展覧会遠征 大阪・奈良編

 

 さて、つい昨日に読響のコンサートに出かけたところだが、この週末はさらにコンサート三連発ということになっている。まず第一弾の金曜夜はいずみホールで開催される山形交響楽団の演奏会である。

 

 いずみホールは初訪問。最寄り駅は大阪城公園で、そこからそこそこ距離があるようだから、ザ・シンフォニーホールよりは時間がかかると見ておく必要があるだろう。金曜の仕事を早めに終えると慌ててJRに飛び乗る。しかしこういう時に限って何かあるものだ。信号機事故があったとかで列車が予定よりも遅れてしまい、それでなくても余裕がないスケジュールがさらにタイトに。

 

 こうなると夕食をどうするかが問題。さすがに空きっ腹を抱えてのコンサートはキツイ。一番安全なのはホールの近くで夕食を摂ることだが、どうもホール近辺は飲食店がなさそう。隣に高級ホテルがあってその中に飲食店があるようだが、そんなもの私の予算に合わないのは調べるまでもなく想像がつく。京橋から歩けば京橋周辺には飲食店は多数あるようだが、私は京橋の土地勘が全くないのでそこからホールまでにどれだけかかるかが全く読めないし、京橋でこれという店がすぐに見つかるかも疑問。結局は大阪で済ませるかということになり、駅に近くてとりあえずすぐに食べられる店と考えた時に私の知っている店は「ミンガス」しか浮かばなかった。こんな時に限って券売機のトラブルとかでいつになく待たされたのだが、それでもロースカツカレーを10分ほどでさっさとかき込んでホールへ向かう。

 

 大阪城公園駅からは思っていたよりも近い。ただ今日は雨が降っているので、キャリーを引きずっての移動が嫌だ。

 

 ホールの収容人数は800人ぐらいとのことで、ザ・シンフォニーホールなどと比べると一回り小さい。箱型(いわゆるシューズボックス型と言うんだろうか)で、ステージと客席が感覚的に近いホールである。

  


山形交響楽団 さくらんぼコンサート2015 大阪公演

 

飯森範親(指揮)、上原彩子(p)

 

モーツァルト:交響曲 第1番 変ホ長調 K.16

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第1番 ハ長調o p.15

モーツァルト:交響曲 第41番 ハ長調 K.551「ジュピター」

 

 山形交響楽団は弦8:8:6:5:3の構成の小規模な楽団。トランペットやホルンなどの管楽器に古楽器を用いているのが特徴。指揮者の飯盛氏によるプレトークによると、古楽器を用いるメリットはアンサンブルのバランスが良くなるのだとか。現代式のトランペットだと楽器としての性能が良すぎるので、普通に吹くとトランペットが弦をかき消して飛び出してしまう(実際に今まで何度もそういう演奏を体験している)のだが、古楽器だとそういう心配がなしに思い切り吹けるんだとか。

 さてモーツァルトの交響曲1番はつい最近にN響の演奏で聴いたところである。第一楽章は非常に良くできている印象だが、それに比して第二、第三楽章がおまけに聞こえてしまうところがある曲である。とは言ってもこれを作曲した時のモーツァルトは8才とのこと。確かに神童だ。

 山形交響楽団の演奏は、とにかくアンサンブルのまとまりが良いなというのが印象に残る。古楽器を用いた管はどうしても音程が不安定になりがちだが、それでもアンサンブルのバランスという意味では確かに指揮者が言ったとおりの効果は上げている。

 ベートーベンのピアノ協奏曲1番は残念ながら私にはやや退屈な曲。ただ演奏の方はソリストの技術もしっかりしており、バックのオケとも息が合っていてなかなかのものだった。

 ラストのジュピターは実に気持ちの良い演奏。アンサンブルのまとまりの良さがひときわ映える。モーツァルトを堪能したなという印象の演奏である。

 頭を振り回してややオーバーアクション気味の飯森の指揮は、モーツァルトにはややビジュアル的にうるさい感はあるが、演奏としてはメリハリをつけたなかなかにうまいもの。指揮者とオケがツーカーな関係のようで、オケがよく指揮者の意図を汲み取って演奏に反映していたようである。山形交響楽団は飯盛の手兵という印象であり、飯森の本領はこの規模のオーケストラのコントロールの時の方が発揮されているようにも感じられた。


 なかなかに楽しめるコンサートだった。なおこのコンサートは多分に山形の観光紹介も兼ねており、ロビーでは山形の名産の販売なども行われ、山形の謎のキャラクターもやってきていた。帰りにはおみやげにサクランボが配布され、抽選で当選者にはさらにサクランボが1パック配られたようだ(残念ながらくじ運の類を全く持ち合わせていない私はハズレである)。このサクランボは後でホテルで頂いたが、さすがになかなかうまかった。

  

謎のキャラクターとおみやげのサクランボ

 今日は大阪で一泊である。この晩の宿泊ホテルは先週も利用したジーアールホテル江坂。駅から微妙な距離があるのが、こういう雨の日には結構嫌である。

 

 ホテルに到着すると、途中のマックスバリュで仕入れた夜食を頂いてから入浴。一息ついたところで就寝する。

  

☆☆☆☆☆

 

 

 翌朝は8時過ぎまで爆睡。ここのホテルは少々うるさい(外国人が多いせいか?)ことと昇降式のベッドが寝返りを打つ度にギシギシと軋むのが難点である。もっとも昨晩は疲労もあって途中でそんなものは気にならなくなったが。

 

 シャワーで目を覚ますと、一階のレストランで朝食バイキング。和洋両用でたっぷりと摂っておく。腹が膨れるとテレビを見ながらしばしマッタリ。深読みで「最近の女性は痩せすぎなので、このままいくと将来不妊や骨粗鬆症が増加する」ということを放送している。そんなもの今更言うまでもなく以前から問題になっている。一番の問題は多くの女性がアホなファッション紙などで美意識を完全に破壊されていることである。多くの男性が「痩せすぎで女性としての魅力を全く感じない」と言う不健康なモデルなんかを「美しい」と間違った洗脳をされた結果である。男でああいうのを好むのはごく一部のガリガリフェチぐらいで、それと同じぐらい数のデブ専もいる。

 

 10時になると京都市交響楽団の秋の演奏会のチケットを押さえるためにHPに接続。しかしサーバがダウン気味で全くつながらない。ようやくつながったのは10分後、一応座席は確保できた。どうもここといい、PACといい、サーバがあまりに貧弱すぎるようである。

 

 チケットを押さえたところでホテルをチェックアウト。今日の予定だが、西宮で開催される大フィルのブルックナーを聴きに行くつもり。開演は3時からなので時間はかなりある。とりあえずは江坂から地下鉄で天王寺まで行き、そこの美術館に立ち寄る。


「昔も今もこんぴらさん」あべのハルカス美術館で7/12まで

  

 古くから庶民の信仰を集めたのがこんぴらさん。往時には伊勢参りなどと同様に大いに賑わった。中にはこんぴら狗と言って、犬に代参してもらうという例もあったという。

 またこんぴらさんは代々の宮司が美術に関心が高かったこともあり、多くの美術品を所蔵することでも有名。中には日本の洋画界の先駆けとなった高橋由一の作品といった意外なものも含まれる。

 さらに円山応挙の襖絵や伊藤若冲による壁画など名作が装飾に用いられていることで知られている。本展ではそれらの襖が展示されており、間近でこれらの逸品を堪能することが出来る。


 こんぴらさんは数年前に訪問しており、その時にはあとで足腰がガクガクになったのを覚えている。襖絵などとはそれ以来なのだが、久々に円山応挙の「猫図」(正しくは「虎図」なのだが、私にはこの方がしっくりくる)を堪能した。どうも犬だの猫だのと、そっち系のマニアを意識したような展覧会である。

 

 展覧会の見学を終えたところで昼食を摂ることにする。立ち寄ったのは以前にも訪問したことのある「マルヨシ」。ここの看板メニューでもある「ロールキャベツ定食(1600円)」を注文する。以前に来た時から気になっていたメニューである。

 ここのロールキャベツは本店と味が変わらないように、本店で煮込み調理したものを持ってきているという。そのためか予想外に出てくるのが早い(多分温めてソースをかけるだけなんだろう)。さて料理だが、デミグラスとカレーの二種類のソースのツートンカラーとなっている。変化をつけて飽きるのを防ぐためと思われる。切ってみるとたっぷりのキャベツで細かいミンチ肉をくるんでいる。ミンチ肉は味付け程度で、キャベツを頂くメニューとなっているわけだが、このキャベツが美味。またソースが二色になっているのも思った以上に効いている。なるほど、確かにこのメニューはありだ。

 

 昼食を堪能したら同じフロアの茶店で「抹茶寒天(700円)」で一服。さっぱりした抹茶寒天に黒蜜をかけて頂くのが美味。また小豆の味がなかなかに良い。

 さてこの時点で1時前。どうも時間が中途半端になってしまった。今から西宮に直行したら30分もあれば到着するので向こうでかなり待つ羽目になる。しかしどこかに立ち寄るにはちょっと余裕がない。当初予定ではハルカスではなく兵庫県立美術館に立ち寄るつもりだったのだが、あそこの駅からの坂道をキャリーをゴロゴロ引いていくのがしんどかったのでハルカスに切り替えたのである。今から兵庫県立美術館に行く気もしないし、それには少々時間不足だ。

 

 結局はかなり早めに西宮に向かうことになった。というわけで、現在この部分はホール前のベンチでポメラで打っている(笑)。そろそろ開場時刻になったのでホールに入場することにするか。


井上道義指揮 大阪フィルハーモニー交響楽団 大ブルックナー展 第2回

 

指揮 井上道義

ピアノ 関本昌平

管弦楽 大阪フィルハーモニー交響楽団

 

モーツァルト:ピアノ協奏曲 第23番(ピアノ:関本昌平)

ブルックナー:交響曲 第7番 〈ノヴァーク版〉

 

 1曲目のモーツァルトはオーソドックスなもので特別な印象はない。小編成のオケにしていたのでまとまりは良いのだが、その点に関しては昨日の山形交響楽団の方が上を行っていた。またソリストもややクールなタイプの演奏で、特に問題点はないのだが強烈な印象に欠ける。もう少し歌っても良いように感じた。

 メインのブルックナーだが、こちらはメリハリの効いた演奏で退屈しない。何しろブルックナーになると何かとウツラウツラしかける私が全く眠気が起こらなかったのだから大したもの。16:14:12:10:8の大規模編成の弦楽から繰り広げられるサウンドが圧倒的で、何も考えずに多層的な旋律の渦に心を委ねることができるような印象。相変わらず管には時々危なっかしいところが垣間見えたが、それが致命的にはならなかった。ホールの音響の悪さも力業でねじ伏せたというところである。ブルックナーを面白いと感じたのは初めてかも。


 なかなかの名演を堪能できたが、演奏以外で一つだけ気になったことが。以前からこのホールはとかく観客のマナーが悪いと言われることがよくあるのだが、ステージ上にオケのメンバーが揃っているのに大声で独り言を呟いているオバハンが。「何だ?」と思って見てみたら、目つきを見ただけで明らかに関わらない方が良い類の相手だと一発で分かる。彼女は演奏が始まった後も終始落ち着かないように体を動かしたり手でゴソゴソと何かを触ったりと、一瞬たりとも体が止まらない。その挙げ句に飽きてきたのか途中から独り言をボソボソ言い始めた様子。私のところからは若干距離があったので、視界の端にゴソゴソしているのが引っかかる程度で実害はなかったが、席が近くの者はあれではたまらないだろう。一見してそれと分かるタイプなので最初から入場させないでほしいところだが、病状は人によって様々なので、演奏中に静かにしていられる者なら入場を拒否すべき理由もないので難しいのだろう。治療の一環として音楽を勧める医師もいるようだが、勧めるならコンサートでなくてCDにして欲しいところ。

 

 演奏にはなかなか満足したので、とりあえず12月に開催されるブルックナーの4番のチケットを購入してからホールを後にする。この後は明日に備えて奈良まで長距離移動である。大阪に戻ると大和路快速で奈良へ。奈良に行くのは久しぶりだが、改めてこうして来るとやはり遠い。それに知らない間に大和路快速が途中の王子で一部切り離されて4両編成になるというダイヤ改悪もなされているので心理的にも遠くなっている。

 

 今日の宿泊ホテルはJR奈良駅から直接接続してあるスーパーホテルLOHAS奈良。以前に一度宿泊したことがあるが、楽天トラベルから予約したその時は内向きの窓幅10センチの部屋をあてがわれてたまげものだが、今回はちゃんと窓のあるまともな部屋に当たった。JR奈良駅がすぐそこに見える部屋である。

 夜の奈良駅

 部屋に荷物を置くとすぐに夕食に繰り出す。昼食がキャベツ主体で消化が良かったのか、かなり腹が減っている。とは言うものの、店を探しに町中に繰り出していくのもしんどいし面倒。昼が洋食だったせいか、気分的にはあっさりとしたいところ。いっそのこと駅内のマックスバリュで寿司でも買うかと思ったが、なぜか寿司は置いてなかった。仕方ないので同じく駅にある「三条坊」でうどんを食べることに。うどんは腰があってまあまあだが、出汁の方がいかにも安直でやや残念。それにしてもこの駅内はやよい軒とか魚民とか使い物にならない店が多すぎる。駅のデザインも日本を代表する古都の駅としてはあまりにお粗末すぎるし。

  

 夕食を摂って帰ってくると大浴場で入浴。ここは温泉大浴場があるのが特徴。だからこそここを選んだのである。ナトリウム塩化物泉の湯で体をゆったりと温めて疲れを抜く。今日は江坂から天王寺、西宮、奈良と移動が長距離だったのでかなり疲れている。それにしても年のせいか、こういう移動がかなり体に堪えるようになってきた。今では昔みたいに青春18切符で走り回るのは無理である。

 

 風呂から上がって部屋に戻ってくるとしばし原稿書きをしていが疲れがどっと出てきたので早めに就寝する。

  

☆☆☆☆☆

 

 

 翌朝は8時前まで爆睡すると、混雑するレストランで朝食。ここは通常のスーパーホテルよりも設備的にワングレード上のホテルだが、朝食も通常のスーパーホテルの簡易朝食よりもワングレード上のようだ。和食に固執しなければそれなりに食べられる。焼きたてパンが結構うまい。

 

 朝食を終えると着替えて入浴。塩分濃度の高い湯なので温まるのだが、夏には少々暑いか。ホテルをチェックアウト(と言ってもスーパーホテルはチェックアウト手続きはないので、ホテルから出るだけだが)したのは10時前。とりあえず邪魔なキャリーは駅のコインロッカーに入れてから移動することにする。

 

 さて今日ここに来たのは奈良で開催されている音楽祭「ムジークフェストなら」の一環で招かれたロシアナショナル管弦楽団の演奏会を聴きに行くため。ただ単にロシアナショナル管の演奏会を聴くだけなら他でも良さそうだが、わざわざ奈良まで繰り出してきたのは、奈良の公演は補助でも出ているのかS席6000円と破格の安さだからである(普通は1万円を超える)。

 

 コンサートの開演は3時からなので大分時間がある。そこでその間は奈良の散策と洒落込むつもり。ちょうど春日大社で本殿の特別拝観がされているというのでそれに立ち寄ることにする。

 

 春日大社へは観光用の市内ループバスを用いる。奈良観光と言えば近鉄奈良駅から徒歩でというのが定番だが、JR奈良駅はかなり遠いので無理はしない。それにしても観光客が多い。今日はかなり混雑しているようで、早くも「春日大社駐車場満車」の表示が出ている。

 春日大社の鳥居

 春日大社も団体客などでごった返している。あちこちでカメラを構える姿が。ところで誰かがカメラを構えると写真を撮り終わるまで待っているか後ろを通るのが日本人。構わずに前を横切るのが韓国人や欧米人という違いがある。なお中国人はカメラの前に割り込んで自分たちが写真を撮り始める。それにとにかくうるさい。

 参道には苔むした石灯籠が

 春日大社では本殿の修復に際して神様にしばし引っ越し願ったらしい。で、神様が留守なので普段は聖域で立ち入り禁止の本殿に入れるということのようである。本殿へは観光客がゾロゾロと行列を作っており、拝観料は1000円という結構良い商売をしている。しかも内部は撮影禁止と来たものである。

  

 行列に並んでかなりの時間をかけて本殿へとたどり着く。本殿は朱塗りの祠が4つ並んでいる。大体どこでも同じ形式なんだなと妙なところに感心すると同時に、意外と小さいなという印象も受けた。4つの神殿に4人の神様が祀られているが、その脇に天岩戸をこじ開けたことで知られる天手力男命という有名人も祀られている。

 

 春日大社の見学後は鹿がウロウロする中をプラプラと散策。それにしても同じ鹿でもここの鹿は神の使いとして大事にされるが、山にいる鹿は害獣駆除の対象になる。同じ鹿でも生まれで差別があるという非合理な気がする。人間の世もそうで、権力者の家に生まれてきたというだけで、どうしようもない馬鹿が権力者となって自己の利益のために国民を虐げる。これは明らかに世の中の間違いである。

 その途中で奈良国立博物館へ立ち寄る。国立博物館では特集展示で工芸品の展示をしていた。とてつもない超絶技巧に唖然。日本の匠は恐るべしである。

 

 博物館見学を終えたときには既に昼前。飲食店が本格的に混雑する前に昼食を摂っておきたい。さて、奈良で食べ物と言えばやはりこれしかない。立ち寄ったのは「天極堂」。季節メニューの葛のセットを頂くことにする。

 葛入りのうどんが葛入りのドロッとした出汁の中に入っている葛うどんが絶品。ショウガの風味が夏にはよい。またやはりここの葛餅は最高。このプルプル感がたまらない。

 食事を終えたところでまだまだ時間があるし、ついでにこれも季節メニューという「葛あんみつ」を頼む。あんみつは普通は味気のない寒天が入っているものだが、ここのはそれが葛餅になる。これはまさに絶品。最高にうまいあんみつである。

 昼食とデザートを堪能したところで1時前。もう一カ所立ち寄ることにする。


「田中一光 美の軌跡」奈良県立美術館で7/20まで

  

 奈良出身のグラフィックデザイナー・田中一光の作品を紹介。

 彼の作品の特徴は日本の伝統的な美術を独自の感性で翻案して現代的感覚の作品にすること。能公演のポスターでは、能面を幾何学的なデザインに取り込んで、斬新かつインパクトのあるポスターを作成していた。

 花をモチーフにした作品群なども面白いが、独特の感性が特に輝いているのが文字をモチーフにしたシリーズ。展示室では同時に昔のかな文字文書を併せて展示していたが、確かに全く異なるようでいて感性には相通じるところが見られる。

 終盤の歌舞伎役者をモチーフにした作品群も面白かった。これらは写楽の大首絵に刺激された作品だという。非常に現代的にも関わらず、どこかに日本の伝統美が見え隠れするという絶妙のバランスの面白さである。


 適当に入った展覧会だったが、思いの外に面白かった。さてもうすぐ2時。ホールに向かうことにする。と言っても開場の奈良文化会館は実はこの隣である。

 開場は2時だが、ホールの準備に手間取っているとかで会場入りはしばし待たされる。20分ほど待ってからホールに入場する。

 結構大きなホールである。それと天井が高い。通常なら三階席になる高さが二階席である。おかげで一階席の奥の方が圧迫感がない。また地方都市の多目的ホールと侮っていたが、音響特性も意外と悪くなさそうだ(入場時にピアノの調律を行っていたので、その響き方で分かる)。少なくとも西宮よりは上である。


ロシア・ナショナル管弦楽団&セルゲイ・ナカリャコフ&牛田智大&奈良県立ジュニアオーケストラ

 

ミハイル・プレトニョフ(指揮)

ロシア・ナショナル管弦楽団

セルゲイ・ナカリャコフ(トランペット)

牛田智大(ピアノ)

奈良県立ジュニアオーケストラ

 

チャイコフスキー/弦楽セレナーデより 第2楽章

アルチュニアン/トランペット協奏曲変イ長調

チャイコフスキー/ピアノ協奏曲第1番変ロ短調Op.23

チャイコフスキー/交響曲第5番ホ短調 作品64

 

 一曲目はロシア・ナショナル管とジュニアオーケストラが一緒になっての演奏。こういうのが彼らの貴重な経験になれば将来が楽しみである。

 二曲目はナカリャコフの華麗なトランペットが炸裂する曲。なかなかに聴き応えあり。

 牛田智大を加えて三曲目はチャイコのピアコン。この曲は以前に小山実稚恵とチャイコフスキー・シンフォニー・オーケストラの組み合わせで聴いているが、オケの緻密さとピアノの滑らかさがより高見にある。牛田智大が登場した時は「子供か?」と思ったが、実際にまだ15才の天才ピアニストらしい。甘い顔立ちもあって、女性などからかなりのショタ人気があるアイドルピアニストらしいが、今回演奏を聴いた限りにおいては単なるアイドルに留まるピアニストではないと感じた。ガツンガツンと弾いていただけの小山実稚恵と違って、彼はタッチに柔らかさと滑らかさがあり甘美に謳わせる技も有しているようである。華奢な体つきをしているので体力的にまだ強奏部に若干の弱さがあるが、今後さらに体格が成長して体力が付いてきたらかなりのレベルになる逸材と感じた。10年後が楽しみである。外野に惑わされておかしな方向に進む(某女性指揮者のように芸能人枠扱いになったりとか)ことなく、順調にキャリアを積んでもらいたいものだ。

 最後はチャイコの定番中の定番。ロシアのオケはバリバリ鳴らすだけというイメージがあるが、このオケはアンサンブルの良いオケという印象を受けた。プレトニョフの指揮もいわゆる単純な爆演型ではなく、むしろ適度に抑制をかけてオーケストラを良くコントロールしている。圧巻だったのは第4楽章で、オケの能力を試すかの如くに細かく急激にテンポをコントロールしてダイナミックでドラマチックな表現を行っている。オーケストラも乱れずにこれに追随し大きな効果を上げていた。

 アンコールではロシアのオケらしくチャイコの雪娘から「道化師の踊り」で大爆発してきた。この辺りはフェドセーエフ&TSOのレズギンカのようなもので、ロシアのオケにはやっぱりこれがないとというサービスなんだろう。オケも指揮者もノリノリであった。


 客層を見た時には明らかに日頃クラシックのコンサートに来ているタイプではない者がかなり見られたので、演奏中はかなりドタバタが起こるのではないかと懸念していたが、案に反して全員かなり静かに傾聴していた(ホールが大きいので、時々どこかで咳や荷物を落とす音がしたりするのは仕方ないが)。また演奏の方も観客を退屈させないだけの中身のあるものであった。ただ観客の不慣れが現れたのがチャイコのピアコンの第1楽章が終わった時。華々しいフィナーレにつられて思わず場内の大半が拍手をしてしまった。私は「あちゃ−、やりおった・・・」という感じだが、プレトニョフは一瞬「おや?」という表情をしたが、淡々と後を続けていた。恐らくこの曲でこの手のことは初めてではないのだろう。ただオケの方は明らかに一瞬緊張感が途切れたのが感じられ、やはりこの手のミスには注意したいものだと思った次第。なお幸いにしてその後の交響曲第5番では楽章間で拍手が起こるなどということはなく、最後に何カ所かあるトラップポイントも無事に抜けて、フラ拍などの無粋なこともなく万雷の拍手と共にコンサートを終えたのである。

 

 なかなかに盛り上がったコンサートであった。やはりロシアのオケのパワーについては侮りがたいと感じた。特に金管にはその物理的なパワーがもろに反映する。やはり日本人の体力では金管奏者は厳しいんだろうか。日本のオケの金管奏者はどのオケでも欧米のアマチュアレベルなどという酷評もあるが、確かに金管に不安定さを感じさせるオケが日本では大半である。

 

 これで全日程の予定を終了すると、JR奈良駅でキャリーを回収してから家路へとついたのである。

 

 

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