展覧会遠征 伊丹・千里編

 

 さて、先々週は四国周回の大型遠征を実行したわけであるが、そうなると次はやはり近場の制圧戦ということになるのが自然の流れである。今週は大阪周辺の展覧会を血道に攻略することになった。

 

 まずは伊丹市立美術館より。この美術館は私には馴染みのある方になるが、かなり久しぶりの訪問のような気がする。また鉄道での訪問となると数年ぶりか。

 JR伊丹駅で下車すると、美術館までは徒歩で10分程度。ちなみに駅前には有岡城跡を示す看板がある。有岡城は以前にこの地域にあった城で、織田信長に仕えた荒木村重が築いた城である。しかし荒木村重の謀反によって織田軍に攻められ落城、その後池田氏が城主となったが転封によって廃城となったという。現在では鉄道の敷設によって城郭が完全に削られてしまい、わずかに石垣や土塁が残るのみとなっている。今は国の史跡となっており、発掘調査なども進んでいるとか。

 

有岡城跡はほとんど何も残っていない

 駅前商店街は多分元をたどればかつての城下町なのだろうが、それを意識してだろうと思われる再開発がなされているようだ。伊丹市立美術館も古い酒蔵(重要文化財)と隣接しているが、そのような古い施設も活かしての観光地域を作ろうともくろんでいるようである。

 なお伊丹市は兵庫県と大阪府の県境に隣接しており、大阪空港があるせいか、大阪府と間違われることが多いようである。実際に私が知っている某メジャーな美術館紹介ページでも、伊丹市立美術館が大阪府の美術館として分類されていたりする。しかし実際の伊丹市は兵庫県である。まず第一にそのあたりのPRから必要になりそうである。


「世田谷美術館所蔵作品による向井潤吉展」伊丹市立美術館で11/24まで

 

 日本の原風景を描き続けた風景画家・向井潤吉の展覧会。世田谷美術館が所蔵する作品を展示している。

 西洋の画法である油彩では日本の風景を描くことはできないという考えがある。佐伯祐三は日本に帰国した後、自分が描くべき風景がないことに悩み、結局はパリに戻ってそこで生涯を終えた。また児島虎次郎が油彩で奈良公園を描いた作品を見たことがあるが、それは奈良ではなくヨーロッパの公園の風景になってしまっているのを感じたこともある。確かに冬山のモノトーンの風景などは油彩よりも水墨画の方が最適だったりする。

 しかしながら実は油彩で日本の風景を描くことができないわけではないということは、向井潤吉の作品を見るとよく分かる。彼の作品はいかにも油彩らしい明瞭な色彩によって描かれているが、そこに描かれている風景は日本の懐かしき集落の風景以外の何物でもなく、その空間に漂う空気さえも描ききっているのである。

 彼は徹底して写生にこだわった画家だと言うが、彼の創作の基本となっているのはその精緻な写実力である。彼の後の作品の片鱗は渡欧しての修業時代の模写から既に現れている。往々にして近代の画家の模写は、何を何のために模写しているのが不明なような作品が多いが(大抵は単に技術がないだけなのだが)、彼は模写においてもあくまで写実に徹しているのがよく分かる。彼の作品はその堅固なる写実力を礎にした上で、揺るぎない造形を組み立てているのである。

 個人的には非常に好感の持てる作品が多かった。また決して単に懐かしさだけの作品ではないことは、一連の作品を鑑賞すると明らかとなる。


 展覧会の後は再びJR伊丹に戻ると、そこから川西池田駅まで移動。そこから陸橋を伝って阪急川西駅に移動すると、蛍池まで乗車、そこでモノレールに乗り換えて万博記念公園に向かう。久しぶりに乗車したモノレールに揺られてしばし、やがて北の方に岡本太郎の太陽の塔が見えてきたら万博記念公園に到着である。

 万博記念公園ではかなり多くの乗降客がいる。改札を出るとすぐに目の前に見えてくるのが、現在は休園中のエキスポランド。その前をすぎて陸橋を渡ると万博記念公園の入場口。この公園は有料なのだが、今日は「関西文化の日」のために無料だとか。このイベントのことは今日まで完全に忘れていた。これはラッキーである。

 休園中のエキスポランドがわびさびの情緒を漂わす

 万博公園内ではそろそろ紅葉が始まりかけているという頃。それにしてもだだっ広い公園である。実は私は大阪近郊に住んでいながら、この公園に来るのは初めて。こんなに広い公園だと走らなかった。園内にはパークトレインなる園内専用の列車型車両が走行している(錦川鉄道のとことこトレインのようなもの)。またイベント会場なんかもある多機能公園となっている。次の目的地はこの公園の中の国立民族学博物館(通称みんぱく)である。

 

岡本太郎の太陽の塔を中心に据えた大自然公園となっている

 

園内を巡回する列車型遊覧車とみんぱく

 ただ博物館の見学の前にすでに昼時。まずはランチを先にすることにする。今日の昼食はこのままっ「レストランみんぱく」でみんぱくランチ(1500円)を頂くことにする。

 意外と本格的

 内容はエビのカレーに豆のカレーの2種類にご飯とナンとサラダとヨーグルトがついたインド風ランチ。なお巨大なナンの下にはチキンも隠れている。なおこのレストランの宣伝によると、インド人シェフを迎えてナンも自前で本格的に焼くようになったとか。確かに香ばしくてなかなか。また2種類のカレーはそれぞれ風味が違っており、ややこってりしたエビカレーとあっさりした豆カレーのことなった風味を味わえる。

 決してCPは良いとは思わないが、民族学博物館の名にふさわしい異国ムードのあるランチで面白い。味もこの手の施設にしては十分にまともなので、失敗したとは感じることはなかった。

 ランチを食べた後は企画展と常設展の見学。なおこれらも関西文化の日で無料であり、思わず「ラッキー!」。なお企画展は国立国際美術館との2館同時開催のものなので、紹介は後ですることにする。

 さて常設展の方であるが、これがまた圧倒的な物量で驚き。世界を地域分けして、その地域に固有の事物を展示しているだが、東南アジアの漁船がそのまま展示されていたり、モンゴルのゲルがやはりそのまま広げられていたりと、広大なスペースに異国情緒が満開である。あまり博物系展示には興味がない私は、サクッと流しで見学しただけだが、それでも見学にはかなりの時間を要した。この手のものが好きな者なら、丸一日でも余裕で堪能できそうである。また映像ブースでビデオ資料なども見られるので、お勉強したい者はいくらでもそれが可能。さすがに国立施設だけのことはある。

 

 船が丸ごと展示してあったり、その物量は驚くべきもの

 

 博物館の見学を終えた後は、再び万博公園を横切って次の目的地に移動である。なおこの万博公園も様々な植物にあふれる公園で見所が多いようなので、こちらも自然好きの者なら丸一日楽しめそうである。とにかく何でも巨大なのがこの地域か。

 モノレールの駅まで戻ってくると、そこから終点の門真市まで移動。そこで京阪に乗り換える。京阪では最近開通したばかりの中之島線で渡辺橋駅まで。それにしても駅が異常に深く(川の下を通っているのだからそうなるか)、地上に上がるのに難儀する。次の目的地は地上に出るとすぐそこに見えている。

 


「アジアとヨーロッパの肖像」国立民族学博物館と国立国際美術館で11/24まで

 

 人間は太古から自らの姿と他者の姿を描き続けてきた。ただその描き方は東洋と西洋では微妙に異なる。そのような肖像について、東洋の視点と西洋の視点を現す作品を展示した展覧会。

 構成としては、序盤は東洋・西洋それぞれの肖像画。西洋でも中国・朝鮮でも比較的写実的な肖像画が多い中で、日本の浮世絵のデフォルメは異彩を放っている。これに匹敵するのは西洋のロートレックのポスターか。

 中盤からは東洋から見た西洋、西洋から見た東洋の姿が現れる。ここに登場するのはいずれも想像力に満ちた作品で、洋の東西を問わず、相手を「異形の者」と見ていたことがよく分かる。手長・足長や、果ては無頭人までほとんどモンスター的な描写が多いが、そういう描写に関しては、東洋と西洋で意外と共通項が見られることが興味深い。

 終盤は肖像を扱った現代アートになるのだが、ここに来るともう主旨は不明。はっきり言ってこれは蛇足である。

 国立民族学博物館と国立国際美術館の二館同時開催ということになっているが、共に構成は全く同じで、展示作品だけが異なるという形なので、どちらか一方を鑑賞しただけでも展覧会としてのストーリーは通るようになっている。わざわざ両館共に鑑賞するだけの価値があるかどうかは甚だ疑問。


 国立民族学博物館は関西文化の日で無料だったが、国立国際美術館の方も同様の理由で無料であり、これは予算的に大いに助かった。

 美術館を出ると今度は地下鉄肥後橋駅に移動、地下鉄を乗り継いで次の目的地である。


「江戸と明治の華−皇室侍医ベルツ博士の眼−」大阪歴史博物館で12/8まで

 

 明治時代に来日し、医学者を育成する傍らで皇室侍医としても活躍したドイツ人医師のエルヴィン・フォン・ベルツは、日本美術を愛して自らその眼鏡にかなった作品を収集していた。彼のコレクションは絵画から工芸品にまで及び、現在ではシュトゥットガルト市のリンデン民族学博物館に収蔵されいるが、中には日本でも珍しい貴重な作品が多々あるという。それらの作品の里帰り公演が本展。

 ベルツはその時代に人気のあった画家の作品などを集めたようであるので、江戸末期から明治にかけての絵画界の流行も分かるようになっている。

 個人的には一番の見所は、河鍋暁斎の作品が展示されていたこと。ベルツは暁斎に注目していたらしく、彼の作品を結構所蔵していたようだ。展示作の画風が実に様々なのが、暁斎の作風の広さを感じさせて非常に興味深い。


 これで今回の美術館攻略は終了。後は夕食でも食べて帰るだけである。今日の夕食は難波に目を付けていた店がある。

 私が今回訪問したのは「丸元」。寿司屋であるのだが、スッポンなども食べられるという。ただし店が路地の奥にあったため、見つけるのにかなり苦労する。

 ようやく店を見つけるが、店のたたずまいを見た時に嫌な予感がする。というのもいかにも寿司屋的な敷居の高さというか、店の立地といいあまりに玄人筋のにおいがする。別にグルメでも通でもない私としては苦手なタイプの雰囲気である。しかしここでまごついていても仕方ないので、とにかく入ることにする。

 入店して私の予感が当たっていたことを感じた。まずメニューがない。私のような素人の一見客では何を注文して良いかからまず分からない。さらにここで私は一つ一番大事なことを忘れていた。私が今回ここを訪れたのは、スッポンを食べたいと思ったからであるが、そもそもスッポンは一匹をばらしたら二人前なのである。と言うわけで、スッポンのコースはお二人様から。これはごく初歩的な見落としであった。仕方ないので単品のスッポンのスープと雑炊を注文する。

 しばらく待った後、白菜などの野菜がたっぷり入ったスープが運ばれてくる。これに好みでニンニク粉末や唐辛子を入れていただく。一口するなり体がカッカしてくるが、スープはかなりショウガが効いているので、これはスッポンよりもショウガの効果だろう。

 スッポン自体は非常に淡泊な味。以前に京都ですっぽんうどんを食べたときにも感じていたのだが、やはり私のような下品な人間にはスッポンはいささかお上品な味すぎるのかもしれない。ところでスッポンは滋養強壮効果があると言われているが、その効果のほどは定かではない。スッポンに滋養強壮効果があると言われているのは、その形態が男性器を連想させるというイメージのものだけだという説もあるようだ。その真偽は私にも分からないが、とにかく即効性に関してはスッポンよりはショウガの方がありそうである。

 スープと雑炊を頂いたが、やはり腹が中途半端である。そこで腹を括って寿司を頂くことにした。貧乏人の私としてはとにかく「時価」というのは不気味であるが、この店はぼったくりの店でないことは確かであり、また今回は2館の入場料が浮いたので、予算に少々余裕がある。さすがに「お大尽モード」を発動させるだけの度胸はないが、「開き直りモード」ぐらいなら発動可である。

 

 

 結局は、マグロ、トリガイ、イカ、縁側、玉子を順番に注文。ネタはなかなか良く、寿司としては十分に満足できるレベル。またこれで腹も満たしたので店を出ることにする。支払いは4720円。まあ妥当なところか。

 とにかく経験値の不足をつくづく感じさせられることとなった。やはり私のような貧乏人には本格的な寿司屋は敷居が高いか。悪い店ではない(と言うよりも、多分良い店である)が、私向きではなかったというところである。これは今後の反省材料である。

 これで今回の予定は完全終了。後は梅田に戻って、大丸の地下のイグレックプリュスでバニラロールを土産物として購入して帰途についたのであった。

イグレックプリュスのバニラロール

 

 戻る