展覧会遠征 神戸編11
最近は連日35度を越えるような灼熱地獄である。こんな時は部屋にこもって静かにしていたいところ。しかしこんな時に限って出張である。出張先は灼熱の神戸。それならいっそのこと、そのまま神戸でゆっくりと宿泊してやろうという考え。
夕方に仕事を終えるとそのまま神戸に移動。今日宿泊するのは神戸駅前にある万葉倶楽部。神戸駅前にある宿泊設備付きのスーパー銭湯である。到着した時にはもう既にグッタリと疲れている。
部屋はツインの洋室。結構キレイで広い部屋だ。ただ私が入室した時には冷房が十分に効いていないので、冷房を強めてから入浴に行くことにする。
風呂はワンフロアに複数の浴槽があるタイプ。人工炭酸泉なんかもあって、これは湯温は低いのに体は結構温まるという夏にはありがたい風呂。高温サウナと低温ミストサウナもあったが、低温サウナでも私には蒸し暑すぎて駄目。
風呂で汗を流すと外に出るのも嫌なので施設内で夕食にする。夕食に摂ったのはカツ丼と焼き鳥。まあ可もなく不可もなくという内容。こういう施設の食堂にしてはまずまずなのではなかろうか。
夕食を済ませると漫画コーナーで漫画を読んで時間をつぶしたり、ゲームをやってみたりなど。いわゆるネットカフェ的な設備があるので時間をつぶす方法はいくらでもある。シアターなんかもあって映画も見られるようだ。ただ残念ながらこっちについては私の興味のある作品はなし。
窓からの夜景
そんなこんなでこの夜はウダウダと時間をつぶして昼の仕事の疲れを癒やすのであった。
☆☆☆☆☆
翌朝はバイキングの朝食を頂くと朝風呂などを堪能して10時過ぎぐらいまでゆっくりしてからチェックアウト。どうせ今回宿泊したのは休息のためだし、今日は実際に予定はそんなに多くはない。今日の予定の一つは三宮のミント神戸で映画を見ること。
「思い出のマーニー」
ジブリの新作映画。借りぐらしのアリエッティを監督した米林宏昌氏の監督第二作である。
ストーリーは、その生い立ちなどから人に対して心を閉ざしている少女・杏奈が、ぜんそくの静養のために訪れた北海道の湿地の屋敷で、謎の金髪の少女マーニーと出会う物語。夢とも現実ともつかぬが、なぜかどこかで会ったことがあるような気がする少女マーニー。彼女と友達になった杏奈は、いろいろな不思議な出来事に出会う中で人に対する愛を思い出し、人間として成長していくという話である。
前作のアリエッティではとにかく「人間が描けていない」「ドラマとしての盛り上がりに欠ける」「ハッキリとしたテーマが不在」など諸々の不満点が噴出したのだが、本作ではそれらの不満点が悉く解消されている。まずある事件が原因で人の愛情を信じることが出来ずに鬱屈している杏奈の感情の描き方も自然だし、マーニーとの出会いを通じての杏奈の成長についても無理なく描けている。またドラマとしても退屈せず楽しむことが出来るようになっているし、人と人との愛情や関わりというテーマも自然に表現できている。その点では本作は非常に成功しているし、米林氏の監督としての成長も著しいと感じられる。
もっとも人物表現に関しては、脇キャラの一人一人までもが自然に存在感を主張してリアリティを持つという宮崎駿作品のレベルにまでは達しておらず、正直なところ扱いに関して残念さを感じるキャラクターも何人か見られる。とは言うものの、杏奈とマーニーの二人のドラマに絞って濃密に描ききったことで、作品自体は感動的で「泣ける」話に仕上げられている。最後のオチに関しては明らかに途中で展開が読めるのであるが、それにも関わらず泣けるのは事実。
前作のアリエッティにしても、本作にしても、主人公が親から見捨てられたように感じてどこか鬱屈したところがあるキャラであるというのは、米林氏の宮崎氏とは違った芸風のようにも感じられる。同じような環境にあるキャラでも、宮崎作品の場合の主人公は、むしろ束縛のない自由なキャラとしてあくまで前向きであるのと比べると大きく異なる。しかしこういう鬱屈したところのあるキャラクターというのはある意味で今風であるのかもしれない。
ヒロインの杏奈は両親からの「無償の愛」というものを感じておらず、それが内向的な性格と外部に対する刺々しい無駄な攻撃性につながっていたのだが、昨今のネットを見渡しているとまさにそういうタイプの若者がゴロゴロしている。こういう感覚は今風なんだろうか。悲しいことであるが。願わくは彼らが己の偏狭さに気づいて成長してくれることを。
映画を見終わったところで、ミント神戸内の「かつくら」で昼食。映画館のチケットを見せれば10%引きである。
映画の次は神戸市立博物館に向かうことにする。しかしこの行程が決して長くないにも関わらず灼熱地獄で消耗を余儀なくされる。なるべく屋内や日陰を選んで進んでいったが、それでも目的地に到着した時にはぐったりである。
「ギヤマン展−あこがれの輸入ガラスと日本」神戸市立博物館で9/15まで
江戸後期にはヨーロッパよりギヤマンと呼ばれる輸入ガラス器が多く持ち込まれた。これらは日本人に珍重されると共に、同様のものを国内でも生産したいと考えて薩摩切子などが発展することになった。このような輸入ガラスとその日本への影響について展望した美術展。
輸入ガラス器に関しては高度な細工を施したいかにも調度品と呼べるものも多数あるのだが、その一方で薬瓶のような実用本位のものも含まれていたのは面白い。このような薬瓶でさえも、当時の日本の技術的には存在しないもので、転用されて珍重されていたようである。
後半は国内で生産されたギヤマンになるのであるが、輸入品の模倣で始まっていた国内ギヤマンが、急激に技術が進歩していくことで、結果として本来のヨーロッパ製品の模倣を超えた独自のものになっていっているという辺りが、いかにも日本的である。古くから既にこういうところでメイドインジャパンの神髄は発揮されていたのだなと感心したりすることも。
とにかく暑い。表を歩くだけで目眩がしそうだ。これ以上の体力の消耗は避けたいので早めに帰宅することにする。
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