展覧会遠征 出石編

 

 さて今週であるが、本来は土曜日に出かけるべきところが、最近になって仕事のプレッシャーがきついことから完全に肉体的精神的疲労でダウン。結局は日曜日に出かけることとなってしまった。また当初の予定は京都の美術館巡りであったのだが、梅雨明け以降の殺人的な熱波から、こんな時に電車で京都に行くのは自殺行為と思いとどまり、どこか車で行ける目的地に変更しようと考えるとこととなった。その時に浮上したのが出石。出石自体は以前に一度訪問しているが、その時は出石城の存在を完全に失念していた(と言うか、当時は城郭には興味は皆無に近かった)ために立ち寄らずじまいで終わっている。その宿題を果たすと共に、出石から少し足を伸ばした円山川公苑美術館で開催中の展覧会を見学してこようというところで大体の計画は立った。

 

 自宅を出たのは午前中だが、既に外は灼熱しているのでエアコン全開状態。姫路バイパスと播但有料道路を乗り継いでの行程だが、私の老朽化したカローラ2では、エアコンを全開するともろにパワー不足が露呈する。通常の3割増ぐらいのイメージでアクセルを踏み込まないと巡航速度が維持できないのである。しかも播但有料はアップダウンの激しい道路なので登りになると加速の鈍さが際だってしまう。和田山で播但有料を降りてからも似たような状況で、いかにもパワーがありそうな今時の自動車には付いていくのがツライ状態。とにかく一度何らかの理由(例えば信号など)で失速してしまうと、容易に速度が戻らないのである。足回りも明からさまにへたってきているし、やはり年には勝てないか・・・。しかし貧乏サラリーマンの身では、残念ながら車を更新する予算など今のところ全くない。まだしばらくはこのご老体に頑張ってもらうより他はない。先頃名馬オグリキャップが昇天したとのことであるが、うちの名馬にはまだまだ現役で頑張ってもらわないと。

 

 なんとかようよう出石に到着した時には昼時であった。とりあえず車を町営の駐車場に入れようと思ったが、休日のせいか予想以上に人出が多くて駐車場は満車。やむなくまずは昼食を先にしようと出石市街南部のそば屋「みくら」の駐車場に車を入れて、皿そばを頂くことにする。

 典型的な出石そばのオーソドックスなパターンで、薬味はネギ、ワサビ、トロロ、玉子という内容。まずはデフォルトの5皿を頂く。夏はそばにとって良いシーズンとは言い難いのであるが、それでもまずまずである。さらに5皿の追加を注文。締めて1470円也。

 

 腹ごしらえを済ませると、店にことわってから車を置かせてもらったままで町の方に見学に出る。相変わらずの風情のある城下町は人通りで一杯である。ただ私は街並みの方は以前の時に十分に見学をしているし、外の灼熱地獄は私の予想よりもはるかに激しく、数分歩いただけで頭から汗でずぶ濡れになる始末なので、これは長時間の野外活動は不可能と判断して出石城に直行する。

 

「出石城」はこの地域に勢力を張っていた山名氏が滅亡後、この地を治めていた小出吉英が山上にあった山名時代の本城の有子山城を廃して山麓に新たに築城したものである。その後、小出英及が3才で死去して小出氏が無嗣改易となった後は、松平氏を経て仙石氏がここの領主となって、そのまま明治に至ったという。なおこの仙石氏は幕末に幕府重臣まで巻き込むお家騒動を起こし、5万8千石から3万石に減封され、それでなくても小藩だったのがさらに小藩になってしまっている。ちなみのこのお家騒動は「仙石騒動」と呼ばれて、江戸時代の三大お家騒動に挙げられているとか。今ではこの騒動も観光のネタのようだが、はっきり言ってあまり名誉なことではないような・・・。なおこの三大○○なんてのは多分に恣意的なものであるのは毎度のことで、三大お家騒動と言えば加賀騒動、黒田騒動、伊達騒動の3つを挙げている例もあるようだ。

左 登城門手前の橋  中央 登城門  右 二の丸

  復元された隅櫓

 

 江戸時代になってから小藩が築いた城と言うことで、政庁としての機能の方が強いように思われる。下から三の丸、二の丸、本丸という複数の曲輪が順に配置された梯郭式平山城だが、面白いのは本丸のさらに背後に稲荷丸という一段高い曲輪があること。今日でもこの曲輪にその名の通りの稲荷神社があるが、ここがこの城の一番の高台となっている。

左 二の丸から本丸を望む  中央 稲荷曲輪石垣  右 稲荷曲輪より望む市街
 

 本丸には二つの隅櫓が復元されている。元々出石城は天守のない城だったとのこと。小藩の城だけに規模は大きくなく、守備力的にもしれていると思われる。ただ背後の山頂に山名時代の「有子山城」が廃城とは言いつつも取り壊されないまま残っていたようで、いざ有事の際にはここに立て籠もることも想定していたのではないかと思われる。

 なおこの有子山城へと登る登城ルートは出石城のすぐ脇から出ているのだが、これが足下も不確かな尾根路である上にかなり険しいと聞いているので、とてもではないがこんな炎天下に攻略するべきものとは思えない、というかそもそもそんな体力はとてもないので今回は見送った。今後体力に自信がついたら、もっと涼しいシーズンにトライしたいと思っている。

  有子山城登山ルートは道とは言えない道

 こんな表示も見つけてしまいました・・・

 出石城の見学を終えると城下で「黒豆きな粉ソフト(300円)」を購入。なかなかに美味だが、暑さが尋常でないせいですぐに溶ける。暑さに追われるように車のところに戻ると、「みくら」で土産物を買い求めてから出石を後にした。

左 出石名物の時計台  中央 出石市街は観光地全開  右 黒豆きな粉ソフト

 次の目的地は円山川公苑美術館。豊岡の市街を抜けて円山川沿いを延々と北上することになる。それにしても灼け付くように暑い。エアコンを全開にしても全く車が冷えるような感じがしない。私のカローラ2は、当然ながら熱線カットガラスを使用しているような高級車ではないので、外からの直射日光がもろに車内を直撃しているようである。しかも今回は慌てて出てきたせいか装備に不備があった。この時期に不可欠のクーラーバッグを忘れてきたのである。おかげで車内で生ぬるくなった伊右衛門での水分補給を余儀なくされている。冷たい飲料を補充できないというのは非常にツライ。かなり消耗しつつ目的地に到着する。なおこの施設、以前に冬に来た時はいかにも閑散としており、典型的なハコモノ失敗事例となっていたが、夏場の今回はプールだけは賑わっているようである。

  円山川沿いを北上する


「安曇野スタイル−観光立県・長野の美術館9館名品展−」円山川公苑美術館で8/1まで

 

 北アルプスを擁する安曇野地区には個性豊かな中小美術館が散在しているが、それら9館のエッセンスを伝える展覧会。それぞれ個性の強い美術館だけに展示品は多彩。絵画を初めとして、彫刻、写真、漆塗り、さらには絵本から仮面までとバリエーションが極めて豊かである。

 この美術館自体が小規模の美術館なので、各館数点ずつといったまさに見本市のような内容であった。その中で印象に残ったのは成瀬正博のイラスト(週刊新潮表紙絵)と高橋節郎の漆パネルか。各美術館の展示物は必ずしも安曇野の風土と直結しているわけではないのだが、不思議なことに展示を一回りすると安曇野のイメージが鮮烈に脳裏に描かれた。いずれこの地域もじっくり訪問したいところである。


 これで今日の遠征の目的はほぼ終わり。ただ帰る前にもう一カ所立ち寄りたい。この近所では城崎温泉が有名だが、泉源集中管理の塩素消毒たっぷりで湯を殺してしまっている城崎温泉とは全く異なる、正真正銘の本物の温泉がこの近くにあるのだという。その温泉は円山川温泉。源泉を無加工でかけ流ししているのが一番の売りで、かけ流し原理主義者が多い温泉マニアを唸らせる実力があるとのことで、私も以前からいろいろと噂を耳にしている。そこで出石で一汗かいたし、ここまで来たのだからついでにこの温泉に立ち寄らない手はないと言うわけである。

 

 円山川温泉は城崎温泉から少し北の道路沿いにある。駐車場には既に車が数台停まっており、それなりの人気はあるようである。建物は古い旅館と言った趣だが、現在は日帰り入浴のみ受け付けているようである。

 500円の入浴券を買って入場。施設は内風呂と露天風呂のシンプルなものだが、白く濁った湯が非常に印象的である。源泉が43度とのことで非加熱でそのままかけ流しをしているらしく、内風呂に比して露天風呂はややぬるめになっている。湯を少しなめてみると強い塩味と苦みがする。泉質はカルシウム−ナトリウム塩化物泉とのことだが、湯からは当然ながら無粋な塩素の臭いなどせず、硫化水素臭が漂っている。何にしろ無色無味無臭(塩素臭はあり)無個性の城崎温泉などとは全く異なるかなり温泉らしい温泉である。

 驚くのは高濃度のナトリウム塩化物泉の場合、かなりねちゃ付く感じがして身体がベタベタするのが私は嫌いなのだが、ここの湯に関しては塩分濃度はかなり高いと思われるにもかかわらず、そのような不快感がなかったこと。湯の肌触りがサラッとしており、あの嫌なネタ付きが感じられなかった。それにやはりナトリウム塩化物泉にはありがちの肌を刺激する感覚(もし背中に擦れでもあるとそれは大変)もなく、非常に肌当たりが柔らかいのである。なるほど、これは温泉マニアが唸るはずと納得した次第。

 私は明らかに烏の行水派で、入浴はせいぜい2〜3分ということが多いのだが、ここでは内風呂と露天を交互に10分以上楽しんだ。露天はぬるめなので、長湯の好きな者はいつまでも浸かっていられるだろう。私も十分に温泉を堪能したのであった。ただ失敗したのは着替えの持参を忘れていたこと。汗で濡れて磯の香りがするTシャツを再び着る時が一番悲しかった。なお館内にはマッサージチェアもあるので円山川を見ながらゆっくりくつろぐのも可能。いずれは再訪したい。

 

 これで今回の遠征は終了。ご老体のカローラ2をなだめすかしつ家路を急いだのであった。そして家に帰り着いてから、あれだけ直射日光を浴びたのに肌がしっとりしているのに驚き。円山川温泉恐るべし。

 

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