展覧会遠征 東京編3

 

 今月の頭から胃腸風邪をひいてしまって体調が惨々な状態。吐き気と下痢は何とかいくらか治まってきたが、それでも食欲が皆無という状態がしばし続いた。しかし仕事の方は容赦なく年末進行でやってくる。特に今週は出張続きで、この週末も金曜日に東京出張があった。当初の目論見はどうせ週末に東京出張だから、そのついでに自費で東京に宿泊して美術館に立ち寄ってから帰ってやろうというものだったが、週末になっても未だに体力が本調子ではなく(まだ食欲がまともでない状態)、圧倒的に体力に不足する状態での東京行きになってしまったのである。

 

 とりあえず本業の仕事の方は無事に終了、なかなかに有用な情報も得たので実りは多いものだったがとにかく疲れた。仕事が終わってから病院に立ち寄って胃腸薬をもらったのでそれを服用。ホテルに向かう途中でそば屋で夕食を摂ったものの、食欲が今一つの状態。結局はそばを中途半端に摂っただけでこの日はホテルで寝込んでしまう。例によって宿泊ホテルはホテルNEO東京である。

  

☆☆☆☆☆

 

 

 疲労から爆睡したのだが、それでも6時前には目が覚めてしまう。本来なら朝食を摂るところなのだが食欲は皆無。美術館が開くの大体9時ぐらいだからまだまだ時間はあるのだが、目覚めてしまった以上は出かけようと考える。前から東京での宿題もあるし。

 

 東京での宿題といえば私鉄系の視察のこと。公式には鉄道マニアではないはずの人間が何にはまっているのやら・・・。己の業の深さを感じつつ、東武と武蔵野線を乗り継いで東川口へ。ここから埼玉高速鉄道と地下鉄南北線を視察するつもり。

 

 JR東川口を降りると、埼玉高速鉄道の東川口駅はその駅前を潜ったところ。なお埼玉高速鉄道は東京メトロ南北線を埼玉県内まで延伸した第3セクター会社。「東京」メトロが県境を越えて埼玉まで乗り込むわけに行かないので、そこから先を別会社が延伸した形になっている。

JR東川口から地下に潜ると東京メトロ東川口駅

 東川口からは一駅で終点の浦和美園。この駅だけは地上駅になっており、イオンがあったり新興住宅地の雰囲気。ここは浦和レッズのホームである埼玉スタジアムの最寄り駅らしく、駅内もレッズ絡みのポスターが貼られている。複数ホームの大きな駅の半分しか使用されていないようだったのだが、レッズの試合が開催される時には残りの部分が使われるのだろうか?

浦和レッズだらけの浦和美園駅を出るとすぐにまた地下に潜る

 浦和美園で折り返すとそのまま飯田橋まで移動する。南北線は飯田橋−目黒間は既に視察済みなので、これで南北線と埼玉高速鉄道が視察終了である。それにしてもやはり地下鉄の視察ほど空しいものはない。飯田橋では長距離のホーム移動。いつも東京に来るたびに嫌になるのがこの乗換の距離。ここからは東京メトロ東西線で移動する。東京メトロ東西線は中野からはJR中央線に乗り入れているのでそのまま荻窪まで移動。東西線も飯田橋以東は視察済みなのでこれで視察終了である。

飯田橋で乗り換えると東西線で荻窪へ

 荻窪で降りたのはついでに東京メトロ丸ノ内線の視察をするため。最初に反対側にでてしまったため、丸ノ内線の荻窪駅を探すのに少々手間取る。荻窪からは中野坂上で乗り換えて方南町の支線の見学。方南町は特に何があるというところではなく、この時間はこちら行の乗客は少ない。終点の方南町は完全に線路の先が駅舎で停まっている構造を見ると延伸の予定はないのだろうか?

荻窪から方南町へ

 方南町で折り返すと中野坂上で乗り換えて国会議事堂前まで移動。丸ノ内線は既に国会議事堂前−大手町は視察済みなので、後は大手町−池袋を残すのみだが、これは次の機会にすることにする。丸ノ内線は東京の地下鉄の中では老舗の方に入るはずだが、そのせいかいろいろな設備が悉く狭苦しい印象を受ける。国会議事堂前からはメトロ千代田線で乃木坂へ。かなり大回りしたがようやく最初の目的地である。到着したのは開館時刻の10時の10分前。

 議事堂前で乗換


「印象派を超えて−点描の画家たち」国立新美術館で12/23まで

 

 19世紀末から、色彩を科学的に表現する方法として点描画法が発展してくる。これらの流れは後にゴッホやモンドリアンにも影響を与えている。本展はオランダのクレラー=ミュラー美術館の所蔵品を中心に、点描絵画などを展示。

 点描絵画についてはスーラやシニャックなどが中心。同じ点描といってもその表現の幅は様々で、かなり手を入れて点描絵画に取り組んでいるスーラに対し、もっとやっつけ仕事に見える画家もいたりなどで、この辺りは個人的な思い入れの差もあるのか。

 本展の目玉としてはゴッホの作品になるのだが、意外と面白かったのがレイセルベルヘなどの絵画。前衛過ぎず古すぎずのバランスが良い。


 確か先週の「ハーグ派展」では、ゴッホとモンドリアンはハーグ派の潮流を汲んでいるとなっていたのだが、本展でもゴッホとモンドリアンの原点という表現になっている。一体彼らはどれだけ原点があるんだ?

 

 展覧会を終えると乃木坂駅からメトロ千代田線で代々木上原まで。これで千代田線も残すは北千住−北綾瀬の末端区間まで。この区間に関しては私の定宿が南千住のため、その気になればいつでも行けそうなのにかえってそのせいで後回しになっているきらいがある。

左 乃木坂駅で北千住発箱根湯本行きの特急に遭遇  中央 代々木上原を経由して  右 新宿に到着

 代々木上原からは小田急で新宿。次の目的地は上野なので素直に千代田線を使えば良いところだが、あえて都営新宿線で本八幡に向かう。この都営新宿線というのが今まで乗ったことのない路線。とは言うものの地下鉄の視察ほど空しいものはない。救いは東大島−船堀のところで少し地上に出る区間があること。やはり外の風景が見えるとホッとする。私は洞窟は嫌いではないのだが、地下鉄は嫌いである。

都営新宿線で本八幡へ

 本八幡はJR総武線と接続している駅。なおここは既に千葉県で、「都営」地下鉄が千葉県まで乗り入れていることになるが、これは東京都交通局管轄下の路線での唯一の例外らしい。

 

 ここから総武線で上野に折り返すことにするが、その前に軽くでも昼食を摂りたい。とは言うもののやはり食欲は皆無。結局は丸亀製麺でうどんを頂いたのが今日の昼食。

 


「ターナー展」東京都美術館で12/18まで

 

 イギリスの風景画の巨匠ターナーの展覧会。

 ターナーの風景画と言えば霧の表現というイメージがあるが、彼の表現はそもそも彼の絵画の出発点が水彩画から始まっていることに起因しているような気がする。水彩画のぼかし表現がイギリスの靄っぽい空気とマッチしていたように感じられる。ただ彼が面白いのは油彩画を描き始めても同様の表現をとったこと。油彩画であるにもかかわらずどことなく明瞭さのないぼかした絵画になっている。だから彼の手にかかるとイタリアの風景までがどことなく靄っぽくなる。

 巨匠という割にはかなり特徴的な表現であるので、好き嫌いの分かれる面もあるのではないかと感じられる絵画である。印象派の煌めく光とも異なり、古典派の光表現とも異なるボンヤリと柔らかい光。この手の光の表現を好むかどうかがポイント。


 体調の悪いこともさることながら、会期末が近いせいか会場内が一杯で鑑賞には最悪に近いコンディションだった。あまり鑑賞に集中出来なかったので、神戸に巡回があった時に再訪することにする。

 

 とにかく疲れたので、次の目的地へと移動する前に喫茶で休憩。パフェを食べたところで若干空腹を感じたのでうどんを注文。何やらうどんばかり食べている気がする・・・。

   


「国立西洋美術館×ポーラ美術館 モネ、風景をみる眼」国立西洋美術館で3/9まで

 

 国立西洋美術館とポーラ美術館のコラボにより、両館が所蔵するモネの絵画を中心に、似たような題材を描いた他の画家の作品などと比較することで、モネの絵画の特徴を明らかにしようという展覧会。

 有名どころの秀品が目白押しなので、難しいこと抜きに印象派を中心とした近代絵画展として楽しめる。改めてモネの光の煌めきの表現の巧みさなどに感心することしばし。


 国立西洋美術館は何度も来ているし、ポーラ美術館も訪問済みなので展示作自身にはあまり目新しいものはなかったが、それでもやはり名作には心を癒される気がした。

 

 とは言うものの、心は癒されても体力は回復しない。まだ時間的にはさらに回るだけの余裕はあるのだが、体力の方にその余裕が皆無。ホテルに戻るとそのままダウンしてしまったのだった。結局はこの日の夕食は、ホテル近くのコンビニで買い求めたおにぎりと肉まんになってしまった。

  

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 翌朝は7時過ぎまで爆睡。さて今日の予定だが、横浜美術館に立ち寄ってから東京駅近くの二館に立ち寄って帰るだけである。当初の予定はもっと意欲的なものだったが、とにかく体力がもう明らかに限界になっているので、立ち寄り先の予定を大幅に減らしている(美術館を見学するのは意外に体力を消耗する)。

 

 8時過ぎ頃にホテルチェックアウトすると、東京駅に荷物を置いて身軽になってから新橋へ移動する。このまま横浜に直行するのもあまりに芸がないので、少し寄り道するつもり。

 

 まずは新橋から都営浅草線に乗車する。都営浅草線は泉岳寺以南が未視察なのでそれを視察する予定。泉岳寺で西馬込行きに乗り換えて終点まで。西馬込も特に何があるというわけでもないところ。なお都営浅草線の印象として、とにかく設備が古く感じた。

泉岳寺で乗り換えて西馬込へ

 西馬込で折り返すと五反田で下車。ここからは東急池上線に乗車する。東急五反田駅はビルの4階というかなり高所にある。ここに停まっているのは、一瞬「新交通システムか?」と思うような短編成車両。ここから列車は、最初はビルの間を抜け、やがては密集住宅地の間を抜けと目まぐるしく変化する沿線の中を走る。その間、路線の高さはビルの4階から地下まで様々に変化する。東京というのがイメージよりも実はかなり起伏のある土地だと実感出来るのもこの路線。また東急の路線図を見ると、このエリアの異常な路線密度の高さに奇異の念を抱くのだが、実際に沿線の人口密度の高さを見ると納得は出来る。また現実に車内の利用客の人数も多い。

東急五反田駅はかなりの高所にある

 終点の蒲田は大ターミナルである。ここからは多摩川線に乗り換えることにする。多摩川線の沿線も池上線に類似だが、池上線沿線の方が密集度合いが激しい。

大ターミナルの蒲田駅で乗り換えると多摩川を目指す

 多摩川駅で乗換、ここから直接にみなとみらいを目指す。この路線自体は今まで何度も乗車はしている。

 


「生誕140年記念 下村観山展」横浜美術館で2/11まで

 横山大観や菱田春草らと共に日本美術院創設に参画し、新しい日本画を目指して活躍した巨匠の展覧会。

 幼い頃に狩野派に師事してそれらの伝統的な画法を身につけた観山は、大和絵などの伝統絵画にも通じており、その辺りが同じく新しい日本画を目指すといっても大観などとは微妙に姿勢の差があるように感じられる。

 大観が朦朧体に代表されるように革新に急いでやや先鋭化する部分があったのに対し、観山はそれらの志向も試しつつ、より伝統的な技法に重点を置いたやや保守的に見える絵画を貫いていたように感じられる。その辺りが中庸的な穏やかさと安定感につながっている。

 面白かったのは渡欧期に描いたラファエロの模写。観山が描くと西洋画も日本画の表現になる。他の渡欧画家が大抵は洋画の技法に追随していたのに対し、彼はあくまで日本画の表現を貫いているところが特徴的である。


 前回の訪問時にはマークスがまだ工事中だったせいで、美術館最寄りの出口が使えずに遠回りさせられたのだが、今回はマークスが開業していたので近道を取ることが出来た。なお展覧会観賞後はマークス内の回転寿司屋で昼食を摂ったが、これが観光地レベルの価格。同じ観光地価格なら函館の回転寿司の方が納得が出来ると感じつつ店を後にする。身体の調子が本調子なら横浜中華街に足を伸ばしたのだが、今はとても中華料理を堪能するという体調ではない。やはり和食が限界。

 

 みなとみらいからは東急東横線で武蔵小杉、ここで目黒線に乗り継いでそのまま都営三田線直結で大手前まで移動する。横浜地区は相模鉄道いずみの線や横浜地下鉄なども未視察なのだが、もうそんな体力は残っていない。なお都営三田線大手町以北は次回以降の課題である。とりあえずこれで東急は路面区間である世田谷線以外は視察終了となる。

 


「近代への眼差し 印象派と世紀末美術」三菱一号館美術館で1/5まで

  

 三菱一号館美術館が所蔵する名品を一挙展示。ルノワール、モネなどからロートレックのポスター、さらにルドンなど19世紀末から20世紀にかけての優品が展示されている。

 個人的には一番の目玉は、やはりルノワールの「長い髪をした若い娘」。いかにもルノワールらしい柔らかい印象の絵画であるが、彼の作品の中では色彩がとりわけ明瞭で鮮やかに目に映り、非常にインパクトの強い絵画である。

 またルドンの「グラン・ブーケ」も強く印象に残る作品。屋敷の食堂を飾る壁画として作成されたという作品であるが、色彩の爆発のような花束とそれを引き締める青い花瓶の色の調和が美しい。ただ単に花束を描いただけでも、ルドンの手にかかるとどことなく不思議絵画のようになるのも面白いところ。こうして見てみると、シャガールと同様にルドンの絵画も壁画に向いているのかと思わされる。


 いよいよ次を最後の目的地とすることにする。通常の状態なら歩いていくのがそんなに大変な距離でもないのだが、もう既に体力的にはヘロヘロで、タクシーを使おうかとも思ったが、さすがにそれは思いとどまった。

 


「カイユボット展−都市の印象派」ブリジストン美術館で12/29まで

 

 モネやルノワールと共に印象派展にも参加し、印象派を代表する画家の一員であるものの、どちらかと言えば彼らの作品を購入して収集することで彼らのスポンサーとしての側面の方が有名である画家であるカイユボット。本展では画家としての知名度は決して高いとは言い難い彼の作品を展示して紹介した展覧会である。

 タイトルに「都市の印象派」とあるように、彼の作品は都市の風景を描いたものが多い。絵画としては明らかに印象派としての技法に沿っているが、モネほど先鋭化した表現はなく、もっとスマートで取っつきやすい絵画という印象を受ける。そういう意味でも都会的であるのだが、親しみやすい絵画であると同時に強烈なインパクトには欠けるきらいがある。この辺りが「芸術」として考えた時にモネやルノワールなどに比べるとマイナーになってしまう理由か。


 これで本遠征の予定は完全終了ということにする。正直なところ当初予定よりは大幅に行動範囲を絞ることになったのだが、それでも体力的にはヘロヘロになり、かなり早い時間での帰宅と相成った。帰りはエクスプレス予約のグリーン特典で確保したグリーン車で、ほとんど爆睡状態で過ごすことになった。

 

 結局は予定していた最低限の美術館を回り、後は東京エリアの私鉄乗りつぶしとなったのが本遠征。とにかく最後まで体調の悪さが足を引っ張ってしまった。とりあえずは体調の立て直しが最優先である。 

 

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