展覧会遠征 小浜編

 

 先週はタンゴ半島を回ってきたところだが、今週は若狭湾というその隣を回ることになってしまった。以前に敦賀を訪問したとき以来、小浜線が非常に気になっていたのだが、小浜線は東海道線の接続が悪く、とかく時間がかかるなどの理由から先送りになっていた経緯がある。しかし最近、NHKの朝の連続テレビ小説「ちりとてちん」のヒットで、舞台となった小浜が異常に盛り上がっているとのことで、臨時快速が運行されることになったようである。この臨時快速(私は個人的に「ちりとて号」と呼んでいる)の運行期限が今月の15日のダイヤ改正までとのことで、つまりはこの週末がラストチャンスだったわけである。来週からはまた接続が悪くなって、敦賀で無用に時間を費やす羽目になってしまう。と言うわけで、今週しかチャンスがなかったのである。

 気になっていたのは天候。もう3月とはいえ、未だに積雪リスクはつきまとっている。しかし私の日頃の行いの良さか、当日の天気予報には積雪の気配はなし。安心して出かけることが出来たわけである。

 敦賀までは新快速で一気。湖西線から眺める琵琶湖はなかなかに美しい。近江今津で車両の一部を切り離すと、そのまま琵琶湖北部へ。しかしこの辺りから周囲の風景が変わりはじめる。辺りには雪が残っているし、さっきまで真っ青だった空が見る見る灰色に変化していく。やはり琵琶湖北部は雪国なんだということを再認識。雪国の空は鉛色だなどと言われるが、それはどうやらこういうことのようである。

 そこはもう雪国

 長いトンネルを抜けると、しばらくして列車は敦賀に到着。ここで乗換えなのだが、新快速はホーム末端の切り欠き部に到着するので、乗換えまでが長い。またここからは北陸線が接続しているのだが、乗り換え時間が3分と短い上に、同じホームの反対の端に車両が止まっているので、乗客が一斉に全力疾走という「第4次スーパー席取大戦北陸版」が阿鼻叫喚の最中で行われるのである。私は北陸線乗換えではなく小浜線乗換えなので、必死の形相で全力疾走する老若男女を横目で見ながら、少し遅れて移動する。小浜線へ乗り換えるには一旦下にもぐって別のホームに行く必要がある。

  北陸線車両は前方はるかかなた

  

小浜線車両                内部はかなり変則的

 ホームには二両編成の電車が待っていた。本来単両のワンマン列車であるものを二両つないだ即席編成である。既にかなりの乗客が乗り込んでおり、座席はほぼ埋まっている。シートはクロスシートだが、どうも構成が妙である。よく見ると、中央部分にドアがあったような痕跡があり、どうも3ドア構成の車両を改造して2ドアにし、その部分に間に合わせの座席を取り付けたようである。もしかして将来、小浜線の乗客が大幅に増加した暁には、この列車はすべて3ドアで運行されることになるのだろうか? しかしそんな日は来るのか?

 私は幸いにもどうにかこうにか座席を見つけたが、私の後にも新快速からの乗換えと思われる乗客が続々と乗り込んできて、多くの立ち客がいる状態で出発する。各地のローカル線を回ったが、今までこんなに乗車率の高いローカル線は初めてである。これがこの路線が最近電化された理由なのだろうか。

 列車は左手には山、右手には平地(時々海)を見ながら進む。いずこのローカル線でもよくある風景ともいえるが、日本海沿いは山の形に変化があって面白い。のどかな沿線風景をぼんやり眺めていると、1時間弱で快速ちりとて号は小浜に到着。到着と同時に数十人の乗客が一斉に立ち上がる。どうやらこの列車に乗車していた客のほとんどは小浜行きの客だったようである。これには私は驚いた。これがいわゆる「ちりとて効果」なのか、それとも元々の小浜の実力なのかは私には判断しようがない。

 駅に降り立った途端にそこはもう「ちりとてちん」一色である。駅の構内は至るところに「ちりとてちん」のポスターが張ってあるし、一角には「ちりとてちん」コーナーまで設置されている。まさに駅全体が「ちりとてちん」に占拠されている状態。ところで「ちりとてちん」は今月末で終了と聞いているのだが、その後は小浜市はどうなるんだろうと思っていたのだが、小浜市は「ちりとてちん」の次を睨んでか、アメリカ大統領候補のオバマ氏の応援に名乗りを上げているとのこと。念願かなってアメリカにオバマ大統領が誕生することになれば、今度は招致運動でもするのだろう。もしオバマ大統領訪問などと言うことがあれば、小浜駅前にオバマ大統領の銅像が立つことは間違いないと思われる。

 小浜駅 ここにいずれオバマ大統領像が?

 小浜駅構内には「ちりとてちん」コー

 駅前でタクシーを拾うと、両脇に「ちりとてちん」の幟が立ち並ぶ商店街を抜け、海岸のフィッシャーマンズワーフに向かう。ここからは蘇洞門(そとも)めぐりの遊覧船が出ている。これに乗船しようという目論見である。タクシーを使った甲斐あって、ギリギリのところで遊覧船の出航時間に間に合う。とりあえず乗船券を購入(「ちりとてちん」記念ということで、今ならなぜか箸がついてくる)、小型の遊覧船に乗り込む。

 町中「ちりとてちん」だらけ

 遊覧船は小浜湾を出て日本海へ。この辺りは波の侵食による奇岩の連続であり、それらの岩には「あみかけ岩」「夫婦亀岩」などというように名前が付いており、それを海から眺めるというわけである。ただ今日はうねりが結構強く、特に船が停止したら思い切り揺さぶられる。最初は私はカメラを風景撮影モードにしていたのだが、船が激しく揺れるせいで写真がぶれてしまうので、スポーツモードに切り替えた。スポーツモードは被写体が激しく動いている時に使うものなんだが、撮影者が激しく動く場合にも使えるようだ(笑)。ただ計算違いは、揺れる船の上でずっとファインダーをのぞいていたら、船酔いしそうになったこと。そう言えば今日は朝食を摂っていないし、昼食もまだである。昼食を後にしたのが良かったのか悪かったのか。こりゃこれ以上はやばいかもしれないと思った頃に船はUターンして港に向かう。一端小浜湾に入ってしまえば、先ほどのうねりがまるで嘘のように海面は静かになる。つくづく小浜が天然の良港であるということが実感できた次第。

 遊覧船

  

   水しぶきをあげて疾走                  夫婦亀岩

  

    滝もあります             大門は波が静かなら中に入れるとか

 50分ほどの観光クルーズを終えると、とりあえず昼食にすることにする。今日の昼食は、ここから少し歩いたところにある「お食事処濱の四季」で摂る。ただちょうど昼時になってしまったせいか、店が混雑していてしばし待たされる。この店は地元産品を使用した「スローフード」を売りにしているようだが、どうもスローなのはフードだけでなくすべてに渡ってのようである。厨房は戦場になっていたようだが、その割には客の回転が遅くて少々イライラさせられる羽目になった。

 ようやく席につけたのは30分後ぐらい。注文したのは「御食国御膳(1480円)」。焼き魚や刺身、さらに煮物などを組み合わせた典型的な和風定食である。この焼き魚がいわゆる名物の若狭カレイなのだろう。

  

 メニュー自体はなんの変哲もなく珍しさに欠けるものなのだが、一口頬張った途端に「うまい」という言葉が自然に出る。どうやらスローフードと銘打っていたのは伊達ではないようだ。こういうシンプルな内容だからこそ素材の質がもろに出る。若狭ガレイなどは適度に脂が乗っており、素朴に美味しいと言えた。どこか懐かしくてホッとする。そういう料理であった。最近は野菜嫌い、魚嫌いの若者が増えているというが、それはそもそも本物の野菜や魚を食べたことがないからでないだろうか。日本の食文化の行く末までもを考えさせられる。

 昼食を摂った後は、向かいの食文化館をのぞく。若狭の小浜は古来より御食国として京都に海産物などを運搬していた地である。その食文化にまつわる展示をしたのがこの館であるとか。1階は食文化に関する展示、2階は若狭塗りなどの工芸品に関する展示、3階は濱の湯なる温浴施設という複合構成になっている。

 しかし中に入ってみると、まるっきり「ちりとて記念館」である。至る所に「ちりとてちん」にまつわる展示があり、ロケの模様を紹介していたり、挙句の果ては徒然亭若狭(主人公の番組中の芸名)用の高座まであるという始末。ここはNHK放送センターだったっけと錯覚を起こしそうになる。

  

 やっぱり「ちりとて記念館」としか言いようがない

 ちりとて記念館を手早く見学すると、駅に向かって引き返す。時間があれば入浴でもしたいところだが、そもそもスケジュール的にギリギリだったし、先ほどの飲食店でかなりの時間を費やしたので時間的余裕が全くない。やや早足で小浜市街を突っ切って駅まで移動である。

 小浜駅に到着すると間もなく東舞鶴方面行きのワンマンカーが到着する。車両は先ほどの「ちりとて号」を単両にしただけのもの。数十人の乗客が一斉に降車すると、入れ替わりでやはり数十人が乗車する。年配の観光客といった風の女性客が多いのが特徴的。東舞鶴までは海沿いの経路。やはりこの路線は車窓の風景が楽しい。先ほどまでは空がどんよりと曇っていたのだが、今は青く晴れ渡っているので日本海が美しい。

 東舞鶴では同じホームの前の方で乗り継ぎ車両が待っていた。この列車で綾部まで移動である。ホームの向かい側を見ると、先週に乗車したタンゴディスカバリーが停車しており、つい先週にこの付近に来たんだということをハッキリと思い出す。

  

 舞鶴線は大して距離がないのだが、なぜか小浜線と運行は分離されているようである。しかし路線の雰囲気は小浜線と違う。線路が良くないのかやけに上下に揺れるのが気になる。なお舞鶴は東と西で全く分離しているというが、確かに東舞鶴から西舞鶴までの距離はやたらにある上に、間は山で完全に分離されている。また両者の雰囲気も異なっており、西舞鶴よりも東舞鶴の方がより都会というイメージ。

 西舞鶴に到着、先週に乗車した北近畿タンゴ鉄道のホームを向こうに見ながら、列車はさらに進み、ほどなく綾部に到着、ここでまた乗り換えである。山陰線を先週とは逆の方向に通って福知山まで移動する。先週はこの西舞鶴−福知山間を北近畿タンゴ鉄道で大回りして到着したのだが、今回のルートだとずいぶんと近い。なるほど、舞鶴−福知山間の移動は天橋立を回らない方が良いらしい(笑)。

 福知山では乗り換え待ちの時間がしばらくある。この時間を生かしてラーメンでも食べようと、調べておいた店に行ったのだが、なんと「本日の営業は既に終了しました」の札が。確か土曜日が休日ではなかったはずなんだが・・・。どうも地方の飲食店は週末に突然休みになったりなどが非常に多いので、空振りになることが多くて困る。やむなく福知山では家への土産を買ったのみで引き返す。

 福知山駅西口 東口側は駅前整備工事中

 ここからは福知山線を経由して大阪まで帰ることにする。実は今回の遠征の最終目的地は大阪なのである。というわけで、今回は敦賀−小浜経由で大阪に行ったという大迂回ルートだったということになる。

 福知山から篠山口までは4両編成の電車。先頭車は新快速などでよく見るタイプの転換クロスシート車で、2両目以降が固定式のボックスシートという混合編成。シートの座り心地を考えて私は先頭車両に乗車する。

 先週乗車した山陰線が綾部以降は山の中だったのに対し、福知山線の方は福知山盆地から続く山間の平地を走行する路線。沿線には常にそれなりに民家が存在しており、地方の通勤路線といった趣が強い。

 やがて篠山口に到着するとここで乗り換え。ここからは都市近郊区間になり、路線自体もJR宝塚線という愛称がある。路線も複線区間となり、車両は東海道線でよく見かける快速車両。いわゆる普通の「電車」になる。こうなるともはやローカル線の旅ではない。列車は大阪に近づくにつれ乗客を増やし、新三田以降は満員状態。そのまま通勤電車の趣で大阪駅に到着する。ようやく大阪に帰ってきた。厳密に言うと私にとっては大阪はまだ「帰ってきた」と言える土地ではないのだが、やはりここまで来るとホームグラウンドという意識が強いのか、やはり「帰ってきた」という言葉が出てしまうのである。

 大阪に来たからには目的となる美術館があるのだが、とりあえずその前に腹ごしらえである。阪神梅田に移動、行きつけのカレー店に行くことにする。阪神梅田改札口の横にある「ミンガス」でポークカツカレー(680円)を頂く。

  

 はっきり言って高級グルメなどとは無縁の貧民の私は、カレーと言えば一番思い出すのがこの店なのである。何の変哲もないごく普通のカレーだが、これがどうしてどうして結構クセになる。実際私がリピーターになっているのはこのカレー屋ぐらい。最初は甘口に感じるカレーなのだが、やがて香辛料が口の中に広がって来てビリビリしてくるのがここのカレーの特徴。またルーには一切具が入っていないが、よく見ると細かい肉の残骸などが見られ、つまりは具がなくなるぐらいに煮込まれていることが分かるのである。私は「カレーとはとにかくシンプルに煮込む料理」と考えている人間なので、その私の哲学に実にマッチしているカレーである。また注文してから即座に料理が出てくる(2分もかからない)というのはせっかちな私向き。店はカウンターのみの十数席という小さなものだが、客の回転率が非常に高いので待たされるということはまずないというのも私向き。はっきり言うと駅前の立ち食いそば屋のような店で実用性は非常に高いのだが、グルメを自称するような者が行く店ではないだろう。だが私の安物の舌が最も合致したのがここのカレーなのである。

 ここでカレーを食べて口が辛くなった時は、南側にある喫茶コーナーでミックスジュース(140円)を頂くのがお決まりのコース。実は最近ミンガスのすぐ隣に生ジュースを販売する店が出来ており、そちらのジュースの方が高級なのであるが、やはり貧乏人の私の口に合うのは、こっちの安物ジュースの方である。店頭で立ち飲み販売という典型的な関西式ミックスジュースで、いわゆる喫茶店などで飲むジュースよりも明らかに薄いのだが、のどが渇いている時に一気飲みしたりするのはこの方が適している。また氷を入れないので、カップの半分ぐらいが氷でがっかりさせられるということもない(そもそも最初から氷を一緒にミキサーにかけている)。私のような貧乏人にとっては、これはまさに「懐かしの味」でもあるのである。

 梅田でB級グルメコースを堪能した後は、近くの阪神プレイガイドで展覧会の前売り券を大量に仕入れる。ローソンチケットなどでも前売り券を入手できる美術館もあるが、ここでは実券を扱っているのがポイント。私は別にチケットをコレクションする趣味はないが、やはりローソンなどの電子チケットは風情がなくていけない。またここの場合、なぜか既に開催中の展覧会の「前売り券」を売ってたりするのが助かるのである。

 梅田でいつもの巡回を行った後、ようやく最後の目的地に移動する。


「写真とは何か 20世紀の巨匠たち」大丸ミュージアム梅田で3/17まで

 

 20世紀は写真の世紀と言える。それまでの絵画に代わって多くの写真作品が登場することになった。しかし一概に写真家と呼んでも、そのスタンスは様々である。ロバート・キャパのようなジャーナリズムに軸足を置いた記録としての写真から、マン・レイのように最初から芸術を志向した作品まで幅広い。本展はそのような写真の世界の展開を、20世紀を代表する写真家の作品で紹介している。

 とは言うものの、登場する写真家のスタンスは千差万別で、あからさまな社会派ドキュメント写真もあれば、シュルレアリスムの影響をもろに受けた意味不明な写真まで登場する。しかも近年になればこれにカラー写真まで加わるわけだから、展覧会としての統一性は皆無である。写真という技法でくくった以上こうなるのは必然であるが(例えば「大油絵展」と銘打って油絵を並べただけなら、てんでばらばらな展覧会になろう)、正直言うと何か全体の流れやテーマが欲しかったところ。

 なお私は個人的には、写真とはその名の通りの「真実を写すもの」という感覚を持っていることから、芸術を志向した「仕込み写真」はあまり好きではない。そういう点では、私的に「面白くない」作品が多かったのも事実である。


 以上で今回の遠征は終了。後は本当に「帰る」だけである。なおこれで大阪周辺の主要路線は視察終了ということになるか。残るは東西線及び学研都市線、それに今度開業するおおさか東線といったところ。厳密に言っていけば、ゆめ咲線や関空線などもまだ視察していないが、これはほとんど誤差の範囲である・・・というか、そもそも私は鉄道マニアではないので、何も完乗を目指しているわけではない。なお近畿地区で後に残る大物は紀勢線なのだが、これはまたいずれ時を改めてじっくりと視察することにする。

 どうもここのところ、鉄道が前面に出た遠征が多くなりすぎた。しかし何度も言っているように私は鉄道マニアではない。やはりそろそろ原点に戻って、展覧会を優先にした遠征を行う必要があろう。と言うわけで、次回の遠征は久しぶりに正真正銘展覧会が中心となった遠征となる予定である。まあこれは、春になって各館の出し物がようやく揃い始めたということも大きいのであるが。

 

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