展覧会遠征 阪神臨海編

 

 新潟強行軍の疲れがまだ完全には癒えていないこの週末、やはりあまりキツい遠征は不可能である。こういう時には車で近場の美術館を回るに限る。と言うわけで今週は遠征ならぬ近征である。

 

 目的地その1はまずはサントリーミュージアム。私の行きつけと言えるこの美術館も、とうとう今年を限りに閉館だという。その最後を飾る企画が現在開催中であるので、それを見学に行くというもの。それにしても昨今は四半期の収益のみを重視する守銭奴経営者ばかりになって、芸術などの類に金をかける企業はなくなってきた。まさに文化の荒廃である。かつてはパトロン的なオーナー経営者などが、あくまで自分の趣味の世界に「企業の社会的使命」とか「企業ブランドイメージ確立のための投資」などと適当に理由をつけて資金を投入したものだが、アメリカの守銭奴ファンドなどによる銭ゲバ型資本主義の台頭で社会的に余裕がなくなったものだ。こうやって人心が荒廃するのである。

 


「ポスター天国」サントリーミュージアムで12/26まで

 

 アールヌーヴォーの時代、アルフォンス・ミュシャに代表されるように、まさにポスターが芸術として開花したのであるが、近代においては商業用ポスターが芸術の最先端の反映、もしくは芸術をリードする一分野として働いてきた側面がある。本展はサントリーが所蔵するポスターを集めて展示した展覧会である。

 テーマから見てミュシャ辺りが中心になるかと思っていたのだが、案に反してミュシャの作品はほとんどなく、むしろアール・デコ以降の近代のポスターが中心であった。生物的曲線を極めたアールヌーヴォーに対し、工業化時代の影響を受けたアール・デコは直線が中心のシンプルなデザインが多い。その構成は当時のポスターにも反映している。

 さらに20世紀に突入すると写真の発達などで表現方法は多様化。またポスターのテーマも単なる広告だけではなく、社会的メッセージを込めたものなども登場する。この時代に脚光を浴びた一つのスタイルが「ポーランドスタイル」とのことだが、表現が陰鬱でなおかつショッキングといういかにもあの国のお国柄を反映している(「惑星ソラリス」に代表されるように、とにかくあの国は映画にしても難解である)。

 ポスターが時代を映す鏡、または芸術の一分野ということをよく感じさせる展覧会である。そして何よりもこの美術館らしい。

 


 展示は実はギャラリーだけでなく、館内のあちこちで行われていた。その中には昭和レトロなポスターなんかもあって、ギャラリー外は撮影自由なので、記念写真を撮る者も。何となくこの美術館と別れを惜しんでいるのは私だけではなかったようである。

 美術館の見学を終えると、マーケットプレイスのレストランで昼食。サントリーミュージアムが閉館になったら、恐らくもう天保山なんかには来ることはなくなるだろう。私にとってはこの美術館の存在こそが、わざわざこんなところまで出張ってくる唯一の理由だったのだから。

 昼食を終えると阪神高速湾岸線を突っ走って神戸まで戻る。目的地その2は埋め立て地の兵庫県立美術館である。

 


「ザ・コレクション・ヴィンタートゥール」兵庫県立美術館で12/26まで

 

 スイスのヴィンタートゥール美術館のヨーロッパ近現代コレクションを集めた展覧会。この美術館を扱った大規模な展覧会は初めてで、今回の展示作はすべて日本初公開だという。

 コレクションは幅広く、ドラクロワやコローから始まるが、基本的には現代に近い絵画が中心のようである。印象派は当然として、ナビ派からフォーヴにキュビズム、さらには表現主義に抽象絵画、そして素朴派などととにかく20世紀の絵画の流れをほぼ網羅しているといって良い幅の広さではある。

 コレクションにはかなりのビッグネームが並ぶが、スイスの画家の作品も多いので、作品の知名度的には日本では無名に近いものも多数見られる。またスイスの画家の作品を見ていると、フランスなどを中心としたヨーロッパのメインストリームとは若干の距離感があることなども見て取れる。

 ただ正直なところ、あまりに内容が多岐多様でありすぎて、展覧会全体としての印象がハッキリとまとまらず、何となくとりとめのないことになってしまっている。それと私の個人的好みの関係か、なぜか強く心に残る作品がなかったというのも事実だったりするのである。

 


 これで本遠征の目的は終了だが、美術館の中でBBプラザ美術館で高山辰雄の展覧会をやっているとのチラシを見かける。BBプラザ美術館なる施設は初めて聞くが、どうやらここの近所のビルらしいということで出向くことにする。

 


「高山辰雄文藝春秋表紙絵展」BBプラザ美術館で2/13まで

 日本画家・高山辰雄が手がけた文藝春秋の表紙絵原画を展示した展覧会。

 私が初めて彼の絵を見た時、「この画家については全く知らないのに、なぜかこのタッチの絵は見たことがあるな」と感じていたのだが、その理由が今回初めて分かったというのが本音。

 表紙絵と言うことで、作品自体は叙情性を中心とした画面構成のもの。確かにこの手の絵画は日本画には向いている。もっとも彼の作品は、私は嫌いではないものの特別に強い印象も持っていないんだよな・・・。

 


 美術館に入場した際、一階上の喫茶店の割引券をもらったので、喫茶店に立ち寄って一息ついてから帰宅する。そのさらに上にはかなり洒落たレストランがあるのだが、いかにも神戸らしい洒落すぎたレストランなので、多分私は行くことはないだろう。

  喫茶で一服

 

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