることに快感を感じているのではないかと思うぐらいである。

 それでも所々にある追い越し車線でそれらの車をやり過ごしながら、なんとか今治に到着。まずは最初の目的地は今治城である。

 今治城は藤堂高虎によって建造されたという水城である。海水を引き込んだという大規模な堀が特徴であり、このうちの内堀は現在も遺構が残っているのでその雄姿を堪能することができる。なお現在は門、櫓、天守などが再建されているが、この天守についてはそもそも今治城には天守が存在しておらず(建造後すぐに移築されたと言われている)、現在の天守はその位置も形態も根拠がほとんどないことから、マニアの間では「とんでも天守」扱いのようである。

 

北側から見た今治城と鉄御門

 とは言うものの、この鉄筋コンクリート製の天守は、中から見学する分にはお粗末感はあるものの、外から見た姿は石垣に映えてまずまずである。また何よりも天守からのしまなみ海道を望む眺望は抜群で、再現天守の主目的である「展望台」としての機能は十二分に果たしている。

 遠くしまなみ海道を望める

 なお建築物としては木造で再現した鉄御門の方が風格の点で数段上なので、いわゆる建造物マニアの場合はこちらは是非とも見学しておくべきであろう。現在は内部に何も入っていない状態なので、逆に建物自体を鑑賞しやすくなっている。

 今治城の見学を終えた後は市内の美術館へと移動する。


今治市河野美術館

 故河野信一氏の寄贈した美術品と資金によって建造した美術館。収蔵品には屏風や掛け軸などに優れたものがある。

 ただ指定文化財になっているという屏風についてはほとんど展示がなし(貸し出しているようである)、全体的に展示内容は地味めで、特に書簡類が展示物に多いのが私には今一つに感じられた最大の理由。個人的な収穫としては河鍋暁斎の作品が一点展示されていたことか。


 これで今治市での予定は終了。後は松山まで移動であるが、このまま松山に直行するのでは面白くない。今朝に主に再検討したのはその予定である。まずは今治から松山に向かうルートの近くにある温泉に立ち寄る。

 立ち寄ったのは清正の湯。しまなみ海道の今治出口から少し南に行ったところにある温泉施設である。ここはいわゆるスーパー銭湯タイプの施設と、竹庭と称した別施設がある。私が行ったのはこの竹庭の方。ここはその名の通り竹林の中にある閑静な温泉施設となっている。

 

 温泉においての大敵はやはり子供としか言いようがない。大声をあげて走り回り、しかもプールと区別がつかずに浴場の中で泳ぐ、果ては中で小便までする馬鹿ガキの存在は温泉気分を一気にぶち壊す不快なものである。この竹庭が一番素晴らしいのは、入場を大人限定にしていることである。つまり子供連れは温水プールも併設している隣の施設に行ってくれと言うわけで、見事に客のニーズに合わせて施設を分けているのである。

 泉質は含放射能−ナトリウム−炭酸水素塩泉とのこと。泉質がアルカリ性であるので入浴するとヌルヌル感がある。また殺菌に塩素を使用していないとのことで、あの不快な塩素臭もない。設備としては泡風呂もある内風呂に露天風呂が2種。その内の一つは非加熱の源泉風呂である。また竹炭を利用した45℃の低温サウナがあるが、これはサウナ特有の暑苦しさがないので、サウナが苦手な私でも楽しめるものであった。

 入浴料は1000円と若干高めであるが、これでタオル類がすべてついてきて、入浴後のお茶とお茶菓子のサービスもある。なんといってもこの静かさの中でのゆったり感は何物にも替え難いものがある。この後の予定がなければもっとまったりと時間をつぶしたかったところである。

 泉質・環境共に素晴らしかったので、次回はもっとゆったりと楽しみに来たいと思いつつ(次回なんてあるのか?)、昼食のために移動する。

 今回昼食を摂ったのは、この辺りでは有名な手打ちそばの店「あ庵」。人気があるのか昼食時間よりはやや遅めにもかかわらず、店内は満員である。まず注文したのは「鴨なんば(1100円)」。

 

 そばの歯ごたえなどがさすがに絶妙。また鴨肉もなかなかに良いものを使用しており、実に香ばしい。人気があるのも納得できる内容。これだけのそばだとやはり温そばではなくて冷そばも欲しくなる。と言うわけで「天ざる(1150円)」を追加注文する。

 やはりそばの腰が良い。腰があるのに硬すぎないという良くできたそばである。そばの感触を楽しみながら一気に完食してしまう。

 昼食をとった後は山道を松山まで突っ走る。途中で沿道にある美術館に立ち寄る。ここは車でないとまず立ち寄れないところである。


玉川近代美術館

 山の中にある美術館。所蔵品は近現代の美術品だが、美術館の規模の割には蒼々たる作品が揃っている。個人的には浅井忠や黒田など「近代」の作品に面白いものがあった。ただそれ以降の作品についてはお呼びでないというところ。特にウォーホルのマリリン・モンローはもう飽きた。


 美術館の見学を終えるといよいよ松山に向けての山道ドライビングである。道路は対面2車線でかなりカーブはキツイものの、道幅自体は広くてかなり走りやすい。遅い車を追い越し可能区間でやり過ごしながら、久々の峠ドライビングである。とは言っても私の運転の腕と言えばまさか豆腐屋さんレベルのわけもなく、せいぜいコンニャク屋程度である(笑)。カローラ2はかなり非力な車であるが、車重が軽いのが幸いしてこういうところでは運転がしやすい。ガソリン高騰のせいで去年1年間ほとんど車に乗っていなかったせいで、かなり運転の勘が鈍っているのを感じていたのだが、昨晩の雪道ドライビングとこの峠ドライビングでようやくリハビリとなったようである。

 車内でトランクを右に左にゴロゴロさせながら、予定よりも若干速いペースで松山に到着するが、市内に突入した途端に大渋滞。結局はホテルの駐車場に車を入れたときには、当初の予定よりも若干時間を過ぎていた。

 今回の宿泊ホテルは、松山での私の定宿である「チェックイン松山」。今回は初めての車での利用だが、駐車場が近くにあって便利である。とりあえずチェックインをすませると、荷物を部屋に放り込んで再出撃。路面電車を使用して本遠征の第一目的地である愛媛県立美術館に向かう。広島といい、松山といい、やはり路面電車のある町は便利が良い。

 美術館が近づいてくるとがどうも嫌な予感がし始める。と言うのも、やけに多くの人間が美術館に向かって歩いている。これは今までに見たことのない光景である。現地に到着すると嫌な予感は的中。なんと数百人(千人近くいたかも)の入場者が入場待ちをしており、1時間待ちという状況。表には「日を変えてご来場ください」との張り紙があったが、まさか出直すわけにもいかないので、延々と待つ羽目になった。

 ジブリがらみのイベントの集客力を侮っていた。おかげでこの日の計画は完全に崩壊である。ところで、宮崎某事件の時や、最近でも秋葉原の事件などが発生すると、「アニメファンは犯罪者予備軍」みたいなことをしたり顔で語るインチキ臭い評論家がよくいるが、彼の考えに従うと日本はどうやら犯罪者だらけの国のようである。それどころか親子連れがかなり多かったことから、自分の子供を犯罪者予備軍に育成しようとしているとんでもない親もかなりいるということになる。


「ジブリの絵職人 男鹿和雄展」愛媛県美術館で1/18まで

 

 一連のジブリのアニメ作品は、トトロの森に代表されるようなリアルで自然な風景が印象に残るが、これらの背景を手がけたのが男鹿和雄氏である。「となりのトトロ」や「もののけ姫」に美術監督として作品に携わった彼は、宮崎駿監督からの絶大な信頼を受けていた。彼の作画の特徴は徹底的な観察と卓越した技術によって空気感までもを表現していることである。またあくまでアニメの背景という目的を忘れることなく、全体の調和もを考えた上で設計してある。

 ここまで行くと単独の芸術作品という域だと感じられる。これが「背景」なわけであるから、ジブリ作品が世界からも絶賛を受けるわけがつくづく理解できるというわけである。なおジブリを退職した後に彼が携わった作品などについても展示してあるので、彼の近況を知るにも良い展覧会である。


 計画よりもはるかに時間を要してしまったので、これで松山での予定は終了になってしまった。後は路面電車に乗って夕食を食べに行くことにする。

 

 夕食は例によって道後温泉の「味倉」。今回注文したのはご当地料理の「ひゅうが飯(1050円)」。これは熱々のご飯に溶き卵をかけ、半熟状態になったところにたれにつけたタイの刺身を乗せ、その上から薬味を加えたタレをかけるという代物。店の説明によると、これが「元祖鯛飯」なのだそうな。卵に刺身という組み合わせに少々疑問を感じていたのだが、いざ口にしてみる芳醇で濃厚な風味で想像以上にうまい。

 

 さらに前回感動した「カワハギの刺身(1491円)」も追加注文。目の前の生け簀から連行されたカワハギが見事な刺身になって戻ってくる。絶品の肝の味にうっとりとする。

 これで夕食を終わろうかと思ったのだが、品書きを見ると「頬たれ茶漬け(630円)」なるメニューがある。頬垂れとは鰯を醤油につけ込んだものらしい。多分ネーミングは「うまくて頬が垂れる」なんて辺りから来てるのだろうが、鰯が好きな私としては強く心惹かれる。そこで追加注文。

 

 でてきた茶漬けを見ると以外にボリュームがある。「これは全部食べきるの無理かな」と思いながら、鰯を並べるとお茶を一気にかけきる。そして一口。「うまい!」思わず声が出る。骨まで柔らかくなった鰯の風味がたまらない。また少し添えられているわさびが薬味としてよく効いており、非常に全体のバランスがよい。味わいは濃厚なのに、口当たりがさっぱりしているのである。気がつけば私は夢中でガツガツと飯をかき込んでいた。あっと言う間に完食してしまったのである。

 またも腹一杯夕食を堪能してしまった。これでトータルで3171円なのだから、CPが抜群である。

 夕食をすませると一端ホテルに戻る。今度は荷物から三脚を引っ張りだしてきて、夜の松山市街の撮影である。実は今回はわざわざこれだけのために三脚を持ってきていた(こんなことができるのも車での遠征ならではであるが)。実は前回の遠征時、ライトアップしている松山城の美しさに撮影をしようとしたのだが、三脚なしではブレブレでまともな写真にならなかったのである。それが心残りだったのでリターンマッチである。

 撮影ポイントを求めて歩いたり、路面電車で移動することしばし、さらに今回はいろいろと撮影条件を試し、露出をカメラの自動設定よりもかなり落とすことで何とかイメージに近い写真を撮影することができたのだった。ちなみに夜に三脚をぶら下げてウロウロしている私の姿はかなり異様に映ったかもしれいないが(こんなことしてるから、職業カメラマンと間違われるんだろうな・・・)。

 

 夜景撮影から帰還した後は、奥道後から引き湯しているというこのホテルの風呂を堪能。そしてそのままやや早めに床についたのであった。

 

 翌朝の起床は6時30分。まずは朝食をホテルで済ませると天気予報のチェック及び今日の計画の検討。どうやら今日は雪が降る可能性があるとのことで要注意である。計画の微調整をして、ホテルを出たのは8時過ぎ。しかしこの時、松山はかなりの雪が降ってきて驚かされることになる。

 幸いにしてその雪はすぐにやんだ。しかし高速は所々で降っている雪と強風のために速度規制がかかっている状態。実際、南部の山岳地帯ではかなりの雪が降っている模様で、山が真っ白になっている。強風にフラフラとあおられながら、そのまま川之江まで突っ走る。

 

 川之江までやってきたのは川之江城を見学してやろうという考えである。川之江城とは、そもそもは南北朝時代に建造された城で、豊臣時代に廃城になっているとのことであるから、史実上はここに天守閣があったという記録はない。それにそもそもの城は仏殿城と呼ばれていたように、本来は仏殿であったという。そこに川之江市の市政30年記念事業とかで、天守閣を建造したのだとか。そういうわけなので歴史的根拠が限りなく皆無に近いいわゆる「とんでも天守」である。

 以前に鉄道でこの地域を通過した時に車窓からここの天守は目にしていたが、とんでも天守の割にはその外観は意外に立派であり興味を感じたというのが、今回わざわざ訪問した理由である。

 城山への道は車一台がギリギリ通れるぐらいの狭い路であり、その上に傾斜とカーブがキツイ。しかもこの頃になると天候が大荒れで、暴風雪状態で視界も悪い。万一対向車が来たら万事休すのところだったが、幸運にも他の車とすれ違うことはなかった。そのまま山上の駐車場に車を止めて見学である。

 

 天守閣と櫓や門が鉄筋コンクリートで復元してある。いわれの怪しさはともかくとして、外から見る分には結構様になっている。またここの天守からは瀬戸内海を見下ろすことができる。もっともこの時は台風並みの強風にさらされて大変だったが。

 川之江城の見学を済ませると、再び高速に乗って次は丸亀へ。以前に丸亀を訪問した時に立ち寄れなかった美術館を2カ所立ち寄る。


中津万象園・丸亀美術館

 万象園はそもそもは丸亀藩主の屋敷の庭園だったという。この庭園内に美術館が建造されており、和洋の絵画を展示した絵画館、古代オリエントの陶器を展示した陶器館、さらにひな人形などを展示したひいな館が点在する。

 私の興味としては絵画館になるのだが、特にバルビゾン派を中心とした洋画のコレクションがレベルが高く、コローの作品など面白いものがかなり含まれていた。


 和風の庭園をじっくりと散策した後、さらに次の目的地に移動する。

 

 


丸亀平井美術館

 スペインの現代美術を展示した美術館。ただ展示品についてはやはり現代アートは私の感性とはマッチせず、あまり面白いと感じる作品はなし。

 実は一番面白かったのはこの建物自身。何とも奇妙な構造の建物であり、実はこのビルが一番のアートなのかも。


 何とも奇妙な印象の美術館であった。そう言えば入場無料だったのも一つの驚きではあったのだが。

 さてもう昼時である。実は今日のお昼は全く何の計画も立てていない。というわけで面倒なのでここの同じ敷地内にあった「ミセスKeikoの手作りケーキカフェ」と書いてあった店で昼食。ケーキ屋で昼食?というところだが、ここはイタリアンもあるとのこと。私は実はイタリアンはあまり趣味ではないのだが(ピザなどは嫌い)、連日の長距離ドライブの疲れが溜まって、わざわざ店を探すのが面倒になっていた。

 店内は絵画なども飾っていて洒落た雰囲気。いかにも女性が好みそうな店で、店内も女性客が多い。ピザが嫌いな私は当然のようにパスタを頼むが、パスタにしてもいつもミートスパ大盛りという口なので、本格的なメニューだと選択に困る。そこで適当に「ボンゴレロッソ(880円)」を注文。

 

 ケーキ屋のイタリアンということで全く何の期待もしていなかったのだが、出てきたパスタは結構本格的。量的にもボリュームがあるし、また味も良い。何も考えずに選んだ店だがこれは正解だったようだ。この店はなかなか味の方も間違いないようなので休憩がてらにケーキ(モンブラン)とドリンク(アイスロイヤルミルクティー)を追加注文。ここのモンブランはタルト式なのが変わっているが、なかなかに美味。というわけでデザートを堪能したのである。

 さてこれで本遠征の予定もほぼ終了である。ただまだお昼頃でこのまままっすぐ帰るのは勿体ない気がする。そこで今朝調べた温泉に立ち寄ることにする。立ち寄ったのは高松南部の仏生山温泉。洒落た建物はまるでカフェか何かのようである。結構地元で人気があるのか、駐車場が一杯の状態。

 泉質はナトリウムー炭酸水素塩・塩化物泉。最大のポイントはかけ流しであること。入浴するなり身体がヌルヌルする美人の湯で、肌当たりが非常によい。また露天風呂には低温風呂もあるのだが、この低温風呂が炭酸泉並の二酸化炭素の気泡を発生しており、また入浴感が他の浴槽とは異なっている。

 概して施設の見栄えがよい温泉は肝心の泉質自体が悪いということが多いのだが、ここに関しては泉質も抜群。多分私が今まで訪問した中でもトップクラスであるのは間違いない。これは人気が出るのもしかりだと納得した次第。

 温泉で温まった後は坂出までUターン。ここで久しぶりに「東山魁夷せとうち美術館」に立ち寄る。なかなか雰囲気の良い美術館なのだが、難点は収蔵品のほとんどが版画作品で展示に本画がほとんどないこと。いささかその辺りが寂しいところ。

 この美術館の売りは喫茶室から見える瀬戸大橋の眺望。ここで抹茶と和菓子のセット(500円)を頂きながらしばしホッとする。お菓子は小さな落雁と饅頭だが、この饅頭がなかなかうまい。土産に一箱買い求めることにする。

 

 これで今回の遠征の予定は完全終了である。後は瀬戸大橋を渡って帰るだけ・・・なのだが、この日はかなりの強風で二輪車は通行止めになっているような状態。私のカローラ2でも横風に煽られてフラフラするというとんでない状態であった。それでも何とか無事に事故もなく帰り着くことができたのである。

 昨年末の山陰遠征に続き、またも車による大型遠征であった。こうして車で遠征すると、つくづく車の便利さを感じるのである。あちこちに立ち寄ろうとすると、車でないとなかなか難しいことも。今後の遠征において鉄道を主にするか、車を主にするかは非常に悩みどころである。

 

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