展覧会遠征 大阪・滋賀編3

 

 この週末は太陽の塔を見に行くことにした。現在、太陽の塔の内部見学は人数を決めてのツアー形式になっており、事前にHPから予約する形になっている。常に予約は一杯の状態で、私も今日の予約は去年の段階でいれている。

 

 久しぶりに間近で見る太陽の塔はかなり巨大である。ただよく見るとコンリートの老朽化も結構進んでいるように感じられる。近年に大改修をしたらしいが、定期的な補修は不可欠だろう。ただ巨大建造物の常として、いつまでそれが可能であるか。

 内部は一階から上がっていく形になる。かつての地下巨大展示スペースが現在の一階。ここには入場ゲートを設けてあって、その手前には太郎グッズを満載したショップなどもあって賑わっている。太郎の根強い人気を覗わせるものである。

太陽の塔は見る方向によってその姿を変える

 時間が来るとゲートから入場。まずはかつての地底の太陽の復元展示。これに今は映像演出を加えて今日風にしている。ここからはグループ単位で行動することになる。

  

地底の太陽は映像演出もあり

 ゾロゾロと入場すると生命の樹の根元に到達する。ここの展示はかなり痛んでいたものを大半は復元したらしい。この復元エピソードは帰路にパネル展示してあるが、これを特集したらプロジェクトXレベルになりそうな内容。そのまま残っていたのは巨大なブロントザウルスぐらいだったとか。またゴリラはあえてかなり破損した状態のまま展示してある。他の模型もこのレベルで破損していたということらしい。破損の原因は長い年月による材質の劣化だろう。多分ウレタン原料なんかはボロボロになっていたはずである。

 生命の樹

 最下層の単細胞生物から始まって、生命の樹を登って行くにつれて進化が始まり、魚類、は虫類等を経て最後は人類に至るという設計になっている。この巨大オブジェ一つで地球上における生命の歴史を示そうという万博らしい壮大な設計の展示である。

 撮影可はここまでで、ここから先は階段を上っていくことになる。この階段はかつてはエスカレーターだったとか。最上階は両腕のところで、右腕の方はかつて非常口として設計されており、左腕にはエスカレーターがついて出口だったらしい。共にかつてあった大屋根につながっていたとか。大屋根には空中展示もあったと言うから、万博時の展示はかなり大規模なものであり、今回復元されたのは半分以下ぐらいのイメージのようだ。

 

 なかなかの見応え。わざわざ千里くんだりまで出張ってきた価値はあった。それにしても現代アート作家は偽者が多い中で太郎は本物だった。私は太郎の全盛期にはまだ子供で、当時は彼の真価を理解することは出来なかった。ようやく彼の真価を理解することが出来たのは、数十年後に大人になってから改めて彼の作品を見てからだった。渋谷駅で「明日の神話」を目にして圧倒された。数々の偽者もかなり見てきた上に数十年の時代の流れというのを経験してから、初めて彼の凄さを理解できた次第。とにかく彼に関しては感覚的に時代のかなり先を行っていたので、当時にその真価を理解できた者は多くはなかろう。実際に当時のメディアの扱いも、大半は色物扱いだったように思うし。

 

 太陽の塔の見学を終えたところで天王寺に移動する。次は大阪市立美術館で開催中の「フェルメール展」を見学する予定。この展覧会に関しては東京展を訪問しているのだが、展示が微妙に変わることから再訪。行列が出来ていることを警戒したが、まだあまり宣伝がされていないことと昼時だったことからか行列なく、スムーズに入館することが出来る。橋下悪政による予算削減以降混乱状態で、ろくな企画が出来ていないこの美術館にしては久しぶりの大型企画だと思うが、少々空回り気味に見えるのが気になるところ。


「フェルメール展」大阪市美術館で5/12まで

    

 17世紀オランダ絵画の作品を概観しつつ、その代表的画家であるフェルメールの作品を展示なのだが、フェルメール以外の画家については玉石混淆。圧倒されるぐらいの技倆を発揮している画家もいるが、その一方で「?」な画家も少なくもない。

 この流れで見ていくと、フェルメールはあくまでこの時代の上手な画家の一人であって、傑出した別格の画家ではないことも痛感するのである。展示作の中でも初期作品などには未熟さも感じさせるし、それ以外の作品にも平凡なものも少なくない。実際に本展ではフェルメールをリスペクトしていたと思われるハブリエル・メツーの作品の方が強いインパクトがあったりする。

 もっともこういうことになってしまうのは、フェルメールの作品の中でも別格クラスにオーラの強い「青いターバンの少女」と「牛乳を注ぐ女」が展示されていないことが大きいとも思われるが。

  


 展覧会の見学を終えた頃には昼をかなり過ぎていた。空腹が洒落にならないレベルになっている。そこでここから歩いて新世界まで行き、「だるま」で昼食を摂ることにする。例によって行列が出来ていたが、客の回転が速いので数分で入店できる。

   

 相変わらず美味い串カツだ。ガッツリ食っても油で胸焼けするということにならないのが一番良い。

 

 昼食を終えると近くの美術館に立ち寄ることにする。

 


「驚異の超絶技巧 明治工芸から現代アートへ」

    

 象牙細工や木工、自在置物など、あらゆるジャンルの超絶技巧作品を展示。展示作は明治期のものと現代のものとが競演している。七宝の並河靖之、陶磁の宮川香山、象牙加工の安藤緑山など蒼々たるメンバーの凄まじい作品が展示されている。

 まずは明治期の超絶技巧には驚く限り。先に挙げた名人達以外にも「どうやって作ったの?」と思わせるような作品がゾロゾロと出てくる。

 迎え撃つ現代の匠達だが、明治の名人達がいかにも「工芸」をしているのに対し、やはりアート面が正面に出てくるのが一番の特徴。その中で比較的「工芸」をしていたのは皿に乗った秋刀魚の骨をリアルに一刻で掘り出した橋本雅也の作品か。正直なところ「そんなものリアルに作ってどうなるの?」と言いたくなるが、アート的価値は云々として、自身の技を誇示するのには適した題材ではある。

 まあとにかく圧倒的な技に唸らされるだけで楽しめる展覧会。不器用な私としては、とても人間業とは思えない作品ばかりであった。

これらの超絶技巧には最早驚くのみ


 これで今日の予定は終了、ホテルに向かうことにする。今日の宿泊ホテルは大津のニューびわ湖ホテル。明日はびわ湖ホールでの「ジークフリート」に行くつもりなので、近くのホテルでゆったり過ごそうという考え。そのためにレイトチェックアウトプランにしている。天王寺から瀬田までJRで移動すると送迎バスでホテルへ。

 

 ホテルに到着すると隣接の健康ランドで入浴。ここが使えるのがこのホテルの最大のメリットなんだが、ラジウム泉の大浴場を堪能する。泉質的に特別な浴感はないのだが、トロンとした肌に馴染みやすい湯でゆったりとくつろげる。この日は何だかんだで歩き回ったので(万博公園はとにかく広い)、体に相当疲れが溜まっているのを風呂でゆったりと癒やす。

 

 風呂から上がるとここのレストランで夕食を摂ることにする。昼食をガッツリと食べているので膳などの重いものを食べる気はしない。そう言うわけでこの日の夕食は鍋焼きうどん。

 

 夕食を摂ると部屋に戻るが、この頃になると体全体にどうしようもない疲労感がこみ上げてくる。そのままベッドの上にダウンしてしまって、結局この日は9時頃には寝てしまうことになる。

 

☆☆☆☆☆

 

 

 翌朝は目覚ましの鳴る7時半まで爆睡していた。さすがによく寝たので、いささかのしんどさはあるが体の具合は悪くない。昨日は腰の具合が若干心配だったが、体のあちこちの痛みは寝ている間に回復したようだ(それとも忘れた頃にやって来るのか?)。

 

 朝食を喫茶で頂くと、レイトチェックアウトプランなのでチェックアウト時刻の12時前までは部屋でウダウダ過ごすことになる。

 

 10時になったところでネットにつないでチケットの確保。実は今回レイトチェックアウトプランにした理由の一つはこれがあったこと。販売開始の10時と言えば大抵はホテルのチェックアウト時刻でバタバタしており、通常だとゆっくりと時間を待つことが出来ないから。今回は万全の体制で臨んだことから、無事に座席を確保。

 

 一作業終えたところで後はテレビを見ながら12時前までウダウダ。テレビでは先の台風で関空連絡橋に激突したタンカーのドキュメントを放送していたが、予想を超えたあまりの台風の威力に打つ手がなくなって翻弄されてしまう過程が赤裸々に描かれていた。これが事実ならタンカー側の過失を主張するのはかなり難しいだろうという印象(あえて過失を言うなら、最初に設定した停泊地の選択だろう)。

 

 12時前にホテルをチェックアウトすると瀬田駅前まで送迎してもらう。今日は雨がぱらついている生憎の天候。瀬田駅前は何もないので、隣の石山駅周辺で昼食を摂る店を探そうと思っていたのだが、石山駅周辺も何もない。あるのは夜の飲み屋ばかりのよう。食欲がそうあるわけでもないのでいっそのこと昼抜きも考えたが、今日の終演時国を考えるとさすがにそれでも持たなそうである。仕方ないので諦めて石場まで移動してその辺りで飲食店を探すことにする。結局、この日の昼食はホール向かいで見つけた「きまぐれ食堂」に入店して「とんかつ定食(800円)」を頂くことに。

  

 極めて普通のトンカツに普通の定食という印象。CP的には悪くなく、典型的な普段使いの店。この周辺にはまともな飲食店が少ないので、これは貴重な店を見つけたかも。

 

 昼食を終えたところでホールに入場。今日はチケット完売とのことで大ホールは満員である。私は今回は張り込んで一階の中央辺りの良席を確保している。

 


ワーグナー「ジークフリート」

  

指揮:沼尻竜典

演出:ミヒャエル・ハンペ

美術・衣裳:ヘニング・フォン・ギールケ

管弦楽:京都市交響楽団

 

ジークフリート:クリスティアン・フォイクト

ミーメ:高橋 淳

さすらい人:ユルゲン・リン

アルベリヒ:大山大輔

ファフナー:斉木健詞

エルダ:八木寿子

ブリュンヒルデ:ステファニー・ミュター

森の小鳥:吉川日奈子

 

 今回は英雄譚ということでか、音楽自体も力強くて明るい音楽が非常に多いように感じられた。英雄ジークフリートの活躍を描くのが今回であるが、内容的にはジークフリートは英雄と言うよりはただの乱暴者に見えなくもない。またヴォータンの優柔不断もここに極まれりという印象でもあり、彼の口から一種の破滅願望のようなものまで現れてくるのは後への伏線か。ミーメの存在に関しては、確かに邪悪な目論見が潜んでいたにしても、ここまで一緒に暮らしてきてもう少し情のようなものは通わないのかよとツッコミを入れたくなる。どことなく鼻持ちならないところのある「英雄」ジークフリートと言い、この辺りのキャラ設定はワーグナーの人となりを反映しているような気もしないではない。

 ジークフリートのフォイクトに関しては、美しい歌唱ではあるのだが、乱暴者らしい力強さがもう少し欲しかったように思われる。優柔不断で格好つけな神であるヴォータンのリンはなかなかにハッタリの効いた演技で良し。終盤に登場するブリュンヒルデのミュターも美しい歌唱で盛り上げた。

 映像効果とセットを組み合わせた舞台演出はなかなかに決まっていて、魅せる舞台になっていたように思われる。京都市響の演奏にもなかなかの冴えがあった。


 音楽と一体となった舞台は最上であったが、ストーリーに関しては「私ならこういう展開にならないな・・・」という点が多かった(笑)。ワーグナーに関しては「音楽は最高だが、人間としては最低」という評もあるようだが、確かにそうなのかも(笑)。まあ人格的に円満で有徳者の天才的芸術家というのはあまり聞いたことがない。やはり芸術的才能とは人間的な部分に大きな犠牲を強いる特性なのかもしれない。

 

 それにしてもやはりワーグナーの大作である。3幕構成で途中に30分×2回の休憩を挟んで、14時開演の終演は19時過ぎ。かなり疲れた。

 

 大津まで寿司詰めの送迎バスで移動すると、さすがに帰る前に夕食を摂る必要があるので「ちゃんぽん亭」に入店して「ちゃんぽんと焼きめしのセット」を頂く。チャンポンの味はマズマズだが、焼きめしの方はイマイチ。チャンポンの味が強いせいか、焼きめしの味を抑えすぎている気がする。

 夕食を終えると新快速で長駆して帰宅することになったのである。それにしても疲れた。

 

 

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