展覧会遠征 池田編

 

 この日曜日は比較的近場に繰り出すことにした。今回の目的地は池田。池田はかつて阪急の小林一三が居住していた地域で、彼のコレクションを展示した逸翁美術館が存在する。ただ逸翁美術館は所蔵品が茶器中心であることから、茶道具にはあまり興味を持っていなかった私はこれまで敬遠していたということがある。

 

 しかし最近になって状況が変わってきた。単純にも「へうげもの」の影響をもろに受けてしまった私は、今まで全く面白いと感じなかった茶器類に対して興味を感じるようになってしまったのである。まさかと思っていたが、先にひろしま美術館で開催された上田宗箇展を見学した際にそのことを確信せざるを得ない状況に陥ってしまった。となると逸翁美術館を敬遠する理由は全くなくなった次第。

 

 中国自動車道を突っ走ると中国池田ICで降りて美術館を目指す。しかし古い住宅街である池田は路地地獄。高速を降りた途端にカーナビは位置を見失い、私は路地の中で惨々グルグルと彷徨うことになる。ようやくたどり着いた美術館は山の手の住宅地の中であった。

 


「−茶会記をひもとく− 逸翁と茶会」逸翁美術館で6/10まで

 小林一三は三井銀行勤務時代から生涯に渡って茶の湯と深い関わりを持っており、文化人や財界人を招いた茶会を多く開催してきたという。その彼が蒐集した茶の湯コレクションを展示する。

 展示品は黒楽茶碗などの渋いものから、尾形乾山の色鮮やかなものなどまで非常に多彩な名品揃い。ズラリと見ているだけでなかなかに楽しめる。


 やはり器などが面白く感じるようになっている自分に驚き。どうもまた新たな底なし沼がボッカリと口を開けているような気がしてきた。改めて自らのオタク度の高さが恐ろしい。

 

 美術館の見学を終えたところで美術館のレストランで軽く食事にする。注文したのは「角煮カレー(850円)」。とりあえずの空腹をしのげればよい程度の考えで入店したのだが、なんてことないカレーにかかわらず不思議に私好み。辛さが前面に出てくるでもなく、かと言って甘口というわけでもなくで私向きである。また雑穀米やら野菜などがなかなかにうまい。非常に素性の良さを感じるメニューであった。これは想定外。

 美術館の見学を終えると隣の池田文庫に立ち寄る。逸翁美術館の入館券はこの池田文庫と更に小林一三記念館の入館券がセットになっている。池田文庫での展示は「ザ・忠臣蔵」。仮名手本忠臣蔵のあらすじ紹介とそれに纏わる役者絵など。絢爛豪華な役者絵がなかなかに楽しい。また私は仮名手本忠臣蔵のあらすじは初めて知った。

 池田文庫の次は小林一三記念館を訪問。ここはかつて小林一三が居住していた雅俗山荘であり、かつてはここが逸翁美術館として利用されていた。現在は小林一三の功績を紹介する記念館となっている。なお阪急電鉄の創始者として知られる小林一三は文化にも造詣が深く、東宝の創始者であるのみでなく、宝塚歌劇団も設立し、さらには逸翁美術館のコレクションからも分かるように自ら茶を嗜み、それに関する本なども執筆しているとか。とにかく人間としての奥が深い人物であり、今時の単なる守銭奴経営者などとは人間のスケールがまるで違う。かつての日本には財界人にさえこれだけの傑物がいたということである。

   

      左 雅俗山荘          右 この長屋門は国登録の有形文化財

 小林一三関連の施設を一回りしたところで、最後はこの地にある「池田城跡」に立ち寄ることにする。池田城は室町から戦国期にかけてこの地を治めた池田氏の居城であり、戦国期に織田信長に攻められて落城するが、池田勝正は信長の家臣に取り立てられてその際に池田城も大規模に拡張されたという。池田家重臣の荒木村重が勝正を追放して実権を握った後、村重の信長への謀反の際に池田城は戦渦に巻き込まれ、乱の平定後に信長の命によって廃城となったとか。今日では城跡の大部分が住宅地に埋もれてしまっているのだが、それでも近年に大規模な発掘調査が行われ、その遺構が公園として整備されたという。

 住宅地の中を進むとマンションの横の路地の奥に模擬大手門が見える。なおこの大手門に通じる橋が越えている道がかつての空堀跡だという。実際のところはこの城の本格的な遺構と言えるものはこれぐらいなのだが、この空堀の規模によって往時の城郭の規模の大きさはうかがえる。

左・中央 この道路が空堀跡  右 北門

左 西門  中央 南門  右 虎口の冠木門

 模擬大手門をくぐるとその先は公園となっており、模擬櫓が建造されている。この模擬櫓、歴史資料的価値は全く皆無なのであるが、意外に様になっていて見栄えはよい。またこの櫓の二階に上ると池田市の市街を一望できる。住宅地をダラダラ登ってきた時にはあまり実感できなかったのだが、こうして見ると結構標高があり、また南及び西方向はかなりの断崖になっていて防御力も高いことがうかがえる。

 模擬櫓だが結構絵になる

池田市街を一望である

 

 これで池田での予定は終了である。次の目的地へ向かう前に汗を流すことにする。立ち寄ったのは宝塚にある「名湯宝乃湯」。いわゆるスーパー銭湯であるが、地下800mから自噴している天然温泉を売りにしている。

 

 露天風呂の一部が源泉風呂として褐色の湯がダバダバと注ぎ込まれている。泉質はナトリウム−塩化物強塩泉(高張性・中性)である。塩分濃度は結構強いが、それにもかかわらず意外と刺激の少ないやさしい湯である。また温度がやや低めであるのでのんびりといつまでも浸かっていられるというイメージ。私には珍しく結構長湯をしてしまった。身体が火照るようなことはないのだが、芯からしっかり温まった感じで、のぼせやすい私には非常に適した温泉。ただ泉質の良さに比例して客が多いのが難点。浴槽内もかなりごった返していて落ち着けない。

 

 入浴の後は軽く食事にする。館内の「お食事処さぬきや」に立ち寄る。その名の通りうどんが一応メインのようだが、メニュー自体は居酒屋的メニューや定食ものも多々あり幅広い。また驚いたのは安いこと。イメージ的には1500円ぐらいかなと感じる定食ものが1000円である。私は8周年記念という限定定食(888円)を注文。ありがちなメニューの寄せ集めのような定食であるが、てんぶらや刺身も普通にうまく(ただし抜群にではない)、腰の強いうどんもなかなかのものであった。

 池田で予定以上に時間を費やし、さらにはここで予定外にゆったりとくつろいでしまった(さらには駐車場が一杯でそこから出るだけにもかなり時間を要した)。おかげで帰途に兵庫県立美術館に立ち寄った時には既に閉館30分前。これは諦めてそのまま帰宅することと相成ったのである。

 

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