青春18切符の旅 奈良・和歌山編

 

 さて青春18切符冬の陣もいよいよ大詰めとなってきた。さてこの冬だが、広島地区、名古屋地区、四国地区と遠征を重ねたわけであるが、こうなると後に残るは近畿地区だけ・・・と言おうとしたら、実は先々週は近畿だったっけ・・・。まあそれはともかく、展覧会の予定表及びJRの路線図とにらめっこした結果、このシーズン最後の遠征の候補地として上がってきたのが奈良・和歌山地区である。

 例によって出発は早朝。大阪から区間快速で奈良に直行する。この辺りはいつものルート。高架工事中の奈良駅に到着、市内循環バスで目的地へ。


「絵画の冒険〜抽象芸術の楽しみ〜」奈良県立美術館で3/23まで

 奈良県立美術館は日本画等の渋めのコレクションの方が有名であるが、同館のコレクションの中には大橋コレクションの抽象絵画なども存在している。本展はその抽象絵画を中心に展示したもの。

 抽象絵画だけに作家によって作品は様々だが、ただいずれの作家についてもワンパターンであるのは事実。しかも本展展示作は、キャンバスにただ単に絵の具をぶちまける式の、私が一番嫌いな「作家が楽をしているだけの作品」が多かったせいか、印象が今一つ。一番最初の今中クミ子氏の立体的作品のようなものなら比較的面白いのだが・・・。


 展覧会的に今一つだったので、バスで奈良駅にとって返すと、ここから次の目的地に。実はこれからが青春18切符の旅の神髄のようなもの。今回は和歌山への移動に、桜井線経由の和歌山線ルートで行くつもりである。実際のところ、ハイパーダイヤなどで奈良から和歌山への移動ルートを検索すると、両者を直接接続する和歌山線よりも、大和路快速と紀州路快速を乗り継ぐルートが表示されるぐらい肩身の狭い和歌山線。実際、近畿のアーバンネットワークの中にも入っているような入っていないような微妙な位置づけで、関西おでかけパスの範囲には入れられていないという影の薄さである。これは判官贔屓の私としては、一度乗車しておく必要があろうというものである。

 ただ実際のところはもう一つ大きな理由がある。実は桜井線の沿線の三輪に喜多美術館という美術館が存在しており、これがまだ未訪問であるということもある。と言うわけで、今回の遠征は和歌山線ルートを使用するということが骨子となった次第。

 さて奈良駅の1番ホームで待っていると、二両編成のワンマン電車が到着する。和歌山行きの列車は和歌山奈良間をピストン運転されている模様。列車はどことなくレトロ感のあるロングシート車。なお結構乗客がおり、座席は一杯になっている。単線ではあるが電化されているのは、この辺りの乗客の多さもあるのだろうか。

 

和歌山線のワンマン電車           内部は既に結構満員

 列車は奈良の市街地を抜けるとやがて郊外へ。奈良盆地ののどかな風景が広がり始めるが、やはり中国地区山間部のローカル線と決定的に違うのは、たとえまばらでも常に人家が見えること。これが伯備線沿線などだと、人家の全く見えない地区などもあるのと大違いだ。これが利用客の数に響いているように思われる。

 沿線風景

 やがて列車は宗教都市天理に到着。アンチ新興宗教の私としては、この都市は正直なところ異様な空気を感じて苦手である。ここでかなりの乗り降りがあった後、反対行き列車とすれ違ってから出発。山が近づいてきて、風景が一段とのどかになったところで三輪駅に到着する。目的地は、某新興宗教の巨大な施設の脇をすり抜けた裏側の山の近くの畑の真ん中に立っている。

 

   三輪駅             奥に見えるのが美術館


喜多美術館

 創設者である喜多才治郎氏の個人コレクションを元に設立した美術館。20世紀の西洋美術や漆器などの東洋美術をコレクションしている。私の訪問時には20世紀美術作品と、新進気鋭の画家である植田承孝氏の作品の展示が行われていた。

 驚いたのはそのコレクションの多彩さ。絵画についてはカリエール、ルノワール、ゴッホ、デ・キリコ、佐伯祐三、藤田嗣治、安井曾太郎など多彩かつレベルが高い。これに併せて、ウォーホルなどのポップアート系の展示もあるが、これがいずれも一ひねりあるもので、先ほどの奈良県立美術館のコレクションよりは随分面白いという印象。

 植田承孝氏の作品については、まだ若手の画家というところで、未だに進むべき方向性が定まっていない印象。今のところはインパクト勝負でいろいろな作品に挑戦しているように見える。感性的にはおおはずしはしていないようなので、今後に期待はしたいところ。


 地方の個人美術館と侮っていたが、意外に多彩なコレクションに驚かされた。またポップアート嫌いの私の目から見て、結構興味深く感じる作品もあったということは、それなりの鑑識眼に基づいて選択されたコレクションなのだろう。まだまだ未知の美術館はいくらでもあるようだ。

 さてこの後は山の中の散歩をかねて、大神神社(おおみわじんじゃ)まで山道をウロウロと歩く。考えてみたらこういう風にブラブラと歩くと言うことを最近はしていなかった。森林浴というほど大層なものでもないが、何となく気分が落ち着く。普段はこんなことは滅多にしない私が、こういう気持ちになるのはここが奈良という土地であることと関係がありそうである。

 大神神社は多くの参詣客で賑わっていた。私は手早く参詣を済ませると、宝物館の方に立ち寄る。展示物は主に古美術の類であるが、堂本印象の絵画が2点、平山郁夫の三輪山を描いた作品が1点あったのが意外。こうやって見てみると、堂本印象の抽象画って、神社などによく似合うなと再発見。やっぱり日本画出身の画家だけのことはあるか。

参詣客で一杯の大神神社

 大神神社の参詣を済ませると、参詣筋にある素麺店「森正」で昼食。注文したのは釜揚げ900円と柿の葉寿司650円である。

 趣のある建物です

 

 

これが柿の葉寿司            このコシがたまりません

 

 素麺屋に入っておいて何だが、実は私は素麺は好きではない。しかしこの釜揚げは素麺よりも太めのコシのある麺でなかなかに心地よい。これだと素麺が苦手な私でも食べられる。ただ難点はツルツルの麺に粘度の低いつゆであるために、付けて食べるという形だとつゆが全く馴染まないこと。この辺りは食べ方に工夫が必要になりそうである。

 なお絶品だったのが柿の葉寿司。酢の利き具合が絶妙で非常に食が進む。なお私はアレルギー体質を持っているので鯖が少々気がかりではあったのだが、どうやらなんともなかったようである。

 

 腹が膨れたところで、再び和歌山に向けて移動再開である。電車は桜井市街を通り抜けると高田に到着。ここでは進行方向を変更して折り返しになる。やがて周囲の風景はかなり山間部の雰囲気になってくるが、やはり常にどこかに人家はある風景。吉野口では近鉄と接続、橋本では南海と接続している。

 

吉野口では近鉄と橋本では南海と接続

 

 乗客の方は五条をすぎた頃からは大分減るが、コンスタントに存在し、乗降が頻繁であることから地元の足として利用されていることが分かる。ちなみにもう一点ローカル線と違うのは、この時期でも鉄道マニアらしき人物は見られないことである。この辺りは一応アーバンネットワークに分類されているこの路線の性質を示していよう。やがて和歌山が近づくと、岩出辺りから再び混み始め、通勤電車的な雰囲気となってくる。そのまま和歌山に到着。

 沿線風景

和歌山に到着

 乗車した感想としては「とにかく長い」。ロングシート車なので疲れるということがあるが、すれ違いのための待ち合わせなど、意外とロスタイムが多く、必要以上に所要時間がかかっているという印象。単線という制約があるのだろうが、同じ単線でも京都と奈良を結ぶ奈良線では快速みやこじライナーが結構乗客を集めていることを考えると、快速の運行は考えられないのだろうか。まあ奈良と和歌山の人口の問題もありそうだし、JRとしてはこの路線を全線走破する需要はほとんどないと見ているのだろうが。

 貴志川線のいぢご列車

 到着した和歌山駅は一大ターミナルである。ここには大阪からの阪和線、さらに南に向かう紀勢線、そして今回乗車した和歌山線などがつながっており、隣には和歌山電鉄貴志川線の車両も見える。そっちにも興味が湧くが、鉄道マニアではない私としてはここは自制。とりあえず目的地を目指して、ここから和歌山市駅に移動することにする。この路線は2駅ほどだが、紀勢線ということになっている。ただ紀勢線本体と運行は完全に分離しており、乗車ホームも別になっている。和歌山と和歌山市の間は2両編成のワンマン電車(和歌山線と全く同型)がピストン運転されているようだ。

 

 和歌山市駅には6分ほどですぐに到着する。ここは南海電鉄のターミナルとなる。そう言えば南海電鉄も私は乗ったことがない・・・とは言うものの、なぜかこの鉄道会社にはあまり興味が湧かない。私にはローカル色が薄すぎるのだろうか。

 和歌山市駅は大ターミナル

 

 さてここからは目的地まで徒歩で移動だが、その前に寄り道をする。やはり和歌山に来れば和歌山ラーメンを食べておこうという計画。なお事前の調査によると、和歌山ラーメンが世間の脚光を浴びるようになったのは、井出商店という店がテレビチャンピオンで全国一位になった(ラーメン評論家とやらの何某が強烈に推したそうだ)ことからだという。

 ただ井出商店のラーメンは従来の和歌山ラーメンとは少し趣が違うらしく、その後に増えたこの方式のラーメンを出す店を井出系、従来の和歌山ラーメンの流れを車庫前系などと区別して呼ぶこともあると言うが・・・どうにもマニア臭くてついて行けん。なお当の井出商店自身は、テレビで有名になってから全国から客が押しかけることに慢心したのか、その後著しく味が低下したとの評判のようだ。それが本当だとしたら、グルメ本などでもてはやされたことがきっかけで駄目になる店の典型パターンである。だから私は以前からこの手のガイド本が大嫌いなのである。

 で、私が向かったのは地元では人気があるという山為食堂。一応種別としては井出系ということになるらしい。私が注文したのはチャーシュー麺900円。出されたのオーソドックスな豚骨醤油ラーメンである。特徴は麺がやや太めであることと、スープの粘度がやや高いこと。油でギラギラしたスープが、太めの麺にからみつくので一見非常にしつこそうなのだが、驚いたことにこれが意外に嫌味がなく、思ったよりはあっさりしている。また自家製というトロトロとした叉焼は美味。トータルとしては良くできたラーメンで、地元で人気があると言うのは納得いく。実際、私ももし近くに住んでいたら時々訪れることになるだろうと思われる。もっとも、遠方からわざわざ出かけてまで行くほどのラーメンかと言えば少々疑問ではある。また中華そば(和歌山ではラーメンのことをこう呼ぶとか)で700円という価格設定は、この地域ではかなり強気の設定でもある。

 

本当にごく普通の食堂

 

太めの麺にこってり系のスープ

 腹ごしらえをすると、運動がてら和歌山城に沿って目的地まで徒歩で移動。さて目的地であるが、これがまた巨大な建物である。

 和歌山城


「美術百科「色・いろいろ」の巻」和歌山県立近代美術館で4/6まで

 同館のコレクションを「色」というキーワードに基づいて分類展示した展覧会。展示品は現代アート作品が多いが、同館の特徴である佐伯祐三作品なども展示されている。

 さて現代アートは完全に守備範囲外の私だが、こうして眺めてみると三次元立体造形にはある程度の興味が湧くことと、同じ二次元表現でも幾何学模様パターンなどを使用した作品には抵抗が少ないことを感じた。ただいずれも芸術に対する感慨と言うよりも、元々から製図が好きであった私の特性に由来しているようである。

 一方、どうしても駄目なのは、奈良県立美術館でもあった絵の具をキャンパスにたたきつけているような作品や、いかにもフリーハンドに無秩序で曖昧な形態を描いている作品(私が言うところの「芸術家が楽をしようと考えているだけの作品」を含む)。

 そうやって考えると、本展については興味を持てたのは半分ぐらいか。


 今回の遠征では図らずしも現代アートが中心の展覧会回りとなったが、自身の嗜好について改めて認識することとなった。さすがに芸術とは人を啓発させるものである。

 こちらは和歌山駅

 これで本日の予定は終了。和歌山駅までバスで移動すると、紀州路快速で家路につくのであった。それにしてもやっぱり紀州路快速は速いわ・・・。列車に揺られながら車窓の外を眺めていると、和歌山線のロングシートで長時間移動した疲れが出たのかいつの間にやら爆睡状態に。気が付いた時には既に大阪に到着していたのである。

 

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