展覧会遠征 岡山編2

 

 金融システム崩壊で急激に不況の足音が近づいてきて、世の中が戦々恐々とした嫌な雰囲気になってきている。ただ今回の金融システム崩壊は、一つだけ世の中に良いことももたらした。それは原油の価格を不当につり上げていた悪徳ファンドが破綻したことで原油価格が暴落、ようやくガソリンが妥当な価格に落ち着いてきたことである。1リットル当たり120円台という価格は、安いとは言いにくいものの、一時期のあまりに不当な価格を考えると現実的な価格になったと言える。

 私は従来は青春18シーズンには鉄道を中心の遠征、それ以外のシーズンには車を中心にした遠征を行ってきた。それが今年はガソリンの異常高騰のあおりを受けて車を全く使えない状態になり、鉄道の遠征ばかりになっていた(だから私が鉄道マニアと間違われることになったのだろうが)。しかしようやく従来のような車による遠征も考えられるようになったというわけである。

 今回は車の機動力を最大限に活かすことにした。まずは車でないと非常に行きにくいために、ガソリン価格が高騰してからご無沙汰になっていた美術館を訪ねる。

 久しぶりに山陽自動車道を突っ走る。ただ今日は三連休の初日のせいか、妙な運転をする車が多いのには閉口する。後ろから猛スピードのメルセデスが強引に左から追い越しをかけていったのでついて行ったところ(誤解のないように行っておくが、私は追い越しをかけられた腹いせで相手の車を追いかけ回すような下品なドライバーではない。快調にすっ飛ばす車があると道が空くので、それに便乗するだけである。)、上り坂では非力なカローラ2の悲しさで車間がどんどん開くのに、坂を上りきって下りに入った途端に急激に車間距離が縮むのである。「?」と思って危険を避けるべく、距離を置いて後ろから観察していたところ、そのメルセデス君がぶっ飛ばすのは平地の直線と上り坂だけだということが判明した次第。その後もそのメルセデス君は、下り坂になるたびにブレーキ踏みまくりで後続車につつかれていた。運転技術の伴わないドライバーに高出力エンジンは、何とかに刃物みたいなもので危険極まりない。

 これ以外にも渋滞している車列の最後尾にピッタリとつけては、やたらにブレーキを踏みまくっていたイライラ君やら(そのうちにブレーキが灼けつくぞ)、オービスが近づいて車列が一斉にスピードを落とした途端に、最後尾からフル加速で全車両をごぼう抜きにしていった特効野郎Aチームなど(彼の身に災いが降りかからないことを祈るのみである)、連休の高速道路は様々な人生の縮図を示しながら流れていったのであった。

 順調に突っ走って鴨方で高速を降りると、そこから最初の目的地に移動である。ここの美術館は駅から遠いのにバスの便がほとんどないため、車でないとなかなか来にくいというところである。


「彩艶 金谷朱尾子−うつろう心−」笠岡市立竹喬美術館で11/24まで

 

 金谷朱尾子は岡山出身の日本画家である。池田遙邨門下として日展などで活躍、また後進の育成などにも尽力したが、残念なことに51才で画業未だ半ばにして早逝したとのこと。

 画風としては典型的な現代日本画の画風であるが、彼女が卓越しているのはそのデッサン力や表現力だろう。また「燃え立つような」と言えそうな、その激しくも幻想的な色遣いも印象深いところである。彼女の画風自体は20代の頃に既に確立しており、その後も根本的なところは変化しなかったようである。もっともこれからという時に彼女の生命の方が尽きてしまったのだが。


 久しぶりの美術館を後にすると、そのまま北上する。次に立ち寄ったのは井原市立田中美術館。彫刻家平櫛田中の作品を展示した美術館である。私の訪問時にはコレクション展と言うことで、平櫛田中の作品と所蔵の絵画を展示していた。既に何度も目にしている作品なのであるが、相も変わらず田中の彫刻の生々しさには圧倒される。なお絵画コレクションの方については印象に残る作品は残念ながらなし。

 次の目的地に移動する前に、とりあえずは昼食を先に摂ることにする。今回に立ち寄った店は「キッチン喜多川」。入り口を入ると扉がラーメン屋と洋食屋に分かれているが、内部はオープンキッチン形式でつながっているという奇妙な形式の店である。今回入ったのは洋食屋の方で、注文したのは「ビフカツ定食(2300円)」。

 

 出てきたビフカツを見て驚く。分厚い肉がレアで揚げられており、ビフカツと言うよりはビフテキに衣をつけたという印象。また肉の質がかなり良いようで、箸で切れるぐらいに肉質が柔らかい。

 

 ただビフカツとして考えた場合には少々難がある。まず牛肉が前に出すぎでビフカツとしての一体感がない。ビフカツとして考えた場合はもう少し肉に火を通している方がバランスが取れそうである。またかかっているソースが渋みと酸味の強いタイプだが、これが自己主張が強すぎて、衣付きのビフカツの場合はかなりくどくなり、せっかくの肉の風味を殺してしまう。最初からかかってくるのではなく、別につけて食べる方がバランスが取れたのではないかと思われる。

 と言うわけで、ビフカツ定食として考えた場合には少々残念というメニューであった。しかしこの店はかなり良い牛肉を使っているのは確かであり、次回には是非ともビフテキ定食を食べたいと感じた。なおチキンカツ定食やトンカツ定食などさらに安価なメニューもあるので、費用を抑えたい向きにはそれも一つの選択肢か。

 

 昼食を終えたところでさらに車を走らせ、次の美術館へと向かう。


「パリの美神 マリー・ローランサン展」華鴒大塚美術館で11/24まで

 

この美術館の真正面には井原鉄道の子守唄の里高屋駅がある

 エコール・ド・パリの画家の一人としてあげられるマリー・ローランサンの作品を展示した展覧会。長野のマリー・ローランサン美術館の所蔵品によっている。

 ローランサンの初期から晩年の作品まで一堂に展示している。彼女の作品についてはある年代以降は目に見えた変化は少ないので(実は微妙な色遣いの変化などはあるのであるが)、むしろ初期の試行錯誤期の彼女らしくない作品の方が面白いのでは。

 なお私の場合、ローランサン美術館所蔵品による展覧会は今まで何度か訪れる機会があったので、同館自体はまだ一度も訪問していないにもかかわらず、展示作については何度か目にしたものが多かった。

  ここは庭園も有名


 さて久しぶりの美術館をいくつか回ったところで、今日はわざわざ車で出てきたのだから、それを最大限に活かすべく洞窟探検の方も行うことにする。実は成羽の西部の磐窟渓と言うところにダイヤモンドケイブと呼ばれる鍾乳洞が存在する。今回はそれを探検しておいてやろうという計画。

 井原から国道313号をひたすら北上、成羽川に当たったところで国道と分かれると西進、そこから案内に従って狭い山道へと入っていく。しかしこの山道が本当に狭い。もし対向車が現れると私の運転技術では進退窮まりそうな箇所がいくつもある(すれ違い可能場所までの距離が長い上に湾曲しているという箇所が複数ある)。途中で一台だけ対向車に出くわしたが、幸いにして道幅の広い箇所だったのでそれは事なきを得る。

 狭い山道を走る

 しばらくうねうねと山道を走った後、小さい駐車場に行き当たる。どうやらここがダイヤモンドケイブへの登り口のようである。なおダイヤモンドケイブは斜面の中間に位置しているのだが、上から降りるルートと下から登るルートがあるとのこと。鍾乳洞マニアのHPによると、上からのルートの方が道路も駐車場も整備されているとのことだったのだが、どうも私は下のルートにたどり着いてしまったようだ。カーナビに適当に場所を打ち込んだのが失敗だったか。

 たどり着いた駐車場には見事に車はいない

 とりあえずここから300メートルほど登ることになるのだが、これが難行苦行。辺りが静かなので自分の心臓がバクバクと言っている音が聞こえてくる。心臓にはあまり自信がないだけに、今にこの音が急に止まるのではと不安になることしきり。また日頃から運動不足の悲しさで、足が痛くなるなどの前に吐き気の症状が出てきて途中でゲーゲー言う始末。最近は城やら洞窟やらでやたらに階段を登る機会が増えているのだが、相変わらずの情けなさである。

 急な崖を登る

 なお今回は洞内撮影のために三脚を持参している。前回の井倉洞訪問でやはり鍾乳洞内での撮影ではストロボを使ってもうまくいかないことを痛感したことと、洞窟内撮影ではいっそのこと三脚か一脚を持参した方が良いとの知人からのアドバイスに従ってのものである。今回持参したのは、Kissデジを購入した時におまけでついてきたスリックの軽量三脚。Kissデジをこれに装着するとトップヘビーになりすぎて安定性が悪い(特に私の場合はさらにレンズが重量級に換装されているし)と言うことで今までお蔵入りしていたのだが、それが再び日の目を見たというわけ。実は今回の遠征のために軽量三脚について調査したのだが、カーボン製などの高級品なんか手が出るわけがなく、結局は私が用意できる予算だとスリックの製品ぐらいしか選択肢はなく、「それだったらそもそも持ってるじゃないか」となったというのが情けない現実である。

 今回持ち出してきたSLIKの安物三脚

 さてそうやって出動した三脚だが、その初仕事はカメラを支えることではなく、杖代わりに私を支えることになってしまった。激しい息切れでフラフラしながらようやく入洞受付までたどり着く。ここで入洞料800円を払う。管理人からは「下からだったら大変だったでしょう」といかにも気の毒そうな言葉をかけられる羽目に。

 さてダイヤモンドケイブという名前の由来だが、ここの洞窟はそもそもは小さな洞窟だったのが、奥が爆破された時に閉鎖された鍾乳洞が発見されたのだという。その閉鎖洞窟の中では方解石の結晶が多くあり、キラキラとガラスのように輝いていたのだという。

 

 しかし残念ながら、開放されたことで洞内の方解石の風化が進んでいるようで、私が訪れた時には既にガラスのようなキラキラした鍾乳石は見あたらなかった。風化により、透明→白→茶色と色が変わってきているようである。また観光のために設置している照明の周辺ではコケの付着も見られ、観光窟化することによる洞窟内の劣化という悲しき宿命も顕著になっていた。また鍾乳石を守るために張り巡らされたと思われる緑のフェンスが邪魔になっている。残念ながらこれも観光窟化するとどうしてもマナーの悪い入洞者もいるので必要悪なのだろう。特にここの場合は手を伸ばせば届く位置に鍾乳石が伸びているという事情もある(その上に細い石筍も多いので、いかにも馬鹿がへし折りそうなのである)。

 

   

  

 さて私は洞内で撮影にいそしんだわけであるが、三脚を持参してもやはり洞内の撮影というのはかなり困難であるということを痛感せずにはいられなかった。まずここのように狭い洞窟では、どうしても十分な画角を得られない。また照明している部分と照明していない部分との明暗差が激しいので、そのバランスが取りにくい。今回は基本的には絞り開放状態のシャッター速度はオートで撮影したのだが、やはり一部が白飛びして後は真っ暗という写真も少なくない。またKissデジの場合、全体が暗すぎると焦点を取れなかったり、フェンスのあるところではその手前のフェンスの方に焦点が合ってしまったりなどの、オートフォーカスにまつわるトラブルが頻発した。そのたびにマニュアルフォーカスに切り替えてしのいだのだが、これはなかなか大変だ。なお今回の事例ではシャッタースピードは数分の1秒から最長4秒程度。やはり三脚がないと無理な条件だ(一脚ではぶれるだろう)。今回の鍾乳洞は狭くても観光客が私一人(私が入洞する時に入れ違いで二組が出てきて、その後は入洞者はいなかったようだ)だったので三脚を広げる余地があったが、観光客が多い場合は三脚を広げるのは不可能だろう。洞窟撮影は非常に難しいと聞いていたが、つくづくそのことを痛感した。ちなみにプロが専用の写真を撮る場合は、洞内の数カ所にストロボを仕掛けてシンクロ発光させるマルチストロボ撮影をするそうだが、そんなもの一般観光客である私ができるわけもないのは言うまでもないことである(そもそもそんな機材も持ってない)。

 ダイヤモンドケイブの見学を終えると再び山道を迷いながら脱出(途中でカーナビが道を見失い、現地の人に道を聞く羽目に)、成羽町美術館に向かう。しかし途中で時間を費やしたのが祟って、到着時には既に閉館時間を過ぎてしまっていた。仕方ないので外回りを見学。

 成羽町美術館

 なおこの成羽町美術館がある場所は、かつてこの地域に勢力を誇った山崎氏の御殿があった場所で、野面積みの石垣が残存しており史跡となっている。建造物は一切残っていないが(そもそも安藤忠雄設計による近代的な美術館が上に乗っかっている)、大手門の跡などが観察できる。当時の御殿と言えば単なる豪邸という意味ではなく、軍事上の要塞の意図も兼ねていたので、ここでもかなり堅固な守りの施設を備えていたことがうかがえて面白い。

 往年の威容を偲ばせる石垣

 これでもう今日の予定は終了である。高梁まで走って、そこから山間の道路をひたすら登って岡山道の賀陽ICまで到着、後は山陽自動車道と姫路バイパスを乗り継いで帰途につくだけだ。ただその前に、竜野西ICで降りた後(賀陽−竜野西間がちょうど100キロ以内でETC通勤割引の対象となる)、夕食を姫路で摂ることにする。

 立ち寄ったのは仕出し・会席の「手柄ます徳」。注文したのは姫路名物の大型穴子でんすけを使用した「でんすけ御膳(2625円)」。

 店の雰囲気が何となく落ち着いていると言うよりも、活気がないと言った方が良いような空気が漂っていたので、正直大丈夫かなという疑問があったのだが、出てきた料理を食べた途端にその心配は吹き飛んだ。

 

 御膳自体は穴子寿しに天麩羅、酢の物などで構成としては平凡と言って良いのだが、味が非常に良い。カニと貝柱とキュウリの酢の物などは味付けが絶妙なので、キュウリが大嫌いの私がキュウリごと全部食べれてしまった。また天麩羅も食感はサクサクと、味わいはあって非常に頃合いが良い。

 一番感心したのはメインの鍋。出し汁に絶妙な味わいが出ており、その豊かさには表現に困るぐらい。板さんの話によると、脂ののった穴子にゴボウを組み合わせることで非常に深い味が出るそうな。ちなみにこれは後で店主(?)から聞いたのだが、実は穴子は既に旬を過ぎてしまっており、通常ならこの時期の穴子は脂が乗っていないので焼きでもしないと駄目なんだそうな。それが今年は海水温が高いせいで、まだ脂ののった穴子が近海で取れているとか。なお水温が高いと言うことなので、今年は牡蠣はまだまだとのこと。

 と言うことは、牡蠣遠征はまだ先に延長した方がよいようだ。やはりこういうことはプロに聞くに限る。結局今回は、岡山地区の久しぶりの美術館を攻略し、洞窟にもぐり、穴子を食って帰ってくるということになったのであった。

 

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