展覧会遠征 香川編

 

  青春18切符のシーズンも、スルッと関西3日間切符の期間も終了してしまった。こうなると鉄道での遠征はシーズンオフになる。とは言っても美術館遠征がシーズンオフになるわけではない。これからは麻生内閣の人気取り行きあたりばったり政策である高速道路1000円を最大限有効活用することになる。

 さて目的地であるが、香川に行くことにした。目的は加山又造展である。加山又造は私が注目している画家の1人であり、今年の初冬に彼の展覧会が東京の国立新美術館で開催された際も、行きたいのはやまやまだが、これ一件だけのためだけにわざわざ東京まで出ることも叶わず、泣きの涙で諦めたという経緯がある。この加山又造展が香川に巡回することになったというのだから、行かないわけはないというわけである。

 ちなみに高速1000円の一番の恩恵を受けているのは四国だという。四国は関西圏から観光に適度な距離にあるにも関わらず、その橋の馬鹿高い通行料がネックとなって観光が奮わないという状況が続いた。今回その一番の障壁が取っ払われたことで、本来の観光ポテンシャルを発揮したということらしい。ただ一番混雑したのが香川のうどん屋というのが、政府の必死のアピールにもかかわらず一向に景気が浮上しない状況を反映してはいるのだが。

 

 ルートは岡山から瀬戸大橋経由。瀬戸大橋を四国側からは去年末に渡ったが、本州側から渡るのは初めてである。ここの道路はしまなみ海道と違って片側二車線あるので、低速車につかえて渋滞にならないのが一番良い。なお高速1000円になってからあちこちに出没しているという不可解な動きをする車(単に高速道路に乗るだけの技倆がないにもかかわらず、突然に高速デビューした下手くそドライバーなんだが)にも出くわした。追い越し車線をマイペースで悠々とクルージングする輩なんて定番ものは当然のように多発。一番ひどかったのは、追い越そうとした途端にいきなり車線変更をかけてきた輩(後ろを全く見ていない)。これにはさすがに殺されるかと思った。ただの週末でさえこの有様なんだから、GWの高速道路なんて考えるだに恐ろしい気がする。実際に事故多発で渋滞しまくりだったとのことだし。

 なんとか無事に目的地に到着した時には、見事に予定通り開館時間ジャスト。なかなかに順調な滑り出しである。

 


「加山又造展」高松市美術館で5/31まで

 

 現代日本画の代表的画家である加山又造の作品を初期から晩期に渡るまで展示した展覧会である。

 新しい日本画を模索する彼は、その過程において抽象絵画などあらゆる影響を受けており、初期の鹿などをモチーフにした作品群などでは、かなり抽象よりな表現になってきているのが現れている。しかし彼はやはり形態というものにこだわりがあるのか、結局は具象の世界を離れず、その後は琳派的な装飾的絵画に回帰してきている。その頃の作品は絢爛豪華かつ派手な上に、図案にオリジナリティーの高さがあるので非常に印象的な作品が多い。晩年になってくると装飾性より水墨画などの精神性が強く出るようになってきたようである。彼の水墨的作品は、情緒の深さ共にある種の凄みも持っている。

 本展では多彩な芸術展開した彼に合わせて、陶芸の絵付け作品や着物、さらには宝飾類まで展示されている。また作品にまでは至らなかったが、彼はCGにも興味を示していたとのことで、その実験的作品も紹介されている。かなり意欲的な人物だったことがうかがえる。

 非常に刺激的で興味深い展覧会であったが、ただ会場の都合か展示が前期・後期に分かれており、大型作品が多いこともあって展示点数が限られていたことが残念。図録を見る限りでは東京展ではもっと多数の作品が展示されていた模様で、やはり東京まで行くべきであったかと後悔することしきりである。

 


 展覧会を堪能したところで次の予定に繰り出すことにする。今日は香川遠征に合わせてもう一カ所の予約を入れている。それはイサム・ノグチ庭園美術館。ここは完全予約制なのでハードルが高く、今までなかなか訪問することができなかったのだが、今回は香川遠征に合わせてGW前にしっかり予約を入れておいた次第。ただ予約時間は13時からなので、それまでに別の予定をこなすことにする。

 ただその前に腹ごしらえである。ちょうど行きがけの途中にうどん屋があるのでそこに立ち寄ることにする。立ち寄ったの「うどん本陣山田屋」。結構有名な店らしいので、もし混雑しているようならやめとこうと思ったのだが(私には行列してまでうどんを食べるなどと言う価値観はない)、大きな駐車場には車は結構停まっていたが、まだまだ空きがあるような状況だったので入店を決める。和風の巨大な店内には客は既に結構入っており、椅子席は満席とのことだが、座敷席は空きが多くあったようなのでさっさとそっちに案内して貰う。

 まず注文したのは「釜ぶっかけ(黄卵入り)」(600円)。メニューを見ると「商標登録」と書いてあるところを見ると、ここの看板なんだろうと思っての選択である。で、注文している間にカメラのスタンバイと思って調べてみると、なんと「CFが入っていません」とのこと。やばい、PCにデータを移す時に抜いてそのままだった。慌てて以前に使用していたマイクロドライブを探してカバンをひっくり返してゴソゴソ。ようやく見つけ出してホッとしたところで注文品が到着する。

 出汁をサクッとかけて一口。うどんの口当たりが柔らかくて、それでいて腰があるという典型的な讃岐うどん。よく「腰があるうどん」と「単に硬いだけのうどん」を誤解している者がいるが、こういう口当たりは柔らかくて、それでいてかみ切る時に軽い抵抗があるようなうどんこそが、本当の「腰があるうどん」である。なるほどこれは評判になるのも頷ける。有名店と言われるところはとにかく評判倒れの店が多いが、ここは実力も伴っているようだ。玉子を加えたり、薬味を入れてみたりといろいろと変化をつけて楽しんでみているうちに、あっという間に完食。ちなみに一番私の好みに合ったのは、玉子+ネギであった。ショウガやワサビやおろしのような薬味だと強すぎるように感じられた。

 まだちょっと腹に余裕があるので、さらに「上天ぷらうどん(800円)」を追加注文。これはかけうどんになった途端に急に麺の腰がなくなるようなうどん屋もあるので、それをチェックするという意味もある。

 ほどなく天ぷらうどんが到着。麺の腰はキチンとあり、やはり麺の質がなかなか良いようだ。ただかけうどんにしたことで、私が讃岐うどんに共通の弱点と思われている部分はやはり浮上した。それは出汁の弱さ。一番の人気メニューが生醤油うどんと言われている香川では、うどんと言えば手打ちの腰の強い麺をそのまま楽しむという文化が強いせいで、得てしてかけうどんの出汁は軽視されて間に合わせに近い場合が多い。ここにしてもやはりかけうどんの出汁は形通りという印象で、この点については大阪の出汁文化にはかなわないということは感じた。やはりこの店では看板の「釜ぶっかけ」を食べている方が無難なんだろう。

 それにしてもうどんというメニューのために、客の回転率が異常に高いことを感じた。料理が出されるのが早いためもあってか、次々と客が入れ替わっていく。コーヒー一杯で延々と粘られる喫茶店などとは対極である。これだけ回転率が高いと待ち時間も少なくなるし、客単価は若干低めでも十分に商売として成り立ちそうである。21世紀のビジネスモデルはうどん店タイプか(笑)。

 

 うどんを腹にたたき込んだ後は、近くの八栗寺を訪問するためにケーブルカーの駅まで移動。というか、実はここに向かう途中でうどん屋を見つけたという方が本当のところなんだが。

 

八栗ケーブルの駅とケーブルカー

 八栗寺は四国第八十五番の霊場とのことで、回りを見回すといわゆるお遍路さんがゴロゴロしている。こういう山間の寺院には参拝客用にケーブルカーが敷設される例が多いが(先週の鞍馬寺がまさにその例)、ここもそのパターンである。小型のケーブルカーが15分おきに運行されており、4分ほどで山上駅とを結んでいる。

 私が乗車した時は、最悪な事に団体客と出くわしてしまい、ケーブルカー内部はすし詰めのギュウギュウ状態(姿勢さえ変えられないような状態)。観光地で出くわすと最悪の相手は団体客というが、まさくしそれを実感。別に彼らに罪があるわけではないが、人数が多いというそのことだけで、巻き込まれた個人客にとってはとんだ災難になってしまうのである。

 山上駅では大量の乗客が一斉に降車するとそのまま八栗寺に向かって移動。私もその流れに乗ってついて行く。八栗寺は五剣山というとんでもなく険しい岩山(どことなく日本離れをしている)の中腹にあるような形で、ちょうど五剣山が光背になっていて威厳を増しているようなところがある。ただ寺院自体はそれなりに標高の高い位置にあるにもかかわらず、眺望は皆無である。寺院自体にはほとんど興味がない私(寺院よりも、その背景や歴史的経緯、地政学的な位置づけの方が興味がある)は、手早く参拝をすませるとそのまま引き返す。ちなみにここからは参道筋を通って麓に降りるルートもあるので、本来はケーブルは上りだけを使って、下りは歩いてというのが正解のようだ。私はそこまで考えが及ばなかったので、往復券を買ってしまっていた。まあここを訪れた目的の半分以上はケーブルカーの方みたいなものだから、それでも良いが・・・。

  五剣山と八栗寺

 帰りのケーブルは団体客もいないのでゆったりと風景を楽しみながら降りてくる。麓まで降りた後は、近くの次の施設に車で移動。

 


石の民俗資料館

 香川の牟礼町や庵治町は昔から良質の石材の供給地(五剣山を見ただけで想像がつくが)として、石材業が発達してきている。その石材業の歴史を太古の石器時代から近代に至るまで展示解説している。

 石の切り出し、運搬の模様

 なお特別展として「竹内守善切り絵版画の世界展」というものが開催されていた。竹内守善氏は香川県のデザイン室に勤務しながら、切り絵版画家として活躍。彼の作品は香川県の広報誌などを飾ってきたらしい。なかなかに味のある作品で、ご当地版画としてはなかなか高水準。いずれは香川だけでなく全国でも活躍してもらいたいところ。

 


 なお石の民俗資料館と言うだけあって、岩石標本なども展示されていたが、ゾイサイトとクンツァイトとネフライトが並べて展示されていたのは、この施設に誰か美少女戦士のファンでもいるのか?(カオリナイトもあったな) しかしここでも無視されているJ.ダイトー君が気の毒・・・私が何を言っているのか全く意味が分からない人は気にしないで下さい。ただの与太話です。

 さてそろそろ約束の時間が近づいてきたので、イサム・ノグチ庭園美術館を目指すことにする。しかしこれが路地の奥にある難解な場所で、地図を見ながらでもよく分からない位置。本当にこっちで大丈夫なのかと不安を感じつつウロウロしているうちに、ようやく時間ギリギリに目的地へ到着する。

 見学は1時間のツアー形式で、案内員が随行しての団体行動になる。見学地は彼が日本での工房として使用していたという石垣で囲まれた「円」と呼ばれる地域と、彼が使用していた住居及び彼の設計による庭園。

 工房の方は未完成の石材がゴロゴロしており、なんとも象徴的かつ怪しい雰囲気も。土蔵を移築したという工房はいかにもこういう地域の風土に合っている。また奥には後で増設したという展示館もあり、ここでは完成作を数点展示してある。なお域内は撮影禁止であるので、雰囲気を知りたい人は公式HPにアクセスされたし。

 美術館内は完全撮影禁止なので、近くの公園にあるノグチ設計の遊具を

 住居の方もやはり古い日本家屋を移築したらしいが、和式の建築はアメリカ人であるイサム・ノグチには暮らしにくいので、畳の床を椅子のような形式に変えて暮らしいやすいようにアレンジしている。ちなみに住居自身は県指定の重要文化財と言うことで中には入れないので、外から見学することになる。なお庭園の方はかなり大規模なのもので、自然の地形を活かしつつ、土盛りなどによってアレンジしているらしい。巨石がゴロゴロしているのはいかにも彼好みなのだろう。

 私は近代彫刻にはほとんど興味ないし、イサム・ノグチの作品にもさして感銘を受けるわけではないが、話のネタというわけではないがこの美術館は一度訪問しても損はないと思う。彼が目指していた芸術というものがどういうものか、何となく分かるような気はするので(それに共感するかどうかは別だが)。

 

 次は近くのストンミュージアムに立ち寄る。ここは笑えるものからイサム・ノグチもどきまでいろいろな石の作品や、天然水晶などが展示されている意味不明の施設。物販部が充実していたようだから、多分本来の目的はこっちだろう。

 さてこのまま帰っても良いのだが、まだ時間に余裕があるので、香川南部の塩江温泉に向かうことにする。ここには町村合併で今は高松市美術館の分館という形になった塩江美術館がある。今まで場所が場所だけに立ち寄ったことがなかったが、今回は車で来ているのだからこの機会に立ち寄っておこうという考え。

 カーナビの指示に従ってひたすら高松から南下。しかし山が近づいて来るにつれて様子がおかしくなってくる。やがて道は山道となり、道幅が狭くなり、ついにはセンターラインが消えた。カーナビとラップというやつである。どうもとんでもない山道に誘導されてしまったようだ。気がつけば車一台分の幅しかない山道。引き返そうにもUターンできる場所自体がない。こうなったら対向車が来ないことを祈りつつ、行けるところまで突っ走るしか仕方ない。ただ最近私の車が少々不調である(どうもエンジン音が奇妙)であることを考えると、万一こんなところでトラブったら終わりだなということも頭をよぎる。

 とんでもない山道を突っ走る

 幸いにも対向車に出くわすこともなく(わざわざこんな山道、好きこのんで走るものはいないんだろう)、私の車もトラブルを起こすこともなく、何とか深い山間を突破することに成功。無事に塩江温泉に到着した。

 


高松市塩江美術館

 

     建物の形が複雑なので、写真では形態を把握しにくいと思います

 私の訪問時はコレクション展を開催中。地元出身の作家の作品であるが、いわゆる現代アート系で私の感性に訴えかけてくる作品は全くなかった。

 常設では地元出身の洋画家である熊野俊一の作品が中心である。彼は戦前には暗い色彩での作品が多かったが、戦後に渡欧して突然に明るい色彩の絵画に目覚めたという日本の画家に非常に良くある経過を通った画家。あまりに極端な色彩の変貌に笑えるのであるが、作品自体は絵の具を塗りたくっているタイプで私の好みの外。

 


 塩江温泉まで来たのだから、ここで温泉に入って帰らない手はない。道の駅の近くにある日帰り施設の「行基の湯」に立ち寄る。しかししくじったことに何と今回はいつものお風呂セットを持参することを忘れていた。やむなくタオルとバスタオルを現地購入。おかげで高くついてしまった。

 施設は良い感じですが、肝心のお湯の方が・・・。

 塩江温泉の泉質自体は硫黄泉と聞いているのだが、ここの湯は無色無味無臭で浴感はさら湯との違いがほとんど分からない。また浴場に入った途端にやや強い塩素臭が漂うのには閉口。施設自体は内湯+外湯+サウナと一渡り揃っており、入湯料自体も安価であるのだが、肝心の泉質に魅力を全く感じなかった。残念ながら、わざわざ山の中を突っ走って来るだけの魅力はなし。今回は美術館のついでだから立ち寄ったが、そうでないと来る必要はないと判断せざるを得なかった。

 後はそばを一杯と売店でソフトクリームを食べて(これはうまかった)、さらにみやげとして餡餅を購入(これもうまかった)。今度は山道ではなくて国道を通って帰路についたのであった。

 

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