神戸市立小磯記念美術館

小磯のアトリエを囲むように建っている

中央には小磯のアトリエが展示されている

公式HP

美術館規模 中

専用駐車場 無(地下に巨大な公営駐車場有)

アクセス方法

 六甲ライナー「アイランド北口」駅降りてすぐ

お勧めアクセス法

 六甲アイランドは本当に何もないところだし、JRや阪神から六甲ライナーに乗り換えていると結構時間がかかるので、結局私は車で行っています。駐車料金もそう高くはない。

コメント

 

展覧会レポート

 

「西村元三朗回顧展」 2006.10/14〜1/14

 西村元三朗は戦後に小磯良平の薦めで新制作派協会に参加して活躍した画家である。本展はその西村元三朗の大規模な回顧展である。

 彼の作品は、初期の頃から異様に立体にこだわっている傾向が見られ、戦後すぐの時期の絵画では、日本の風景を題材に描いたはずにも関わらず、まるで西洋の町並みのような非現実的な風景を描いている。彼はやがてシュールレアリズムの影響を受けることになるのだが、彼の嗜好から見ればそれも必然だったように思われる。なおこの時期の彼の絵画にはデ・キリコの影響が露骨に現れている。

 この時期を経て、ついに彼は現実とは完全に乖離した抽象的とも言える表現に到達するだが、ここでも彼の立体に対する固執が顕著に表れているので、内容は抽象的にもかかわらず、作品自体は具象絵画のようにも見えるところがある。まるで建築家によるイメージデザインのようなところがあるのだ。

 と言うわけで、立体に対するこだわりという嗜好においては共通項のある私の目からは、絵の具を塗りたくっただけの独善抽象絵画などと違って、妙に馴染みやすくてしっくり来るところを感じたのが彼の作品である。こういうのを「趣味が合う」と言うのだろうか。

 

「萩須高徳展」 2006.8/3〜10/9

 パリに在住してパリの画家とも呼ばれた荻須の初期から晩期に至るまでの作品を集めた展覧会である。本展は稲沢市荻須記念美術館との共同企画とのことであり、私が以前にそこで見たことのある「金のかたつむり」なども展示されている。

 以前に彼の絵を見た時にも、画題といい、画風といい、佐伯祐三にそっくりだなということを感じたのだが、本展を見る限りではそれはパリに渡った初期の作品に顕著に表れている傾向であるようである。しかし晩年に近づくにつれて、彼の画風は微妙に変化し、かつてのような荒々しい絵の具の厚塗りから、力強さはそのままであってもより洗練されたタッチに移行していっているようである。作品が概ね時代順に並べてあり、比較的晩年に近い作品が多かったことから、このような傾向が私にも読み取れたようである。そう言う意味では、私にとっては収穫があったと言える展覧会である。

 

「受贈記念 石阪春生展」 2006.5/20〜7/30

 神戸出身の洋画家・石阪春生氏の作品が本美術館に寄贈されることになった記念として、これらの寄贈作品に他の作品を加えて展示したのが本展であるとのことだ。油絵を中心に石阪春生の初期から現在に至る作品を見ることが出来る。

 彼の最初期の作品はいわゆる抽象絵画であり、これは典型的な「誰でも描ける平凡きわまりない作品」である。彼がその真価を発揮するのは、有名な連作「女のいる風景」を描くようになってからである。人形的に見える女性と細々した小道具を配しただけのワンパターンとも言える絵画なのだが、彼独特のやたらに細かい書き込み(油彩でありながらイラストタッチである)などによって抽象画以上に抽象的で幻想的な画面になるのである。

 正直なところ、よくまあこんなワンパターンなという気が起こるのだが、それにもかかわらず、独特の魅力を持った作品であることは否定できない。多分に感覚的なものなので好きか嫌いかという世界に還元されざるをえないのだが私個人としては、意外と好印象だったのである。

 

「コレクション大公開!」 2005.9/10〜1/9

 本展は美術館が所蔵するコレクションについて、選抜して展示する催しである。小磯良平作品は当然として、それ以外の収蔵品についても展示されるので小磯良平とその周辺の画家達の作品をまとめて見ることが出来る。

 小磯良平作品については常設展示で何度も見ているので、この美術館の所蔵品は大体知っているが、他の画家の作品については意外と展示される機会がないのでかなり新鮮な印象で見ることが出来た。ただ玉石混淆でまさに並べているだけなので、私のような素人にはフーンで終わってしまって、結局のところ特に記憶に残る作品がなかったりするのだ。

 

「植物画世界の至宝展」 2005.7/23〜9/4

 写真が一般化するまでは、いわゆる植物図鑑の類は精密描写の図版によって紹介がされていた。16世紀頃から登場したこの手の植物図鑑は豪華を極め、そこに掲載されている図版は単なる写し画を超えて、芸術性さえも帯び始めていく。本展は1804年に創立された英国王立園芸協会(RHS)が収蔵する植物画の中から100点ほどを展示した展覧会である。

 まさに精密描写と写生の極地と言おうか、変に芸術性を目指したりなどの俗念がない分、逆に素直な美しさ(場合によってグロテスクさ)を感じさせる作品ばかりである。これらの絵画は科学的正確さが最も重視されるので、画家の観察眼の鋭さが端的に発揮されており、線の一本一本までに現物を再現しようとする執念のようなものが感じさせられる。

 絵画をたしなむものなら、その線に込められた描写技術の凄まじさに圧倒されるのだろう。絵画の心得の全くない私でも「よくぞここまで」と感心せずにはいられなかったのであるから。普通の美術展と異なって観客のほとんどが作品ににじり寄って線の一本一本を辿っていたのが印象的であった。

 なお本展と同時に小磯良平による植物画も展示されているが、こちらはやはり「画家の植物画」であり、写生にこだわりつつも芸術性を発揮しようという意図が見えると言うのがなかなか面白かった。

 

「小磯良平大賞展」 2004.12.11〜2/13

 小磯良平の画業を顕彰して1992年に創設されたという公募展の第7回展である。本展は平面作品なら具象・抽象の区別などはないとのことで、今回も1000点を超える出品があったとのことだが、この中から大賞などの入選作52点を展示してある。

 テーマは自由で平面作品という以外には制約がないとのことで、非常に個性豊かな作品が集まっている。ただいずれも共通しているのは、典型的な現代美術ではあるが、技術的なものに裏打ちされた力作が多いということで、いわゆる「手抜き系勘違い斬新作品」の類が一点もなかった。この辺りの選考基準はやはり「小磯良平大賞」である所以だろうか、そこまでは私には分からないが、どうも選者の嗜好のようなものが反映しているようだ。

 ポスターにも使用されている大賞作品は、ごく普通の風景画であり、印象派を思わせるような光の煌めきに感心させられる作品である。本作を初めとしてとにかく「手が込んでるな」と感じされられる作品が多く、唸ったり、首を傾げたり、意外と退屈しない展覧会である。

 

「内田巌展」 2004.10/2〜11/28

 文芸評論家、内田魯庵の長男として生まれた内田巌は、小磯良平・猪熊弦一郎と共に、戦後に日本美術界を立ち上げ、新しい美術運動に活躍した日本画壇の中核的存在である。それにも関わらずライバルであった小磯らと違って、名前を冠した美術館も存在せず今一つマイナーな存在である。本展ではライバルである小磯良平・猪熊弦一郎の作品と併せて内田巌の代表作を展示している。

 デッサン中心の内田巌は、肖像画に名作があるといわれているが、代表作とも言われる谷崎潤一郎の肖像は確かに秀逸。人物の内面が滲み出てくるかのような迫力がある。また彼が描いた母の肖像画にはある種の切なさが見え、そこには彼自身の母に対する思いが滲み出ているのだろう。小磯の柔らかくて美しい肖像画、猪熊弦一郎の独特の絵画などと対比すると、三者三様で面白い。

 

戻る