展覧会遠征 大三島編

 

 支持率低迷にあえぐ麻生内閣は、人気取りのために先のことを全く考えないバラマキに邁進しているが、その一環として「天下の愚策」である定額給付金と並んで導入されたのが高速道路1000円政策である。定額給付金が公明党の選挙資金のためだとしたら、こちらは民主党の「高速道路無料化」に対抗するためと、いかにも場当たり的政策なのが露骨である(そもそも京都議定書の達成が危ういというのに、車を増やす政策をとってどうするんだ)。とは言うものの、導入された以上は利用するべきである。どうせここで財政に大穴が開いた分は、泣いても笑っても後に消費税大増税で回収されるのは見えている。となれば今のうちにメリットは回収しておく必要がある。また筋金入りの愛国者である私としては、身銭を切っても少しは地方経済の活性化に貢献しておいてやろうというものでもある。

 

 さて今回の目的地であるが、今まで橋の通行料の高さがネックになって訪問していなかった地域がターゲットに上がった。しまなみ海道途中の大三島である。しまなみ海道自身は去年末の広島−愛媛遠征で通っているが、大三島に関しては時間の都合と途中下車すると橋の通行料がさらに高くなってしまうということから、通過しただけになっていたのである。

 まずは尾道まで久しぶりの高速走行。ただ前回の遠征時に公営暴力団にいいがかりをつけられて大金を巻き上げられただけに、今回はつまらない言いがかりをつけられないように細心の注意をしての運転となる。おかけで運転で神経疲れしてしまった。

 朝、寝過ごしたせいで出るのが遅くなったこともあり、大三島に到着したのは予定よりも1時間遅れ。大三島に到着するとまずは大三島美術館へ。しかし現地に到着すると駐車場は満員だし、美術館は人が一杯で全く入場できないわでとんでもない状態。この美術館はまともなHPがないので情報を全く把握していなかったのだが、どうやら今日が大型企画の初日だとかで、オープニングセレモニーがあったりなどでバタバタしているようだ。私はこの手の式典には全く興味がないので、とりあえずは次の目的地の方を先に回ることにする。山道を突っ走って島のかなり突端部までやってくる。


ところミュージアム

 デッキからは海が見える

 現代彫刻などを展示した美術館。ただ作品の方は、この分野には全く興味のない私にはよく知らない作家ばかり。また作品自体も「どこかで見たことがあるようなパターン」のものが多い。

 ただこの美術館で特筆すべきは美術館自身。海沿いの斜面にへばりつくように建設された美術館の本体は、明るいオープンスペースになっていて海が見えるようになっている。この風景が絶品で、こういうロケーションに配置すると、現代彫刻の作品も映える。


 島の突端部まで行ってから再び折り返してくる。するとセレモニーが一段落ついたのか、ようやく大三島美術館が入場可能な状態になっていた。

 


「智積院講堂襖絵完成記念 田渕俊夫展」大三島美術館で5/10まで

  裏手の桜が美しい

 真言宗智山派の総本山・智積院の講堂に田淵俊夫画伯の襖絵が収められることになったとのことで、その襖絵を全国に先駆けて画伯ゆかりのこの土地で公開することになったらしい。

 襖絵は収められる5つの部屋に合わせて、四季・朝夕をテーマにした水墨画なのであるが、部屋ごとのバリエーションが非常に面白い。また「墨は五彩」などと言うが、確かにそのことを実感できる。白黒の世界のはずなのに、例えば桜をテーマにした作品だと、桜色が透けて見えてくるのである。これは驚き。


 ちなみに今日は初日ということもあり、画伯自らによるギャラリートークとサイン会が開催された。ギャラートークでは「実はここに描いた風景自体には創作が多く、また枝などは同じパターンを繰り返して描いているところがある。」などとかなり赤裸々な話もあり、日本画の特徴を知る上でも非常に興味深かった。

 なお初日と言うこともあって、取材のための職業カメラマンも多数来場していて、本来は撮影禁止の館内でバシャバシャと撮影をしていた(朝日新聞、読売新聞、地元ケーブルテレビ局が来ていたようだ)。ただ彼らが使用していた機材を見ると、確かに中身はともかく見た目は私のカメラと大差ないように見えてしまう。なるほど、私が遠征先でとかく職業カメラマンと間違われることが多いのもさりなん(しかも動きやすいようにいかにもラフな服装もしているし)。次からは「報道」と書いた腕章でもしといてやろうか(笑)。

 大三島美術館のイベントのおかげで当初の予定はこの時点でガタガタ(本来はもう既に島を出ているはずだった)。ただ貴重な体験もできたのでついていたと考えることにしよう。この時点でこの後の予定の大部分を切り捨てて、大幅に組み替えることにする。分刻みの厳格なスケジュールに従って動く鉄道での遠征と違って、車による遠征はこのような臨機応変が必要であり、自ずと遠征の性格が変わってくる。

 

 急遽大三島での滞在時間を増やすことにしたので、まずは昼食を摂ることにする。近くでみかけた「せとうち茶屋」なる飲食店に入る。注文したのは「つる姫御膳(1890円)」

完全に観光地型レストランだが、出てきた御膳自体は豪華な雰囲気

 この手の観光地レストランによくあるタイプの懐石風御膳。料理が並んだ時の豪華さはある。一品一品に関しては取り立てて特徴はないものの、一応はすべての料理が合格点。驚きや感動は特にないが、「金返せ」と叫びたくなるようなひどいものは全くない。要するに「普通に美味しい」のである。観光地レストランとして考えるとCPは悪くはないのだろう。さらについでに「あさりラーメン(750円)」を追加注文。

 一面あさりだが、味は意外に普通

 一面のあさりに驚くが、いざ食べてみるとあまりに普通の醤油ラーメンなのが拍子抜け。醤油ラーメンの上に後からあさりを盛った様子で、スープの方にあさりを煮込んだような味は出ていない。と言うわけでこのラーメンについては、まずはアサリをすべて殻からはずしてしまい、麺と混ぜた上でアサリの身を麺と一緒に食べるという食べ方が正解。

 

 食事の後はとりあえず大三島を車で一周。途中で山道の細いところなどもあったが、概ね道路は整備されているようだ。途中には風光明媚なところも結構あり、観光地としてのポテンシャルは高い。小さな島にもかかわらず結構高い山があるので、山と海を組み合わせた最強の風景になるのである。

 またこの辺りの島嶼地域はかつては村上水軍が活躍した地であるが、今日では水軍よろしく多くのフェリー路線が運行されている。ただ今回の行き当たりばったりの高速料金値下げで全国のフェリー会社は大ダメージを受けているという(地方鉄道も同様のダメージが懸念されている)。私としても今回の遠征でフェリーを組み合わせたかったのだが、これは時間の都合で割愛せざるを得なかったのが残念である。実のところこれだけの風景は海からも眺めたかった。

 島を一周した後は多々羅温泉を訪ねる。施設は比較的新しくそれなりに人気はある模様。施設はサウナはあるものの、内風呂だけというかなりシンプルなもので、内風呂が泡風呂になっている。施設はシンプルだが、利用料が300円と安価なのがうれしいところで、かなりの地元民も訪れているようである。

 泉質は含弱放射能のカリウム−ナトリウム塩化物泉とのことで、要は放射線付きの塩水。加温循環、塩素殺菌有りである。以前より沿岸部のナトリウム塩化物泉なんて海水が断層に沿って染み込んだだけなのではと思っているのだが、ここの温泉もどうも海水に近いにおいがする。ちなみに大三島にはそのものズバリの海水風呂施設もある。

 ナトリウム塩化物泉なのでいわゆる「温まる湯」。ただそれ以前に、ここの内風呂はやや温度設定が高いようだ。そう言う点で、さっぱり浸かってさっぱり温まる風呂のようである。いゆわる濃厚な温泉っぽさはないが、島観光のついでに立ち寄るには最適。

 温泉の後は多々羅大橋を望む展望台を訪問。ここからの斜張橋の姿はなかなかに絵になる。ついでに近くの村上三島記念館を見学。書道家の村上三島の作品を収めた美術館だが、書は基本的に私の専門外。ただいろいろな書体の作品が並んでおり、それはそれなりには面白かった。

 これで大三島での予定は終了である。後はしまなみ海道を渡って尾道まで移動する。実は今回の遠征の最大の目的は尾道市立美術館だったというのが本当のところ。ただし尾道美術館のある千光寺公園は桜の名所だとかで花見客で一杯。おかげで山頂の駐車場には車が停められず、下の臨時駐車場から登っていく羽目に。以前からここの美術館は駐車場が公園の駐車場であるために駐車料金が高くつくというのが最大の難点。かといって鉄道利用だと山を登る羽目になるしと、とにかくアクセスが悪いのが問題点である。

 千光寺公園は桜の名所


「栄光のルネサンスから華麗なロココ」尾道市立美術館で5/6まで

 

 キリスト教の無知と迷信に支配された中世暗黒時代を脱して、ヨーロッパの芸術は人間重視のルネサンスから開花するのであるが、そのルネサンスから18世紀のロココに至るヨーロッパ黄金時代を代表する絵画を展示したのが本展。展示作は個人所蔵の作品が多い。

 一般的な知名度の低い画家の作品も多いが、中にはティントレット、ルーベンス、レンブラントやベラスケスなどかなり有名な画家の作品もある。中でもエル・グレコの作品は要注目。個人的にはムリーリョの作品が展示されていたのが一番の収穫。

 一般的にはヨーロッパ絵画は印象派以降の近代絵画が人気があるようだが、そのベースとなった近世の流れは、ヨーロッパ芸術の基礎を把握する意味で非常に重要である。本展ではその流れの代表的な傾向をつかむことができるので、ヨーロッパ芸術の入門用としても非常に有効だが、上級者にとっても十分に楽しめる作品が揃っている。


 主目的を終えた頃には既に夕方へとなっていた。後は公営暴力団に気を付けながら帰宅の途についたのであった。

 花見シーズンであったのと高速道路料金値下げの影響か、大三島は結構観光客が来ていたし、山陽自動車道もいつになく通行車両が多かった。そのために渋滞までは行っていないが、車両の走行速度が若干遅くなっている。しかしそれよりも参ったのが、非常識な運転をする車が増えていること。入口からの合流で車の流れを見ずに強引に割り込んできた車に衝突されそうになって慌てる局面も。どうも高速道路での運転経験がほとんどないド下手ドライバーまで上がってきているようだ。高速道路の料金を下げるにしても、変な下げ方をすると高速道路が高速道路として機能しなくなるという懸念していた事態が現実になってきつつあるようである。

 

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