展覧会遠征 大阪編15

 

 今日はロンドンフィルのコンサートに出かけることにする。ロンドンフィルのライブは初めて聴くのだが、気になるのは辻井付きであること。彼がソリストとして付いてくると、覿面に客層が悪くなるのが頭の痛いところである。ただ興行元としては確実にチケットが売れることから、どうしても辻井や龍が抱き合わせになることが多い。逆に言えば、そうしないとチケットが売れないのが現在のクラシック業界の実情と言うところか。なかなか厳しい現実である。

 

 コンサートはフェスティバルホールで開催されるが、大阪にはそれよりかなり早く到着。先に美術館の方に立ち寄ることにする。目的はハルカス美術館で開催中の「北斎展」。

 

 しかし美術館に到着したところで唖然である。何と券売所の前に100人以上の大行列が出来ている。私は以前から「エジプト、浮世絵、印象派」が観客がやたらに増える展覧会であると言っているが、まさにその通りの現象。そもそも浮世絵の中でも北斎は特にキラーコンテンツではある。ましてや本展はNHKがかなり派手にCMを繰り返していたことから、その効果がかなり大きいのだろう。

 

 私は事前にチケットを持っていたことから券売所の行列に並ぶ必要はなかったが、館内は大混雑で人の頭ばかりが見える状態。残念ながら展覧会のコンディションとしては最悪に近い。結局は版画部分はザッと流して、肉筆画を中心に鑑賞することに。


「北斎−富士を越えて−」あべのハルカス美術館で11/19まで

 

 大英博物館の国際共同プロジェクトということで、内外から北斎の名品が多数集結している。版画の類いは他の展覧会でも目にする作品が多いのであるが、本展で目玉と言えるのは、北斎の肉筆画が多数出展されていること。その中でもギメ美術館所蔵の「雲龍図」などは、いかにも北斎らしい躍動感と迫力に満ちた逸品。

 緻密にして大胆、また西洋の遠近法なども積極的に取り入れるなど表現に対する貪欲さ、晩年になるほど衰えるどころか逆に凄みを増していく北斎の筆の冴えを堪能できる展覧会である。とにかく圧巻。


 本当ならもっとじっくりゆっくりと堪能したかったのであるが、人波をかき分けて頭越しに鑑賞という状態ではなかなかに疲れてしまう。また日を改めて再訪したい気もあるが、土日ならいつ来ても状態は変わらないだろう。かといって平日の昼間なんて来れるわけもないし・・・。

 

 美術館に立ち寄った後はMIOの「プチグリルマルヨシ」でいつものように「ビフカツランチ」。今回はデザートにプリンもつけて堪能。

  

 やや贅沢目のランチを堪能して、腹も膨れたところでホールに移動する。


ウラディーミル・ユロフスキ指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

 

ウラディーミル・ユロフスキ(指揮)

辻井伸行(ピアノ)

 

ワーグナー:≪ニュルンベルクのマイスタージンガー≫第1幕への前奏曲

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲 第1番

チャイコフスキー:交響曲 第5番

 

 一曲目のワーグナーはやけにガチャガチャした印象。弦楽器の音が完全に埋もれてしまっている上に薄っぺらく、そこに金管だけが喧しく重なってまるでブラスバンド状態。どうも冴えない演奏という印象を受けた。

 二曲目のピアノ協奏曲は、ユロフスキは完全に伴奏に徹しているという感じで、極めて中庸の平凡な演奏。また辻井の方もどことなく窮屈な印象で持ち味のキラキラとしたサウンドがあまり聴けなかった、彼の持ち味が完全に発揮されているとは言い難いように感じられた。それでも場内のおばさま方は大絶賛だったようだが・・・。

 演奏が一変したのは三曲目のチャイコの5番。急に弦が厚みを増し、金管も華やかでいて安定感があると、前半と同じオケとは思えないほどに音色が変化した。これがロンドンフィルとユロフスキの本気かというように感じさせられた。ユロフスキの指揮はややおとなしめであるが、抑えの効いた落ち着いた演奏という印象。感情にまかせて舞い上がるというところがない。緻密に計算をした、若さの割には「老成した」という印象を受ける指揮である。もっとも私の好みから言えば、もう少し若々しさを出しても良いようにも感じたが。


 残念ながら客層の方は、演奏中にも何となくガサゴサと喧しく、ピアノ協奏曲の第1楽章終了後には大拍手が起こるという、相変わらずの辻井コンサートのレベル。オケの演奏も、正直なところ言葉は悪いが客層に合わせて前半は流してきたのではないかとも思えた。実際にそう感じてしまうほどに前半と後半で演奏の印象が一変した。ここまで来ると辻井抱き合わせの弊害が露骨に出てしまっている。今後は辻井や龍が抱き合わせの時はパスすることも考えた方が良いかもしれない。決して彼らが演奏家としてダメだというわけではないが。

 

 

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