展覧会遠征 島根編
さて今年度は中国四国地方強化年間になっているのだが(いつの間に中国が増えてるんだって?細かいことは気にしないように)、今年の春の中国地方遠征ではやり残したことが非常に多いことが当時から気になっていた。というのも、ガソリン高騰のせいで鉄道を利用した遠征にしたせいで、どうしてもアクセスの悪い美術館を省かざるをえず、美術館遠征にもかかわらずまるで鉄道に乗りに行っただけみたいな内容になってしまったことである。実は島根の石見地区には中小美術館が多々あるのである。そこでようやくガソリン価格が沈静化してきた今、再び原点に戻って、車を使用してこの地域の美術館攻略に乗り出すことにしたのである。
さて今回は車を使用するに当たって新しいギミックを用意した。それはオンボードカメラである。と言っても大層なものではなく、SLIKのコンパクト自由雲台と雲台スタンドを組み合わせ、それをダッシュボードに貼り付けただけである。ここに標準レンズを搭載したKissデジを据え付け、ケーブルレリーズを接続しただけである。手元スイッチで、いつでもKissデジのシャッターが切れるという仕掛け。なお当然のことながら、運転中にファインダーをのぞいたりピント調整などできるわけがないから、車内の振動のことも考えてレンズは広角端固定のピントはオートフォーカス設定である。
当日は早朝、と言うよりも未明の出発。これはETC通勤割引を最大限有効活用するためであるが、少々睡眠不足で眠い。とりあえずは姫路バイパスから竜野西ICで山陽自動車道に乗り継ぎ、後は鴨方と志和でETCカード取り替えテク。3枚のカードで通勤割引を最大限活用して浜田道の旭ICまで到着する。ここから山道をしばらく走行して到着するのが最初の目的地である。この美術館は以前からその存在を知っていたのだが、前回の遠征では立ち寄ることがかなわなかったところである。と言うのも、徒歩5分の距離に三江線の川戸駅があるのだが、その三江線が一日に三本という超閑散路線のため、途中で降りてしまうともう帰ってこられないというところだったからである。
山道を突っ走る
今井美術館地元の経営者・今井久祥が収集したコレクションを展示した美術館。展示作品は主に現代日本画作品。中でも宮廻正明の作品がコレクションの核となっている。彼の作品は現代日本画と言っても決してとがったものではなく、落ち着いた色彩で日本の風情を描いているような作品が多く、私の趣味にも合う。
私の訪問時には宮廻氏以外の現代日本画家の作品が多数展示されていたが、いずれも作風としてはやや保守的な作品が多い印象。いかにも現代画的な尖った作風の作品が好みの向きにはいささか退屈かもしれないが、私の場合にはやはりこういう作風の作品の方が性に合うし落ち着く(私の日本画の好みはかなり保守的)。
若干残念だったのは、この美術館のHPにも登場しており宮廻氏の代表作でもある「水花火」が私の訪問時には展示されていなかったこと。この作品を見てみたい気はあった。
1階展示室 2階展示室 (許可を頂いて撮影しました)
非常に落ち着いた雰囲気の良い美術館。にも関わらず、かなり山奥なのが響いているのか私の他に客がいない状態。茶菓子でもてなしてもらってゆったりと落ち着いた時間を送れた。コレクションの傾向も私の好みと合うので、いずれは再訪したい美術館である。
この美術館で石見地区の美術館が提携してのスタンプラリーがあることを聞く。この地域に散在している美術館のスタンプを集めると、各美術館の美術館グッズなどの記念品がもらえるのだとのこと。とりあえず台紙をもらってチェックすると、私がこれから訪問する予定の美術館が網羅されている。実は今回のツアーの根本計画はまだ曖昧な部分が多かったのだが、これで目的がハッキリしたというところである。
今井美術館を後にすると、江の川沿いに江津まで走行、この頃から雨が本格的に降り出して吹き降り状態。次の目的地に到着したときにはさながら嵐のようであった。
浜田市世界こども美術館こどもという点を正面に出した珍しい美術館。企画展に「ウルトラマンワールド」なんてものがあったりするところが「こども」なのかもしれないが、それよりも要は子供にも理解しやすい芸術をということなんだろうと思われる。
私の訪問時には福田繁雄氏のポスター展が開催されていたが、彼のポスターはアイディアに一ひねりがある見ていて楽しい作品。芸術性よりも風刺性やひねりが正面に出ているタイプで理解しやすいし面白い。確かにこういう切り口の美術館もありだろう。
この時点でお昼。とりあえず昼食を摂ることにする。今回昼食を摂ることにしたのは、しまねお魚センターにある「蟹匠」。いわゆる漁港の魚市場にあるレストラン。一階は多くの魚屋と土産物コーナーが入居しており、二階がレストランとなっている。
名前から想像できるように、このレストランでは年間を通じて蟹が食べられるとのことだが、これは冷凍物を使用しているということか? それはともかくとして、蟹を食べるのもあまり面白味がないので、「のどぐろ御前(3150円)」を注文する。浜田特産というのどぐろの煮付けを中心に小皿と地元魚の刺身を組み合わせた御前である。
出てきた途端に「おっ」という言葉が出たぐらい豪華さを感じさせる。また魚についてもさすがに新鮮でありうまい。またのどぐろは結構味のしっかりした魚で、煮付けに非常にあっている。ただうまいのは確かなのだが、あくまで想定の範囲という印象。特別な驚きはない。やはり煮魚定食で3150円というのは若干価格が高めのような気がする。
昼食を終わらせた後はさらに車を走らせる。次の目的地は高台の運動公園のようなところにある。
「心で描いた日本画」石正美術館で12/25まで日本画家・石本正の作品を中心に集めたのが本館であり、彼の描いた女性や花の作品を中心に展示してある。なお石本正氏は出身地でもある三隅町の石州和紙と呼ばれる手漉き和紙を作品に使用しているとのことで、石本正氏のために用意した石州和紙のことを石正和紙と命名したようだ。
彼の作品は女性の裸体画が非常に多いのだが、独特の淡さと繊細さ、そしてそれに反したシャープさが共存している画風は印象が強い。実際のモデルを描いていても妙に幻想性が正面に出るところがある画風であるのだが、そのまま幻想が正面に出たのが蟠竜湖伝説にまつわる一連の作品。もっとも彼の特徴が現れているような気がした。
ようやく雨がやや小降りになってきた。次の目的地であるが、いよいよ益田市に移動である。益田市は雪舟ゆかりの地と言われており、雪舟にまつわる遺跡などが多々あるとか。次の目的地もまさにそういう施設である。
雪舟の郷記念館雪舟やその流れを汲む一派である雲谷派の水墨画を展示した美術館。残念ながら雪舟自身の作品はそう多くはないのであるが、その写本や一派の作品からも、雪舟の画風を感じ取ることができる。
雪舟と言えば画僧というイメージから、穏やかな画風を想像する向きもあるようだが、その実は対極的に非常に硬質で厳しいものを秘めている。全体的にその線の表現は非常に奔放で自由なのだが、時にゾッとするような冷たささえ漂う場合もあるのである。やはりまだまだ謎の多い人物だ。
記念館の見学の後は周辺の散策。この地は雪舟が最後を迎えた地と言われており、雪舟の墓なども存在する。またすぐ隣には小丸山古墳が存在する。この小丸山古墳は古代のこの地域の首長の墓所と思われる前方後円墳である。なお前方後円墳は私が学生の頃には「近畿地方に固有」と習った記憶があるのだが、最近の学説では「広く日本全域に分布する」ということになっているようだ。
雪舟像と雪舟の墓 前方後円墳の小丸山古墳 さて当初の予定では今日の予定は後一カ所のみなのだが、大分予定よりもタイムスケジュールが早く進行しており、このままでは無意味にホテルに早く入って暇を持て余すことになりかねない。これは困ったと考えていると、この施設が配っている資料に「雪舟さんドライビングコース」なるものが書いてある。それによると雪舟ゆかりの寺院が近郊にあるとのこと。とにかくこのままではすることがないので、そのプランに乗っかることにする。それにしても私がつくづく貧乏性だと思うのは、ボーっと暇をつぶすということができないところなんだよな・・・。
まずは最初に訪問は医光寺。ここには雪舟が設計したという庭園がある。斜面をうまく利用した庭園で庭園内に変化が大きくて飽きない。なかなか良く考えられていると感じたが、元々私には庭園の趣味はないのであまりよくは分からない(笑)。なお医光寺の正面にある総門は、この地域を治めた益田氏の居城であった七尾城の大手門を移築したものだとのこと。七尾城は近くの山上にあった城で、現在も土塁や曲輪などが残って史跡となっているとのことだが、私はあまりコアな城郭マニアというわけではないので、とりあえず今回はそこまでの訪問はやめておくことにする(さすがにそれだけの時間はないし)。
医光寺には雪舟庭園がある この門は七尾城から移築したもの
次に訪問したのは萬福寺。ここは奥まったところにあるのでどこに車を停めて良いか分からずに難儀した。ここの本堂は由緒のある建物とのことで史跡になっているようである。またここにも雪舟の手によるという庭園があるが、こちらは医光寺のものと違って、荒涼寂寞とした印象のある庭園。雪舟の絵画に時折見られる厳しさに通じるような心境がある。
萬福寺の雪舟庭園 雪舟ゆかりの寺院巡りで適度に時間をつぶしたところで、峡の最後の予定とする。次の美術館は巨大複合文化施設内に入っている。ここは前回の島根訪問の際にも訪れた場所である。
「なつかしの風景 大下藤次郎の水彩画展」島根県立石見美術館で12/1終了昭和の風景を水彩画で描き続けた大下藤次郎の作品を展示した展覧会。とにかく徹底した写実に基づいた絵画で、そこに描かれている風景は日本の原風景には違いないが、私にとっては懐かしいと言うにはあまりに昔過ぎる風景。戦前派の年代なら落涙ものの光景であると思われるのであるが。作品が全体的に絵はがき的で、芸術的感慨と言うよりもやはり懐かしさの方が正面に出てしまうようである。
ただそれでも画家の足跡は一応たどれるようになっている。当初はやや暗めの色彩の絵画が多かったのだが、彼は渡欧してから色彩がかなり鮮やかになっており、その後の作品の方が以前よりも力強さを増している。やはり当時の芸術家にとって欧州の風を受けると言うことは影響の大きかったことだということはよく分かる。
これで今日の予定は終了である。ちょうど良い時間となったので、ホテルに入る前にまず夕食を摂ることにする。今日は長距離を走行したので、ガソリンを給油してから夕食を摂るための店まで移動する。
今日の夕食を摂ることにしたのは益田のフレンチレストラン・ジャルダン。手作りフレンチで地元ではそれなりに有名な店のようである。店内は落ち着いた雰囲気で、カップルのデートなどに最適ではないかと思われる。コース料理が中心の店であるが、私が頼んだのはセントポーリアコース(4000円)。肉料理と魚料理を組み合わせたフルコースである。
まず前菜は牡蠣のサーモン巻きサワークリームソース。牡蠣とサーモンの風味が絶妙のマッチングだが、そこにかかったサワークリームソースがまたさわやかで、濃厚な風味にかかわらずさっぱりしているという奇跡的なバランスである。
酒を飲めない私のためのノンアルコールカクテルと前菜 次のコンソメスープもオーソドックスながらただ者ではない。私は今までこれだけ良い出汁のコンソメスープを飲んだことがない。
魚料理は鮮魚のロースト温野菜添え。これは一口食べた途端に意表を突かれる。一分の隙もない完全なフレンチの見た目にかかわらず、味は明らかに和風なのである。話によると和風の出汁とフレンチのコンソメなどを組み合わせているとのこと。この和風ソースが魚の旨味と組み合わさって抜群のうまさ。思わず「やられた」という声が出る。
メインの肉料理は牛フィレダイスステーキ レフォールソース。柔らかい肉に主張の強すぎないソースがバランスが良く、文句なくうまい。メインとしては最上。
そして予想外の伏兵だったのがデザート。さつまいものムースをクレープで巻いて、アイスクリームを添えたものらしいが、これがまた柔らかい甘みが絶妙。上質のデザートは人を幸せな気分にするが、思わず頬が緩んでしまう。
4000円という価格は決して安くはないが、多分同じ内容を都会で食べれば倍の値段はするだろう。そういう意味では非常に納得できる価格である。すばらしい洋食を食べた場合は、物理的に満腹になっていなくても、なぜか精神的に満腹になる場合があるのだが、今回はまさにその状況だった。またおいしいものを食べると気分がハッピーになる。なお私はどうやらおいしいものを食べられれば、その町が好きになるようだ。
夕食を終えたらホテルにチェックインする。今回予約したホテルは益田グリーンホテルモーリス。益田駅前のビジネスホテルである。系列の出雲グリーンホテルモーリスを以前に利用してなかなか良かったので、今回宿泊することにした次第。大浴場付きで朝食バイキング付き、当然LAN対応。私のツボを見事に押さえたホテルである。ホテル裏側の市営駐車場に車を止めると(宿泊客は一泊300円で駐車できる)、チェックイン。この日はまずは大浴場でゆったりとくつろぎ、その後はネットで調べものなどをしながらこの原稿を執筆。ただしやはり長距離ドライビングの疲れはかなり身体にたまっていたので、早めに床に就くことにしたのだった。
翌朝は7時前に起床。そのまま朝食を食べに行く。ホテルの朝食はバイキング形式だが、おかず類が充実していて、朝からしっかり和食を摂る派の私にとってはうれしい内容。快適な大浴場と言いなかなか私のニーズを押さえたホテルだ。難点はホテルのすぐそばにはコンビニがないことぐらいか。というか、そもそも益田市自体が過疎化の進行著しい山陰地方の例に漏れず、閑散としたところになっている。もっとも前回に立ち寄った時にはもっと何もないところだと感じたので、それよりは認識を新たにしたのだが。
ホテルをチェックアウトすると車で南方に走る。今日の予定だが、実は当初の計画でははっきりと定めていなかった。これは事前に綿密に計画を練る私としては非常に珍しいことなのだが、現場での成り行きに任せようと考えたのである。もっともこれが許されるのは今回は比較的自由度が高い車による遠征だから。さすがに鉄道による遠征だと事前に分単位のスケジュールを組まないといけないのでこういうわけにはいかない。これが車を利用した遠征の一番のメリットである。
で、今日の予定であるが津和野に立ち寄ることにした。実は津和野には以前の遠征でも立ち寄っているし、一年以内にもう一度ぐらい行くことになる予感があるので、今回はやめておこうかとも思ったのだが、昨日今井美術館でもらったスタンプラリーのシートには津和野の美術館が3館含まれており、それを見た時に今日の予定がハッキリと決定されたという次第。
山間部の国道9号線をひたすら南下すること1時間強。津和野に到着する。なんとなくホッとする懐かしい風景である。とりあえずは美術館の攻略から始めることにする。
安野光雅美術館私が訪問した時には井上ひさしの本の装丁や芝居のポスターのためのデザインを展示していた。ものが井上ひさしだけに、いずれも一ひねり効いた作品ばかりでなかなか楽しい。
葛飾北斎美術館
この地で初刷りの「北斎漫画」が発見されたことにちなんで設立されたという美術館。くだんの北斎漫画は当然として、貴重な北斎の肉筆画も展示しており、これは一見の価値がある。
杜塾美術館津和野藩筆頭庄屋の屋敷を改修した美術館。郷土出身の洋画家中尾彰・吉浦摩耶夫妻の作品を展示してあるが、残念ながら両者の作品共に私の好みからはかなり外れている(私には単に下手な絵としか見えない)。むしろ絵画展示としてはゴヤの版画の方が面白い。
しかし実のところは一番の展示物はこの屋敷自身。さすがに現地の有力者の屋敷らしく、かなり良い材料でキッチリと建てられており、そこらの庶民の家とは作りが違う。驚くのはかなり古い建物にもかかわらず、柱の接合部の直角がしっかりと出ていること。良い木材を使用していないとこの辺りは確実に狂ってくるところ。日本家屋に興味のある者なら一見の価値がある。
これでスタンプラリーは完結である。もらったのは各美術館のグッズ(絵はがきが多い)などの詰め合わせ。多分購入したら結構な額になるだろうと思われる。もっともどれだけありがたみがあるかはまた別問題というのが本音ではあるのだが・・・。
美術館を回った後は、津和野城に登ることにする。津和野城まではリフトがあるので、本来ならこれに乗って楽に天守台見学と洒落込めるはずだったのだが、なんとリフトは故障中。やむなく遊歩道を登っていくことにする。
稲荷神社に参拝
遊歩道は稲荷神社の近くからでているので、神社の境内の駐車場に車を止めると、参拝してから遊歩道を登る。しかし遊歩道などとは言うが、その実態はほとんど獣道。傾斜が急なので足首にかなり負担がかかる上に、落ち葉が大量に足下に降り積もっており、しかも雨がぱらつく天候なので足下が危なくて仕方ない。石段と違って膝に負担がかかったり、心臓がバクバクという状況にはならなかったが、上についた頃にはふくらはぎがほとんどつりそうな状態。
遊歩道とは名ばかりの獣道
津和野城は明治時代の廃城令で建物は取り壊されているので、石垣しか残っていない。その石垣もかなり壊れていたところがあったようだが、最近には修理がされているようである。建物はないものの、その石垣はなかなかすばらしく、わざわざ上に登ってきた価値はあったと感じた。特に三十間櫓の高石垣は感動的でさえある。
出城の石垣と風景 本丸の石垣と門の跡 山頂は紅葉の世界 三十間櫓の石垣は感動的 ただやはりこんな悪天候の時にわざわざ登ってくる人間はほとんどいないらしく、山上には私しかいない状況。しかも雨脚が強くなってきて、足下がさらに怪しくなってきた。もしこんなところで何かあったらたまったものではない。とりあえず下山しようと慎重に石垣を降りてくる。しかしその時に突然に事件が発生した。塗れた石で足を滑らせた私はそのままバランスを崩して、石垣の上からもんどり打って転落したのだった。
これが民放のドラマなら間違いなくここでCMが入るだろうというところであるが、この時の私の脳裏をよぎったのは、頭から血を流して誰も来ないところで一人息絶える私の姿だった。そうならなかったとしても、もしここで足か腰を痛めて動けなくなったら、助けもろくに呼ぶことができない。下手したらここで私の人生は終わってしまうのかも・・・という考えさえが一瞬のうちに頭をよぎる。ドラマならここで愛する妻と子供の名でも叫ぶところだろうが、残念ながら私にはどちらもない。
やけに長い時間だったような気がするが、実際は一瞬だったはずだ。私は地面に仰向けに倒れていた。どうやら2メートルほど落下したようである。とりあえず頭は打っていない模様。まず何よりも体が動くかを一番に確認するが、幸いにして落ち葉が大量につもっている上にリュックを背負った背中から転落したため、体に大きな損傷はなさそうである。体を確認した次には荷物を確認するが、首から提げていたカメラがなくなっている。慌てて周りを探すと、3メートルほど先に吹っ飛ばされていた。動作確認したところとりあえずは問題なさそう。Kissデジは意外とヘビーデューティーのようである。どうやら一命を取り留めたことを確認、自力で下山、早速御利益があったということで稲荷神社に再参拝しておく。
それにしてももしあそこで重傷を負って動けなくなってしまったらどうしようもなかったろう。人は誰もいないし、PHSが通じるとも思えないし。今後城郭見学をする時はこのリスクも考えておかないと。天候が悪いのに、どうしても石垣の上を見たくなって、足下の良くないところをあえて登ったのが間違いであった。そもそもそんなハードなマニアでもないのに、あまりにマニアックなところに行き過ぎたか。
なおこの時はどこも怪我をしていないと思っていたのだが、実際はかなり背中をしたたかに打ち付けており、体のあちこちがその後痛くなって苦労することになるのである。
麓に降りてきたところで腹が減った。とりあえずは昼食である。昼食は以前に訪問した時にも訪れた「遊亀」で摂ることにする。
注文したのは「鯉定食(2300円)」。以前にここで鯉を食べてそのうまさに感動した記憶があるからである。出てきたのは鯉の洗い、甘露煮などの鯉料理を集めた御膳。
鯉の洗いの鮮烈な味は相変わらず。またウロコごと煮付けた甘露煮のうまさも懐かしいところ。また小鉢類も美味。堪能したのであるが、山を登ってきたせいかやけに腹が減っている。ふと見ると「おすすめの一品 かも鍋 800円」の表示が。さらに追加注文することにする。
一人鍋形式でカモ鍋が登場。味付けはすき焼き調なのであるが、これがまた美味。昼食を堪能したのである。
さて昼食が終わったところでよくよく考えると、今の私はかなりひどい身なりをしていることに気がついた。そもそも小雨の中を登山してきたので頭からずぶ濡れになっているし、その挙げ句に落ち葉の中に転落したので、どうやら身体に紅葉が貼り付いていたりさえしているようだ。このままではあまりな格好なので、次の目的地に移動する前に入浴をしておくことにする。
津和野の南方の道路沿いに道の駅があるのだが、実はここは「津和野温泉なごみの里」という温泉施設になっている。そこに立ち寄ることにした。泉質はラドン泉とのこと。放射能線系が概してそうであるように、ここの温泉も無味無臭、そういう点ではあまり温泉らしさというものはないが、ここの売りの一つは開放感のある露天風呂。ここに到着した時には豪雨だったのに、なぜか風呂に入った時には綺麗に雨がやんでおり、空気が清々しくて快適。施設自体は道の駅らしく、土産物屋や食堂などすべてが揃っている。
入浴をすませて少しこざっぱりとすると、二日目の宿泊予定地の広島まで長駆移動である。昼頃はかなりの雨だったのに、既に完全に雨は降りやんでいる。こうなるなら、津和野城訪問は午後にするべきだったと思うことしきり。しかしままならないのが人生というものである。
雨は完全にやんでいる
津和野から国道8号を少し北方に戻ってから、国道187号に乗り換えてひたすら山間を突っ走る。途中で低速車を数度やり過ごしながらしばし走行すると中国道の六日市ICに到着、そこから中国道→広島道→山陽道→広島高速4号線とのりつないで広島中心部に乗り入れる。
「まるごとひろしま美術館展」ひろしま美術館で11/30終了
同館の所蔵するゴッホの「ドービニーの庭」で黒猫が塗りつぶされていることが見つかって最近話題となったが、この「ドービニーの庭」を始めとする同館のコレクションについて、「絵画の謎に迫る」という観点で整理した展覧会。
同館のコレクションは私にとっては既に何度も目にした作品ばかりであるが、こういう切り口で見せられると新たな発見がある。収蔵品に対して新たな観点から観客を集めるという意味で面白い趣向である。
広島に到着したところでホテルにチェックインすることにする。しかしカーナビに従ってホテルへ移動していたところ、広島駅東部の開かずの踏切に引っかかってしまい、そこで延々と10分以上待たされる羽目になる。まだまだカーナビはこういうところは考慮してくれないので、全面的に信頼していると痛い目にあう。そう言えば、今回の遠征ではなぜかカーナビがあえて遠回りになるルートばかり指定するという奇妙な現象が多々あり、その都度ルートを修整する必要に迫られた。そう言えば、最近になってこのカーナビが指定するルートの性格が変化してきた気がするんだが、そもそも私のはカーナビは学習機能なんて高度なものはなかったはずなんだが・・・。
今回宿泊するホテルはグリーンリッチホテル。広島駅北部の新幹線口の方に最近できたホテルである。例によって大浴場付き(男女入れ替え制)で宿泊料が安価というのがポイント。また今回の場合はホテルに駐車場があることもポイントの1つになっている。とりあえずはチェックインをすませると、そのまま夕食のために町に繰り出す。
年のせいか、最近は和食が一番好ましい時が多い。しかしいつも困るのは、和食の店は特に夜は私にとっては行きにくいのである。と言うのも、和食の店は夜は酒がメインとなるところが多く、私のようにアルコールをいっさい受け付けない人間は、さすがに露骨に嫌がられないまでも、怪訝な様子をされることが多いからである。飲食店にとっては一番利益率の高いのはドリンク類であるから、酒を注文しない客というのはやはり本音では嫌な客である。まだコース類のある店ならそれを注文すれば、その段階で私の客単価は確定するので店側も「そういう客か」と納得してそれ以上深入りしてこないのだが、一品ずつ追加するような形式だと、どうしても客単価を上げようと、酒がだめならウーロン茶でもと無理矢理に押しつけてくることになるのである。
正直なところウーロン茶がそんなに好きではない私にはこれは迷惑。私が腹を括って食事をする時には、大抵は酒抜きで酒を飲む人間と同じぐらいの支払額になるので、そうひどい客という訳ではないと思うのだが・・・。それにもう一つの問題は、和食の店では酒でも飲んでいないと料理が来る間での間が持たないなんていうこともある。結局、私としては夜でも定食類を出している店や(客単価が低くなること覚悟して、夕食客の取り込みを図っている)、元々酒にあまり重点を置いていない店にしか夜は行きにくいということになる。ただ問題は、一見しただけではその店がどういう店かはわからないということ。ちなみに私が夜に行った和食店で「ここは良かった」と言っている店は、酒抜きでがっちりと食えるというところになっている(例えば道後温泉の「味倉」)。
で、今回の夕食は店のチョイスを間違えたということである。結果としてウーロン茶代その他の乗っかった支払額は私の想定を超えており、納得できるとは言い難いものとなってしまった。この店は何もぼったくり店というわけではなく、少なくとも酒を飲む人間にとってはかなり良い店(実際に魚類はうまかった)なのだろうと思うが、とにかく私には会わなかったということになる。
それにしてもノンアルコールドリンクが、おいしいと思わないウーロン茶か、料理には絶望的にあわないコーラやジュース類しか存在しないという現状も、アルコールが天敵の人間にはつらいものがある。誰か料理によく合うおいしいノンアルコールドリンクを開発してくれないだろうか。ちなみに昨晩夕食を摂ったジャルダンでは、アルコールは駄目だという私のために、ライムのソーダ割りのノンアルコールカクテルを作ってくれたのだが、これはさっぱりしていて非常にうまく、またフレンチと合わせても邪魔をすることがなかった(残念ながら和食とは合わないだろうが)。
さて何かと不満の残った夕食に暗い気分になりながらホテルに戻った私は、とりあえずは大浴場に入浴に行き、明日の戦略を練るのだが、いくらと経たないうちに眠気に敗北することになる。
翌朝の起床は7時。昨日怪我はしなかったものの、体のあちこちが痛む。特に痛いのは背中と首。おかげで昨晩は寝返りが打てずに苦労した。ホテルで簡単な朝食を済ませるとチェックアウト。まずは今日の予定を開始する前に、サティに立ち寄る。
と言うのも、昨日の転落事故でズボンがズタズタに裂けていたからである(幸いにして上着で隠すことは可能だったのだが)。昨日は車での移動なので何とかなったが、さすがにこの状態であちこちをうろつくのはつらいものがある。実は昨晩に夕食の前に三越などものぞいたのだが、一本数万円するブランドものばかり置いてあるような店ばかりでは、私にマッチするファッションはなく、結局は何も買えずに終わってしまったのである。ホテルに帰って戦略を練っていた時、とりあえずサティがあったのを思い出したので、今朝立ち寄った次第。サティで一本3000円ほどのズボンを購入する。やはり私にマッチするファッションを購入できるのは、サティやイオンになるようである。
とりあえずまともな格好になったところで、サティの駐車場に車を置いたまま、続いて今日の最初の目的地に移動する。今日の目的地は広島県立現代美術館。比治山の山頂にある美術館だが、ちょうどこのサティは比治山の裏側に当たり、比治山スカイウォークなる歩道でつながっているらしい。と言うわけで今回初めてその歩道を使用したのだが、なんとムービングウォークとエスカレーターで美術館のすぐ近くまで行けるようになっており、後は緩いスロープを150メートルほど歩くだけである。私は初めてこの美術館に行った時は麓の路面電車の駅からクタクタになりながら山を登り、次に行った時は山の中腹の駐車場に車を止めてそこからきつい階段を息を切らせながら上ったのに、いったいあの苦労は何だったんだろう・・・。世の中、知らないと損をすることはいくらでもあるようである。
「第7回ヒロシマ賞受賞記念 蔡國強展」広島市現代美術館で1/12まで広島市が3年に一度、美術創作活動により人類の平和に貢献した作家に授与するヒロシマ賞を受賞した中国の現代美術作家、蔡國強(ツァイ・グオチャン)の展覧会。
「芸術は爆発だ」と言った有名な芸術家がいるが、彼の場合は「爆発は芸術だ」とでも言うのだろうか。やけに火薬を使った作品が多く、その辺りは中国の爆竹文化なんだろうか。とにかく大がかりな作品が多く、美術館のフロアを丸ごと使った大型展示には唖然とさせられるが、それが芸術的感銘につながるかはまた別の話。
なんとなく「破壊」に対するメッセージが作品には込められているようなので、それがヒロシマ賞を受賞した理由だろう。ただどうにもその表現がひねくれた感じがあるので、今一つストレートな感動を受けないのであるが・・・。
これで広島での予定は終了。次は高速道路を使用して尾道へと移動する。実は尾道には今まで訪問したことのない美術館が残っている。
「小林伸一郎 写真展 第一章 海人」なかた美術館で11/30終了海にまつわる人々の風景を写した写真展のようである。しかし写真は私の専門外と言うことで、よく分からないのが本音。
小さな美術館だろうと思っていたのだが、意外に展示面積は広く、建物も洒落ていて雰囲気がなかなか良い。こういう建物は近代系絵画の展示に似合う。
展覧会を観賞し終わった時にはすっかり昼時になっていた。実は今日のお昼をどこでとるかについては全く計画していない。面倒くさいこともあったので、ここのレストランでランチコース(3800円)をとることにする。
ここの美術館は入場した途端に美術館よりもレストランが目立つぐらいで、美術館のレストランと言うよりも、ギャラリー付きのレストランという方が実態に近いかもしれない。それだけにここのレストランはかなり本格的なフレンチ。内容は前菜から始まって、スープに魚料理、メインが肉料理で最後にドリンクとデザートであり、料理は2種類ぐらいから選択する形式。料理の味の方も良い(個人的にはデザートが一番良かったが)。ややボリュームが不足なような気がするが、フレンチとしてはこんなものなんだろう。
昼食を堪能したところで後は帰路へと言うところだが、その前にさらに一カ所立ち寄ることにする。福山南部に紳勝寺という寺院があるのだが、この寺院の一帯は遊園地から温泉施設まで多角経営の一大リゾートとなっているらしい。そこでここの温泉に立ち寄ってやろうという計画。
山間の道路をカーナビの指示に従って突っ走っていくと、いきなり車が大量に停車している一帯にたどり着く。このあたりが寺院のエリアになるようだが、完全に遊園地化しており神聖さのかけらもない。奈良や京都にも聖地としてのニュアンスのほとんどない観光寺院は多いが、ここまで完全に割り切っているところは初めてである。
温泉は一番奥地にあった。入湯料は1000円とやや高いが、タオル一式から浴衣までついてくるので、完全に手ぶらの状態で訪問してまる一日くつろげるようになっている。畳敷きの広い休憩室もあり、そこらの日帰り入浴施設以上の設備が整っている。
温泉は本館に内風呂と露天風呂。露天風呂はドクダミ湯になっていた。また本館をさらに奥に行ったところに新館があり、そこには桧風呂と露天の岩風呂がある。私が行った時には桧風呂の方が男湯になっていたのだが、これが解放感抜群で最高。また案内が出ているにも関わらず気づかない者が多いのか、こちらの風呂の方は客がほとんど来ないのでゆったりしている。
泉質自体は特筆するほどのものではない。また加水はしていないが、加温と循環塩素消毒はしているようである。しかし塩素のにおいはそう強くはないし、湯の心地もなかなか良かった。なおここは飲食店もあり、私はシャコの天ぷらとカンパチの刺身をいただいたが、これもなかなかうまかったということを記しておく。
今回は美術館を中心に据えた遠征だったのだが、どうも最近は美術館の比率が下がって来てしまっているような気が・・・。今回も振り返ってみると、食事代にかなりの予算を費やしてしまっていて、完全に予算オーバー。こりゃほとんど破綻寸前だ。
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