展覧会遠征 広島編5

 

 この週末は広島に繰り出すことにした。これはそもそもは先の石見遠征の最終日にこなすべき予定である。しかしあの時は萩から広島に向かう途上で事故を起こし、計画の中断を余儀なくされていたのである。その後は事故処理や新しい車の購入等で忙殺されたのだが、ようやく事態も落ち着いたところで広島でこなしておくべきだった予定の消化をすることになったのである。

 

 当初は一泊も考えたのだが、なぜかこの時期の広島のホテルは予約で満杯で部屋の確保が出来なかった。それに今回は実のところわざわざ一泊しないといけないほどの予定もない。ということで日帰り遠征にする。広島となると車でも行ける距離だが、たださすがに日帰りとなるといささか疲れるし、私自身もまだいきなりの長距離走行を行うべき心構えができていない。また目的地は広島市内であるので現地に到着すると車はむしろ邪魔になる。かつてなら在来線で延々とということもあり得たが、今ではそんな元気は到底ない。また高速バスの使用も考えたが、これもやはり時間と体力的にキツイ。そこで今回は無難に新幹線を使用することにした。結果として宿泊費分を交通費に回したような計算になる。

 

 最近は疲労がたまっている上に、今回の遠征はスケジュールにかなり余裕があるので、無理に早朝出発はしなかったので広島に到着したのは昼前。それにしても私もずいぶんと堕落したものだ。今となってはかつての修行僧のような厳しい遠征はとても出来ない。

 

 久しぶりの広島である。正直なところ来るまでは若干億劫な気持ちもあったのだが、こうしていざやって来ると懐かしいなという気持ちが沸いてくる。やはり広島の空気は私に合う。

 広島駅を降り立つと、まずは広電の一日乗車券を購入。最初の目的地はひろしま美術館である。

 


「オランダ・ハーグ派展」ひろしま美術館で12/23まで

 フランスのバルビゾン派の影響を受け、オランダで農民などの絵画を描いたのがハーグ派である。またこのハーグ派をルーツとした画家がゴッホとモンドリアンと言われている。ハーグ市立美術館がコレクションするハーグ派の絵画を一堂に展示した展覧会。

 オランダと言えば昔から精密具象画の歴史があるので、バルビゾン派の影響を受けてもその流れが顕著に現れている。フランスではバルビゾン派から発していった印象派が段々と先鋭化していくのだが、オランダにおける絵画の流れはもっとゆったりとしているようである。結果として、地味ではあるが好ましく思える絵画もなかなか多い。

 本展ではゴッホの原点と謳っているが、確かにゴッホの初期の重苦しい絵画は明らかにハーグ派的である。ただその後に彼は色彩を爆発させて当初とは似ても似つかない境地に変貌していくので、果たしてどれだけの影響が残っているかは微妙。またモンドリアンに至っては、最終的には例の抽象絵画になるわけだから、ハーグ派との共通項と言われても難しい。


 素晴らしい美術品を堪能した後は喫茶でアイスティーとケーキでマッタリと過ごす。美術館内も紅葉が綺麗だ。こういう一時が貴重。

至福の一時ではある

 お茶を済ませると腹が減ってきた(笑)。考えてみると今日は朝食も摂らずに家を飛び出して来ている。次の目的地に行く前に昼食にすることにする。昼食はもう決めている。この時期に広島と言えば牡蠣しかあり得ない。それも行くならやはり「KAZUMARU」だろう。とりあえず私の冬はここに立ち寄らないと始まらないのである。

   相変わらず分かりにくい店

 相変わらず分かりにくいところにある店だが、もう完全に道を覚えている。入店すると注文したのは昼食用の「牡蠣会席(3990円)」

左 先付け三品  中央 生牡蠣  右 牡蠣のタタキ

 先付けの小鉢から始まり、まずは生牡蠣、次がタタキである。牡蠣は生と火が通ったものとで風味が変わるのだが、やはり私的には火が通っている方が好み。

土手鍋と牡蠣フライ

 次は土手鍋と牡蠣フライ。ここの土手鍋は甘すぎず辛過ぎずで非常に美味。私が土手鍋という料理を見直したきっかけになったのがここの土手鍋。なお牡蠣フライも当然ながら美味である。

雑炊とデザート

 最後は雑炊とデザートで締め。この雑炊がしつこそうな見た目に反して意外にサッパリしている。

 

 やや大盤振る舞いだが、昼から牡蠣を堪能した。これで忙しい師走を切り抜ける体力が出来るというものである。

 

 昼食を終えると次の目的地へ。ここからは路面を乗り継いですぐである。

 


「シャガール展」広島県立美術館で12/25まで

 日本ではシャガール展はよく開催されるが、本展はコピーで「こんなシャガール見たことない」と謳っているように、通常の絵画中心の展覧会とは少々趣向が異なっている。

 本展での展示の中心はシャガールの舞台芸術。シャガールの舞台関係の作品と言えばパリ国立オペラ座の天井画が有名だが、これの下絵を始めとして、教会のステンドグラス作品の下絵やタピストリー、また舞台衣装など絵画作品以外の作品が展示されている。

 シャガールと言えば「色彩の爆発」とも言われる独特な煌びやかな色彩が印象に残るものだが、舞台芸術においてもその特徴は最大限に発揮されている。またこれがステンドグラスなどになると非常に良くマッチし、シャガール芸術の表現手段としてはやはりこういう色彩が明瞭に出るジャンルが最も適していることを再確認させられる。

 通常とは一風変わったシャガールワールドを堪能出来る展覧会であり、そういう点では非常に楽しめる内容。


 切り口が普段と違っているということでなかなか興味深い展覧会であった。特別展観賞後は常設展の方を一回りする。ここも何度も来ているので、収蔵品の方はもう既に馴染みの作品が多い。

曾我蕭白に唐三彩

 美術館二館を訪問したし、牡蠣も食べたしということでこれで本遠征の主目的は達成であるが、わざわざ新幹線まで使って広島くんだりまで出てきたのだから、これで帰っては勿体ない。もう一館立ち寄ることにする。次の目的地は交通の便が悪いところにあるのだが、ちょうど広島市内観光地周遊バスのめいぷるーぷバスが出ているので、それで移動することにする。

 めいぷるーぷバス


「フランシス・アリス展」広島市現代美術館で1/26まで

 ベルギー生まれでメキシコに移住して芸術活動を開始したフランシス・アリスの展覧会。

 作品は映像作品が中心。その趣向としては、銃器店で拳銃を購入した後にそれをそのまま手に町をウロウロし、最終的には警察に連行されるまでのドキュメントとか、あえて竜巻の中にカメラを持って飛びこんでいく映像とか、どうも芸術と言うよりは民放のバラエティ番組の「衝撃映像○○連発」という雰囲気に近い。

 まあ、何らかのメッセージを言わずとしていることは理解出来なくもないのだが、果たしてそれに対しての適切な手段を取っているかというところがいささか疑問。まあ本人が芸術と主張すればすべては芸術となるらしいが・・・。


 これで広島でこなすべきことは大体終わったが、今日は日が暮れるまで広島にいることにしている。というのは、現在広島では「ひろしまドリミネーション2013」と銘打ったライトアップが行われているとのこと。ついでだからこれを鑑賞しない手はないと言うものである。会場は平和大通りで点灯は17時30分から。今はまだ16時過ぎなのでまだ時間をつぶす必要がある。とりあえず広島駅に戻ると図録で重たくなったリュックをロッカーにつっこみ、やや早めであるが夕食を摂ることにする。

 

 立ち寄ったのは広島駅のビル内にある「ASSEかなわ」。注文したのは「竹原牛御膳(2782円)」。いわゆる普通のステーキ御膳である。これに牡蠣の天ぷらを追加する。

 

 牛肉の方は普通に旨い。ただやはりいささかボリューム不足の感はある。牡蠣の天ぷらについては昼に食べた牡蠣に比べると鮮烈さが今一つ劣る。

  

 夕食を終えると路面電車で平和大通り最寄りの袋町まで移動する。路面電車は乗客満載である。いつも広島に来る度に思うが、やはり中規模の都市の交通機関としては路面電車が一番使い勝手が良い。これに比べると地下鉄なんて情緒がない分は目をつぶるとしても、とにかく使い勝手が悪い(乗るまでに無駄に長距離を歩く必要があるのが致命的)。やはり将来の日本のあるべき姿は、まず東京解体による都市規模の適正化。さらに都市交通の中核としての路面電車と都市間交通のための高速鉄道網。これしかないと考える。

 

 平和大通りに到着したのは17時30分の5分前頃。日がほぼ暮れかけた平和大通りは薄暗い印象である。しかし 明らかにいつもよりも観光客の姿が多い。そのうちに唐突に一斉に点灯されて風景が一変する。煌びやかなイルミネーションに歓声が上がる。

 後はイルミネーションを眺めながら平和大通りを西から東まで一往復。なかなかに趣向を凝らしたイルミネーションが目を楽しませてくれる。ただやはりこういうところを見学していると男独り身のつらさが身に染みる。これで横に素敵な女性でもいてくれれば・・・。非常に雰囲気がよいので思わず告白してしまいそうであるが、残念ながら現在のところは私の告白を受け入れてくれる女性の存在以前に、そもそも私が告白すべき女性自体が存在していない。やはり「夜景」「ライトアップ」は男一人旅には鬼門のようである。

 ライトアップを見学しながらプラプラ散策しようと1時間以上の時間を予定で確保していたのだが、結局私は30分強で会場を一回りしてしまったようだ。プラプラと散策というよりも、どうもガムシャラに歩き回ってしまったようである。いつもの行動パターン&私の性分である。そりゃこんなマイペース男に付いてくる女性なんて今時いないわな・・・と若干自虐的になりつつ会場を後にする。

 

 路面で駅まで戻るが、エクスプレス予約で確保している列車の時刻までまだ1時間近くあるので、土産物の紅葉饅頭を購入してから喫茶で時間を潰す。牡蠣は食べたし、展覧会は興味深かったし、ライトアップもそれなりに楽しめたし、日帰りにしては比較的充実した遠征であった・・・はずなのだが、この心の中をよぎる一抹の寂しさと虚しさは一体何なんだろうか。私も既に不惑の年を過ぎ、まもなく天命を知るべき年が近づいてきているのだが、今の調子では後数年でとてもそんな心境に至りそうにない。どうも私もまだまだ精神的に未熟なようであり、悟りの境地に至るにはまだまだ遠いようだ。

 

 

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