展覧会遠征 備前編

 

 今月初めに風邪で倒れて寝込んでからどうにも体調が悪い。最近の週末は寝込んでいることが多かったのだが、こんな調子だとだんだんと気が滅入ってくる。ようやく身体も楽になってきたので、この週末は久々に遠征に出ることにした。体調にあまり自信がないので、体力を消耗する鉄道ではなくて車での遠征にする。

 今回の目的地は手近なところで備前地域。実のところは日生で牡蠣を仕入れるのが最大の目的。やはり疲れた時には牡蠣ドーピングに限るというのが私の経験則だから。そのついでにこの地域の美術館などに立ち寄ろうという計画である。

 

 まずは赤穂に立ち寄る。ここに立ち寄ったのは現在再整備中の赤穂城を見学しておくため。赤穂城も以前は田んぼしかなかったのだが、最近は赤穂市が整備に力を入れており、門の再建や本丸や二の丸の整備などが進んでいる。

 

大手門と櫓は以前からあるが、堀が修復されている

 赤穂城は忠臣蔵で有名な浅野氏の居城であるが、浅野家の家格から考えると規模の大きすぎる城だったと言われている。実際、二重の堀や石垣土塁に囲まれた城域はかなり広大で、また結局は天守は建造されることはなかったが、そのための立派な天守台も備えている。なお本丸には本丸御殿の規模を示すための平面再建がなされており、往時の姿を想像することができるようになっている。

 

天守台と平面復元された本丸御殿

 また本丸門や厩口門なども再現されていてこれはなかなかの見所である。特に本丸門は高麗門と櫓門で枡形をなしており、これはなかなかに壮観。ちなみに大手門と櫓もこれより以前に再建されているが、本来は現在の門の奥にさらに櫓門があるのが正しい姿のはずである。

 

復元された本丸門と厩口門

 かなり力を入れた復元事業であり、赤穂市がこれを観光の起爆剤にしようとしていることがうかがえた。現在は新快速が播州赤穂まで運行されているし、付近の日生が牡蠣を起爆剤にしてこの時期に観光客を集めていることを考えると、赤穂市も観光で町おこしをしていくことも可能であろう。なお予算に余裕ができれば、本丸御殿の立体復元にも取り組んでもらいたいところだが、するにしてもかなり先の話になろう。

 赤穂城の見学を済ませた後は日生に移動、とりあえず牡蠣の購入のために五味の市を目指すが、現地に到着すると唖然。異常な車の量である。以前にここに来た時には朝一番だったせいか車はそんなに多くなかったのだが、今回は昼頃の上に明日は牡蠣祭りだというシーズン真っ最中のせいか、異常な車の量で車を停めるところがない。結局は誘導に従ってかなり離れた場所に駐車させられる。

 五味の市内部は観光客がごった返している。牡蠣を買おうとウロウロしていると、ある店が店じまい前なのか2000円のかごと1000円のかごの2つ分で2000円と言っているのでそれを購入する。かなりの量の牡蠣で(70〜80個ぐらいはあるだろうか)、それをエッチラオッチラと遠くの車まで運ぶ。帰宅するとこれを焼きガキにするつもりである。

 さて牡蠣を購入したところでいよいよ美術館巡りの方を開始することにする。まずはこの日生の美術館から。

 


BIZEN中南米美術館

 以前に一度だけ訪問したことのあるマヤ・アステカなどの南米文明の遺品を展示している美術館である。今回は「クフルアハウの残輝 / エピソード2(百花繚乱)」と銘打った展覧会を実施中である。

 一般に南米の文明と言えば、日本人にはマチュピチュやナスカの地上絵しかイメージされていない。しかしそれ以外にもこの地域では多数の文明が勃興し、多くの遺跡も残っているという。本展ではその中で紀元3世紀〜10世紀に花開いたマヤの都市文明について紹介している。

 この地域特有の文明のクセというか素朴な共通点はあるものの、その形態描写の特徴などが各地域によって微妙に違っていたりするのが面白くはある。なかなかに興味の尽きない地域であるようだ。

 


 美術館の見学を済ませたところで日生を後にする。次の目的地は国道250号線をしばらく西に走ったところ。かなり急な斜面を登った先にある。

 


藤原啓記念館

 人間国宝・藤原啓の作品及び彼が収集した古備前などを展示した美術館。

 藤原啓の作品については、形態などに独創性を感じさせるものが多々あったが、基本的には素朴な古備前の伝統を引き継いでいるような印象を受ける。ただ焼き物に関しては全くの素人である私には、どうにも古備前は単なる日用道具のように見えてしまって今一つありがたみが感じられないのが本音。

 収集品については古備前だけでなく織部なども含まれており、どちらかというとこちらの方が私好み。

 


 さらに国道250号線を西に走るともう一軒陶芸関係の美術館がある。やはりこの備前の地は陶芸の里である。

 


岡山県備前陶芸美術館

 古備前から現代の作品に至るまで、備前焼のあらゆる作品を収蔵した美術館である。

 収蔵品は多種多彩であるが、先ほども言ったように古備前はどうも私には渋すぎるというのが本音。そのような私のようなド素人を意識したのかしないのかは分からないが、最近の作品では渋い土色のものだけでなく、派手に着色したものも登場しているようであり、このような作品は情緒的な深みはともかくとして、見ていて面白いのは事実。また陶芸と言うよりも彫刻として楽しめそうなぐらいに細工の細かい作品など、個性豊かで意外に退屈しなかった。

 


 さてもう既に昼時をかなり過ぎていて腹も減っている。実は今日の昼食は日生でカキオコでも食べようかと思っていたのが、日生のあの混雑ぶりを見ていると、とてもそんな状態ではないと諦めざるを得なかったのである。それに牡蠣は十二分に買い込んだことだし、あえてカキオコを食べる必要もないかと考えた次第。とりあえず昼食を摂る店をと思ったが、特に当てもないし面倒なので目の前に見えた伊部駅に隣接している「新日本料理四季彩」という店にはいる。

 注文したのは「四季彩御膳(1200円)」。どうやら季節でメニュー内容が変わる雰囲気だが、今のシーズンだと牡蠣が含まれるメニューになる。

 正直なところ、駅の中のレストランと言うことで全く何の期待もしていなかったのであるが、出された御膳を見てみると一渡りの料理が含まれており見た目はなかなか豪華。そして味の方もまともというか美味しい。特別なものは感じないが、材料が地物であることが有利に働いているのだろうか。

 ただ難儀したのはやはり喫煙者。目の前の座敷の客が、わざわざ廊下に出てきてタバコを吸っているのには閉口。どうやらかわいい孫にはタバコの煙を吸わせるわけにはいかないが、見ず知らずの他人にはいくら煙を吹きかけても平気なようだ。これだから喫煙者の良識なんて・・・。

 

 目的地も回って昼食も済ませたところで、後はオプショナルツアーである。まずはこの近くにあるらしい温泉地を目指す。

 目指すは大中山温泉。道路脇に看板が立っているので場所はすぐに分かったが、事前情報である程度予想はしていたとはいえ、その風景には唖然とする。温泉地と言うよりは工事現場か採石場といった雰囲気である。正直なところ、そこらで仮面ライダーとショッカーが大立ち回りをしていそうな雰囲気。そこに古びたコンテナが並べてあって、それがショッカーの秘密基地ならぬ温泉である。前まで来た家族連れが、その外観に驚いて慌てて逃げ帰ったというエピソードも頷けるところである。

 

本体はコンテナ。周囲はまるで採石場。怪しさ全開。

 内部も古びているのはともかくとして、清潔感が感じられないのが大きなマイナス。脱衣所は鍵のほとんどない古びたロッカーがあるだけという施設。かなりB級ムードが漂っていて、マニアは喜びそうだが一般ウケは間違いなくしない。くみ取り式のトイレなんて、今時の子供ならショックでうなされるのと違うだろうか。

 浴槽はコンテナを利用した内湯のみ。ここに冷たい源泉と加熱した源泉が直接に注ぎ込まれているという正真正銘のかけ流しのようである。当然ながら無粋な塩素の臭いなどせず、肌当たりの非常に柔らかい湯である。単純放射能泉と聞いていたのだが、お湯は無味無臭だがわずかにぬめりがある。確かにお湯は良い。

 温泉マニアは泣いて喜びそうなのだが、スーパー銭湯みたいなのが温泉だと思っている者は手前で引き返すのが正解だろう。客層としてはやはり地元の高齢者が多いようで、じっくりと湯治としゃれ込んでいるようである。後はたまにマニアや私のような野次馬がやってくるぐらいの模様。とにかくかなり客を選びそうである。

 ここまで来たついでに温泉のはしごとしゃれ込む。実はこの付近に和気鵜飼谷温泉というスーパー銭湯施設がある・・・が、私はそんなところには興味がない。次の目的地はそこをさらに北に移動した龍徳温泉である。

 川沿いに北上すると途中で看板が出ている。そこで右折するのだが、そこからの路面は舗装しているとはいえ、その舗装はデコボコで車高の低い車なら床をこするのではというような悪路面。そこをしばらく登ると狸の焼き物などが並んだいかにもハンドメイドっぽい施設が見えてくる。

 

 浴槽は露天風呂が1つ。また家族風呂やベット風呂などの施設もあるという。アルカリ泉と聞いているが、そうヌルヌル感はない。なめてみると若干の苦みがあるお湯。湯は脇から常にダバダバと注ぎ込まれている状態。虫が浮いていたりするのは山の中の露天風呂なのでご愛敬。

 ハンドメイド臭が漂っており、今一つ垢抜けしない感のある施設であるが、大中山温泉と違って清潔感はあるので、その分はより一般向けと言えよう。なおここで販売されていた桜餅をみやげに購入したのだが、これもなかなか美味だった。

 現在は温泉ブームと言って良いほど各地で温泉施設が増えているが、その風情をぶち壊す最大のものは強烈な塩素臭である。中にはプールの洗体槽並に塩素が強くて、身体がピリピリしたりタオルが脱色するなんてとんでもない例もある。しかし「病気にならない水質」を維持するのは実は結構大変である。塩素に頼らずにとなると、塩素よりも施設費がかかるオゾン殺菌装置を導入するか、毎日浴槽を清掃した上で後は源泉をダバダバと注ぎ込むいわゆるかけ流しにするしかないが、後者は手間がかかる上にかなりの源泉量を必要とするので、どこでも可能というわけではない。またこうして水質を維持していても子供などがわんさかとやってくると、一気に水質が悪化してしまう恐れがあり、そんなことを考えると保険代わりに塩素を使うところも増えてきてしまう。

 いろいろな意味で温泉の大敵は子供である。「銭湯を知らずに僕らは生まれた。銭湯を知らずに僕らは育った。」という「銭湯を知らない子供たち(最近は大人にもいるが)」のマナーは絶望的である。身体を洗わずにそのまま浴槽に飛びこむ、タオルを浴槽につけて絞る、果ては中で小便をする。こういう団体が来てしまうともう水質はとんでもないことになってしまうのである。となると、マニアが喜ぶ源泉かけ流しなどを実現しようとすると、必然的に子供やマナーの悪い大人を閉め出す必要があるわけで、そうすると以前に訪問した竹庭のように子供お断りにするか、最初から家族連れなどが寄りつかないような怪しげな施設にならざるを得なくなるわけである。

 さてこれで今回の予定は終了。後は高速で帰宅するだけ・・・だったのだが、この途中で思わぬトラブルに出くわしてしまった。順調に高速を走行中、路上にガラの悪い車を見かけたので、かかわらぬ方が良いと思ってやり過ごそうとした途端に、いきなり赤い回転燈が出てきて車を停められる羽目になってしまったのである。ヤクザに因縁をつけられたといっても相手は私立ではなくて公立の方だったという次第。

 結局は24キロオーバーとやらで、ドライバー特別税1万5千円を徴収される羽目になったというお粗末。以前から、速度取り締まりに引っかかると「運が悪かったな」という印象しか残らないと聞いていたが、この時の私も確かにその印象しか残らなかった。大体、自分自身では特に危険なスピードを出していた気はないし(他に車があまりいない見通しの良い直線部分だった)、他の車とさして違わない速度で走っていたつもりだったので。そもそも自分で危ないスピードが出ているとそんなことは分かるし、私は高速で命を張るほど無鉄砲でもない。高速道路上では明らかに160キロ以上は出ていると思われる車もよく見かけるだけに、確かに「なんでわざわざ私が」という気持ちが起こるのは本音。警察は一番危険なドライバーは放置して、普通のドライバーの摘発ばかりに精を出しているという批判も何となくうなずけてしまった。

 私はゴールド免許ドライバーだったので、これから3ヶ月不運に遭わなければ点数(2点である)の方は消えるそうだが、違反を起こしたという事実自体は消えない。まあ今後はもっと用心することにしよう。

 

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