伊丹市立美術館

江戸時代からの酒蔵などと複合した建物

公式HP

美術館規模  小〜中

専用駐車場 無(付近に大規模な公営駐車場有)

アクセス方法

 JR伊丹、阪急伊丹より徒歩9分

お勧めアクセス法

 この周辺は道路が混雑するので電車で行くのが便利。

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展覧会レポート

 

「今村源展・連菌術」 2006.9/9〜10/29

 本展ではそのタイトルの通り、菌やキノコをモチーフとした作品が、美術館の各所に展示される。サイバーなキノコがテレビから古瓶から生え、菌糸が壁を貫き、机を持ち上げる。そして地下から地上に向かって怪しげな菌体が持ち上がるという塩梅。本美術館は江戸時代の酒蔵も隣接しているので、その酒蔵の中にサイバーキノコが生えている様は、ミスマッチと調和が溶け合った奇妙な空間となっていた。

 確かに面白い。だが面白いだけ。あまりにネタがワンパターンなので、1回見ると「ハイそうですか」で終わってしまう1発芸でもある。それをどう評価するかというところが分かれ目のようだ。

 

「ジャック・カロ版画展」 2005.1/4〜3/6

 ジャック・カロは1592年にフランス(当時はロレーヌ公国)のナンシーで生まれ、聖職者となるべく期待されていたが、版画に興味を持ち、とうとう家出を繰り返して版画家になってしまったという経歴を持つ人物だという。

 彼の作品は貴族や乞食など当時の社会の人々の風貌を映した肖像版画であるが、明らかにそこには風刺の精神が満ちているようであり、今で言うならかなり漫画のような要素が強く感じられる。

 圧巻は当時の宗教戦争の光景について描いた連作「戦争と惨禍」であり、ここには風刺のスパイスを効かせながら、戦争で行われる略奪や残虐行為などが描かれている。戦争で犠牲になるのは常に一般庶民であり、そこには作者の秘められたる怒りがこめられているのは間違いがない。しかしそこは窮屈な封建時代のこと、露骨な社会批判とは取られないようにベールはかけてある。

 写真製版が開発されるまでは、銅版画は今日の報道写真のような位置付けにおかれていた時期があるのだが、既にこの頃からその精神は見られたようである。そのことを改めて感じさせられた。

 

「バッカス万歳」 2004.9/11〜10/24

 伊丹は元々は酒造業の町であるが、重要文化財旧岡田家住宅・酒蔵の築330年記念のための小企画展とのこと。近代ロンドンの酒にまつわる光景を描いた風刺画を展示している。

 風刺画というだけあって内容は多彩。単純に酒にまつわる風俗を描いているものから、酒にこと寄せて世界情勢を皮肉っているものまで種々様々である。その中で一番印象に残ったのが、禁酒運動のために描かれたという連作で、普通の中流家庭の主がジンに手を出したのがきっかけで酒浸りになり、失業して家族は困窮、挙げ句がアル中の主は妻を殴り殺して廃人状態で獄中へ、娘は娼婦に身を落とし、息子はぐれた挙げ句に強盗の一味に加わって逮捕、流刑先に送られる最中に病死、それを知った姉も錯乱して飛び込み自殺といった救いようもない物語を描いた作品である。まさしく「アルコールやめますか、それとも人間やめますか」の世界であり、これは禁酒運動にはさぞかし効果があったことであろう。

 風刺画ということで肩を張らずに気軽に楽しもうという主旨の催し。酒飲みは隣の酒蔵も併せて一度見学するも一興。

 

「ギュンター・ユッカー[虐待されし人間]」 2004.5/22〜7/4

 ユッカーは現代ドイツを代表する芸術家であるという。東ドイツ出身の彼はそのことが作品に如実に反映していると言われている。本展は「虐待されし人間」と題されているが、釘や杭を使用した彼の作品は、一見しただけでも抑圧感満載であり、現代芸術の中では比較的分かりやすいという印象を受ける。

 もっともそのことが芸術的感銘と結びつくかと言えば難しいところ、以前より現代芸術には批判的立場に立っている私から見れば、言葉のイメージに頼った部分もあった彼の作品は、技法的には稚拙に見えたのが事実である。

 なお本展覧会が開催されている伊丹市立美術館は、かつての造り酒屋の酒蔵と隣接しており、一部の作品はその中にも展示されている。この酒蔵も建築物として非常に興味深いので、訪れた際は是非とも見学されたい。なおボランティアによる酒蔵についての説明もあるようである。

 

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