展覧会遠征 名古屋編3

 

 さて今週は名古屋地域での美術館攻略である。名古屋と言えばかつては私にとっては青春18切符による日帰り圏内であった。しかしそもそも今の時期は青春18切符はないし、もう既に私にはかつてのように普通列車を乗り継いで名古屋まで日帰りするような気力も体力もない。ここは安直に新幹線を使用することにする。私もずいぶんと堕落したものだ。

 

 名古屋に9時半頃に到着するとドニチエコ切符を購入。これは名古屋市の地下鉄及び市バスが一日乗り放題の上に数々の特典もあるという最強切符である。まずは地下鉄で最初の目的地である名古屋市立美術館を目指す。この美術館は最寄り駅は伏見ということになっているが、実際には駅から微妙に嫌な距離にある。なお先のドニチエコ切符で入場料が100円引きになる。


「上村松園展」名古屋市美術館で6/2まで

 

 女流画家で美人画の大家である上村松園の大規模な回顧展。展示内容は初期の伝統的な日本画を描いていた頃から始まり、独自の美人画を確立していく過程、さらには最晩年の作品にまで至る。

 松園の美人画については「品がある」「凛とした」という言葉がよく使われるのだが、確かに下卑たところが全くなく精神性の高さまで感じさせる絵画である。それでいて情緒に欠けるわけではないのがポイント。女性的な視点で女性の内面を描いているので、そこに媚びがないのである。

 また生涯を通じて常に研究を重ねていたとのこと。「ただ美しく描けば良いというだけではない」という松園の言葉が残されていたが、確かに年を重ねるごとに人物の本質に切り込んでいくようなところが感じられる。最晩年に病床に伏してからも絵筆を握っていたという松園の絶筆も展示されていたが、既に身体的には限界が来ているだろうにも関わらず、筆に乱れが見られなかったのには唖然とせざるを得なかった。さすがに女流画家に対する偏見などと戦いながら独自の道を切り開いてきた人物だけのことはあった。


 なかなかに見応えのある展覧会なのでややゆっくり目に鑑賞し、美術館を出てきた時には11時前になっていた。ちょうど良い時刻なので遅めの朝食兼昼食にすることにする。何を食べるかだが、私は基本的に名古屋飯では味噌煮込みうどんとひつまぶししか認めていない。そこでちょうどこの近くにある山本屋本店を訪ねることにする。

 ちょうど店が開いた直後に入店。味噌煮込みうどんを注文する。なおどにちエコ切符でこれも5%引きになる。ついでになめこ煮も追加注文する。

   なめこ煮と味噌煮込みうどん

 ヌルヌルとしたなめこがなかなかにうまい。そしてこれを食べ終わった頃に、例によっての熱々の味噌煮込みうどんが登場する。若干のエグ味のある味噌出汁にコシがあるではなくて単純に固い麺。これが名古屋流味噌煮込みうどんの王道。関西人の私としては、全く洗練されていない極めて田舎くさい料理と感じるが、不思議とたまにこれを食べたくなるのである。なおこんな暑い日に味噌煮込みうどんなんて食う馬鹿はいるのか?と思っていたが、回りを見渡すと名古屋人は普通に味噌煮込みうどんを食べていた。さすがに恐るべし。ただ店の方も心得たもので、しっかりと冷房を強めにしてある上に、伝票と共にさりげなく(実際はかなりわざとらしくだが)アイスクリームのメニューを置いていく。店側の策略にはまったことは了解の上でこれも注文する。

 宿儺(すくな)カボチャアイス

 カボチャのアイスクリームはネットリマッタリした舌触り。しかし柔らかい甘さでなかなかに心地よい。これは味噌煮込みうどん後のデザートとしてはなかなか上々である。

 

 ブランチを終えたところで次の目的地を目指すことにする。次の目的地は愛知県美術館だが、ここからだと伏見に戻るのも結構距離があるので、食後の腹ごなしも兼ねて直接歩いていくことにする。


「プーシキン美術館展」愛知県美術館で6/23まで

 

 東日本大震災での放射能漏れ騒ぎの余波で中止になった展覧会が、2年後にようやくの開催である。

 ロシアのプーシキン美術館は高レベルのフランス絵画のコレクションで知られている。プーシキン美術館の所蔵品はエカテリーナ2世ら皇帝のコレクションから始まり、これにシチューキンやモロゾフといった19世紀後半の資産家のコレクターの収集品が加わったものだという。ロシアにフランス絵画が集まった理由は、ロシア皇室は文化的にフランスにつながりが深かったこととなどに起因しているとか。

 展示品は古典主義時代の作品から始まって、印象派及び近代へとつながっていくフランス美術史の概観の様相を示している。ルノワールの「ジャンヌ・サマリーの肖像」が展覧会の看板作品になっているので印象派中心の展覧会のような印象を受けるが、実際には展示作品の大半は古典主義などの作品の方になる。これらの作品は作品としてのレベルはかなり高いものが多いが、残念ながら作者の知名度としては日本では高くないものが多い。

 印象派以降の作品については、一渡りのビッグネームが揃っていて楽しめるが、その割には個人的に衝撃を受けるような作品は少なかった。その中ではやはり先の「ジャンヌ・サマリーの肖像」が白眉で、格の違いのようなものまで感じさせられた。本作が日本で公開になったというのが、個人的には本展の最大の価値か。


 愛知県美術館の次はここからバスで次の目的地へと向かうことにする。向かったのは堀美術館。個人コレクションを展示した美術館で昭和の日本絵画を所蔵しているとのこと。この美術館の存在はかなり以前から知っていたのだが、以前は週末に休みだったことなどから訪問できずにいた施設である。なお現在は休館日は月曜日になったのだが、開館時間は12:30〜17:00といったやや変則的なものである。

 

 栄のバス停から基幹バスに乗車。このバスもドニチエコ切符の適用である。白壁バス停で下車すると美術館は徒歩5分程度の場所。落ち着いた高級住宅街といった趣の町並みの中に建っている。


堀美術館

 昭和の日本絵画ということで、1階には日本人洋画、2階には日本画が展示されていた。洋画の方は梅原龍三郎、藤田嗣治、三岸節子などの作品などが中心、特に藤田の秀品有り。日本画については加山又造、杉山寧、東山魁夷などの秀品有り。小規模な美術館であるがコレクションのレベルが高く、かなり楽しむことが出来た。


 なおドニチエコ切符で入場料が200円引きとなった。エコ切符最強である。

 

 再びバスで栄に戻ると、そこから地下鉄で最後の目的地へと向かう。


「アートに生きた女たち」名古屋ボストン美術館で9/29まで

 

 男女同権が言われて久しいが、芸術の世界でも古来より圧倒的に男性優位の状態だった。しかしその中で活躍していた女性芸術家も少なからず存在している。そのような女性芸術家の作品に注目した展覧会。

 ことさらに女性に注目しているが、そもそも芸術の才能に男女の差があるものではなく、作品だけを見る限りでは女性だから云々というものは特にない。最も成功した女性画家とも言われるルブランの作品などは唖然とするぐらい見事なものであった。面白かったのは夫婦や親友関係にあって互いに影響を与え合った男女の芸術家の作品の並列。基本的には別の路線を歩みながら、どことなく互いに歩み寄って見えるところが興味深かった。


 これで本遠征の予定は終了である。それにしても疲れた。今日がやけに暑かったこともあるだろうが、やはり先々週に体調を崩してからどうも身体が本調子ではない。まだ早めだが帰ることにする。ただその前にかなり遅めの昼食兼かなり早めの夕食として、あつた蓬莱軒松坂屋店に立ち寄って「ひつまむし」を食べていくことにする。なお非常に中途半端な時間だったにもかかわらず店の前には行列で、入店まで10分以上待たされることになった。

 しらかわに比べると味付けが濃いめに感じるのがここのひつまむし。一杯目はストレート、二杯目は薬味入り、三杯目は茶漬けにして、今日は異常に疲れていることから四杯目も茶漬けであっさり頂いた。しかしやはり味的にはここの場合は薬味入りのパターンが一番鮮烈で個性に合っていると再確認。

  

二杯目は薬味入り 三杯目はウナ茶漬け

 なおこの店ではドニチエコ切符で食後に柚子シャーベットが頂ける。美術館の割引分だけで切符代は既に浮いており、交通費は実質タダ。それに飲食店の特典が加わるのだからまさに最強切符。やはり名古屋回りはこれに限る。

 ただ単に美術館を回っただけなのだが、それだけで異様に疲れたしまったことで体調の悪さを再確認することになった。もっとも帰ってチェックしてみると一日で1万6千歩も歩いてはいたが・・・。

 

 戻る