展覧会遠征 タンゴ編

 

 雪が融けて川になって流れてゆき、土筆の子が恥ずかしげに顔を出すようになると、もうすぐ春である。もうすぐ春となると、恋をしてみませんか・・・ではなく、少し出かけてみませんかである。今年も青春18シーズンの到来である。

 春の青春18シーズンの皮切りとして私の頭に浮かんだのは、丹後半島である。実はこの地域には「北近畿タンゴ鉄道」という第3セクター路線が走っており、以前から私の頭に引っかかっていたのである。これが「北近畿丹後鉄道」ならそう気にもかからなかったかも知れないのだが、やはりポイントは「タンゴ」であろう。まるで「ダンゴ三兄弟」のようなふざけたこのネーミングは、私の好奇心を刺激するには十分であった。と言うわけでこの春シーズンの皮切りは、「21世紀の地域振興と交通について考える市民の会代表(自称)」としての丹後視察から始まることとなったのである。

 姫路駅に到着したのは日の出前のまだ薄暗い時だった。駅のはずれの播但線ホームに向かう。ここもいずれは姫新線と一緒に高架にされる予定で、現在は工事中である。私がホームに到着したのと同時ぐらいに列車が到着。休日だというのに多くの乗客が降りてくる。以前にこの路線に乗ったときにも感じたが、やはり播但線南部は通勤路線となっているようだ。

  

 列車は二両編成のロングシート車両。ワンマン電車だが明らかに通勤仕様の車両。この列車でまずは寺前まで移動である。それにしても寒い。当然暖房はかかっているのだが、車両がまだ冷え切っているようである。携帯懐炉で寒さをしのぐ。やがて列車は発車、建設中の高架を横目に見ながら姫路駅から滑り出る。姫路城を真横から見ながらそのまま姫路市街を抜けて北を目指す。沿線には民家が多いようで、早朝にもかかわらず乗り降りもそれなりにある。なおこの路線には阪神間で快速や新快速などでよく見かけるタイプのクロスシート車両も走っているようで、途中で一両すれ違った。

 ワンマン電車の乗り方も知らない田舎者(というよりは都会者なんだろうが)がちょっとしたトラブルを起こしたりなどもあったが、大体時間通りに寺前に到着するとここで乗換え。播但線はここまでは単線電化路線だが、ここから北部は単線非電化路線になる。ここからはワンマンディーゼル車のセミクロスシート車両。JR西日本エリアの非電化ローカル線でよく見かけるような車両である。また沿線の風景もここから一変して、かなり田舎めいた雰囲気になってくる。

  

 辺りは明るくなってきたが、山々はややもやがかかっている。途中竹田城の脇を通るが、山の頂上はもやっていて見えない。こんな時の竹田城はまさに雲海に浮かんでいるように見えると聞いたことがある。今頃は多くのアマチュアカメラマンが撮影のために登城しているのだろうか。

 山々はかなりもやっています

 やはり播但線については南部と北部で全く性質が違うというのを感じる。南部は通勤路線として機能しているが、北部は完全にローカル線なのである。また北部の沿線では「播但線全線の電化を」という看板をやたらに見た(中には「電化複線化を!」というさらに豪快な看板もあったが)。かつて阪神淡路大震災で東海道線が分断された時、迂回ルート確立の必要性が唱えられ、その際に播但線が電化候補に挙がったこともあると聞く。しかしトンネル設備などの問題から、結局は加古川線が電化されることになったとか。地元民としては、そのことに対する痛恨の念があるのか。

 確かに和田山から先の山陰線は電化されており、播但線も南部は電化されているので、この北部地域のみが宙ぶらりんになった形の非電化地域となっている。もし電化されれば、全線の一体化した運用のみならず、山陰線や山陽線との連携なども可能になって利便性が向上する可能性がある。とは言うものの、私が見たところ播但線北部地域に最も必要なことは、電化よりもむしろ高速化であろう。実際、この地域を乗車して切実に感じるのは、とにかく走行速度が遅いことである。これは電化云々ではなく路線に問題がある。路線さえ良ければ、智頭急のスーパーはくとのようにディーゼルで時速130キロの走行をしている例もある。播但線も高速化して、時速130キロ運転のスーパーはまかぜが走行することにでもなれば、状況は一変するかもしれない。とはいうものの、これは現実性はほぼ皆無の構想である。

 似たような問題は姫新線も抱えており、姫新線に対する中国自動車道のように、播但有料道路というほとんど併走している高速道路を持っているという点でも、播但線の地域輸送に関しての状況は絶望的に悪い。それを考えるとこの路線に更なる投資が行われる可能性は小さいだろうと思える。唯一の救いは、姫新線とは違い陰陽連絡線としての位置づけがあるので、当面は廃線の憂き目には合うことはないだろうと考えられることぐらいか。

 ようやく和田山に到着。ここから山陰線で豊岡に向かうのだがしばし乗り換え待ちである。一旦改札を出ると待合室で暖をとる。待合室内のキオスクでは弁当も販売されているが、コンビニ弁当には興味はない。私は一旦駅から出ると、事前調査の情報に従って駅弁販売店を探す。弁当の表示があったのは駅の一階に入居している喫茶店。まだ営業開始時間になっていないのだが、既に営業中の札が出ている。ここで「和牛弁当(1000円)」を買い求める。

 和田山駅舎

 待合室に戻ると早速弁当を頂く。今日は朝食も摂らずに飛んできたので弁当がうまい。牛肉に砂糖醤油系の味をつけたいわゆる牛丼のような弁当。結構ありがちな内容であるのだが、牛肉が硬くないのがポイント。また早朝で作ってそう時間が経っていないのか、まだ完全には冷え切っていなかったのもさらに味を良くしたか。

 和牛弁当1000円也

 とりあえず腹ごしらえをすませると、時間を見計らって山陰線ホームに移動。列車到着待ちの乗客は20人程度いる。そこに若干遅れて列車が到着。2両編成のセミクロスシートワンマン電車には既に結構乗客が乗っており、和田山乗車組が加わった時点で座席はほぼ埋まる。列車はそのまま山間の平地を縫うような感じで豊岡まで走行する。

  

 豊岡で降りると表示に従って北近畿タンゴ鉄道のホームに向かう。北近畿タンゴ鉄道のホームはJRのホームの端を仕切った形で存在している。ここで全線1日乗り放題チケット(1700円)を購入する。私はここから特急タンゴディスカバリーに乗車する予定である。この特急は天橋立駅に到着すると、そこから「タンゴ悠々号」と銘打った普通列車に変化する。なおタンゴ鉄道では青春18シーズンのこの時期には、当日のスタンプの押した青春18切符を見せることで、500円で普通車全線乗り放題という格安の切符も購入することが出来る。今回こちらを使用せず、あえて1日乗り放題チケットを購入したのは、一重にこの特急に乗車するためである。

 北近畿タンゴ鉄道のりば ホームの端です

 私の乗車するタンゴディスカバリーはタンゴ鉄道ホームでなく、JRのホームに到着することになっているのでそちらに移動する。城崎温泉から豊岡までを快速として運用し、豊岡で切り替えしてタンゴ鉄道線に入ることになっている。ホームに到着すると売店のかに寿司弁当という表示が目に入って一瞬悩むが、さすがに和田山で弁当を食べた直後にあまりに節操がないと思いとどまる。今回の遠征は軟弱なグルメツアーではないのである。

 ホームでは特急北近畿をやり過ごし、その後にタンゴディスカバリーが到着する。なおこの特急、二両編成であるためどちらもが先頭車であり、そのために出入り口が編成全体の中央の連結部付近にしかないという妙な構造になっている。城崎温泉からの乗客がゾロゾロと降車するのと入れ替わりに乗り込み、自由席に移動すると(1日乗り放題チケットで乗車できるのは、特急の自由席である)、どん詰まりの位置にある先頭付近の座席を陣取る。

  

 やがて列車は発車。新造車両らしくシートの感触も良くなかなか快適。ただ線路が良くないのか時々妙な揺れがあるのが気になる。また路線設備上の限界があるのか、明らかに車両の性能よりも低い運行速度で走行しているように思われる。なおタンゴ鉄道という名前からは海の近くを通るのかと思うが、実際は山の中が大半、たまに海がチラリと見える程度である。この辺りは赤穂線に近いところがある。

 沿線は延々と山の中です

 最初はガラガラだった車両も、木津温泉で団体客が(酔っ払いがうるさくてこれには閉口した)、次の網野でも多数の乗車があり、満員になってしまう。列車はそのまま山間を縫うように走り、やがて海が見えたと思えばそこはもう天橋立である。

 海の向こうに見えるのが天橋立

 天橋立で多数の乗り降りがあり、ここから普通列車としての運行となる。運転士がここで「タンゴ悠々号」と書いたヘッドマークを取り出してくる。このタンゴ悠々号は土日のみ運行の観光列車であるが、観光列車たる所以は「眺望のために運転に特別の配慮を行う」からである。次の宮津で宮福線との接続があった後、いよいよ景観ゾーンに突入、ここからが観光列車の本領発揮である。まずは宮津を過ぎて奈具海岸沿いのビューポイントで一時停車、風景を楽しませてくれる。幸いにして好天になったので海が美しい。もっとも広場恐怖症の私は、あまり水平線を眺めていると恐怖感が沸いてくるのであるが。

 悠々号のヘッドマークを搭載

 

奈具海岸沿いの抜群の眺め

 さらに2つ目のビューポイントの由良川橋梁上では最徐行を行ってくれる。ここもまた雄大な景色を堪能できる。こういう雄大な風景を見ていると、つくづく人間の小ささを感じてしまうのである。もう仕事がどうとか、そんな小さなことはどうでもいいじゃないか・・・というわけにもいかないのだが。

 由良川橋梁を最徐行で通過

 ここの風景も抜群

 列車はしばらく由良川沿いを走った後、西舞鶴に到着する。タンゴ鉄道西舞鶴駅は、やはりJRの西舞鶴駅を一部仕切ったところにある。西舞鶴駅前は私が想像していたよりはにぎやかな印象である。今日はここで昼食を摂ることにする。

  

西舞鶴駅は意外と大きいです         西舞鶴駅前商店街のたたずまい

 昼食を摂ったのは駅前の「割烹しおり」という店。舞鶴では現在「舞鶴牡蠣丼」というメニューを名物として売り込み中だという。舞鶴牡蠣丼のHPによると、西舞鶴駅周辺でこのメニューを食べられるのは3軒。しかし生憎日曜日に休む店が多く、唯一残ったのがこの店である。注文は当然「舞鶴牡蠣丼(1000円)」である。

 駅前の飲食店です

  

 舞鶴牡蠣丼のルールとしては、1.舞鶴産の牡蠣を5個以上と舞鶴かまぼこを使用していること。2.牡蠣そのものが見えていること。3.おいしくてまた食べたくなること。以上の3点だという。この牡蠣丼は大粒の牡蠣を7つも使用しており、当然ではあるがこのルールを守っている。

 さて味の方であるが、牡蠣の濃厚な風味が口に広がる。丼というシンプルなメニューだけに牡蠣の風味は非常に強いようである。ただ問題は、牡蠣の風味が強いということは、それだけ牡蠣のクセも出がちになるということ。多分牡蠣を非常に好む者ならこのクセも含めて牡蠣の魅力なのかも知れないが、私のように牡蠣を食べ始めて日が浅い人間には少々風味が強すぎるようである。またつゆだくの丼を好まない私には、残念ながらこの店のつゆだく気味の丼は好みと正反対。それに丼のシンプルな味付けでは、牡蠣にやや飽きが来るという感じもした。個人的には牡蠣が丼の具として最適かには少々疑問を感じた次第。

 昼食を取り終わったところで再び駅に舞い戻って、今度はタンゴ鉄道の普通列車で宮津まで逆戻りすることにする。1日乗り放題チケットを買った元を取り返さないといけないからというわけではないが、タンゴ鉄道の宮福線も含めて全線走破をしてやろうという考えである。

  

 普通列車は転換クロスシート車両。やはりシートはタンゴディスカバリーに比べると大分劣るという印象である。再び景色を楽しんでいる内に宮津へ到着、ここで宮福線に乗り換えとなる。列車を降りてふと横を見ると、豊岡行きのタンゴエクスプローラーが停車しており、見た途端に思わず「乗りたい」と思ってしまう。しかし残念ながらここで豊岡まで行ってしまうと後のスケジュールが滅茶苦茶になってしまう。実に無念であるが、ここはグッとこらえて宮福線のホームへと移動する。

 宮津駅ではタンゴエクスプローラーが

 宮福線ホームで停車していたのは、これまた転換クロスシートのワンマンディーゼル車である。ただ先ほどの宮津線の車両が2+2のシート構成になっていたのに対し、こちらは2+1のシート構成となっている。なお宮福線は電化されているのだが、タンゴ鉄道では車両運用の都合で電車を所有しておらず、宮福線においてもディーゼル車を運用している。

  

ややレトロチックな外観のディーゼル車です      内部は1+2シート構成      

 さて宮福線であるが、宮津線とは全く趣が違う。宮津線が海沿いや山の中をクネクネと走っていたのに対し、こちらはとにかくトンネルが多く、また路線もかなり直線的である。つまり最初から高速走行を想定した路線として建設されていることが分かる。残念ながらこの旧型ディーゼル車両ではその御利益に浴することは出来ないが、特急列車ならかなり高速で走行できることが出来るだろう。ああ、タンゴエクスプローラーで疾走したいな・・・という想いが頭をよぎる。

 丹後山地をトンネルで一気に突っ切ると、福知山盆地に抜け、そこからはだだっ広い田んぼの中をえっちらおっちら走るのがこの路線。非常に合理的に建設されている路線であるが、それだけに沿線風景として面白みに欠ける。気が付けば早朝に出発した疲れからうつらうつらとしてしまう。そして半分寝ぼけた状態で福知山に到着、これでタンゴ鉄道全線走破完了である。

 さてタンゴ鉄道であるが、宮津線と宮福線で全く性格が異なるのが印象的であった。タンゴ鉄道沿線における唯一最大の集客ポイントは天橋立であるが、宮福線はそこに最速で到着するための路線というべきであろう。ただ地域路線として考えた場合も、特に福知山付近では非常に乗降客が多かったことから、この路線は将来においても安泰であろうと考えられる。問題は宮津線の方であるが、これは宮津の東と西で性格が分かれる。まず東の方は眺望を前面に出して徹底的に観光路線戦略で売り込むしかなかろう。問題は西の方である。豊岡−宮津間についてははっきり言って眺望的にはさして見るべきものもなく(天橋立近辺を除く)、沿線の民家もそう多いようには思われなかった。木津温泉などの観光地が存在するのが救いではあるが、路線としてのポテンシャルはそう高くないところである。

 以上から判断するに、将来においては福知山−天橋立間の電化路線部分は最悪でもなくなることはないだろうが、宮津線全体については今後の戦略次第というところだろう。天橋立をメインに据えて、沿線全体での観光開発がもう一押し欲しいところである。なお一番の不安要因として考えられるのは、宮福線とほぼ平行するルートを通っている京都縦貫道の存在である。目下この道路は暫定2車線の劣悪な状況にあり、高速走行が不可能な状態にあるが(道幅が狭いので対向車が非常に恐い)、これが4車線の道路として開通することがあれば、熾烈な競争にさらされることは必至である。それにしてもつくづく鉄道の大敵は高速道路である。この両方をほぼ同じルートで作り続けている日本の公共事業はいかに無駄が多いかということを痛感せずにはいられない。

 福知山ではJR山陰線に乗り換えて園部、ここで嵯峨野線に乗り継いで京都へ移動という段取りになる。実は今回の遠征の最終目的地は京都である。今回の主目的はあくまで京都での展覧会を見に行くことであり、実はタンゴ鉄道はあくまで通り道として通過したにすぎないのである。

 乗り換え時間が数分しかないので山陰線のホームに向かって全力疾走。福知山駅は現在改装工事中で、タンゴ鉄道のホームがかなりはずれの位置になっているので到着まで一苦労である。ホームに駆け上がると2両編成のセミクロスシート車が待っている。とりあえずこれに飛び乗って園部まで移動である。

 このあたりに来るとよく見かける車両

 車内の乗車率は最初は2割というところ。福知山から綾部のルートは郊外線という雰囲気で車窓的にはあまり面白くない。綾部で乗車率が上がってここからは風景も一変する。私の好きな山の中の川沿いという風景。しばし風景を楽しむ。

 線路が川からはずれた頃になると、風景が単調さを増してくる。それと共に乗車率も上昇して車内は混雑してくる。もうこの頃になると私は疲れが出て、本格的にウトウトとしてしまい、次に気が付いた時には園部に到着してしまっていた。私が気が付いた時には、回りの全員が乗り換えのために立ち上がっている。私も慌ててドアに急ぐ。

 ここからは嵯峨野線で、いわゆる都市近郊路線に分類される。私が乗ったのも京阪神でよく見かけるタイプのごく普通の快速列車。ここまで来ると編成も4両編成になっているのだが、乗車率はかなり高い。なお嵯峨野線は現在は単線複線混交状態であるのだが、JRではこの園部までを複線化する工事をしているとのことである。実際、亀岡付近では複線化工事の真っ最中であった。園部−京都間はかなり乗客も多いようだし、現在の単線混交の路線では輸送能力が頭打ちなのは確実で、実際に乗車しても行き違い待ちの時間がかなりのロスタイムとなっている。またこのルートを通る特急列車の多さを考えても、複線化は必須であろう。

 亀岡に到着すると「保津川下り」の表示が遠くに見えている。景観で名高い保津川渓谷である。なお嵯峨野線の旧線はこの保津川渓谷に沿って走っていたとのことだが、現在の嵯峨野線はこの地域をトンネルでまっすぐに突っ切って高速化している。所要時間短縮という点では非常に有効なのであるが、おかげで景観的には全く面白くないものになっている。時折トンネルとトンネルの間で数秒だけ保津川渓谷の風景が見える箇所があるが、時間が短いのと列車の速度が速いのとで、ほとんど動体視力テストのような状況。ただ、それでも垣間見えた風景はなかなかのものである。なお保津川沿いの旧線は嵯峨野観光鉄道という路線になっており、観光用のトロッコ列車が運行されており、保津川渓谷の絶景を堪能したければこれに乗れということである。いずれはここも「視察」しておく必要があるのだろうか・・・しかしこれはどう考えてもただの観光になってしまう。うーん、どうしたものか。

 トンネルの合間から瞬間的に見える光景

 保津川の長いトンネルを抜けると、そこは大都会だった。トンネルに入る前と出た後でまさしく世界が一変するのがこの路線。この市街地の極端さは、盆地の大都会である京都ならではなのだろう。この方向から京都入りした経験は今までないので新鮮な体験である。やがて前方に京都タワーと京都駅ビルという二大京都の恥建造物が見えてきたところで京都駅到着である。

 今まで地方を回ってきたせいか、京都駅のホームの多さにはつい目眩がする。ふと見ると目の前のホームに回送になったスーパーはくとが停車している。思わず中をのぞいてしまう。鉄道マニアではない私としては車両等には興味は皆無であるのだが、なぜか昔からこの列車には強く惹かれるものがあり、いつかは乗らないといけない気がしてならないのだ。というわけで、多分今年中に鳥取遠征があるだろうと思われます。問題は予算なのだが・・・。

 さてこれで目的地到着である。当然のことながら美術館へ立ち寄ることにする。


「ひろしま美術館所蔵 フランス近代絵画名作展」「えき」KYOTOで3/30まで

 

 ひろしま美術館は、そう大きな美術館というわけではないが、フランス近代絵画を中心としたそのコレクションのレベルの高さは、国内でも屈指のものとして知られている。実はこの美術館は私自身も全国で5本の指に入る好きな美術館の1つで、非近畿圏の美術館の中ではトップクラスの訪問回数の美術館である。本展はそのひろしま美術館のコレクションの中から、ゴッホの「ドービニーの庭」を始めとして、モネ、ゴーギャン、ルノワール、ピカソ、シャガールなど印象派から近代に至るまでの有名な画家の作品を選んで展示したものである。

 ひろしま美術館ではこれらの作品は、本館の大抵決まった位置に展示してあるので、何度か同館を訪問したファンなら、この作品はあの展示室のあの辺りにあったというようにイメージできるものである。そうやって見ていくと、驚くのはひろしま美術館のコレクションの中でも、実に代表作と言えるような作品はことごとく本展に出展されているということである。私の好きなルノワールの名作を始めとして、マネ、マチス、藤田に至るまで主だった画家の代表作が並んでおり、この出展作だけで近代美術史の教科書を作れるというレベルである。私が思いつく作品はほぼ網羅されていた。

 正直なところ、これだけの代表作を出展してしまうと、ひろしま美術館は現在はスッカラカンなのではないか思うのだが、HPを確認してみるとやはりスッカラカンのようである。広島まで出かけるのは少々ハードルが高いと感じる近畿以東のファンにとっては、交通至便(京都駅ビルですから)の本館で開催されるこの展覧会は、千載一遇のチャンスだと言えよう。是非とも訪問するべき価値はあると断言する。


 想像していた以上に多数の作品が出展されているので驚いたのが本当のところ。休館中の美術館ならともかく、開館中の美術館の作品をこれだけ出展するというのは異例ではないかと思われる。ちなみに実は私は今月中に、このスッカラカンになったひろしま美術館を訪問する予定である(ひねくれ者だな、私も)。

 さてもう夕方である。残念ながら次の美術館に回れるだけの時間的余裕はない。さすがに京都に到着するまでの行程で時間を費やしすぎた。やはり京都を訪問するなら、丹後半島経由ではなく、東海道線経由で来るべきであろう(笑)。

 目的である美術館訪問も果たしたし、帰途につくとするが、その前に腹ごしらえをしておくことにする。このビルの10階の拉麺小路に上がると適当な店を選んで腹ごしらえとする。

 今回選択したのは札幌ラーメンの「すみれ」。この店の売りであるらしい「味噌ラーメン(900円)」を注文する。

 伊勢丹の10階です

  

 こってりしたスープに太めの麺という取り合わせがここのラーメンの特徴。太めの麺はスープが絡みにくいので、こってりめのスープがバランスとして良いということでこの組み合わせなのだろう。実際に麺を食べる分には味のバランスも良いし、麺の歯ごたえもあってなかなかにうまい。ただスープを飲むとなると、さすがに私にはこのスープはこってりしすぎで、数杯飲むともう結構という印象。また味噌ラーメン特有の辛さも舌につく。麺だけいただくのが正解なんだろうか。そう言えば回りを見れば、大盛りを注文している客が多いように思われた。ヘビーなラーメンを好む向きには良いラーメンであろうと思うが、あっさりめのラーメンを好む向きには合わないだろう。

 以上、今週の「美術館遠征」でした。えっ?美術館以外の要素の方がほとんどじゃないかって? 細かいことは気にしないでください。あくまで「主」目的は美術館ですので。

 

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