展覧会遠征 東京編7

 

 そもそも社内でのいわゆる出世コースとは完全に対極を驀進している私は、今までは出張はほとんどない立場であった。しかしどうした巡り合わせか、今年になってから突然に外部絡みの重要案件が立て続けになることになり、急激に出張が増加している。今回も来週の月曜日、急遽東京へと出張に相成った次第。朝一番から東京への移動はしんどすぎて仕事に身が入らないことが予測されることから、どうせ東京まで行くのなら自腹で週末から東京に出向いてやれということを考えた次第。ただこの週末は実は大阪で会期末が迫っている展覧会に駆け込むつもりだったのだが、このままだと会期が終わってしまう。そこで東京に移動する前に大阪に立ち寄ってから東京に向かうことにした。


「デュフィ展」 ハルカス美術館で9/28まで

  

 カラリストとして知られるデュフィの展覧会。

 デュフィがあの画風を確立するに至る大きなきっかけはテキスタイルデザインを手がけたことだという。多くの版を重ねる染色では色と輪郭がずれてしまうということが多々あるわけだが、そのようなものを見ているうちに彼の色彩と輪郭線が完全に独立した画風が確立したのだという。

 彼の絵は非常に独特である。画面に飛び交う鮮やかな色彩と躍動するような輪郭線。それらが必ずしも絡み合ってはおらず、色彩は色彩で漠然とおおよその雰囲気を主張し、輪郭線はその大胆さに反して意外に繊細に描き込んである。

 正直なところ私は彼の絵はあまり好きな方ではなかったのだが、本展において飛び交う色彩をぼんやりと眺めていると、決してそれは不快なものではないことに気づいた。これは新しい発見であった。



「こども展」 大阪市立美術館で9/28まで

 様々な画家が子供を描いた作品を展示した展覧会。古典的な肖像画から現代アートに近い作品まで様々。

 個人的にはもっとも興味を惹かれたのはルノアールの絵画。少女の絵が非常に多いためにロリコンとも揶揄される画家であるが、実に愛らしい子供の絵を描いている。

 また子供のシリーズと言えば絶対に搭乗する藤田嗣治の作品なども。藤田の作品は子供を子供としてというよりも、大人のパロディとして描いている作品。一癖も二癖もあるがいかにも藤田らしい。

 題材が題材だけに比較的おとなしめの作品が多かった印象。画家の対象に対する目線が作品に微妙にあられているようなところが興味深い。


 これで大阪での予定は終了、新幹線で東京に移動することにする。本当は大阪で昼食を摂りたかったんだが、その時間がないので昼食は新大阪で駅弁を購入して済ませることになる。

 東京に到着すると国立近代美術館を目指す。ちょうどこの時期、是非とも立ち寄る必要がある展覧会が開催されている。


「菱田春草展」 東京国立近代美術館で11/3まで

  

 横山大観と並んで賞される日本近代絵画を代表する巨匠で、日本美術院創立したが、37才という若さで早逝した菱田春草の展覧会。春草の若き頃から最晩年までの作品を一堂に展示する。

 若き頃から才能を発揮した春草だが、日本画の革新を目指して、従来の描線を捨てた新たな色彩表現に取り組む。この取り組みは朦朧体と酷評されることになるのだが、この試行錯誤が後の彼の画風の確立に大きく貢献しているのは明らかである。

 晩年には朦朧体は影を潜めるのだが、琳派や洋画の技法まで取り込んでより高度に昇華された形で作品に組込まれている。特に凄みを感じるのは最晩年の一連の「落葉」の作品シリーズ。再び復活した描線と色彩の表現が調和して、精神的な深みを感じさせる秀品となっている。


 久しぶりに堪能した展覧会という印象である。春草の作品には終始圧倒されっぱなしであった。つくづく早逝が惜しまれる。もう少し長生きしていたらどんな作品が見られただろうなどと思いを巡らせる。

 

 美術館の見学を終えたところでホテルに向かうことにする。今日の宿泊予定地は蒲田。東京でホテルを探したのだが、手配が直前過ぎたせいか私の定宿のNEO東京を始め東京周辺のホテルは軒並み塞がっており、結局は蒲田のホテルになったという次第。蒲田までは地下鉄とJRを乗り継ぐことになる。30分ぐらいで蒲田に到着。蒲田駅は発車メロディが蒲田行進曲というコテコテの駅。

 

 蒲田に到着するとホテルにチェックインする。今日宿泊するのは蒲田黒湯温泉ホテル末広。温泉大浴場付きのホテルである。蒲田はかなり賑やかで猥雑な町。私とは相性の良さそうなタイプの町である。

 とりあえずホテルに荷物を置いて夕食のために町に繰り出す。蒲田駅前は商店街などもあって活気がある。夕食を摂る店には困らなそうな雰囲気。飲食店を求めて商店街をフラフラする。

 商店街をプラプラ

 商店街の電気屋の店頭が街頭テレビ状態になっているので、何だと思ったら大相撲のようである。後で知ったのだが、新入幕で大活躍している逸ノ城が横綱白鵬と当たる大一番があったようだ。結果は白鵬が横綱の実力を堂々と見せつけたようである。それにしても逸ノ城もモンゴル出身とのことで、最近の大相撲は完全にモンゴルの国技になってしまっている。

 街頭テレビ状態

 結局は行きの新幹線の中でガッテンのラーメンのエピソードを見たせいか、ラーメンが食べたくなったので「横濱らーめん濱壱」に入店する。チャーシュー麺(750円)を注文。

 見た目はかなり濃いそうなラーメンだが、麺が太めのサラッとした麺であることもあり、意外にあっさり目のラーメン。しつこすぎるラーメンが苦手な私にはなかなかあっている。

  

 ただラーメンだけだとやはり腹が少し足りないので、ちよだ鮨の持ち帰り寿司を購入、ついでにスーパーでお茶などを買い求めてホテルに戻る。買い物には事欠かない町である。私にはやはりこういう町が合っている。

 ホテルに戻ると大浴場で入浴。ここは黒湯温泉と名乗っており、大浴場はナトリウム・炭酸水素塩塩化物泉で弱アルカリ泉である。湧出温度は17度とのことなので、厳密に言うと温泉ではなくて冷鉱泉である。若干の塩っぽい匂いはあるものの、基本的には無臭。ただ強烈なのはその色。濃褐色で浴槽に注ぐと真っ黒。黒湯と言われる所以である。トロリとして肌に馴染むなかなかに良い湯である。

 

 入浴後はテレビを見ながらこの原稿を入力してマッタリ。テレビでは御岳噴火のニュースばかりである。よりによって秋の紅葉シーズンの週末で登山客が増加する最悪のタイミングで噴火が起こった模様。なるべく被害が少ないことを祈るのみ。

 

 就寝前に再び入浴。12時頃に就寝する。

  

☆☆☆☆☆

 

 

 7時頃に目覚ましで目覚めるが、どうも昨晩は眠りが浅かったようで目覚めはあまり良くない。

 

 朝食はパンと紅茶の簡易朝食、朝食を済ませると朝風呂を浴びてから9時頃にチェックアウトする。今日は東京の美術館を回る予定。ただその前に今日の宿泊ホテルに立ち寄ってキャリーを預けておく。

 

 宿泊するのはドーミーイン秋葉原。秋葉原駅で降りると徒歩数分でホテルに着く。しかし久しぶりに訪れた秋葉原は今の私には全く馴染めない土地となってしまっている。AKBショップの前で行列している連中なんてキモイとしか思えない。いつの間に秋葉原がこんなにアウェイになったしまったんだろう。

 

 ホテルにキャリーを預けると末広町から地下鉄で移動。最初の目的地は国立新美術館。


「チューリッヒ美術館展」 国立新美術館12/15まで

  

 ドイツの美術館らしく、象徴派などの作品が多い。前半はモネなどの知名度の高い印象派の作品が展示してあるが、どちらかと言えばこちらは客寄せで、後半のいかにもドイツの美術館らしいラインアップが本命だろう。ただこちらの方は日本的には知名度の低い画家が多いので好みが分かれるところ。ホドラーにスペースを割き、表現主義などのコーナーがあるというところは、日本人の一般的な感覚とは微妙に違うところ。

 個人的にはヴラマンクやシャガールなどが興味あり、それなりに見所はあるのであるが、やはりかなりマニアックな作品が多いというのが印象に残る。


 国立新美術館を後にすると次の目的地は新宿。原宿で乗り換えだが、この原宿の裏手がデング熱で話題となった代々木公園。蚊が飛んでいないかには注意する。ただ原宿周辺は人が以上に多く、この大群衆の中でウイルスを持った蚊に刺されるというのはどれだけの確率だ?との疑問もある。なお涼しくなってきたせいか、それとも徹底して殺虫剤を撒いていたせいか、全く蚊を見かけない。おかげで人工的な公園が余計に人工的になっている気もする。

 

 新宿は相変わらずゴミゴミしたところ、それにしても緑があって虫が全く飛んでいないのはここも同じ。やはりとことん人工的な町。次の目的地は企業の合従連衡でやけに長い名前に変わってしまった行きつけの美術館。


「印象派のふるさと ノルマンディー展−近代風景画の創造−」東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館

  

 急速に発展を遂げたノルマンディー地方は、多くの画家にとっての画題ともなっている。そのようなノルマンディーを描いた作品を集めた展覧会。

 作品にラインアップは、比較的古い作品から近代の作品まで年代が広い。ちなみに展覧会名では「印象派のふるさと」と銘打っているが、実のところは印象派の作品はそう多いわけでもなく、特にメジャーどころの作品があるというわけでもない(モネが一点あった気はするが)。

 おかげで何かの絵画の展覧会と言うよりも、ノルマンディーの歴史展のような趣がある奇妙な内容であった。


 「浮世絵・エジプト・印象派」というのが私が以前から言っている観客を呼ぶためのコンテンツだが、本展に関してはいかにも無理矢理に印象派に結びつけたなという気がしないでもない。確かに単に「ノルマンディー絵画展」だとピンとこないのは分からないではないが。

 

 展覧会の鑑賞を終えると昼食にすることにする。隣の野村ビルの展望レストランがここの半券で10%引きになるとのことなので、そこに立ち寄ることにする。入店したのは「デューク」「シェフの気まぐれランチ」を注文。

  

 洒落た店で味も悪くはないのだが、東京の常でCPはというとウーン。

 

 昼食を終えたところで次の予定に移る。次は本来は想定していなかった目的地なのだが、この際だから予定に組み込んだ。京王線ではるばる府中まで長駆することになる。目的地はここからコミュニティバス(ちゅうバス)でさらに移動した先。訪問客が多いので小型バスの中は満員である。


「生誕200年 ミレー展 愛しきものたちへのまなざし」府中市美術館で10/23まで

  

 今年はミレーの生誕200年と言うことで複数のミレー展が企画されている。私は本展以外に高知県立美術館で開催されて三菱一号館美術館などに巡回されたミレー展も見学したが、本展では展覧会名に銘打っているように「愛しきものたち」を描いた作品が多い。具体的に言うと、ミレーの妻をはじめとする親族の肖像画がかなり大きな部分を占めている。

 そのために作品自体からも親密さが流れ、ミレーにしては柔らかくて暖かい印象を受ける作品が多い。またその性質上、あまり尖った作品はなく穏やかな空気が流れている。その辺りが妙に心地よい展覧会であった。

 なお肖像画以外にも農村画などが多数。その辺りが物量的にも十分に満足できる内容であった。


 一言で言えば、わざわざしんどい思いをして府中くんだりまで繰り出してきた価値はあったということ。

 

 この時点で2時半頃。まだまだ時間があるのでさらに足を伸ばすことにする。ここから京王バスで武蔵小金井駅に移動、さらにここから西武バスにのりついで小金井公園西口まで、目的地はここにあるたてもの園。ここでジブリの建物に関する展覧会を開催中であることは、以前にマーニー展を訪れた時に情報を得ている。

 

 小金井公園はひたすらだだっ広い緑地。しかし自然のままという訳ではなく、かなり人工の手が入っているようだ。緑地にしてはあまり自然な匂いがしない。たてもの園はこの奥にある。

 しかしたてもの園の近くに来た途端に異様なひとだかりに驚く。こんな人気施設だったのだろうかと疑問に感じたのだが、どうやら今日は何らかのイベントで入場が無料らしい。入場無料は良いのだが、おかげでジブリ展が異常な混雑。内部は押し合いへし合いでまともに動けない上に、人の背中や頭ばかり見ることになる。それでなくてもキラーコンテンツであるジブリに無料というドライビングフォースがぶつかった結果である。これだったら有料でも良いからまともな条件で鑑賞したかった。

 大行列

 展示自体はジブリ作品の建物原画展という趣。立体展示などもあり、特に千と千尋の例の建物は表側と裏側でかなり造形が異なるという点で非常に面白かった・・・のだが、全部遠目で見ただけで、特に原画の類はほとんど見られない状態だった。

 たてもの園は東京の歴史を物語るような古い建物を移築復元した施設で、ちょうど香川の四国村と類似したコンセプトの施設である。ただ今日は馬鹿込みだし、先ほどの押し合いへし合いのジブリ展で異常に疲れたので、見学もそこそこに帰ることにする。しかしこの帰りのバスも超混雑、しかも武蔵小金井から乗車した快速は、慢性遅延の特急あずさに巻き込まれて遅延、ヘトヘトになって飯田橋にたどり着く。

 

 わざわざ飯田橋で途中下車したのは理由がある。東京での私にとってのオアシス、紀の善に立ち寄るためだ。ラストオーダーギリギリの5時前に現地にたどり着く。注文したのは栗みつまめ

 一息つくと夜食に抹茶ババロアを購入してから秋葉原に戻る。戻ってきた時には朝と違ってアキバはホコ天になっていた。しかしやはり私にはアウェイ感が全開。電気街の頃のアキバは私にシックリきたのだが、萌えとメイドに占拠されたアキバは私とは相容れない世界だ。アキバは遠くなりけりだ。

 アキバのホコ天

 ホテルに帰るととりあえず入浴。ここは最上階が露天風呂付きの大浴場になっていて実に快適。ただ最上階の風呂といっても場所柄展望浴場というわけにはいかないが(ビルが多いので、9階といっても丸見え風呂になってしまう)。

 

 入浴を済ませると夕食に繰り出すことにする。ホテルで確認したところによると、この周辺で飲食店といえばアキバイチなる商業施設内に密集しているとのこと。飲食店が単独で存在せず、ビル内に入居しているところが大半なのが地価が異常に高い東京の特徴。おかげで馬鹿高いテナント料が価格に乗ってくるので、東京の飲食店は異常にCPが悪いことなる。それを避けられるのは、昔からその場所で商売をしているような飲食店なのだが、そのような店は大抵は例のバブルの時期の地上げで絶滅してしまった。結果として今の東京は、ミシュランの「世界一のグルメ都市」なんていう媚び媚びの宣伝とは裏腹の食の不毛地帯となっている。

 

 この日に夕食を摂ったのは「新宿すずや」なるとんかつ店。まあカツは悪くないのだが、やはり土地代まで価格に乗っているのでCPは良くない。

  

 夕食を済ませてホテルに帰ってくると疲労でぐったりとしてしまう。明日は仕事なので疲労を残すわけにはいかないので、ドーミーイン名物の夜鳴きそばを頂いてから早めに就寝するのだった。

  

☆☆☆☆☆

 

 

 翌朝は朝食後に入浴して体をほぐすと、万全の体制で仕事にと挑むのであった。おかげで仕事の方ではそれなりの成果は収めたのであるが、どうもここのところ自腹の前泊が多くなっているせいで出張貧乏になっている気がする。しかも以前から計画していた私的な遠征と突然に飛び込んでくる出張のせいでほとんど毎週飛び回っている状況。日程的に無理だと諦めていたミレー展を見学できたのはラッキーだったが、何やら体の方に疲労が溜まってきているようでどうもよろしくない。そろそろ本気で体力増強も行う必要がありそうだ。

 

  

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