青春18切符の旅 琴平編
さて先週は近場でお茶を濁したが、私もようやく本格稼働である。となると、やはり青春18シーズンの間に、やはりある程度の遠距離遠征をしておきたい。その時に、目的地として浮上したのが香川であった。
香川と言えば高松市美術館がすぐに浮かぶところだが、実のところ、ここだけだとわざわざ出かけていこうというだけのネタがない。今回の主題は実はここではなく、金刀比羅宮である。こんなことを言うと、「ついに美術館巡りを返上して、寺社観光をする気になったか」と言われそうだが、実はそうではない。金比羅宮には高橋由一館があり、さらには書院には円山応挙や伊藤若冲の襖絵が存在しており、美術館として高いポテンシャルを持っているのである。しかも現在は文化ゾーン完成記念として「金刀比羅宮書院の美」展が開催されており、普段は非公開である奥書院にも入ることが出来るという。その上、今回を逃すとこれらの作品はパリに長期巡業に渡ってしまい、しばらくは見ることが出来なくなるのである。
実はこの展覧会自体は東京にも巡回しており、私は昨年の東京遠征の折、東京芸術大学美術館でこれらの作品を見ている。その際は応挙や若冲の筆の冴えに圧倒されたものである。しかし東京展では若冲の障壁画など一部の作品は写真での出展だったし、何よりも障壁画は本来あるべき場所で見るのが正しい見方である。これはやはりこの機会を逃すわけにはいかないという思いが強くなっていた。
以上の用件から、今回の遠征は金刀比羅宮を中心にすえての計画となった。実のところ、金刀比羅宮に行って帰ってくるだけだと距離的には日帰りも可能なのだが、私の体力を考えると、金刀比羅宮参りをしてとんぼ返りしてくるのはかなりキツイと判断、琴平で一泊することにした。
出発は早朝(この時期だとまだ真っ暗である)、在来線で時間をかけて岡山に向かう。それにしても姫路−岡山間は難所だ。せめて快速でもあれば良いのだが、普通のみなのでとにかく時間がかかる。これが赤穂線がJRでなく競合私鉄であったなら、対抗上新快速が岡山まで延長されることにでもなっていただろうが・・・。
岡山で降りると、快速マリンライナーで四国に渡る。この快速は青春18切符で使用できるありがたい列車なのだが、先頭の展望グリーン車だけは特別製だが、2両目以降の自由席はいわゆる転換クロスシートの新快速と同じタイプの車両なので、どうも旅情が湧かないのが難点だ。
快速マリンライナー
快速はやがて瀬戸大橋にさしかかるが、あいにく天候が悪いためにほとんど何も見えない。やがて瀬戸大橋を渡りきると坂出に到着、そのままノンストップで高松に向かう。なお今回私は琴平に直行するのではなく、高松に寄り道をすることにしている。同じ遠征するなら、出来るだけ回っておこうという例によっての貧乏性である。
高松駅に降り立つが、現地は本格的な雨である。そこで市内循環バスで高松市美術館へ。ちなみにここの美術館、私が訪問した中では非常に珍しい「ロッカーが有料の美術館」である(ここ以外ではMOA美術館でしか体験していない)。なので荷物は持ったまま移動ということになる。
「コレクション展2」高松市美術館で1/27までめくるめく連作版画の世界と銘打って、同館が所蔵する現代アート系の作品を展示したものである。ただ第1部はいきなりウォーホルのキャンベルスープ缶にマリリン・モンロー、リキテンシュタインのアメコミときたものだから、冒頭からゲップが出る。第2部はこれまた見慣れたインディアナの「LOVE」。第3部はミニマリズムと称した「いかにアーティストが楽が出来るか」に尽力した作品で、これまた感心しない。
こういう作品を見た後だと、第4部のカンディンスキーやジョアン・ミロはそのカラーリングだけでもすばらしく見えてくるし、第5部のフンデルトワッサーに至っては天才に見えてきてしまうという次第。なお最後にはこれまた見慣れたマティスのジャズが登場だが、今回はやけに新鮮に見えてしまった。
高松市美術館を後にすると、いよいよ琴平に移動である。青春18切符があるのだから、ここからサンポートで一気に琴平へ・・・となるのが普通だろうが、今回はあえて琴電で移動することにする。やはり高松から琴平に移動するなら、琴電を使用しないと嘘だろう。なおこれは決して私が鉄道マニアであることを意味するわけではない。
高松築港駅に移動、琴平行きの列車を待つ。ダイヤは1時間に2本確保されており、JRのローカル線などよりははるかに本数が多い。なお琴電はかつては各地の私鉄の中古車両を寄せ集めて運行されていたため、車両博物館などとも呼ばれていたとのことだが、現在では車両の統一が進んできているようだ。なお現在はICカードまで導入しているようであるが、その一方で自動券売機で販売されているのは紙切符で、改札でハサミが入るというのは何とも奇妙な感覚を抱かずにはいられない。
ローカルムード満点の琴電 懐かしい鋏入り 内部は懐かしい構成 到着した車両は2両編成のロングシート車両。いかにも私鉄らしい懐かしさを感じさせる車両である。列車はしばらくは高松の市街地を走る。ちょうど沿線の風景としては京阪と似たような雰囲気がある。正直私は、もっと怪しげな鉄道をイメージしていたのだが、予想以上に普通という印象。やがて琴平が近づくにつれて閑散とした雰囲気にはなるが、沿線人口は先週乗車した三木鉄道などよりははるかに多そうである。琴電は数年前に経営危機に陥ったとのことであるが、私の印象としては滅び行く鉄道という感は受けなかった。高松と琴平が存在する限り、この鉄道は生き延びるべき鉄道なのではないかと感じる。
琴平駅に到着 琴平駅外観 やがて終点の琴平に到着する。駅の周辺は温泉観光地のような雰囲気。実際、この辺りは琴平温泉という温泉地でもあるという。石段登りに備えて荷物を駅のロッカーに放り込むと、これから金刀比羅宮参詣となるわけだが、まずはその前に腹ごしらえである・・・とはいうものの、この辺りはうどん屋ばかりで選択の余地はない。とりあえず適当なうどん屋にはいる。
入ったのは土産物屋と隣接したごく普通のうどん屋、注文したのもごく普通の天ぷらうどんなのだが、これがうまい。やはり麺のコシが違う。さすが香川、うどんの国である。
温泉街の風景
腹ごしらえをするといよいよ金比羅参りである。参道筋を歩いていくとついに石段が現れる。いよいよである・・・最初は足慣らしのような数十段の石段。しかし情けないことに早くも息が上がってくる。門に到着したところで百数十段。ここまでは単なる準備運動みたいなものであるという。ここから徐々に本格的な石段が現れ始める。やがて右手に目的地である書院が見えてくるが、ここで荷物を増やすのは得策でないと判断(美術館の類に寄ると、図録等の荷物が発生する公算が大きい)。とりあえず参拝の方を先にすることにして、ここには帰りによることにする。
とりあえずここから始まり 門につく頃には既に息が上がる この後は石段地獄である。ここら当たりに来ると、麓の土産物屋が「荷物預かります、杖を貸します」と表示を出していたわけが分かる。確かに杖があった方がありがたい。雨でひんやりしているにもかかわらず身体は汗だく、足がきつくなってくる。やがて目の前に社が見えてくるので、これが本殿かと思ったら、実は本殿はもう一段上とのこと。しかもその本殿までの階段が急。
本殿前の試練 本殿についた頃には息もかなり上がってしまう。ようやく本殿に到着。ここからは香川の風景を一望・・・出来るはずだったのだが、あいにくの雨の上に今日はやや煙っているので眺望は皆無。目の前が真っ白で、デジカメを向けてもピントを合わせられないからとシャッターが下りない始末。
ようやく本殿に到着 しかし風景はこの状態 さて本殿に到着したのでツアーコースならここでUターンであるが、実は金刀比羅宮はこれで終わりではない。ここからさらに奥に社があるのである。しかしここまでで石段は700段程度、奥の社まで行くとさらに700段程度登らないといけないという。判断に迷うが、ここまで来てUターンでは後で後悔することになると私の野次馬根性が騒いでいる。足に相談、まだいけそうだとの返答が来る。そこでさらに奥の社を目指して登山を続けることにする。
ここからは鬱蒼とした山道のイメージになってくる。しかしあいにくの雨で空気は重く、傘をさしていても頭からずぶ濡れである。カメラもずぶ濡れな上にガスが出ているので、写真も鮮明には撮れない。晴れた日に来たかったなという思いがどんどんと強くなってくる。
それでもどうにか「後100メートル」ぐらいの表示のところまでやって来た。しかしクライマックスは最後に訪れるものだ。なんとここからが見上げるような石段地獄。ここまで酷使されてきた足腰が悲鳴を上げる。とは言うものの、ここで引き返すわけにもいかない。へばりへばりでようやく目的地に到着。達成感よりも疲労の方が強烈に襲いかかってくる。しかもここから眺望でもあれば疲れも安らぐのだが、残念ながら目の前は一面真っ白。全く視界が開けない。これではまるで私の人生のようだ。
奥社前にもまた試練 ようやく到着 とりあえず社に参拝をすませると、ここまで来た記念にお守りを買い求め、さらにおみくじも引く。なんと「大吉」。「願い事 叶い難い様ですが、半ばより案外安く叶う 待ち人 音信あり、早く来る」とのこと。これは春から縁起が良い。今年こそは私の運も開けることを願おう。
後は引き返すだけ。とは言うものの非常に疲れた。荷物を最小にするために飲み物さえ持参していなかったことが悔やまれる。正直、自動販売機を置いておいて欲しいと思ってしまう。だがここでウダウダしていても体力をさらに消耗するだけである。帰路につく。
疲れてはいるが、下りは登りよりは数段楽ではある。ただ気を付けないと足に負担が徐々に蓄積してくる。それでも順調に本殿まで下りてくる。ここでまた参拝した後、いよいよ目的地の書院に到着する。
本殿に参拝
「金刀比羅宮書院の美」金刀比羅宮で1/31まで金刀比羅宮の書院には円山応挙、伊東若冲などの手による障壁画の名品が存在している。今回、それらの名品を書院と共に一般公開したものである。
先に述べた様に、私はこれらの作品を以前に東京で見ている。しかしやはり障壁画とはあるべき場所で見て初めて本来の価値が出るものだと感じずにはいられなかった。すべての絵画が建物との調和の上でバランスが取れているのである。特に岸岱の柳と白鷺を描いた作品などは、書院の空間に入り込んで初めて真価を発揮するということを感じずにはいられなかった。まるでバーチャルリアリティの様な生々しささえ感じられるのである。これを体験しただけでも、わざわざ香川までやって来た価値は十二分にあったと感じずにはいられなかった。
なお円山応挙の「虎図」については、やはりここで見ても「猫図」。弟子の長澤芦雪といい、この一門はやはり虎は猫になるのだろうか。愛嬌があって私は好きだが。
書院のついでに高橋由一館と宝物殿の方ものぞく。高橋由一は多分に日本画的要素がまだ残っているが、いかにも真面目に描いている洋画というイメージで好印象。宝物殿の方では長澤芦雪の鯉図があったのが驚き。また別館では金刀比羅宮が所蔵する刀剣類を展示していたが、残念ながらこれは私の専門外だった。
これで金刀比羅宮にやって来た目的も果たし、さあ帰ろうかと思ってポケットを探った私の顔が青ざめる。ポケットに入れていたはずの青春18切符が見つからないのである。財布をポケットから出した時に落としたとしか考えられない。財布を出した時と言えば、社に参拝した時か。奥社を出た時はあったはずだから、本殿より下ということになる。私は慌てて石段を再び本殿までとって返すが、道ばたに落ちている気配はなく、社務所に聞いても届いていないとのこと。絶望的な気持ちで再び下りてきて、最後の望みと高橋由一館で聞いたところ、館内に落ちていたのが届いているとのこと。安堵から急に力が抜ける。そう言えば先ほどのおみくじに「失せもの 出る」と書いてあったっけ。早速金刀比羅宮の御利益があったようである。ありがたや。
ただこのドタバタで、私は1400段にプラスしてさらに300段ぐらいの石段を上り下りする羽目になってしまった。実はこれが後に非常に響いてくることになるのである・・・。
さてこれで本ツアーの主目的も果たしたし、後はホテルに入るだけ・・・と言いたいところだが、金刀比羅宮参拝の予定時間をかなり多めにとっていたために、まだ時間に余裕がある。そこで急遽オプショナルツアーに出かけることにする。こういう事態に備えて、私のプランは常に第2、第3案を用意しているのである。
琴平駅でロッカーから荷物を出すと、JRの発車までの時間をつぶすのに喫茶店を探す・・・が、回りにあるのはうどん屋ばかり。そう言えば、香川で「ちょっと一杯していく?」と言えば、それはうどんのことであるという話を思い出す。さすがにうどんの国。そう言えば琴平に限らず、高松でも喫茶店というものをあまり目にした記憶がない。やむなく、駅前のうどん屋で時間をつぶす・・・が、ここで私は貴重な体験をすることになった。どうやら香川のうどん屋にもはずれがあるらしいということを、この時に私は身をもって知ることになったのだった。これには正直驚いた。これなら最初に入ったうどん屋にもう一回入った方がよほどマシだった。
JR琴平駅 JRの車両 さて貴重な体験をしつつ時間をつぶした後、再びJRに飛び乗った私が目指したのは丸亀だった。目的地の美術館は丸亀駅の真ん前のかなり大きな建物。なんとも表現しがたいほどの存在感を放っている。
「マルレーネ・デュマス ブロークンホワイト」丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で1/20まで
マルレーネ・デュマスとは南アフリカ出身の画家であるとのこと。彼女はモデル等を用いずに、雑誌などの写真等を元にして人物の描いた絵画を表現している。
作品自体は非常にインパクトがあるのだが、どうもどの作品にも死の匂いが漂っているように感じるのは何故だろうか。息が詰まるような重苦しさを感じずにはいられないのである。首つりの光景をモチーフにしている作品などは、まさに死のイメージそのものなのは当然なのだが、なぜかそれ以外の作品からも死の匂いを感じずにはいられないのだ。多分彼女自身は、もっと多様なイメージを込めているはずだと思うのだが・・・。
結局、私には死のイメージしか感じ取ることが出来なかった。正直「苦手だな」という印象だけが強烈に残されてしまったのである。
この美術館には猪熊弦一郎の作品も常設展示されている。正直、私は彼の作品には全く興味がないのだが、作品が年代順に並べられているので彼の変化の跡がよくわかる。当初は普通の洋画を描いていた彼が、やがてマティスやキュビズムというお約束の洗礼を受け、その後はようやく自らの独自の作品を生み出す(と言っても、その作品が私には面白いとは思えないが)という過程が年代をもって明瞭に現れている。この時代の日本人画家は多かれ少なかれこういう変遷は標準的なようである。
疲れてきたので喫茶店でフレンチトーストとジュースで一息をつく。ここの喫茶店は美術館内にあるものの、外からも入ることが出来るようになっている構造。経験上、こういうタイプの喫茶店の方がまともな確率は高い。
さてようやく一息ついたところで今後の戦略を練る。やはり帰りの列車の時間までに丸亀城を見ておこうと思い立つ。どっちみちこの時期には中に入れないことは調査済みだし、そもそももう既に時間が遅すぎることは分かっている。しかしついでだからせめて一目見ておいてやろうという野次馬根性である。シャッター街と化している駅前商店街を抜けると、市役所を回り込む。すると目の前にライトアップされた丸亀城の天守閣が見える。
丸亀城天守閣・・・なんとこの位置に見えます
「ありえねぇ」思わず声が出る。初めて目にした丸亀城は私の常識を越えていた。大体普通にイメージされる石垣の高さから考えると、あり得ない高さに天守閣が存在していたのである。確かに事前の調査で、丸亀城の石垣は日本一の高さがあるとは分かっていたが、こうして実際に目にするとこれはあまりに非常識であった。ただ単に天守閣が高い位置にある城というなら山城などはそうであるが、それらは城を高い位置に置いたと言うだけである。それに対してここの城は、平地に異常に高い石垣がそそり立っているのである。
とにかく度肝を抜かれた。本当はもっと接近してじっくりと観察したかったのだが、もう列車の時間が近づいていた。とにかくまた季節を変えて、いずれこの城に登ることを誓って今回は撤退とする。
丸亀から琴平にJRでとって返す。ここからホテルまで徒歩で移動だが、日没後の駅前は真っ暗な上に、ホテルまでの道がやけに遠く、金比羅参りで疲れた足腰に響く。もう嫌になりかけた頃に、ようやくホテルに到着する。
今回の宿泊ホテルは琴平パークホテル。本当は琴平温泉にでも泊まれたら一番なんだが、そんな予算があるわけもない。とにかく大浴場のあるホテルにこだわって、宿泊料金の安いところを探した結果である。宿泊費4200円で朝食付き。設備にはやや古さを感じるが清潔感はある。そして何より私が好む「明るめの照明」。おかげで物書き作業がやりやすい。駅からやや遠いのが難点だが、目の前がスーパーマルナカで隣がローソンというビジネスには絶好の立地。もっともおかげで旅情はいささか不足である。
とは言うものの、元々私の遠征は旅行ではなくて取材だと言われることが多い代物である。実際、いい年をしたオッサンが一眼レフカメラをぶら下げてリュックを背負って一人でウロウロしていると、どこかの怪しいカメラマンにでも見えるらしく、今まで「お仕事ですか?」と声をかけられたことが何度もある。結局は私の遠征は旅情もクソもなくなってしまうのである。で、私は早速、今夜の夜食にマルナカで半額シールの貼った寿司を買い込む。なんか今までもこのパターンが散々あったような・・・。
さて夕食であるが、ホテルの向かいのうどん屋「むさし」でとることにした。これで今日3回目のうどんであるので他のものにしたい気もあったが、うどんの国香川では他に選択の余地はないようである。注文したのは季節限定メニューのしっぽくうどん。野菜や肉を鍋物のように煮込んでいるうどんである。
しっぽくうどん
結果としてはこれが大正解。私は以前から讃岐うどんに対して一つの問題点を感じていたのだが、それを解決するうどんがこれであった。その問題点とは「讃岐うどんは出汁が弱い」というものである。香川では生醤油うどんといってうどん玉にしょう油をかけて食べるのが一番人気ということから分かるように、讃岐うどんは手打ちでコシのある良いうどんを単純な形で食べるという志向が強い。それはそれで良いのだが、その結果としてかけうどんなどの出汁が軽視されることになり、関西人の私から見るとあまりに間に合わせの出汁が多く思われていたのである。このしっぽくうどんはまるで鍋物のように野菜類を煮込んでいるので、それだけで十分な旨味がある。そこにコシの強い讃岐うどんが入るのだから、これは鬼に金棒、まさしく私が求めていたうどんであったわけである。
なおこのうどんにおにぎりをつけて合計690円。香川で驚くのはうどんの味もさることながら、そのコストパフォーマンスの良さである。やはり恐るべし讃岐うどん。
この後はホテルに戻ると、この原稿の執筆(笑)。そして大浴場でゆっくりと今日の疲れを抜いた後、先ほどの夜食をぱくつくとテレビを見てまったりと落ち着く時間を送る。やがて「サイエンスZERO」が始まる頃には、自然と眠りについてしまったのである
翌朝は7時に起床するとまずは朝風呂。昨晩は真っ暗で何も見えなかったが、展望大浴場と銘打つだけあって見晴らしはよい(もっともその見晴らしの真っ正面がスーパーマルナカなのはどうかと思うが)。これで温泉だったら言うことないが、まあ贅沢は言っていられない。朝食はバイキング。メニューの少なさが少々難だが、しっかり和食を食べられるだけで良しとすることにする(料金が料金だし)。
腹ごしらえがすむとチェックアウト。また琴平まで長い道のり。今日は昨日とうってかわって非常に良い天気。金比羅宮参拝は今日にしとけば良かったかなと後悔することしきり。しかし今更どうしようもない。予定通り計画を進めるだけだ。
実は今日の予定と言っても、少々寄り道をしながら帰るだけなのだが・・・。琴平から高松行きのサンライナーに乗車すると、坂出でマリンライナーに乗り換え岡山を目指す。昨日は雨のせいで風景がイマイチだったが、今日は晴天なので瀬戸大橋からの風景が綺麗だ。風景を楽しみながらのんびりしていると、そのうちに列車は岡山に着く。
瀬戸内海の風景
実はこれから帰宅とは反対方向の福山に立ち寄る予定である。とは言うものの、このまま山陽線で福山に行くのでは芸がない。と言うわけでここでは、先日の広島遠征の際に気になっていた吉備線と井原鉄道を乗り継いで福山に行ってやろうという計画。実はこのためにダイヤは事前に調査済みなのである。なお繰り返しておくが、私は決して鉄道マニアではない。
岡山駅の一番はずれのホームで、吉備線の総社行き列車が止まっている。列車はオーソドックスな2両編成のワンマンディーゼルカー。内部はセミクロスシートになっており、既に意外と乗客が乗っている。
吉備線のディーゼル車 内部は標準的なセミクロスシート やがて列車は発車。ホームの端ではわざわざ発車シーンをビデオで撮影している鉄道マニアとおぼしき人影が見える。さすがに青春18シーズンは鉄道マニアが各地に出没するようだ。列車は甲高いディーゼルサウンドを響かせながら、市街地を疾走する。なぜか振動が心地よい。こうして乗ってみると、やはり少々やかましいが、ディーゼル車の方が乗っていて楽しいということを感じずにはいられなかったりする
吉備線は数駅は市街地の中という構成だが、やがて沿線にはのどかな風景が広がるようになる。備中高松に到着する頃には多くの乗客が下車する。ちなみに備中高松は秀吉の高松城水攻めで有名な地だが、確かにいかにも湿地だったことがうかがえる地形だ。
備中高松付近 元湿地というのも納得
やがて岡山道が見えてくると終点が近い。総社に到着すると、ここに乗り入れしている井原鉄道の車両が見える。しかし今回乗車するのはこれではない。とりあえずは伯備線で清音まで移動、ここで井原鉄道に乗り換える。
総社駅には井原鉄道の車両が 以前にも乗った伯備線車両 井原鉄道は単両のディーゼルワンマン車。JRのローカル線などと同じイメージである。しかし井原鉄道が独特なのはその軌道がほとんど高架になっていること。おかげで非常に見晴らしが良く、風景が最高である。特に清音からの前半部分の山が見える地域の風景はすばらしく、沿線の観光開発と共に観光路線として売り込めば、この路線はまだまだ潜在的ポテンシャルを持っているように思われる。また単線非電化路線とはいえ、線路自体は高規格で引かれているようで、その気になればかなりの高速運転も可能であるように思われる。そう言う点でもこの路線は、地方の衰退しつつある第3セクター会社とは異なり、なんとなく可能性が感じられるのである。
井原鉄道のディーゼルワンマンカー これも内部はセミクロスシート 井原鉄道はほとんどが高架を走ります 鉄道マニアではない私だが、なんとなくこの井原鉄道は堪能してしまった。やがて45分ほどで神辺に到着、ここからJR福塩線に3駅ほど乗車することになる。
福塩線は福山と塩町をつなぐ路線で、南半分の電化地域と、北半分の非電化地域に分かれるという。この辺りは電化地域であり、到着した車両は2両編成でロングシートのワンマン電車である。またかなりの乗客が乗っている。車内の風景はまさに都市近郊の通勤電車という趣。
福塩線二両編成ワンマン電車 内部はロングシートで通勤車両そのもの 電車自身は少々風情にかけるが、沿線風景は福山に近づくまでは結構のどか。そう言えばこの路線もまだ乗車したことのない路線であった・・・。なんか次の青春18シーズンのプランがなくとなく定まっていくことを感じる私。やがて10分少々で福山に到着する。
さて福山に到着。さあ、ここから今日の予定だ、と元気にホームに降り立った私だが、いきなり絶句。「あ、足が動かない・・・。」先ほどまでは気づかなかったのだが、3時間以上を列車に揺られている間に、足が全く動かなくなっていたのである。触ってみると両足のふくらはぎがパンパンで膝から下が自分の足と思えない状態。平地を歩くのも辛いが、階段の上り下りは至難の業。昨日の金刀比羅宮参拝のダメージが確実に襲ってきたのである。金比羅さんは甘くはなかったということを今更思い知る私。この時点でこの後のプランの大半を破棄することを決定、結局この駅の最寄りの美術館にだけ立ち寄ることにする。
「三沢厚彦ANIMALS」ふくやま美術館で3/9まで彫刻家の三沢厚彦氏が制作した動物作品を集めた展覧会。どことなく漫画チックでありながら、それでいて妙にリアル。独特の感性で制作された動物の木彫り彫刻が多数展示されている。
作品も実物大の巨大作品などもあって多彩。いずれの動物も妙に愛嬌があるのが見ていて楽しい。芸術的にどうこうというよりも、とにかく面白いという展覧会。これは子供連れには最適であろう。
残念ながらすでに美術館内を歩き回るのもキツイ状態。もうここで諦めて引き返すこととした。今までも尾道の坂道や広島遠征の弥山や、朝来の竹田城などで運動不足を思い知られたが、今回のその中でも一番にひどい状態。ほとんど両足がつったに近い状態になってしまっている。これは金刀比羅宮が今までの遠征で実は一番きつかったのか、単に私が老化したのか、それについては今のところはまだ不明である。情けない・・・・。
結局、最後の最後に計画が破綻してしまった。ただそれを抜きにしても、丸亀城などリターンマッチの必要な部分が多々ある。これは以前から密かに温めていた四国大周回計画をいずれ実行に移す必要があるか。ただ問題は、鉄道を使うか自動車を使うかである。自由度から言えば自動車なのだが、コスト面で考えると鉄道が圧倒的に有利なだけに・・・。というか、まずは先立つものをどうするんだ?
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