青春18切符の旅 2007年度冬期締め

 

 和歌山から帰宅後、私は悩んでいた。実は青春18切符がもう一回分残ってしまっていたのである。期限は明日まで。こんな事態になってしまったのは、実は3連休の間にもう一回出かけるつもりが、金比羅参りのダメージで動けなくなってしまったのが原因だった。このまま切符を無効にするというのは私の貧乏性が許さない。なんとか使い道を考えないと。

 散々に悩んだ私の頭に浮かんだのは「雪を見たい」ということだった。結局、未だに走破していない津山−新見間の姫新線に乗車し、姫新線完全走破をするというプランが頭に浮かんだ。なお姫新線を姫路から乗っていくだけだと芸がないので、上郡から智頭急行を使用して佐用から姫新線に乗り換えるというプランである。例によって「駅探エクスプレス」で綿密な計画を練る。

 しかしいきなり失敗。先日の疲れが出たのか朝起き損なったのである。慌ててプランの練り直し。結局は時間をずらして同じルートを辿ることにした。しかしこれが後で響く。

 当初の予定では早朝に出るはずが、実際に出発したのは既に日が高くなってから。まずは山陽本線で上郡まで出ると、そこから智頭急に乗り換えである。今日はあいにくの雨。それが祟ったのか、なんと私の乗った列車の乗客は私一人。列車は貸し切り状態で上郡を出発する。

 

山陽線ホームの一番端が智頭急乗り場      智頭急のワンマンディーゼル車

 

 さて智頭急だが・・・速い、とにかく速い。智頭急は単線非電化であるが、路線の大部分は高架で高規格に作られている。そのおかげでスーパーはくとが激走出来るのだが、その御利益は普通列車でも体感できるようだ。JRのローカル線に比較すると明らかに速いし、そもそも車両の加速もかなり良い(もっともその分、エンジン音もでかいのだが)。それに高架から見下ろす風景も最高。ちょうど先週に乗車した井原鉄道と同じような感覚がある。どうも私は高速のディーゼル車というのに相性がよいようだ。やはりいつかスーパーはくとにも乗らないと・・・。なお私は鉄道マニアではない。

 

車内はなんと貸し切り状態         高架からの眺めが快適 

 快適な貸し切り列車の旅を堪能していると、あっという間に佐用に到着。非常に名残惜しいのであるが、とにかくここで姫新線に乗り換えである。

 

佐用に到着、鉄道マニアの姿も      セミクロスシートの車内は満員です

 

 佐用−津山間の姫新線は以前にも乗車しているが、あの時の朝一番の列車に比較して、昼近くの今度の列車はかなり混雑している。こうして見ると、この路線も結構生活路線として利用されているようだ。車窓の風景は相変わらずの山の中の過疎地域である。そう言えば車窓を眺めていてふと感じたのだが、私が電車よりもディーゼル車が好きなのは、乗り心地云々というよりも、実は非電化路線の方が無粋な電線が少ないということもあるのではという気もしてきた。実際、車窓の風景で一番目障りなのが電線である。

 列車が津山に近づくに連れて外は雨から雪に変化する。一面の雪景色。そう、今回はこれが見たいということもあったのである。降りしきる雪の中を列車は津山に到着、ここでさらに新見行きに数分の乗り換え。ここからがいよいよ未走破地域である。

 津山で乗り換え。車両は全く同タイプ

 新見行き車両も基本的にここまでの車両と同じタイプ。ディーゼルワンマンカーでセミクロスシート車両である。しかし乗客は意外と多い。大半が地元民と思われるが、明らかに強者鉄道マニアであることが分かる男性(何しろ、車両撮影用の一眼レフフィルムカメラと、車内のスナップ撮影用のコンパクトデジタルカメラを持参しているのだから筋金入りである。)と、これも鉄道マニアだろうと思われる小学生3人組(ちなみに私のKISSデジタルを見た彼らは私に対して「ああ、撮り鉄ね」と言ってきた。私は鉄道マニアではないんだが・・・)、さらになぜか折りたたみ自転車を持参している若者あたりが異彩を放っていた。

 列車が走るのはひたすら山道。白い雪をかぶった民家や、煙った山の風景が美しく、沿線マニアの私としてはなかなかに楽しめる風景。ただ外が寒すぎるせいで、窓がすぐに曇ってしまうのが難点。晴れている時はここはどういう風景が見られるのだろう?

 山間部の雪景色

 列車はやがて新見に到着。その頃には辺りは雪が降りしきっている状況。とりあえず駅前に出ると、チェックしていた店に向かう。特にはっきりした目的があって新見に来たわけではないが、ここまで来たのなら牡丹鍋でも食べて帰ろうという目論見である。

 新見駅も雪の中

 しかし店の前まで来た私は唖然とする。なんと準備中の札が出ているのである。確かこの店は昼休みはなかったはずなのだが・・・。どうも出発時間が遅れたせいで、到着時間が昼食時間帯を大きくはずしてしまったことが災いしたようである。今回はかなり思いつきで飛び出しているので、代替プランの用意はない。完全に途方にくれることになる。

 仕方なく新見駅に舞い戻り時刻表を見たところ、間もなく播州赤穂行きの普通列車が出るようである。播州赤穂という行き先を見たときに頭の中に一つの考えが浮上する。私はとりあえず売店でパンを買い求めると、その播州赤穂行きの列車に飛び乗る。こうして私は新見滞在わずか20分足らずでとんぼ返りと相成ってしまったわけである。しかもこの時に買い求めたパンがこの日の昼食である・・・・。

結局はこれに乗ってとんぼ返りする羽目に・・・。

 伯備線は今回の青春18シーズンだけで都合3回目の乗車。何やら既に私のホームグラウンドになってきた気配が。とりあえずの空腹をパンでしのぐと、車窓の外をボーっと眺めて時を過ごす。前々回(広島遠征)にこのルートを逆にたどった時は、沿線は秋の風景だったが、今回は雪景色である。もやのかかった山の風景が叙情的である。

 備中高梁に到着すると乗客がかなり増え、ここからは複線電化区間である。やがて前回に乗り換えた総社、清音を過ぎると倉敷に到着、岡山で運転手が交代して乗客も大半が交代する。しかし私はそのまま乗り続けで赤穂線に突入する。赤穂線は去年の春の津山行きの時に乗車しているが、春の昼間の風景と夕闇迫る冬の風景(しかも雪)では印象が全く違う。しかも日没と共に寒さが増しており、ガラス窓を通して寒さが染み入ってくる印象。今回は新見行きということで完全防寒していたが、これが岡山行きのつもりで通常装備だったら、今頃は凍えていたところだろう。やがて列車は日生に到着、ここで途中下車する。なんてことはない、牡丹鍋を食べられなかったのなら、カキオコを食べて帰ろうというのが私の思い付きである。

 既に日の暮れた日生の町をトボトボと歩く。ただこの悪天候のせいか、時間が悪かったのか、結構閉まっている店が多い。で、結局は以前にも訪れた「ほり」を訪ねることにした。注文は当然カキオコ800円。

 

牡蠣をたっぷり乗せて              これがたまりません

 天候が悪いのか時間帯が悪いのか、私が訪れたときには他に客がいない状態だった。ただこれでも、今日の昼頃はこの寒空の下、外にまで行列が出来ていたとのこと。カキオコマニアはまだまだ顕在である。実際、牡蠣の本格的なシーズンは1〜3月とのことなので、実はこれからがシーズン本番なのである。

 前回同様のジューシィーな牡蠣の味を堪能すると、私は再び日生駅に戻り、家路へとついたのである。これで新見での空振りによる心理的ダメージはいくらか癒された。

 しかし考えてみるに、終わってみると単に新見経由で日生にカキオコを食べに行っただけで終わってしまった。しかも昼食は売店のパン・・・やばい、これではまるで鉄道マニアの遠征である。私は断じて鉄道マニアではない・・・はずである。

 「手段が目的化することを趣味という」という言葉があるが、本来は美術館を効率的に回るために鉄道の研究をしていたはずなのに、そちらが目的化しつつあるやばい気配が漂っている(この場合の「やばい」は今時の若者が言う「やばい」ではなく、40のオッサンが言う元々の意味の「やばい」である)。そういえば私は、学生時代には音楽を聴くためにステレオを購入したら、それがきっかけでオーディオマニアになり、社会人になってからはネットとワープロのためにパソコンを購入したら、知らない間にパソコン自作を始めていた人間である。やばい、自身のオタク度の高さを過小評価していたか。そう言えばそもそも美術館回りにしても、教養番組として「美の巨人たち」を見ているうちに展覧会に対しての興味が高まってきて、展覧会を回るうちに美術館を回ること自体が目的化したという経緯があったような・・・・。

 鉄道には入り込むまいという私の理性とは裏腹に、私の頭の中では「智頭急行線全線制覇」「スーパーはくと」「和歌山電鐵貴志川線」「因美線」「木次線」などのキーワードが渦巻いているのであった。またも道を誤りかけているような気がする。

 

「認めたくないものだな、馬鹿さゆえの過ちとは・・・。」

 

 

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